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この作品は、2011年5月から2012年6月にかけて4つの新聞に連載されたものに大幅な改稿を加えて、書籍化したものだという。初出の新聞とは縁がないので、連載されていたことは知らなかった。
桜宮市を中心とする桜宮ワールドは、空間軸での関係性の広がりの一方で、時間軸での歴史的厚みがどんどん伸びていく。この小説の主人公「ぼく」が誰なのかがわかって、海堂ワールドの作品間の関係性に時の厚みができていくと感じたのが、最もプリミティブで強い印象である。
桜宮湾の桜宮岬の突端に屹立する建物、未来医学探究センターで、たったひとりの専属職員として勤務し始めて2年が経った「ぼく」がこの小説の主人公である。
ここはかつて碧翠院という寺院と古色蒼然とした由緒正しい桜宮病院があったところである。”桜宮の呪われし地”と呼ばれている場所。そこに第3セクターの施設が建っている。外から見れば5階建てに見える塔(光塔)であるが、中に入ると地下1階、地上3階である。
「ぼく」は、この塔で医療メンテナンスとその記録をするという仕事に従事している。時々その仕事ぶりのチェックに来るのが非常勤の上司で、ヒプノス社の西野昌孝だ。「ぼく」と西野さんとの出会いは3年前が初めてなのだ。つまり、知り合って1年後に、西野さんが「ぼく」の上司となる。西野さんは「ぼい」の後見人の一人でもある。
「ぼく」の職場はこの塔の地下1階。「ぼく」はこの塔をアクアマリンの神殿と名付け、地下1階に眠るオンディーヌの医療メンテナンスを業務用のマザーコンピューターを使って行っている。
ここに勤務しながら、彼は学生でもある。なぜか? 「ぼく」には特殊な事情があって、桜宮学園中等部2年に秋から編入した。そして、2018年4月8日時点からストーリーが始まり、明日から中等部3年に進級するという。
つまり、近未来小説となっている。
この物語には2つのストーリーが同時並行で進行し、それが1つに収斂していく。その収斂が、「ぼく」の新たな旅立ちとなるのだ。
昼間の「ぼく」は中等部3年から高等部1年の冬、2019年12月までの時期が学園ものとして、ちょっとユーモラスに、軽快に、目立たない存在になりきろうとする「ぼく」が目立つ存在になっててしまうという局面を交えながら展開する。クラスの委員長選挙のおかしげな展開、ドロロン同盟の締結に巻き込まれる話、桜宮学園高等部と東雲(しののめ)高校とのボクシング部対抗戦に「ぼく」が引っ張り出され、リングに立つ顛末、ドロン同盟が文化祭で独自企画を実行するためのプランづくり合宿の経緯と文化祭当日の顛末など、盛りだくさんで、おもしろおかしく、哀しみも交えて青春時代が描かれる。
アクアマリンの神殿に立ち戻った「ぼく」は専属職員。マザーコンピューターを使い、オンディーヌに向かい合う生活である。時折やってくる上司の西野さん以外に、マザーコンピーターを介して、関係するのは西野さんの好敵手の筆頭でもある、マサチューセッツのステルス・シンイチロウ。つまり、マサチューセッツ工科大学の曾根伸一郎教授とのメール交信である。そこにはこの2人のハイブロウなやりとりが繰り返される。
この小説では、「ぼく」が二重人格のようにギャップがある2つの次元で生活していく姿を描きながら、そのギャップが解消されていくというプロセスになる。
「ぼく」には、もう一人の後見人が居る。ショコちゃんこと如月翔子(きさらぎしょうこ)。この小説の現時点では、東城大学医学部付属病院・オレンジ新棟2階の小児科病棟の看護師長になっているのだ。
そして、「ぼく」の名前は、佐々木アツシ。この名前でピンと来たら、あなたはかなり深く桜宮ワールドに浸っていることを自覚すべきだろう。
そう、「ハイパーマン・バッカス」とともに登場した5歳の坊や。レティノで入院し、小児愚痴外来を担当した田口先生を面食らわせたアツシくんである。「アツシは勇者になりたいのであります」と決意宣言した子である。
桜宮ワールド、つまり海堂ワールドでは、『モルフェウスの領域』で、眠れる少年として登場してくる。その続きが、ここにある。
片方の眼球摘出手術を受けた後、「凍眠八則」の下で凍眠生活状態に第一号として入り、その間に特殊な学習プログラムを受け、このストーリーの始まる3年前に目覚めた。半年ほどは如月翔子の賃貸マンションに同居し、田口先生の世話にもなり、その後、このアクアマリンの神殿に引っ越して、西野さんの業務を引き継いだのだ。
つきつめていくと、この小説は佐々木アツシが眠れるオンディーヌに対して、一方的な対話を続ける。オンディーヌに向き合うアツシの思考と、学園生活次元での己の人生復帰への微調整期間を描き出していくストーリーである。両者は不可分のものとして収斂していく。
眠れるオンディーヌとは誰なのか? それは本書を開けて味わっていただきたい。
4部構成になっているが、前半はかなりおもしろおかしい学園生活物語の中にステルス・シンイチロウとのメール交信が渋みをつける。第3部はアツシの学園生活最後のエピソードになる一方で、第4部への準備段階となる。そして、第4部は「凍眠八則」で始まると共に、ストーリー展開がシリアスな色調を帯びていく。ストーリーのトーン変化が興味深いものとなる。
田口先生が、この第4部で登場してくるが、なんと医療安全推進本部のセンター長兼医療情報危機理ユニットの特任教授になっているのだ。そして大学病院の院長だった高階院長は、東城大学の高階学長になっていた!
この作品の巻末はこうである。
「こうしてひとつの季節が終わりを告げ、新しい物語が唐突に始まる。」
この先、桜宮ワールド(海堂ワールド)はこの先どう展開するのだろうか。この物語も桜宮ワールドの関係性の一コマに納まっていくようである。
ご一読ありがとうございます。
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この作品に出てくる用語で関心を引いたものをネット検索してみた。一覧にしておきたい。
メディウム → ミディアム :ウィキペディア
カテコールアミン :「京都府立医科大学大学院医学研究科 呼吸器外科学教室」
昇圧剤 :ウィキペディア
ウェルナー症候群 :ウィキペディア
ウェルナー症候群 :「千葉大学大学院医学研究院・医学部」
レティノブラストーマ(網膜芽腫)→ 網膜芽細胞腫 :ウィキペディア
薬事・食品衛生審議会 (薬事分科会) :「厚生労働省」
オンディーヌ ← ウンディーネ :ウィキペディア
オンディーヌ ストーリー辞典 :「名作ドラマへの招待」
メビウスの円環 → メビウスの帯 :ウィキペディア
不思議な帯、メビウスの輪 :YouTube
マリンスノー :ウィキペディア
海に降る雪 マリンスノー 本田牧生氏
深海に降る雪「マリンスノー」が神秘的すぎる :「NAVER まとめ」
マノン・レスコー :ウィキペディア
ドレッドヘア →ドレッドヘアとはどんな髪型?:「自分に合った『男の髪型』選び」
マタドール → 闘牛士 :ウィキペディア
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その節には、直接に検索してアクセスしてみてください。掲載時点の後のフォローは致しません。
その点、ご寛恕ください。)
海堂ワールドに惹かれ、作品を読み継いでいます。
「遊心逍遙記」として読後印象を掲載し始めた以降に読んだ印象記のリストです。
出版年次の新旧は前後しています。こちらもお読みいただけるとうれしいです。
『ガンコロリン』 新潮社
『カレイドスコープの箱庭』 宝島社
『スリジェセンター 1991』 講談社
『輝天炎上』 角川書店
『螺鈿迷宮』 角川書店
『ケルベロスの肖像』 宝島社
『玉村警部補の災難』 宝島社
『ナニワ・モンスター』 新潮社
『モルフェウスの領域』 角川書店
『極北ラプソディ』 朝日新聞出版
桜宮市を中心とする桜宮ワールドは、空間軸での関係性の広がりの一方で、時間軸での歴史的厚みがどんどん伸びていく。この小説の主人公「ぼく」が誰なのかがわかって、海堂ワールドの作品間の関係性に時の厚みができていくと感じたのが、最もプリミティブで強い印象である。
桜宮湾の桜宮岬の突端に屹立する建物、未来医学探究センターで、たったひとりの専属職員として勤務し始めて2年が経った「ぼく」がこの小説の主人公である。
ここはかつて碧翠院という寺院と古色蒼然とした由緒正しい桜宮病院があったところである。”桜宮の呪われし地”と呼ばれている場所。そこに第3セクターの施設が建っている。外から見れば5階建てに見える塔(光塔)であるが、中に入ると地下1階、地上3階である。
「ぼく」は、この塔で医療メンテナンスとその記録をするという仕事に従事している。時々その仕事ぶりのチェックに来るのが非常勤の上司で、ヒプノス社の西野昌孝だ。「ぼく」と西野さんとの出会いは3年前が初めてなのだ。つまり、知り合って1年後に、西野さんが「ぼく」の上司となる。西野さんは「ぼい」の後見人の一人でもある。
「ぼく」の職場はこの塔の地下1階。「ぼく」はこの塔をアクアマリンの神殿と名付け、地下1階に眠るオンディーヌの医療メンテナンスを業務用のマザーコンピューターを使って行っている。
ここに勤務しながら、彼は学生でもある。なぜか? 「ぼく」には特殊な事情があって、桜宮学園中等部2年に秋から編入した。そして、2018年4月8日時点からストーリーが始まり、明日から中等部3年に進級するという。
つまり、近未来小説となっている。
この物語には2つのストーリーが同時並行で進行し、それが1つに収斂していく。その収斂が、「ぼく」の新たな旅立ちとなるのだ。
昼間の「ぼく」は中等部3年から高等部1年の冬、2019年12月までの時期が学園ものとして、ちょっとユーモラスに、軽快に、目立たない存在になりきろうとする「ぼく」が目立つ存在になっててしまうという局面を交えながら展開する。クラスの委員長選挙のおかしげな展開、ドロロン同盟の締結に巻き込まれる話、桜宮学園高等部と東雲(しののめ)高校とのボクシング部対抗戦に「ぼく」が引っ張り出され、リングに立つ顛末、ドロン同盟が文化祭で独自企画を実行するためのプランづくり合宿の経緯と文化祭当日の顛末など、盛りだくさんで、おもしろおかしく、哀しみも交えて青春時代が描かれる。
アクアマリンの神殿に立ち戻った「ぼく」は専属職員。マザーコンピューターを使い、オンディーヌに向かい合う生活である。時折やってくる上司の西野さん以外に、マザーコンピーターを介して、関係するのは西野さんの好敵手の筆頭でもある、マサチューセッツのステルス・シンイチロウ。つまり、マサチューセッツ工科大学の曾根伸一郎教授とのメール交信である。そこにはこの2人のハイブロウなやりとりが繰り返される。
この小説では、「ぼく」が二重人格のようにギャップがある2つの次元で生活していく姿を描きながら、そのギャップが解消されていくというプロセスになる。
「ぼく」には、もう一人の後見人が居る。ショコちゃんこと如月翔子(きさらぎしょうこ)。この小説の現時点では、東城大学医学部付属病院・オレンジ新棟2階の小児科病棟の看護師長になっているのだ。
そして、「ぼく」の名前は、佐々木アツシ。この名前でピンと来たら、あなたはかなり深く桜宮ワールドに浸っていることを自覚すべきだろう。
そう、「ハイパーマン・バッカス」とともに登場した5歳の坊や。レティノで入院し、小児愚痴外来を担当した田口先生を面食らわせたアツシくんである。「アツシは勇者になりたいのであります」と決意宣言した子である。
桜宮ワールド、つまり海堂ワールドでは、『モルフェウスの領域』で、眠れる少年として登場してくる。その続きが、ここにある。
片方の眼球摘出手術を受けた後、「凍眠八則」の下で凍眠生活状態に第一号として入り、その間に特殊な学習プログラムを受け、このストーリーの始まる3年前に目覚めた。半年ほどは如月翔子の賃貸マンションに同居し、田口先生の世話にもなり、その後、このアクアマリンの神殿に引っ越して、西野さんの業務を引き継いだのだ。
つきつめていくと、この小説は佐々木アツシが眠れるオンディーヌに対して、一方的な対話を続ける。オンディーヌに向き合うアツシの思考と、学園生活次元での己の人生復帰への微調整期間を描き出していくストーリーである。両者は不可分のものとして収斂していく。
眠れるオンディーヌとは誰なのか? それは本書を開けて味わっていただきたい。
4部構成になっているが、前半はかなりおもしろおかしい学園生活物語の中にステルス・シンイチロウとのメール交信が渋みをつける。第3部はアツシの学園生活最後のエピソードになる一方で、第4部への準備段階となる。そして、第4部は「凍眠八則」で始まると共に、ストーリー展開がシリアスな色調を帯びていく。ストーリーのトーン変化が興味深いものとなる。
田口先生が、この第4部で登場してくるが、なんと医療安全推進本部のセンター長兼医療情報危機理ユニットの特任教授になっているのだ。そして大学病院の院長だった高階院長は、東城大学の高階学長になっていた!
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「こうしてひとつの季節が終わりを告げ、新しい物語が唐突に始まる。」
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薬事・食品衛生審議会 (薬事分科会) :「厚生労働省」
オンディーヌ ← ウンディーネ :ウィキペディア
オンディーヌ ストーリー辞典 :「名作ドラマへの招待」
メビウスの円環 → メビウスの帯 :ウィキペディア
不思議な帯、メビウスの輪 :YouTube
マリンスノー :ウィキペディア
海に降る雪 マリンスノー 本田牧生氏
深海に降る雪「マリンスノー」が神秘的すぎる :「NAVER まとめ」
マノン・レスコー :ウィキペディア
ドレッドヘア →ドレッドヘアとはどんな髪型?:「自分に合った『男の髪型』選び」
マタドール → 闘牛士 :ウィキペディア
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海堂ワールドに惹かれ、作品を読み継いでいます。
「遊心逍遙記」として読後印象を掲載し始めた以降に読んだ印象記のリストです。
出版年次の新旧は前後しています。こちらもお読みいただけるとうれしいです。
『ガンコロリン』 新潮社
『カレイドスコープの箱庭』 宝島社
『スリジェセンター 1991』 講談社
『輝天炎上』 角川書店
『螺鈿迷宮』 角川書店
『ケルベロスの肖像』 宝島社
『玉村警部補の災難』 宝島社
『ナニワ・モンスター』 新潮社
『モルフェウスの領域』 角川書店
『極北ラプソディ』 朝日新聞出版
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