本書の巻末はこんな会話で終わる。
「科学捜査ですか」
「いつか、専門の組織を作りたい、そのときは、君にも手伝ってもらうかもしれない」
「科学捜査専門の組織ですか。ぴんと来ませんね」
菊川が言うと、三枝が穏やかにほほえんだ。
本書冒頭に、警視庁捜査一課菊川吾郎、そして菊川と組んでいる三枝俊郎という主要人物が出てくる。どこかで読んだ名前だな・・・・と思いつつ、読み終え、最後の会話で気がついた。あ!そうだったのか。この「遊心逍遥記」を書き始める以前に既に読んでいた「ST警視庁科学特捜班」シリーズもののスタート時点の前に時を遡らせたのだ。なぜ、STが創設されたのか、だれがなぜ発案・推進したのか。つまり、本書はST誕生の序曲、ST序章だったのだ。
自白という証拠の追求ではなく科学的検証による物的証拠を基盤に論理的推論の展開を進める捜査の重要性を痛感させるというところに、本作品の視点が置かれている。
本書のテーマは、自白と冤罪という問題にある。ある思いが内奥にあって、参考人として任意出頭させた容疑者を、状況証拠から犯人と推定して、速やかに自白をとるための尋問を自ら執拗に推し進め、さらにその傍証固めを指示する烏山検事が一方に居る。多方に、冤罪の可能性を危惧し真犯人追求の捜査行動を密かにとる少数の刑事達が居る。
捜査本部はトップの指示により刑事達が組織的に役割分担して、求められるものを追求・追跡する。効率的な集団行動だ。だが、その指示に疑問を感じ、本来の捜査を追求しようとすると、それは命令違反にも相当し、己の職をかけることにも繋がる。捜査の本質、冤罪を発生させてはならないという意識。自白がなされれば捜査は幕を閉じるのだ。それまでに真犯人が実在するのかの追求、それは時間との闘いになる。つまり本書の主人公達の捜査プロセスが描かれていく。そこに本書のおもしろさがある。
ストーリー展開の中で、自白を絶対的証拠としてきたあり方への問題点、冤罪を生み出す余地を内包する警察の組織行動への批判点などを明確に語らせる。著者はこの作品で冤罪の観点をかなり重視している。警察組織への批判を盛り込んでいる点も興味深い。
本作品の構成・構造にまず触れていこう。
1.事件内容 1990年6月14日木曜日未明。殺人事件の通報により事件発覚。
1)場所 板橋区西台1丁目の西台公園。
2)被害者 生田忠幸 32歳。住所:港区麻布10番2丁目・・・
髪を茶色に染め、日焼けしている。スーツ・ネクタイ着用。
サラリーマンには見えない。
後で、イベント会社の代表と判明。登記された会社ではなく、サークル。
3)第一発見者 田代裕一 35歳。不動産業。住所:渋谷区神宮前4丁目
4)刑事調査官の検分内容
刃物による刺創数カ所。失血死。死後約1時間。
凶器は現場近くで発見。庖丁。指紋発見なし。
5)発見者証言
黒っぽい背広を着た人物の走り去る後姿を目撃したという。
被害者・発見者ともに土地鑑のなさそうな場所で発生した事件
2.捜査本部 板橋署に設置
本庁捜査一課の12名(夏木浩係長、三枝、菊川他)が組み込まれる。
捜査本部主任 捜査一課長 百目鬼篤郎(キャリアの警視正)
牧野篤志理事官(50歳、警視、ノンキャリア)。
上原良吉管理官(40台半ば、警視、ノンキャリア)
捜査本部で、菊川は板橋署の滝下洋造部長刑事(45歳)と組み、鑑取り班に入る。一方、三枝は板橋署の若手と組み、同じく鑑取り班になる。菊川・滝下はイベント会社の交友関係、三枝は遺族関係を分担する。そして、事件の捜査が進展していく。
だが、この事件では、烏山検事が殺人現場に現れただけでなく、捜査本部に直に現れトップとしての陣頭指揮を執り始めるのだ。そこから話が複雑にならざるを得なくなる。検事がこうだと決め、指示した行動をとらされるという方向への力が徐々に作用しはじめる。犯人追跡捜査と収集情報からの断定要素、危険性が大きくなっていく。
それに対し、どのように対応していくか。それが読みどころのひとつにもなる。
イベント会社の交友関係のルートから、生田はマチ金から多額の融資を受けていたこと。イベント企画が思わしくなく、生田は資金繰りに苦しくなっている状況だったこと。マチ金の社員である向井原勇が生田に融資する担当者で、個人融資をした形であること。その返済が滞ることから、向井原が生田につきまとっていた事実が明らかになってくる。融資の焦げ付きは向井原にとって大変な問題になる状況だった。
事件当夜、自室に居たと言う独り暮らしの向井原は自らのアリバイを証明できない。彼は金融業でもあり、常に紺色の背広を着ているという。この向井原を菊川・滝下は烏山検事の指示で、参考人として任意出頭させることになる。事情聴取は検事自らが行うという。状況証拠を踏まえた中で、向井原が自白すれば、捜査本部は事件解決、解散となる。
一方、菊川・滝下は捜査の現状で釈然としない疑問点を持ち、冤罪の起こる可能性を畏れる。特に、滝下は過去に冤罪と思われる事件に関与した苦い経験を持っている。捜査本部の方針に反して犯人追求の主張を上司と一緒に行ったのだが、自白が有り事件は終結したのだ。そして、反論した上司は左遷されたという。
見かけの滝下の捜査行動や会議での行動に反発を感じつづける菊川が、先輩滝下とペアの捜査活動をつづける過程で、滝下の本音の側面に気づいていく。そして、捜査について滝下から学んでいくのだ。
このプロセスにおける二人の対話、菊川の滝下観察とその描写が読みどころである。冤罪の可能性を排除するために、向井原以外の真犯人の存在の可能性を追求していく行動は、捜査本部の捜査指示違反にも繋がりかねない。烏山検事自身の方針は動かせないとして、百目鬼捜査本部主任や理事官、管理官には、真犯人の存在の可能性追求の捜査を何とか認めてもらわなくてはならない。捜査の必要性を訴える証拠を見つけ出し、働きかける必要に迫られる。証拠発見は時間との勝負になる。自白より前に、真犯人存在の証拠を発見できるのか・・・・
なかなかおもしろい展開となっていく。捜査の過程で、鑑識係員の犯行現場の分析結果の発言が重要になる。烏山
検事は鑑識係員の報告内容を自分の論理に都合良く解釈しようとする。鑑識課員はそのやり方に憤懣を抱く。菊川は鑑識係員に再度分析結果の説明を受け、理解を深めようとする。「烏山検事は、何が何でも向井原を起訴して有罪にしたいと考えている。暴走する機関車みたいなものだ。俺たちは、なんとかそれにブレーキをかけようとしている」。菊川の話に、小森哲朗巡査部長は驚きつつ、言う。「俺に言わせればね、刑事裁判で客観的な判断なんてないんだよ。血液型の証拠だっって、いいように解釈されてしまう」。そして菊川に再度血液型の分析を説明していく(p248-251)。このあたり、初めて知ったことなので大変おもしろい。
土地鑑のないと思われる場所でなぜ殺されたのか。やはりそこが事件解明への鍵のひとつだった。
さて、著者の指摘点を抽出しておこう。漏れがあるかもしれないが・・・・後は本書を読んで、この論点も考えていただきたい。
*事件性のある遺体は、すべて司法解剖をすべきだ。だが、全国的に見ると、ほとんど司法解剖は行われていないに等しい。専門の医師が不足していることもあるが、何より予算がないことが大きな理由になっている。犯罪性が疑われる遺体すべての司法解剖を行っていたら、捜査費用などたちまちパンクしてしまうだろう。さらに大学側は、それでも一件当たりの解剖費が安すぎると受け入れを渋るのだ。 p16
*刑事事件の場合、起訴するかどうかを決めるのも検事だ。 p23
*捜査本部ってのは人海戦術だ。本部が立てた方針に従って捜査員が動く。俺たちは、将棋の駒でしかない。 p52
*捜査本部なんて、検察が公判を維持するための材料集めに過ぎないんだ。検察の方針に逆らうことなんてできない。誰がどんな証拠を持って来ようと、結局は検察の思い通りの容疑者を裁判にかけることになる。 p126
*刑事裁判の有罪率の話、したよな。・・・99.9%だよ。裁判まで持って行かれたら、ほとんど有罪にされちまうってことだ。本当に犯人かどうかなんて関係ない。検察が犯人だと思ったら、犯人にされちまうんだよ。 p127
*検事に逆らって別の容疑者を立てようとした刑事たちが処分された。あからさまな処分でなかったが、飛ばされたんだよ。 p129
*滝下さんは、検事が望むような報告をするのだと言っています。どうせ、検事は公判のために、取りあげやすく、都合のいい証拠だけを採用するのだから、と・・・・ p135
*重要参考人などという言い方はあるが、ほとんど容疑者と同意語だ。決定的証拠がない場合、重要参考人として取り調べをして、そこで自白を迫る。それが一般的なやり方だ、そこに誤認逮捕が生まれる恐れがある。 p147
*自白さえ取れば、あとは検事の思うがままだ。刑事裁判は、検察の牙城だ。そこに逃げ込んでしまえば、誰も手が出せない。裁判官も、最初から有罪と決めてかかっているんだからな。弁護士は、有罪か無罪かを考えるわけじゃない。最初から、罪をどれだけ軽くするかを考えるだけだ。 p211
*検事は、自分に有利な証拠だけを採用して、不利な証拠は無視することができる。判事は、一刻も早く裁判を終わらせたいので、それを黙認する。なにせ、判事も被告はすべて有罪だと思っているんだからな。知ってるか? 判事というのは研修を受けるときに、被告を無罪にするやり方を教わらないんだ。 p211
*冤罪に対して徹底的に戦うような弁護士は、実はかなり特殊な人々と言わねばならない。 p146
ご一読ありがとうございます。
本書に出てくる語句で関心を持った事項をネット検索してみた。一覧にしておきたい。
ABO式血液型 :ウィキペディア
血液型判定
臨床検査技師 オープンキャンパス『ABO式血液型判定に挑戦』 :YouTube
DNA型鑑定 :ウィキペディア
冤罪事件及び冤罪と疑われている主な事件 :ウィキペディア
こんなにある20世紀の冤罪事件 :「FUKUSHI Plaza」
いま、闘われている冤罪事件 :「甲山のとなりに」
刑事事件に慌てないための基礎知識 :「アディーレ法律事務所」
科学捜査 :ウィキペディア
最先端技術を活用した科学捜査最前線 -1 :「科学技術政策」
科学捜査官(化学)-先輩の声 :「警視庁」
科学警察研究所 ホームページ
科学捜査研究所 :ウィキペディア
インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。
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徒然に読んできた作品の印象記に以下のものがあります。
こちらもお読みいただけると、うれしいかぎりです。
『逆風の街 横浜みなとみらい署暴力犯係』 徳間書店
『終極 潜入捜査』 実業之日本社
『最後の封印』 徳間文庫
『禁断 横浜みなとみらい署暴対係』 徳間書店
=== 今野 敏 作品 読後印象記一覧 === 更新1版
「科学捜査ですか」
「いつか、専門の組織を作りたい、そのときは、君にも手伝ってもらうかもしれない」
「科学捜査専門の組織ですか。ぴんと来ませんね」
菊川が言うと、三枝が穏やかにほほえんだ。
本書冒頭に、警視庁捜査一課菊川吾郎、そして菊川と組んでいる三枝俊郎という主要人物が出てくる。どこかで読んだ名前だな・・・・と思いつつ、読み終え、最後の会話で気がついた。あ!そうだったのか。この「遊心逍遥記」を書き始める以前に既に読んでいた「ST警視庁科学特捜班」シリーズもののスタート時点の前に時を遡らせたのだ。なぜ、STが創設されたのか、だれがなぜ発案・推進したのか。つまり、本書はST誕生の序曲、ST序章だったのだ。
自白という証拠の追求ではなく科学的検証による物的証拠を基盤に論理的推論の展開を進める捜査の重要性を痛感させるというところに、本作品の視点が置かれている。
本書のテーマは、自白と冤罪という問題にある。ある思いが内奥にあって、参考人として任意出頭させた容疑者を、状況証拠から犯人と推定して、速やかに自白をとるための尋問を自ら執拗に推し進め、さらにその傍証固めを指示する烏山検事が一方に居る。多方に、冤罪の可能性を危惧し真犯人追求の捜査行動を密かにとる少数の刑事達が居る。
捜査本部はトップの指示により刑事達が組織的に役割分担して、求められるものを追求・追跡する。効率的な集団行動だ。だが、その指示に疑問を感じ、本来の捜査を追求しようとすると、それは命令違反にも相当し、己の職をかけることにも繋がる。捜査の本質、冤罪を発生させてはならないという意識。自白がなされれば捜査は幕を閉じるのだ。それまでに真犯人が実在するのかの追求、それは時間との闘いになる。つまり本書の主人公達の捜査プロセスが描かれていく。そこに本書のおもしろさがある。
ストーリー展開の中で、自白を絶対的証拠としてきたあり方への問題点、冤罪を生み出す余地を内包する警察の組織行動への批判点などを明確に語らせる。著者はこの作品で冤罪の観点をかなり重視している。警察組織への批判を盛り込んでいる点も興味深い。
本作品の構成・構造にまず触れていこう。
1.事件内容 1990年6月14日木曜日未明。殺人事件の通報により事件発覚。
1)場所 板橋区西台1丁目の西台公園。
2)被害者 生田忠幸 32歳。住所:港区麻布10番2丁目・・・
髪を茶色に染め、日焼けしている。スーツ・ネクタイ着用。
サラリーマンには見えない。
後で、イベント会社の代表と判明。登記された会社ではなく、サークル。
3)第一発見者 田代裕一 35歳。不動産業。住所:渋谷区神宮前4丁目
4)刑事調査官の検分内容
刃物による刺創数カ所。失血死。死後約1時間。
凶器は現場近くで発見。庖丁。指紋発見なし。
5)発見者証言
黒っぽい背広を着た人物の走り去る後姿を目撃したという。
被害者・発見者ともに土地鑑のなさそうな場所で発生した事件
2.捜査本部 板橋署に設置
本庁捜査一課の12名(夏木浩係長、三枝、菊川他)が組み込まれる。
捜査本部主任 捜査一課長 百目鬼篤郎(キャリアの警視正)
牧野篤志理事官(50歳、警視、ノンキャリア)。
上原良吉管理官(40台半ば、警視、ノンキャリア)
捜査本部で、菊川は板橋署の滝下洋造部長刑事(45歳)と組み、鑑取り班に入る。一方、三枝は板橋署の若手と組み、同じく鑑取り班になる。菊川・滝下はイベント会社の交友関係、三枝は遺族関係を分担する。そして、事件の捜査が進展していく。
だが、この事件では、烏山検事が殺人現場に現れただけでなく、捜査本部に直に現れトップとしての陣頭指揮を執り始めるのだ。そこから話が複雑にならざるを得なくなる。検事がこうだと決め、指示した行動をとらされるという方向への力が徐々に作用しはじめる。犯人追跡捜査と収集情報からの断定要素、危険性が大きくなっていく。
それに対し、どのように対応していくか。それが読みどころのひとつにもなる。
イベント会社の交友関係のルートから、生田はマチ金から多額の融資を受けていたこと。イベント企画が思わしくなく、生田は資金繰りに苦しくなっている状況だったこと。マチ金の社員である向井原勇が生田に融資する担当者で、個人融資をした形であること。その返済が滞ることから、向井原が生田につきまとっていた事実が明らかになってくる。融資の焦げ付きは向井原にとって大変な問題になる状況だった。
事件当夜、自室に居たと言う独り暮らしの向井原は自らのアリバイを証明できない。彼は金融業でもあり、常に紺色の背広を着ているという。この向井原を菊川・滝下は烏山検事の指示で、参考人として任意出頭させることになる。事情聴取は検事自らが行うという。状況証拠を踏まえた中で、向井原が自白すれば、捜査本部は事件解決、解散となる。
一方、菊川・滝下は捜査の現状で釈然としない疑問点を持ち、冤罪の起こる可能性を畏れる。特に、滝下は過去に冤罪と思われる事件に関与した苦い経験を持っている。捜査本部の方針に反して犯人追求の主張を上司と一緒に行ったのだが、自白が有り事件は終結したのだ。そして、反論した上司は左遷されたという。
見かけの滝下の捜査行動や会議での行動に反発を感じつづける菊川が、先輩滝下とペアの捜査活動をつづける過程で、滝下の本音の側面に気づいていく。そして、捜査について滝下から学んでいくのだ。
このプロセスにおける二人の対話、菊川の滝下観察とその描写が読みどころである。冤罪の可能性を排除するために、向井原以外の真犯人の存在の可能性を追求していく行動は、捜査本部の捜査指示違反にも繋がりかねない。烏山検事自身の方針は動かせないとして、百目鬼捜査本部主任や理事官、管理官には、真犯人の存在の可能性追求の捜査を何とか認めてもらわなくてはならない。捜査の必要性を訴える証拠を見つけ出し、働きかける必要に迫られる。証拠発見は時間との勝負になる。自白より前に、真犯人存在の証拠を発見できるのか・・・・
なかなかおもしろい展開となっていく。捜査の過程で、鑑識係員の犯行現場の分析結果の発言が重要になる。烏山
検事は鑑識係員の報告内容を自分の論理に都合良く解釈しようとする。鑑識課員はそのやり方に憤懣を抱く。菊川は鑑識係員に再度分析結果の説明を受け、理解を深めようとする。「烏山検事は、何が何でも向井原を起訴して有罪にしたいと考えている。暴走する機関車みたいなものだ。俺たちは、なんとかそれにブレーキをかけようとしている」。菊川の話に、小森哲朗巡査部長は驚きつつ、言う。「俺に言わせればね、刑事裁判で客観的な判断なんてないんだよ。血液型の証拠だっって、いいように解釈されてしまう」。そして菊川に再度血液型の分析を説明していく(p248-251)。このあたり、初めて知ったことなので大変おもしろい。
土地鑑のないと思われる場所でなぜ殺されたのか。やはりそこが事件解明への鍵のひとつだった。
さて、著者の指摘点を抽出しておこう。漏れがあるかもしれないが・・・・後は本書を読んで、この論点も考えていただきたい。
*事件性のある遺体は、すべて司法解剖をすべきだ。だが、全国的に見ると、ほとんど司法解剖は行われていないに等しい。専門の医師が不足していることもあるが、何より予算がないことが大きな理由になっている。犯罪性が疑われる遺体すべての司法解剖を行っていたら、捜査費用などたちまちパンクしてしまうだろう。さらに大学側は、それでも一件当たりの解剖費が安すぎると受け入れを渋るのだ。 p16
*刑事事件の場合、起訴するかどうかを決めるのも検事だ。 p23
*捜査本部ってのは人海戦術だ。本部が立てた方針に従って捜査員が動く。俺たちは、将棋の駒でしかない。 p52
*捜査本部なんて、検察が公判を維持するための材料集めに過ぎないんだ。検察の方針に逆らうことなんてできない。誰がどんな証拠を持って来ようと、結局は検察の思い通りの容疑者を裁判にかけることになる。 p126
*刑事裁判の有罪率の話、したよな。・・・99.9%だよ。裁判まで持って行かれたら、ほとんど有罪にされちまうってことだ。本当に犯人かどうかなんて関係ない。検察が犯人だと思ったら、犯人にされちまうんだよ。 p127
*検事に逆らって別の容疑者を立てようとした刑事たちが処分された。あからさまな処分でなかったが、飛ばされたんだよ。 p129
*滝下さんは、検事が望むような報告をするのだと言っています。どうせ、検事は公判のために、取りあげやすく、都合のいい証拠だけを採用するのだから、と・・・・ p135
*重要参考人などという言い方はあるが、ほとんど容疑者と同意語だ。決定的証拠がない場合、重要参考人として取り調べをして、そこで自白を迫る。それが一般的なやり方だ、そこに誤認逮捕が生まれる恐れがある。 p147
*自白さえ取れば、あとは検事の思うがままだ。刑事裁判は、検察の牙城だ。そこに逃げ込んでしまえば、誰も手が出せない。裁判官も、最初から有罪と決めてかかっているんだからな。弁護士は、有罪か無罪かを考えるわけじゃない。最初から、罪をどれだけ軽くするかを考えるだけだ。 p211
*検事は、自分に有利な証拠だけを採用して、不利な証拠は無視することができる。判事は、一刻も早く裁判を終わらせたいので、それを黙認する。なにせ、判事も被告はすべて有罪だと思っているんだからな。知ってるか? 判事というのは研修を受けるときに、被告を無罪にするやり方を教わらないんだ。 p211
*冤罪に対して徹底的に戦うような弁護士は、実はかなり特殊な人々と言わねばならない。 p146
ご一読ありがとうございます。
本書に出てくる語句で関心を持った事項をネット検索してみた。一覧にしておきたい。
ABO式血液型 :ウィキペディア
血液型判定
臨床検査技師 オープンキャンパス『ABO式血液型判定に挑戦』 :YouTube
DNA型鑑定 :ウィキペディア
冤罪事件及び冤罪と疑われている主な事件 :ウィキペディア
こんなにある20世紀の冤罪事件 :「FUKUSHI Plaza」
いま、闘われている冤罪事件 :「甲山のとなりに」
刑事事件に慌てないための基礎知識 :「アディーレ法律事務所」
科学捜査 :ウィキペディア
最先端技術を活用した科学捜査最前線 -1 :「科学技術政策」
科学捜査官(化学)-先輩の声 :「警視庁」
科学警察研究所 ホームページ
科学捜査研究所 :ウィキペディア
インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。
↑↑ クリックしていただけると嬉しいです。
徒然に読んできた作品の印象記に以下のものがあります。
こちらもお読みいただけると、うれしいかぎりです。
『逆風の街 横浜みなとみらい署暴力犯係』 徳間書店
『終極 潜入捜査』 実業之日本社
『最後の封印』 徳間文庫
『禁断 横浜みなとみらい署暴対係』 徳間書店
=== 今野 敏 作品 読後印象記一覧 === 更新1版