2011年3月11日から、あと少しで満3年を迎える。未だ何も完全には解決していない。あれ以来、ずっと原発関連の情報を読み継ぎ、自分なりに考えている。この本もその一冊。今までに読み継いできた本の読後記はこの読後印象記の末尾をご覧いただきたい。
タイトルの「原発広告」とは「原子力発電を推進する広告」の略である。
本書が書かれた目的は、著者が「はじめに」の冒頭で明確に述べている。それをまず引用しよう。
原発広告は、「原発に関する知識がない一般国民に漠然とした『安全幻想』を植え付けるとともに、莫大な広告予算を背景とした巨大広告主として、反原発報道を許さないという圧力をメディアに対して加え続けてきました。本書は約40年にわたるその実態を、様々な事例でわかりやすく解説しようとするものです」という立場で記されている。
つまり、営々と一般国民に「原発安全神話」を植え付けてきた原子力ムラの一群の人々、それに積極的に加担した広告業界とマスメディア、また対価を得てその御輿を担いできた人々及びその内容について、具体的な広告事実の証拠により、その実態を提示した本である。「安全神話」を植え付けた側に対して、それを受け入れてしまった一般国民側もその迂闊さを反省することが必要であろう。私自身も深く考えることなく、広告を見ていた一人として、そう感じている。
騙された側は、二度と騙されないように対策手段を持つべきだろう。そのためには、騙しのテクニック、虚偽を植え付けようとするアプローチの仕方を知ることから始めなければならない。本書は原発広告の手口を解明するのに貢献した書である。「安全神話」のとりこになった側として、一読の価値がある。「原発安全神話」のプロパガンダの仕方のスキームがよく理解できる。二度と騙されない、同じ轍を踏みたくはない。だがまたぞろ、じわじわと「原発広告」がより巧妙にしのびより始めているのではないか・・・・。
著者は大手広告代理店として日本においては電通につぐ、ナンバー2の博報堂に約18年間、一貫して営業の立場で就業していた人。著者プロフィールには、「2006年、同社退職後に知人に対する詐欺容疑で逮捕・起訴され、栃木県の黒羽刑務所に1年間服役」という経歴もあるようだ。その点は人の行為としては勿論詐欺行為は論外である。服役という罪の対価は払われたようだ。だが、原発広告に関係した人の行為はどうなのか・・・・。
それはさておき、著者の広告業界での仕事経験は、広告のメカニズムの内側を熟知するという点と現在は広告業界と一線を画した立場という点から、広告業界の内情を知るもの故の強味と深堀りできるネタを持つという最適のポジションに置いている。実際にマスメディアで使われた原発広告の事例と広告費データなどを使って騙しのメカニズムを解明しているから、読者は事実確認ができるので、その内容を読みながら原発広告について改めて評価できると思う。ああ、こういうメカニズムだったのか・・・・と納得度がある。
最初に本書の章構成をご紹介する。多少読後印象コメントを付記しておきたい。
第1章 戦後最大規模のプロパガンダ
著者は公表データを利用して、原発広告に2000年代で少なくとも年額約300~500億円以上が使われ、日本のあらゆるメディアがこぞってその恩恵に浴していたと指摘する。この金額は東電や電事連が計上する普及開発関係費の合計だという。その原発広告が、2011.3.11の福島における原発爆発事故に一斉に姿を消したのだ。安全と喧伝してきたものがそうではないと実証されてしまった途端にである。これは、今までのPRの欺瞞性を消極的に認めていることになるのではないか。
著者は広告の繰り返しによる「刷り込み効果」を論じている。「原子力安全神話」の醸成がじわじわとなされたのだ。
また、著者はオイルショックの後遺症、バブル経済崩壊による広告収入減少、収益低下が、朝日新聞(1974年原発広告掲載)を皮きりに新聞各紙が原発広告掲載にシフトしていったと論証している。つまり、新聞社といえども報道の真実性の背景に資本の論理、企業としての収益性が根底にあるのだ。この側面を具体的に指摘している点から我々は学び、情報受信側として、報道内容に対する適切な懐疑心と批判力が必要なのだ
第2章 メディア支配の構造
原子力ムラがメディア支配をどのように巧妙に行ってきたのかをわかりやすく説く。広告業界のインサイドの心理が論じられている。我々はその心理構造のからくりまで知らずに、報道された内容を正しいと信じさせられてきたのではないか。科学的事実の一側面だけを強調し、不利なあるいは未解決な局面は回避したロジックがさもすべての如くに報じられるという手法によって。そのあたりを抵抗なくマスメディアに載せさせるものが。メディア支配の構造なのだ。
第3章 原発広告は誰が作ったのか
原発広告の発注者は勿論、原子力ムラ、つまり電力会社であり、電事連であり、政府の原子力関係者である。だが、彼らが広告の直接の制作者ではない。制作者は広告業界である。電通と博報堂という超巨大広告代理店経由で依頼を受けた広告代理店、デザイナーやコピーライターである。彼らが依頼者の意図をくみ取り、それを効果的効率的にPRできる広告に仕立て上げている。ここにも仕事(広告)の下請構造化が行われている。
それを補助しているのが、ネームバリューのある学者や文化人、芸能人ということになるのだろう。そこには、どこまで「原子力推進」を是とする信念・価値観、イズムが個々人にあったのか。そこには、あるかなりのウェイトが「報酬」(出演料、収入)の論理ではなかったか。信念・価値観、イズムならば、3.11後もSTOPすることなく、意思表明は継続するはずだろう。本章を読むと、そんな読後印象をいだく。
著者は本章で、次の特集ページ「巻頭言」を引用している。まず読んでみてほしい。
●原発の事後がもし起こったら、絶対安全を売り込んでいる原発の広告は、どうするつもりなんでしょう。やせ薬の広告がインチキだったとしても「ウソツキ」「ゴメン」でまアすみますが、チェルノブイリ級の事故が起きたら日本は壊滅状態ですから、「ゴメン」ですむモンダイじゃありません。もっともそのときは、ぼくたちもみんな死んでいるし、原発関係者も死んでいますから、文句をいうヤツもいないし、責任を問われることもない。原発は安全だとハンコを押している学者も、政治家も、経営者も、広告マンも、案外、そう考えているんじゃないでしょうか。核廃棄物のモンダイ一つとっても、いまや危険がいっぱいの原発を、この際すべて廃棄して欲しい。原発をかかえたままで「明るい明日」なんて、ありゃしません。そういうイミで「明るい明日は原発から」。
この文章、何時書かれ、発表されたと思いますか?
1987(昭和62)年発行「広告批評」6月号に掲載された「巻頭言」だったのだ。「広告批評」を主宰し、編集長でもあった天野祐吉氏の文だと言う。当たって欲しくはない予言的文章の核心が今まさに生じたし、継続しているのではないか。「責任を問われることもない」無責任体制がまかり通っている現実。爆発事故の真因が未だ完全には解決していない現実。当時、こんな雑誌が出ていることすら知らなかったことに、愕然としている。
この第3章、是非とも読んでいただきたい。
第4章 3.11直前の原発広告を検証する
ここでは、3.11の直前、つまり2010年度(2010.4.1~2011.3.31)の原発広告の実態を事実データに基づき、資料を提示して検証している。どこが原発全面広告を何回掲載していたか。どういうタイプの原発広告が掲載され、それにどこが関わり、誰-報道人、学者、文化人、政治家、芸能人など-が紙面に登場してきているか。第5章に列挙されている資料から、期間を限定して抽出した事例ともいえる。
3.11以降に原発事故関連、その後の原発施設稼働関連を報じるマスメディアは、この直前の関わり方をどう受け止め直しているのか。原発広告に出演していた人々はどう責任を感じているのか。それらの広告を何となく読み過ごしてきた受信者-私もその一人だった!-、購読者側の責任は何か。ここには原発広告に対する捉え方についての「今でしょ!」があるのではないか。著者はその投げかけを本書で行ったといえる。
第5章 プロパガンダ40年史 -安全幻想を植え付けた250の広告
ここには過去の膨大な原発広告から資料収集できたものが5W1Hの観点で付記し時系列に列挙されている、広告の見出しやキャッチフレーズ、登場人物の写真などは識別できるが、広告の内容としての文章が縮小サイズなので具体的には読めない点が難点となっている。だが、そこに誰が登場してきたのかは明確に識別できる。その人たちが原発推進に対して信念を持って登場していたのか、単に金儲け、広告出演料という収入のために気楽に登場していたのかは、定かではないが・・・・。それらの人々が、3.11以降どういう行動を取ってきたのか。取ろうとしているのか。二度と表に顔を現さないのか、ウォッチングする資料にはなる。
この章が本書のおよそ半分、122ページのボリュームになっている。
「原発広告」の検証、問題指摘の論証プロセスと提示資料については、具体的に記された本書をお読みいただきたい。
一方、最後に著者の主張点・論点のいくつかを要約的にまとめておこう。私の理解した抽出・要約点の是非も含めて、本書原文をお読みいただく動機づけになれば、幸いである。
*「原発広告」は、自らの主張は根拠がなくても高らかに宣言し、弱い部分はおくびにも出さない強気の姿勢のものであった。と国民の意識が脱原発にむかわないように、刷り込み効果をテコにして約40年に及ぶ洗脳活動の累積である。「権威」と「親しみやすさ」でアピールし、洗脳してきた。それが「原発安全神話」を形成してきた。 (本書全体)
*「技術的な解決は可能です」というスタンスでの問題認知・先送りのスタンスで都合のよい利点アピールでの「原発広告」がまかり通ってきている。 p28
*東電を頂点とする原発推進勢力は、日本の広告業界におけるトップ広告主であり、それ故に広告業界にずば抜けて巨大な存在感を持ってきた。つまり、逆らえない上得意なのだ。 p24
*マスメディアのテレビ局は収益の70%、新聞社は30%を広告収入に依存する。広告主の存在価値を下げる報道や言説は、その広告主は広告を出さなくなる。メディア側は、スポンサー離れを防止するために、報道人としての前に資本の論理の下にいる企業組織人として自主規制してしまうことがある。それが報道のしかたに反映する。反映してきた。 p41-44、p46-47、p84-88
*国費を使った報告書が1991年(1986年のチェルノブイリ事故の後)に作成されている。「原子力PA方策の考え方」である。PAとは社会的受容(Public Acceptance)のこと。その中で、「繰り返しの広報」の必要性、メディア側との密な接触、テレビディレクターやキャスターなどのロビー化が論じられているようだ。これがまさに実践されてきたといえる。 p47-p64
*マスメディアの収益になる「広告費」によって、生殺与奪の権を握られている。広告費のマスメディアへの分配を差配するのは、大凡は電通と博報堂という2つの超巨大広告代理店である。つまり、報道情報を広告との関連で事前にキャッチし、影響力を与えられる立場にいる。そこが「原発広告」にも中心的に黒子として関わっているのが実態だ。 p108-123
本書に一つ難点と感じる側面がある。それは、第5章で250件の原発広告において大半の実例広告記事が写真になっていることに関連する。その掲載は原発広告の検証として必要なのだが、広告記事が縮小されており見出しや出演者・発言者の写真などが見てわかる程度にとどまる。広告記事本文の内容や提示のロジックまで再検討するのは困難である。具体的な記述のしかたのどこに、ミスリートされてきたのかの追跡、分析がきないことである。その点が残念である。
いずれにしても、「原発広告」批判の視点は、「喉元過ぎれば・・・・」を二度と起こさないために、有意義だと思う。2011.3.11からはや3年となる。「原発広告」前哨戦の兆しがまたぞろ見え始めている・・・・・そんなうすら寒さを感じ始めたが、如何?
ご一読ありがとうございます。
↑↑ クリックしていただけると嬉しいです。
本書に関連する事項をいくつか検索してみた。
電気事業連合会 ホームページ
「原子力発電の安全確保に全力で取り組み、世界最高水準の安全を追求してまいります」
という見出しが躍っている。
原子力発電所の廃止措置
このサイトページは、「現在、運転されている原子力発電所も、いつかはその役目を終える日が来ます。日本では、運転を終了した原子力発電所は、最終的に解体撤去され、跡地は再利用されることになります。」というパラグラフから始まっている。
なんと、オプティミスティックな書き出しではないか・・・そんな第一印象の文!
その他経費について :「東京電力」
「料金認可申請の概要について」平成24年5月 東京電力株式会社 pdfファイル
pdfファイルの16ページに「その他経費」に内訳明細表がある。
その中に、「普及開発関係費」の項目が記載されている。「210億円→28億円に」
「適正料金原価の適正性確保のあり方について」(資料3)
平成23年11月 電気料金制度・運用の見直しに係る有識者会事務局
23ページに「普及開発関係費」の定義・説明が行われている。
総額269億円のムダ。東電・電気料金水増しの要“普及開発関係費”とは?
週プレNEWS 2011.9.20 :「livedoor'NEWS」
<追跡 原発利益共同体>東電広告費116億円 昨年度/大手紙を総なめ 推進広告掲載/「朝日」から始まった/事故のたび膨張 :「阿修羅」
追跡 原発利益共同体
東電広告費 116億円 昨年度 :「しんぶん赤旗」
日本を創る 連載企画原発編 原発と国家 :「47news」
Vol.3 新聞。テレビに浸透 番組に抗議、広告カット、メディア対策に腐心
広告業界 売上高ランキング(平成24-25年) :「業界動向 SEARCH.COM」
広告会社売上ランキング :「マスメディアン.jp」
広告経済研究所の調査による2012年の主要広告代理業売上ランキング(上位50社)
電通支配はこうして原発報道を歪めてきた 神保哲生 2012.10.28 :「BLOGOS」
原発に首根っこを押さえられるメディアの実態~「濡れ手に粟」の高額ギャラで原発文化人&原発翼賛体制に [(1)真実を暴く眼力で闇権力と闘う慈悲の怒り]
:「宮③シェアする喜びの暮らし=共生社会へ」
インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。
↑↑ クリックしていただけると嬉しいです。
(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません。
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)
原発事故関連 読後リスト
今までに以下の原発事故関連書籍の読後印象を掲載しています。
読んでいただけると、うれしいです。
『原発クライシス』 高嶋哲夫 集英社文庫 ←付記:小説・フィクション
原発事故及び被曝に関連した著作の読書印象記掲載一覧 (更新2版)
タイトルの「原発広告」とは「原子力発電を推進する広告」の略である。
本書が書かれた目的は、著者が「はじめに」の冒頭で明確に述べている。それをまず引用しよう。
原発広告は、「原発に関する知識がない一般国民に漠然とした『安全幻想』を植え付けるとともに、莫大な広告予算を背景とした巨大広告主として、反原発報道を許さないという圧力をメディアに対して加え続けてきました。本書は約40年にわたるその実態を、様々な事例でわかりやすく解説しようとするものです」という立場で記されている。
つまり、営々と一般国民に「原発安全神話」を植え付けてきた原子力ムラの一群の人々、それに積極的に加担した広告業界とマスメディア、また対価を得てその御輿を担いできた人々及びその内容について、具体的な広告事実の証拠により、その実態を提示した本である。「安全神話」を植え付けた側に対して、それを受け入れてしまった一般国民側もその迂闊さを反省することが必要であろう。私自身も深く考えることなく、広告を見ていた一人として、そう感じている。
騙された側は、二度と騙されないように対策手段を持つべきだろう。そのためには、騙しのテクニック、虚偽を植え付けようとするアプローチの仕方を知ることから始めなければならない。本書は原発広告の手口を解明するのに貢献した書である。「安全神話」のとりこになった側として、一読の価値がある。「原発安全神話」のプロパガンダの仕方のスキームがよく理解できる。二度と騙されない、同じ轍を踏みたくはない。だがまたぞろ、じわじわと「原発広告」がより巧妙にしのびより始めているのではないか・・・・。
著者は大手広告代理店として日本においては電通につぐ、ナンバー2の博報堂に約18年間、一貫して営業の立場で就業していた人。著者プロフィールには、「2006年、同社退職後に知人に対する詐欺容疑で逮捕・起訴され、栃木県の黒羽刑務所に1年間服役」という経歴もあるようだ。その点は人の行為としては勿論詐欺行為は論外である。服役という罪の対価は払われたようだ。だが、原発広告に関係した人の行為はどうなのか・・・・。
それはさておき、著者の広告業界での仕事経験は、広告のメカニズムの内側を熟知するという点と現在は広告業界と一線を画した立場という点から、広告業界の内情を知るもの故の強味と深堀りできるネタを持つという最適のポジションに置いている。実際にマスメディアで使われた原発広告の事例と広告費データなどを使って騙しのメカニズムを解明しているから、読者は事実確認ができるので、その内容を読みながら原発広告について改めて評価できると思う。ああ、こういうメカニズムだったのか・・・・と納得度がある。
最初に本書の章構成をご紹介する。多少読後印象コメントを付記しておきたい。
第1章 戦後最大規模のプロパガンダ
著者は公表データを利用して、原発広告に2000年代で少なくとも年額約300~500億円以上が使われ、日本のあらゆるメディアがこぞってその恩恵に浴していたと指摘する。この金額は東電や電事連が計上する普及開発関係費の合計だという。その原発広告が、2011.3.11の福島における原発爆発事故に一斉に姿を消したのだ。安全と喧伝してきたものがそうではないと実証されてしまった途端にである。これは、今までのPRの欺瞞性を消極的に認めていることになるのではないか。
著者は広告の繰り返しによる「刷り込み効果」を論じている。「原子力安全神話」の醸成がじわじわとなされたのだ。
また、著者はオイルショックの後遺症、バブル経済崩壊による広告収入減少、収益低下が、朝日新聞(1974年原発広告掲載)を皮きりに新聞各紙が原発広告掲載にシフトしていったと論証している。つまり、新聞社といえども報道の真実性の背景に資本の論理、企業としての収益性が根底にあるのだ。この側面を具体的に指摘している点から我々は学び、情報受信側として、報道内容に対する適切な懐疑心と批判力が必要なのだ
第2章 メディア支配の構造
原子力ムラがメディア支配をどのように巧妙に行ってきたのかをわかりやすく説く。広告業界のインサイドの心理が論じられている。我々はその心理構造のからくりまで知らずに、報道された内容を正しいと信じさせられてきたのではないか。科学的事実の一側面だけを強調し、不利なあるいは未解決な局面は回避したロジックがさもすべての如くに報じられるという手法によって。そのあたりを抵抗なくマスメディアに載せさせるものが。メディア支配の構造なのだ。
第3章 原発広告は誰が作ったのか
原発広告の発注者は勿論、原子力ムラ、つまり電力会社であり、電事連であり、政府の原子力関係者である。だが、彼らが広告の直接の制作者ではない。制作者は広告業界である。電通と博報堂という超巨大広告代理店経由で依頼を受けた広告代理店、デザイナーやコピーライターである。彼らが依頼者の意図をくみ取り、それを効果的効率的にPRできる広告に仕立て上げている。ここにも仕事(広告)の下請構造化が行われている。
それを補助しているのが、ネームバリューのある学者や文化人、芸能人ということになるのだろう。そこには、どこまで「原子力推進」を是とする信念・価値観、イズムが個々人にあったのか。そこには、あるかなりのウェイトが「報酬」(出演料、収入)の論理ではなかったか。信念・価値観、イズムならば、3.11後もSTOPすることなく、意思表明は継続するはずだろう。本章を読むと、そんな読後印象をいだく。
著者は本章で、次の特集ページ「巻頭言」を引用している。まず読んでみてほしい。
●原発の事後がもし起こったら、絶対安全を売り込んでいる原発の広告は、どうするつもりなんでしょう。やせ薬の広告がインチキだったとしても「ウソツキ」「ゴメン」でまアすみますが、チェルノブイリ級の事故が起きたら日本は壊滅状態ですから、「ゴメン」ですむモンダイじゃありません。もっともそのときは、ぼくたちもみんな死んでいるし、原発関係者も死んでいますから、文句をいうヤツもいないし、責任を問われることもない。原発は安全だとハンコを押している学者も、政治家も、経営者も、広告マンも、案外、そう考えているんじゃないでしょうか。核廃棄物のモンダイ一つとっても、いまや危険がいっぱいの原発を、この際すべて廃棄して欲しい。原発をかかえたままで「明るい明日」なんて、ありゃしません。そういうイミで「明るい明日は原発から」。
この文章、何時書かれ、発表されたと思いますか?
1987(昭和62)年発行「広告批評」6月号に掲載された「巻頭言」だったのだ。「広告批評」を主宰し、編集長でもあった天野祐吉氏の文だと言う。当たって欲しくはない予言的文章の核心が今まさに生じたし、継続しているのではないか。「責任を問われることもない」無責任体制がまかり通っている現実。爆発事故の真因が未だ完全には解決していない現実。当時、こんな雑誌が出ていることすら知らなかったことに、愕然としている。
この第3章、是非とも読んでいただきたい。
第4章 3.11直前の原発広告を検証する
ここでは、3.11の直前、つまり2010年度(2010.4.1~2011.3.31)の原発広告の実態を事実データに基づき、資料を提示して検証している。どこが原発全面広告を何回掲載していたか。どういうタイプの原発広告が掲載され、それにどこが関わり、誰-報道人、学者、文化人、政治家、芸能人など-が紙面に登場してきているか。第5章に列挙されている資料から、期間を限定して抽出した事例ともいえる。
3.11以降に原発事故関連、その後の原発施設稼働関連を報じるマスメディアは、この直前の関わり方をどう受け止め直しているのか。原発広告に出演していた人々はどう責任を感じているのか。それらの広告を何となく読み過ごしてきた受信者-私もその一人だった!-、購読者側の責任は何か。ここには原発広告に対する捉え方についての「今でしょ!」があるのではないか。著者はその投げかけを本書で行ったといえる。
第5章 プロパガンダ40年史 -安全幻想を植え付けた250の広告
ここには過去の膨大な原発広告から資料収集できたものが5W1Hの観点で付記し時系列に列挙されている、広告の見出しやキャッチフレーズ、登場人物の写真などは識別できるが、広告の内容としての文章が縮小サイズなので具体的には読めない点が難点となっている。だが、そこに誰が登場してきたのかは明確に識別できる。その人たちが原発推進に対して信念を持って登場していたのか、単に金儲け、広告出演料という収入のために気楽に登場していたのかは、定かではないが・・・・。それらの人々が、3.11以降どういう行動を取ってきたのか。取ろうとしているのか。二度と表に顔を現さないのか、ウォッチングする資料にはなる。
この章が本書のおよそ半分、122ページのボリュームになっている。
「原発広告」の検証、問題指摘の論証プロセスと提示資料については、具体的に記された本書をお読みいただきたい。
一方、最後に著者の主張点・論点のいくつかを要約的にまとめておこう。私の理解した抽出・要約点の是非も含めて、本書原文をお読みいただく動機づけになれば、幸いである。
*「原発広告」は、自らの主張は根拠がなくても高らかに宣言し、弱い部分はおくびにも出さない強気の姿勢のものであった。と国民の意識が脱原発にむかわないように、刷り込み効果をテコにして約40年に及ぶ洗脳活動の累積である。「権威」と「親しみやすさ」でアピールし、洗脳してきた。それが「原発安全神話」を形成してきた。 (本書全体)
*「技術的な解決は可能です」というスタンスでの問題認知・先送りのスタンスで都合のよい利点アピールでの「原発広告」がまかり通ってきている。 p28
*東電を頂点とする原発推進勢力は、日本の広告業界におけるトップ広告主であり、それ故に広告業界にずば抜けて巨大な存在感を持ってきた。つまり、逆らえない上得意なのだ。 p24
*マスメディアのテレビ局は収益の70%、新聞社は30%を広告収入に依存する。広告主の存在価値を下げる報道や言説は、その広告主は広告を出さなくなる。メディア側は、スポンサー離れを防止するために、報道人としての前に資本の論理の下にいる企業組織人として自主規制してしまうことがある。それが報道のしかたに反映する。反映してきた。 p41-44、p46-47、p84-88
*国費を使った報告書が1991年(1986年のチェルノブイリ事故の後)に作成されている。「原子力PA方策の考え方」である。PAとは社会的受容(Public Acceptance)のこと。その中で、「繰り返しの広報」の必要性、メディア側との密な接触、テレビディレクターやキャスターなどのロビー化が論じられているようだ。これがまさに実践されてきたといえる。 p47-p64
*マスメディアの収益になる「広告費」によって、生殺与奪の権を握られている。広告費のマスメディアへの分配を差配するのは、大凡は電通と博報堂という2つの超巨大広告代理店である。つまり、報道情報を広告との関連で事前にキャッチし、影響力を与えられる立場にいる。そこが「原発広告」にも中心的に黒子として関わっているのが実態だ。 p108-123
本書に一つ難点と感じる側面がある。それは、第5章で250件の原発広告において大半の実例広告記事が写真になっていることに関連する。その掲載は原発広告の検証として必要なのだが、広告記事が縮小されており見出しや出演者・発言者の写真などが見てわかる程度にとどまる。広告記事本文の内容や提示のロジックまで再検討するのは困難である。具体的な記述のしかたのどこに、ミスリートされてきたのかの追跡、分析がきないことである。その点が残念である。
いずれにしても、「原発広告」批判の視点は、「喉元過ぎれば・・・・」を二度と起こさないために、有意義だと思う。2011.3.11からはや3年となる。「原発広告」前哨戦の兆しがまたぞろ見え始めている・・・・・そんなうすら寒さを感じ始めたが、如何?
ご一読ありがとうございます。
↑↑ クリックしていただけると嬉しいです。
本書に関連する事項をいくつか検索してみた。
電気事業連合会 ホームページ
「原子力発電の安全確保に全力で取り組み、世界最高水準の安全を追求してまいります」
という見出しが躍っている。
原子力発電所の廃止措置
このサイトページは、「現在、運転されている原子力発電所も、いつかはその役目を終える日が来ます。日本では、運転を終了した原子力発電所は、最終的に解体撤去され、跡地は再利用されることになります。」というパラグラフから始まっている。
なんと、オプティミスティックな書き出しではないか・・・そんな第一印象の文!
その他経費について :「東京電力」
「料金認可申請の概要について」平成24年5月 東京電力株式会社 pdfファイル
pdfファイルの16ページに「その他経費」に内訳明細表がある。
その中に、「普及開発関係費」の項目が記載されている。「210億円→28億円に」
「適正料金原価の適正性確保のあり方について」(資料3)
平成23年11月 電気料金制度・運用の見直しに係る有識者会事務局
23ページに「普及開発関係費」の定義・説明が行われている。
総額269億円のムダ。東電・電気料金水増しの要“普及開発関係費”とは?
週プレNEWS 2011.9.20 :「livedoor'NEWS」
<追跡 原発利益共同体>東電広告費116億円 昨年度/大手紙を総なめ 推進広告掲載/「朝日」から始まった/事故のたび膨張 :「阿修羅」
追跡 原発利益共同体
東電広告費 116億円 昨年度 :「しんぶん赤旗」
日本を創る 連載企画原発編 原発と国家 :「47news」
Vol.3 新聞。テレビに浸透 番組に抗議、広告カット、メディア対策に腐心
広告業界 売上高ランキング(平成24-25年) :「業界動向 SEARCH.COM」
広告会社売上ランキング :「マスメディアン.jp」
広告経済研究所の調査による2012年の主要広告代理業売上ランキング(上位50社)
電通支配はこうして原発報道を歪めてきた 神保哲生 2012.10.28 :「BLOGOS」
原発に首根っこを押さえられるメディアの実態~「濡れ手に粟」の高額ギャラで原発文化人&原発翼賛体制に [(1)真実を暴く眼力で闇権力と闘う慈悲の怒り]
:「宮③シェアする喜びの暮らし=共生社会へ」
インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。
↑↑ クリックしていただけると嬉しいです。
(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません。
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)
原発事故関連 読後リスト
今までに以下の原発事故関連書籍の読後印象を掲載しています。
読んでいただけると、うれしいです。
『原発クライシス』 高嶋哲夫 集英社文庫 ←付記:小説・フィクション
原発事故及び被曝に関連した著作の読書印象記掲載一覧 (更新2版)