江戸時代、浮世絵版画は普及品ならかけそば一杯の値段で買える位で庶民の間にまで広がった。開国間近の頃には、輸出品の包装紙、緩衝材代わりに浮世絵が無雑作に利用された。ヨーロッパに渡り、当時の印象派を生み出していった画家たちにその浮世絵が驚きの眼で見られ、受け入れられ、ジャポニズムと呼ばれる流行の火付けになったという。その揺り戻しで、浮世絵が日本で改めて絵画芸術として見直されることになる。
浮世絵のことを意識せずとも、葛飾北斎、歌川広重、喜多川歌麿、東洲斎写楽という名前を知り、『東海道五拾三次』や『冨嶽三十六景』シリーズの絵、大首絵で描かれた役者絵、美人画などのいくつかをきっと眼にしているはずだ。『東海道五拾三次』の絵は、某社のふりかけパックの付録絵に使われてきてさえいる。「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」という名称の絵、遠くに富士山が見え、手前にはダイナミックな巨大波が立ち上り、船が翻弄されている北斎ブルーの絵を眼にしていることだろう。
何気なく見慣れているわりには、浮世絵全般についての基礎的なことは知られていないと思う。私自身、今までに幾つもの回顧的な浮世絵の特別展を鑑賞して来ているが、浮世絵全般のことには疎いところがあった。
たまたま本書表紙の装画と「浮世絵の教室」というタイトルに眼が止まり、入門編のようで面白そうなので、読んでみた。「世界でいちばん素敵な」を冠したシリーズの一冊として、2020年8月に刊行されている。
本書はQ&Aの形式でまとめられている。そして数ページ以外の全ページに浮世絵の画像が大小取り混ぜて掲載されている。浮世絵自体がほぼページ全体の地になっている箇所も結構ある。ペラペラと掲載された浮世絵を眺めていくだけでも、浮世絵全般のイメージをいだくことができるると思う。
Q&Aのスタイルは非常に分かりやすい。大きな文字で疑問の問いかけがあり、それに明快な回答が記されている。その上で、具体的説明が簡潔に加えられる。その例示となる浮世絵をそのページで紹介していく。そんなスタイルである。堅苦しさはない。
論より証拠。一番最初のQ&Aを例示しよう。
見開きの左ページ Q そもそも浮世絵ってどんな意味?
右ページ A 語源は「浮生」、「憂世」、「浮世」といわれます。
この見開きを使って、葛飾北斎筆「冨嶽三十六景 凱風快晴」の版画絵が地として載る。
回答についての具体的補足として、”「浮生」は自然を受け入れる人生観、「憂世」は末法思想、「浮世」は風俗的題材のことです。”と一行の説明が補足されている。
実に簡潔、ストレートである。
こんな形で浮世絵について知る手始めとして最小限の基本的な知識が提示されていく。
これに続くQを5つ、列挙してみよう。
Q 浮世絵って誰が考えたの?
Q 浮世絵で描かれたのは、どんな主題?
Q 浮世絵には、どんな版型があるの?
Q 浮世絵はどうやって色をつけているの? ここから関連質問3つが展開される。
Q 当時の人は、浮世絵をどんな風に楽しんでいたの? 同様に関連質問3つがつづく。
・・・・こんな調子で進展していく。
Q&Aのその後から、いくつか質問をサンプリングしてみる。
Q 錦絵は、浮世絵と違うの?
Q 役者さんって、浮世絵のような顔をしていたの?
Q 日本の古典を題材にすることはあったの?
Q 風景画の絵師たちは、実際にその場で写生したの?
Q 浮世絵にも、遠近法は使われているの?
Q 浮世絵が西洋絵画によく描かれているのはなぜ?
Q 江戸時代、肉筆画は廃れていたの?
Q 絶対に覚えておくべき浮世絵師を教えて!
Q 草創期の美人画の特徴を教えて!
Q 幕末を代表する絵師を教えて!
あなたがこれらのQに即座に解答できるなら、多分この教室はつまらないかも・・・。
あなたが解答にとまどうなら、この教室を覗いて見るのが、浮世絵について基礎的なことを知るのに役立つはずだ。
私は通読して、知識がぼんやりとしていた点を押さえ直すことができたし、全く意識していなかった側面にも気づく機会になった。たとえば、彫師では江川留吉と小泉巳之吉
が有名であり、葛飾北斎は江川留吉を彫師に指名したことなど、本書で知った。浮世絵の流派としては、鳥居派が存続し井関せつ子氏が9代目を1982年に襲名されたということがその一例である。尚、調べていて、井関せつ子氏は2021年5月逝去された。享年83歳。鳥居派も絶えたのか・・・・この点は不詳。他にもいろいろ学ぶことがあった。全般的な基礎知識の整理に役だったと言える。
本書は35のQ&Aで構成され、4つのコラム--「江戸の美女たち」、「浮世絵に描かれた動物たち」、「浮世絵に描かれた江戸の1日」、「浮世絵に描かれた江戸の観光名所」--が載っている。末尾に「主要浮世絵師系譜」がまとめてある。
冒頭の表紙に使われているのは戯画を得意とした浮世絵師・歌川国芳の『金魚づくし 百物語』である。
浮世絵の世界への入門書としては、文による解説を絞り込み、ビジュアルに浮世絵自身に語らせるというやり方が手軽に読み、基礎的知識を学べる梃子になっていると思う。
ご一読ありがとうございます。
本書に関連して、ネット検索で得られる情報を少しチェックしてみた。一覧にしておきたい。
浮世絵 :「コトバンク」
浮世絵 :「Kids Web Japan」(Web Japan)
浮世絵とは?代表作品と絵師たちをまとめて解説!基本や歴史が全部わかる:「warakuweb」
東海道五十三次(浮世絵) :ウィキペディア
富嶽三十六景 :ウィキペディア
鈴木春信 :ウィキペディア
鈴木春信 :「コトバンク」
鳥居清長 :ウィキペディア
鳥居清長 :「コトバンク」
葛飾北斎 :ウィキペディア
葛飾北斎 :「コトバンク」
歌川広重 :ウィキペディア
歌川広重 :「コトバンク」
喜多川歌麿 :ウィキペディア
喜多川歌麿 :「コトバンク」
東洲斎写楽 :ウィキペディア
歌川国芳 :ウィキペディア
金魚づくし・百ものがたり :「文化遺産オンライン」
歌川国芳 金魚づくし 酒のざしき :「アダチ版画」
河鍋暁斎 :ウィキペディア
月岡芳年 :ウィキペディア
鳥居清光(井関せつ子) :「Webcat Plus」
鳥居清光 :ウィキペディア
太田記念美術館 ホームページ
すみだ北斎美術館 ホームページ
信州小布施 北斎舘 ホームページ
上方浮世絵舘 ホームページ
河鍋暁斎記念美術館 ホームページ
大阪浮世絵美術館 ホームページ
浮世絵のアダチ版画 オンラインストア ホームページ
インターネットに有益な情報を掲載してくださった皆様に感謝します。
(情報提供サイトへのリンクのアクセスがネット事情でいつか途切れるかもしれません。
その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)
浮世絵のことを意識せずとも、葛飾北斎、歌川広重、喜多川歌麿、東洲斎写楽という名前を知り、『東海道五拾三次』や『冨嶽三十六景』シリーズの絵、大首絵で描かれた役者絵、美人画などのいくつかをきっと眼にしているはずだ。『東海道五拾三次』の絵は、某社のふりかけパックの付録絵に使われてきてさえいる。「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」という名称の絵、遠くに富士山が見え、手前にはダイナミックな巨大波が立ち上り、船が翻弄されている北斎ブルーの絵を眼にしていることだろう。
何気なく見慣れているわりには、浮世絵全般についての基礎的なことは知られていないと思う。私自身、今までに幾つもの回顧的な浮世絵の特別展を鑑賞して来ているが、浮世絵全般のことには疎いところがあった。
たまたま本書表紙の装画と「浮世絵の教室」というタイトルに眼が止まり、入門編のようで面白そうなので、読んでみた。「世界でいちばん素敵な」を冠したシリーズの一冊として、2020年8月に刊行されている。
本書はQ&Aの形式でまとめられている。そして数ページ以外の全ページに浮世絵の画像が大小取り混ぜて掲載されている。浮世絵自体がほぼページ全体の地になっている箇所も結構ある。ペラペラと掲載された浮世絵を眺めていくだけでも、浮世絵全般のイメージをいだくことができるると思う。
Q&Aのスタイルは非常に分かりやすい。大きな文字で疑問の問いかけがあり、それに明快な回答が記されている。その上で、具体的説明が簡潔に加えられる。その例示となる浮世絵をそのページで紹介していく。そんなスタイルである。堅苦しさはない。
論より証拠。一番最初のQ&Aを例示しよう。
見開きの左ページ Q そもそも浮世絵ってどんな意味?
右ページ A 語源は「浮生」、「憂世」、「浮世」といわれます。
この見開きを使って、葛飾北斎筆「冨嶽三十六景 凱風快晴」の版画絵が地として載る。
回答についての具体的補足として、”「浮生」は自然を受け入れる人生観、「憂世」は末法思想、「浮世」は風俗的題材のことです。”と一行の説明が補足されている。
実に簡潔、ストレートである。
こんな形で浮世絵について知る手始めとして最小限の基本的な知識が提示されていく。
これに続くQを5つ、列挙してみよう。
Q 浮世絵って誰が考えたの?
Q 浮世絵で描かれたのは、どんな主題?
Q 浮世絵には、どんな版型があるの?
Q 浮世絵はどうやって色をつけているの? ここから関連質問3つが展開される。
Q 当時の人は、浮世絵をどんな風に楽しんでいたの? 同様に関連質問3つがつづく。
・・・・こんな調子で進展していく。
Q&Aのその後から、いくつか質問をサンプリングしてみる。
Q 錦絵は、浮世絵と違うの?
Q 役者さんって、浮世絵のような顔をしていたの?
Q 日本の古典を題材にすることはあったの?
Q 風景画の絵師たちは、実際にその場で写生したの?
Q 浮世絵にも、遠近法は使われているの?
Q 浮世絵が西洋絵画によく描かれているのはなぜ?
Q 江戸時代、肉筆画は廃れていたの?
Q 絶対に覚えておくべき浮世絵師を教えて!
Q 草創期の美人画の特徴を教えて!
Q 幕末を代表する絵師を教えて!
あなたがこれらのQに即座に解答できるなら、多分この教室はつまらないかも・・・。
あなたが解答にとまどうなら、この教室を覗いて見るのが、浮世絵について基礎的なことを知るのに役立つはずだ。
私は通読して、知識がぼんやりとしていた点を押さえ直すことができたし、全く意識していなかった側面にも気づく機会になった。たとえば、彫師では江川留吉と小泉巳之吉
が有名であり、葛飾北斎は江川留吉を彫師に指名したことなど、本書で知った。浮世絵の流派としては、鳥居派が存続し井関せつ子氏が9代目を1982年に襲名されたということがその一例である。尚、調べていて、井関せつ子氏は2021年5月逝去された。享年83歳。鳥居派も絶えたのか・・・・この点は不詳。他にもいろいろ学ぶことがあった。全般的な基礎知識の整理に役だったと言える。
本書は35のQ&Aで構成され、4つのコラム--「江戸の美女たち」、「浮世絵に描かれた動物たち」、「浮世絵に描かれた江戸の1日」、「浮世絵に描かれた江戸の観光名所」--が載っている。末尾に「主要浮世絵師系譜」がまとめてある。
冒頭の表紙に使われているのは戯画を得意とした浮世絵師・歌川国芳の『金魚づくし 百物語』である。
浮世絵の世界への入門書としては、文による解説を絞り込み、ビジュアルに浮世絵自身に語らせるというやり方が手軽に読み、基礎的知識を学べる梃子になっていると思う。
ご一読ありがとうございます。
本書に関連して、ネット検索で得られる情報を少しチェックしてみた。一覧にしておきたい。
浮世絵 :「コトバンク」
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東海道五十三次(浮世絵) :ウィキペディア
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葛飾北斎 :ウィキペディア
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