近年、妖怪に興味を持ち始めた。高田崇史著『神の時空-かみのとき-』シリーズで、ぬりかべの福来陽一が登場してくるのを興味を持って読み継いできたことが、一つの大きな契機かもしれない。そして、丁度1年前に、菊池章太著『妖怪学講義』(講談社)を読んだ。これらはこのブログにその読後印象を載せている。
その後、数冊の妖怪関連本を購入した。その内の1冊がこの本である。水木しげるさんの「ゲゲゲの鬼太郎」はあまりにも有名である。その絵をいろんなところで見ているが、直接作品を読んだことがなかった。水木しげる著としてはこの新書版が初めてとなる。
奥書を見ると、このカラー版が出版されたのは1992年7月。入手した本は2015年10月の第13刷である。多分、この本は廃れることはないだろう。不可思議なもの、妖怪という目には見えない存在を具象化して描き出した本なのだから、ちょっと関心を抱けば、好奇心が手に取らせる一冊だと思う。歴史的に有名なのものに鳥山石燕画の『百鬼夜行』がある。全部を通覧していないが、部分的にいろんな機会にその画図をみたことがある。
本書で、大半の妖怪画は見開き2ページを使いカラーで描かれている。時には1ページに1点のところもある。絵と文章が一部重なるが、「談」の部分として、取り上げた妖怪に関わる一文が載せてある。妖怪そのものの説明と著者の見聞体験、調査・考察がわかりやすく読みやすい文で、エッセイ風に語られている。
通覧した第一印象はまずその妖怪画にある。妖怪は漫画タッチの描写であるが、場面背景は細密繊細に丁寧に描き込まれている。そのコントラストに惹かれる。妖怪が現れるあるいは棲息する場所がすごくイメージしやすい。細密画と呼べる類いの描写である。色使いから美しさを感じる。その背景の中にマンガチックな妖怪がポンと飛び出している。通覧してその妖怪たちに、親しみを感じるのだからおもしろい。
もう一つは、著者がところどころに、世界各地の妖怪を挿入していることにある。著者自身が現地に行き、現地での体験と見聞を踏まえて描いている。
「はじめに」の文で、著者は4,5歳のころに、お寺に行き、「のんのんばあ」と呼んでいたようだが、ばあさんにお寺の地獄極楽の絵をみせてもらったという。それがが妖怪世界に没入していく原点だったと回想している。地獄極楽が「本当にあると思って非常におどろいてしまった」ところから、妖怪が「すなわち、いる、と思って五十年以上経過してしまった」という。著者にとっては、妖怪が「終生の友となってしまった」のだ。
この本には、一つ一つの妖怪を語る「談」の中に、著者の妖怪探索遍歴が断片的に綴られていく。この部分、著者の人生が見える部分もありけっこうおもしろい。
妖怪が出現するという現地に著者が出かけて行き、現地の人々と語り、その体験やイメージを丹念に情報収集して、著者自身が現地で妖怪を感じとる作業をしているのが良く分かる。たとえば、2番目に登場する「だきつきばしら」という妖怪については、「千年以上を経た黒光りする柱をみて、目にはみえないなにかを感じた。いや、たしかに形はないけれども、不可解な”気”に満ちていた」(p7)と文末に記す。
各地の妖怪の話から、名称は違えども共通する妖怪の種と著者が分類している説明も文中に記される。たとえば、「産女(うぶめ)」を取り上げ、山口県で産女と呼ばれる妖怪が、所によっては「ウグメ」と言われるとか、愛媛県で「ウグメ」と言われる妖怪に触れている(p136)。
勿論、本書には著者が創造した妖怪「鬼太郎」についても触れている。見開き2ページに鬼太郎とよく見る妖怪たちが大きく描かれている。
この「鬼太郎」の項に、明確に著者の思い、考えが述べられている。著者は「鬼太郎」を実はこの本の妖怪の中に加えたくなかったそうだ。
その理由は、「この本に出てくる妖怪たちはすべて、本当にいるのではないか(目には見えないが・・・・)という連中ばかりなので」とその理由を記す。逆に言えば、著者の原体験と人々の体験の聴取、文献の渉猟を経て、著者はいると思う妖怪をこの書に厳選したということになる。巻末に「登場妖怪一覧」が載せてある。それは本書の章立てに沿っている。つまり、
Ⅰ 奇妙なもの見てある記 Ⅱ 出会った妖怪たち
Ⅲ 妖怪の有名人たち Ⅳ 幽霊・付喪神のたぐい
という区分で取り上げられている。
妖怪については、著者はこんなことを述べている。
*もともと妖怪は簡単なことばでは説明しきれいないものだが、いわゆる「霊的なもの」である。霊々と書いてかみがみと読む読み方もあるが、神も霊(かみ)であり、妖怪も霊である、と考えて世界中の妖怪と対決すると、なぜか極めて妖怪がよくわかる。 p152
*もともと妖怪は目に見えないものが多い。すなわち感じだ。 p152
*神様と妖怪、あるいは幽霊と分けてしまうと、逆に本質を見失う。 p217
*日本のものを七、八百集めて頭の中に入れて、現地に行ってみると、非常に世界の妖怪がよく分かる(分かったつもりかもしれないが・・・・)。というのはやはりその本質は”霊”なのだ。 p221
そして、鬼太郎について、イギリスの妖精風であるとして、妖精もまた”霊”なのだととらえ、「ぼくは40年かかって偶然、妖怪の妖精化をここみていたようである」(p154)と述べている。「目にみえないさまざまな”霊”は存在しており、健康なものだ」ととらえているのである。この文が載っている見開き(p154-155)の妖怪たちが大集合している絵は楽しげですらある。この絵に著者の思いが凝縮しているように感じる。
本書末尾の「奇想を楽しむ日々」というエッセイの中で次のように記している。
我々はもともと”霊々(かみがみ)の世界”からやってきたのであり、
そして”霊々の世界”に去ってゆく存在なのだ。
もう少し”霊的なもの”に関心をもっていい。
楽しく妖怪たちに接することができる本である。それがまずおもしろい。
ご一読ありがとうございます。

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妖怪がらみでネット検索して得た情報を一覧にしておきたい。
ゲゲゲの鬼太郎 :ウィキペディア
水木しげるロード彫刻群 :「鳥取ArtDBProject 野外彫刻」
水木しげる記念館 ホームページ
【公式】ゲゲゲの鬼太郎(第1期) 第1話「おばけナイター」 :YouTube
【公式】ゲゲゲの鬼太郎(第2期) 第1話「妖怪復活」 :YouTube
ゲゲゲの鬼太郎5期 ネコ娘登場シーン :YouTube
画図百鬼夜行 :ウィキペディア
鳥山石燕『画図百鬼夜行』妖怪画像一覧 :「妖怪うぃき的 妖怪図鑑」
今昔画図続百鬼 :ウィキペディア
今昔百鬼拾遺 :ウィキペディア
百器徒然袋 :ウィキペディア
鳥山石燕 :ウィキペディア
鳥山石燕 岩井國臣 :「劇場国家にっぽん」
謎解き『画図百鬼夜行』-鳥山石燕の構成方法をめぐって- 北城伸子氏 論文
百鬼夜行 :「コトバンク」
百鬼夜行 :ウィキペディア
百鬼夜行絵巻 :ウィキペディア
うぃき的現代妖怪絵巻 :「妖怪うぃき的 妖怪図鑑」
【厳選25枚】江戸時代の幽霊画がめちゃくちゃ怖い【夜見ちゃダメ】:「江戸ガイド」
【閲覧注意】これは怖いゾォ~!世にも恐ろしい幽霊画 :「NAVERまとめ」
美しくも恐ろしい…厳選・日本の【美女幽霊画】浮世絵師別ランキング
:「Ranking Share」
File99 おばけの絵 美の壺 :「NHKオンライン」
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[妖精は実在した!?] 写真に撮られた妖精たち! :「NAVERまとめ」
「妖精の死体」がメキシコで発見される! DNA検査、X線撮影実施へ
2016.7.21 :「知的好奇心の扉 トカナ」
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1年前に読んだ本について書いたブログ記事はこちらをお読みいただけるとうれしいです。
『妖怪学講義』 菊池章太 講談社
その後、数冊の妖怪関連本を購入した。その内の1冊がこの本である。水木しげるさんの「ゲゲゲの鬼太郎」はあまりにも有名である。その絵をいろんなところで見ているが、直接作品を読んだことがなかった。水木しげる著としてはこの新書版が初めてとなる。
奥書を見ると、このカラー版が出版されたのは1992年7月。入手した本は2015年10月の第13刷である。多分、この本は廃れることはないだろう。不可思議なもの、妖怪という目には見えない存在を具象化して描き出した本なのだから、ちょっと関心を抱けば、好奇心が手に取らせる一冊だと思う。歴史的に有名なのものに鳥山石燕画の『百鬼夜行』がある。全部を通覧していないが、部分的にいろんな機会にその画図をみたことがある。
本書で、大半の妖怪画は見開き2ページを使いカラーで描かれている。時には1ページに1点のところもある。絵と文章が一部重なるが、「談」の部分として、取り上げた妖怪に関わる一文が載せてある。妖怪そのものの説明と著者の見聞体験、調査・考察がわかりやすく読みやすい文で、エッセイ風に語られている。
通覧した第一印象はまずその妖怪画にある。妖怪は漫画タッチの描写であるが、場面背景は細密繊細に丁寧に描き込まれている。そのコントラストに惹かれる。妖怪が現れるあるいは棲息する場所がすごくイメージしやすい。細密画と呼べる類いの描写である。色使いから美しさを感じる。その背景の中にマンガチックな妖怪がポンと飛び出している。通覧してその妖怪たちに、親しみを感じるのだからおもしろい。
もう一つは、著者がところどころに、世界各地の妖怪を挿入していることにある。著者自身が現地に行き、現地での体験と見聞を踏まえて描いている。
「はじめに」の文で、著者は4,5歳のころに、お寺に行き、「のんのんばあ」と呼んでいたようだが、ばあさんにお寺の地獄極楽の絵をみせてもらったという。それがが妖怪世界に没入していく原点だったと回想している。地獄極楽が「本当にあると思って非常におどろいてしまった」ところから、妖怪が「すなわち、いる、と思って五十年以上経過してしまった」という。著者にとっては、妖怪が「終生の友となってしまった」のだ。
この本には、一つ一つの妖怪を語る「談」の中に、著者の妖怪探索遍歴が断片的に綴られていく。この部分、著者の人生が見える部分もありけっこうおもしろい。
妖怪が出現するという現地に著者が出かけて行き、現地の人々と語り、その体験やイメージを丹念に情報収集して、著者自身が現地で妖怪を感じとる作業をしているのが良く分かる。たとえば、2番目に登場する「だきつきばしら」という妖怪については、「千年以上を経た黒光りする柱をみて、目にはみえないなにかを感じた。いや、たしかに形はないけれども、不可解な”気”に満ちていた」(p7)と文末に記す。
各地の妖怪の話から、名称は違えども共通する妖怪の種と著者が分類している説明も文中に記される。たとえば、「産女(うぶめ)」を取り上げ、山口県で産女と呼ばれる妖怪が、所によっては「ウグメ」と言われるとか、愛媛県で「ウグメ」と言われる妖怪に触れている(p136)。
勿論、本書には著者が創造した妖怪「鬼太郎」についても触れている。見開き2ページに鬼太郎とよく見る妖怪たちが大きく描かれている。
この「鬼太郎」の項に、明確に著者の思い、考えが述べられている。著者は「鬼太郎」を実はこの本の妖怪の中に加えたくなかったそうだ。
その理由は、「この本に出てくる妖怪たちはすべて、本当にいるのではないか(目には見えないが・・・・)という連中ばかりなので」とその理由を記す。逆に言えば、著者の原体験と人々の体験の聴取、文献の渉猟を経て、著者はいると思う妖怪をこの書に厳選したということになる。巻末に「登場妖怪一覧」が載せてある。それは本書の章立てに沿っている。つまり、
Ⅰ 奇妙なもの見てある記 Ⅱ 出会った妖怪たち
Ⅲ 妖怪の有名人たち Ⅳ 幽霊・付喪神のたぐい
という区分で取り上げられている。
妖怪については、著者はこんなことを述べている。
*もともと妖怪は簡単なことばでは説明しきれいないものだが、いわゆる「霊的なもの」である。霊々と書いてかみがみと読む読み方もあるが、神も霊(かみ)であり、妖怪も霊である、と考えて世界中の妖怪と対決すると、なぜか極めて妖怪がよくわかる。 p152
*もともと妖怪は目に見えないものが多い。すなわち感じだ。 p152
*神様と妖怪、あるいは幽霊と分けてしまうと、逆に本質を見失う。 p217
*日本のものを七、八百集めて頭の中に入れて、現地に行ってみると、非常に世界の妖怪がよく分かる(分かったつもりかもしれないが・・・・)。というのはやはりその本質は”霊”なのだ。 p221
そして、鬼太郎について、イギリスの妖精風であるとして、妖精もまた”霊”なのだととらえ、「ぼくは40年かかって偶然、妖怪の妖精化をここみていたようである」(p154)と述べている。「目にみえないさまざまな”霊”は存在しており、健康なものだ」ととらえているのである。この文が載っている見開き(p154-155)の妖怪たちが大集合している絵は楽しげですらある。この絵に著者の思いが凝縮しているように感じる。
本書末尾の「奇想を楽しむ日々」というエッセイの中で次のように記している。
我々はもともと”霊々(かみがみ)の世界”からやってきたのであり、
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ゲゲゲの鬼太郎 :ウィキペディア
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ゲゲゲの鬼太郎5期 ネコ娘登場シーン :YouTube
画図百鬼夜行 :ウィキペディア
鳥山石燕『画図百鬼夜行』妖怪画像一覧 :「妖怪うぃき的 妖怪図鑑」
今昔画図続百鬼 :ウィキペディア
今昔百鬼拾遺 :ウィキペディア
百器徒然袋 :ウィキペディア
鳥山石燕 :ウィキペディア
鳥山石燕 岩井國臣 :「劇場国家にっぽん」
謎解き『画図百鬼夜行』-鳥山石燕の構成方法をめぐって- 北城伸子氏 論文
百鬼夜行 :「コトバンク」
百鬼夜行 :ウィキペディア
百鬼夜行絵巻 :ウィキペディア
うぃき的現代妖怪絵巻 :「妖怪うぃき的 妖怪図鑑」
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2016.7.21 :「知的好奇心の扉 トカナ」
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1年前に読んだ本について書いたブログ記事はこちらをお読みいただけるとうれしいです。
『妖怪学講義』 菊池章太 講談社