文庫本の奥付を読むと、「別冊文藝春秋」(172~186号)に発表され、平成元年(1989)9月に単行本として刊行、1992年9月に文庫化された。それ以降増刷が続いている。
江戸屋敷詰めの用人の職まで勤め、新藩主が家督を継承する時点で、三屋清右衛門は家督を惣領又四郎に相続させ、隠居となった。清右衛門は国元に戻り、新藩主から隠居部屋を普請してもらうという厚遇を受けた。このストーリーは、隠居した清右衛門が、様々な人から依頼され、様々な課題・案件に取り組んで行くプロセスを描き出していく。
清右衛門は隠居して、日記をつけ始めた。日記の題が「残日録」である。清右衛門はその題について、惣領又四郎の嫁里江に、「日残リテ昏ルルニ未ダ遠シの意味でな。残る日を数えようというわけではない」(p16)と説明している。本書のタイトルはここに由来する。
このストーリーは、日記に記された内容がショート・ストーリーに変換されて続いていくというスタイルと私は受けとめた。短編連作集と言えよう。一つ一つの内容が一応完結していく。
一方で、日記としての時間軸で経緯が綴られていく。そこには、新藩主の次の継承者(世嗣)に絡んで、静かに蠢いている派閥抗争の事情が日記の根底に継続して綴られていくという側面を含んでいる。このストーリー全体を眺めると、派閥抗争の進展状況ををとらえていると言える。時にはその派閥抗争がショート・ストーリーの表に出てくることがある。藩の執政府が紛糾の渦中にあるという側面に着目すると、長編小説とも言える。
以下、小見出し単位に大凡の筋と印象をご紹介したい。
《醜女》
10年前、城の奥御殿に奉公中の菓子屋鳴戸の娘おうめは在国中の先代藩主の気紛れから一夜の伽をさせられた。その後おうめは暇を出され実家に戻る。おうめが最近身籠もった。おうめをひそかに処分せよという強硬な意見の噂が流れる。町奉行の佐伯から相談を受けた清左衛門が動き出す。清左衛門は藩の手続き面での過誤に気づくことに・・・・。
一人の女のひとなみのしあわせがかかった状況にどう対処するかがテーマである。
《高札場》
大手前の高札場で安冨源太夫が七ツ(午後4時)すぎに腹を切った。死にきれずに苦しんでいるところを家の者に引き取られて後に死んだ。殿に対する怨みという類いのものではなく、女の名前をわめいていたという。源太夫と道場での同門、釣り仲間とみられている清左衛門は佐伯からその女について内密に事情をさぐることを頼まれる。
人それぞれの思い込みが真実を歪める。清左衛門も己の思い込みに気づくはめに。
《零落》
保科笙一郎の塾からの帰路、にわか雨を避け小禄の武家屋敷の笠門で雨宿りをする。それが30年ほど交際の途絶えていた金井奥之助との再会となる。若き頃の派閥の選択が人生の岐路になっていた。その経緯を回想することになる。それを契機に零落した金井は清左衛門の屋敷を訪れはじめる。二人で磯釣りに行くことが一波乱をよぶ。
落ちぶれたまま隠居した男の悲哀と憎しみが噴出する。その機微がテーマと言える。
《白い顔》
菩提寺で百年忌の法事を終えた御礼に清左衛門が寿岳寺を訪れたとき、頭巾で顔を包んだ武家の女とすれ違う。清左衛門は顔を見なかったが不意に見覚えがあった気がした。老住職に尋ねてその女性の身元がわかる。それが清左衛門の若き日に、波津というひとと、はからずもひとつの秘密を分け合うことになった出来事に繋がっていく。
訪れた佐伯の話を聞き、清左衛門は平松与五郎に縁談話を持ちかけることに・・・・。
《梅雨ぐもり》
御蔵方の杉村要助に嫁ぎ3年、子供が1人いる末娘奈津に久しぶりに清左衛門が会う。奈津の窶れようを異常と感じた。惣領の嫁・里江から「近ごろ、杉村さまは外に女子がおられるのだそうです」と告げられる。奈津の推測話ばかりでなく、義理の姉からの注意もあったという。末娘の事を案じる清左衛門は、それとなく事情を調べ始める。
派閥に絡む内密の行動が、あらぬ噂に転化するという錯誤がテーマになっている。
《川の音》
川釣りで、よい釣り場を求めて小樽川の上流へと遡った清左衛門は、帰路、野塩村の近くで、急流の中で助けを求める女おみよと子供を発見する。二人を助けた清左衛門は、近くの橋の上に鳥刺しと思える男が見物していたことを思い出す。その不可解な思いが記憶に残る。残暑が遠のいたある日、深夜に面識のない近習組の黒田欣之助が訪れた。
黒田の警告は、逆に派閥抗争に絡む藩内の闇を清左衛門に気づかせる。
《平八の汗》
江戸詰めの右筆として勤める伜に家督を譲り、隠居して1年ほどになる大塚平八が清左衛門に頼み事に来た。家老のどなたかに紹介状を書いて欲しいという。間島家老を紹介したが、平八は清左衛門にも要件を明かそうとはしなかった。ある日、塾で牧原新之丞から論語を読む会に誘われる。誘いを受けたので一度は出席すると約束した。
その会の性質を清左衛門は見抜く。一方、間島家老から平八の一件を聞くことになる。
《梅咲くころ》
論語の読書会で清左衛門は安西佐大夫と知り合い、彼を気持ちのいい男と感じていた。安西と別れて自宅に戻ると、江戸から戻ってきたという松江が訪ねてきていた。縁談話があり、嫁ぎ先は金丸小路の野田だという。清左衛門は奇妙な不快感を抱いた。佐伯に尋ねたことで不快感の原因がわかった。清左衛門は松江に意見を述べる
清左衛門は命を狙われ安西に助けられる。「佐大夫、嫁をもらわぬか」と告げることに。
《ならず者》
清左衛門は江戸屋敷で近習頭取を勤める相場与七郎と「涌井」で会う。話題は藩内にある派閥対立のことだった。三屋なら派閥にかたよらずに公平に話を聞かせるだろうと言う殿の意向を受けてのことである。さらに、半田守右衛門の収賄事件が持ち出されてきた。事件からおよそ10年が経つ。清右衛門は半田の収賄事件を密かに調べ直し始める。
冤罪とわかる一方で、やるせない状況が明らかになっていく。これも人生。
《草いきれ》
夏風邪をひいた清右衛門は遠藤派の会合には出ていなかった。久々に中根道場に赴き、そこで、会合に朝田派の者と思しき金井祐之進が紛れ込んでいたと平松から聞く。一方、道場では少年2人の殴り合いがあり、清左衛門は少年時代を思い起こすことになった、
過去の回想から現在の隠居の身に戻る。旧友小沼惣兵衛の現在の生き様を見せられる。 人生の回顧と今の対比がテーマであるようだ。「足掻く齢」という語句が印象に残る。
《霧の夜》
清右衛門は佐伯と「涌井」で酒を酌み交わす。話題は藩内の派閥抗争。朝田派で近習組の黒田欣之助と郷方回りの村井寅太が江戸に出た。彼等の帰国が江戸の動きを伝えることに繋がるという。一方で、佐伯は成瀬喜兵衛の奇異な行動を話題にし、ボケたという。
だが、清右衛門は、無外流道場主中根弥三郎を介して、伝言を伝えられる。何とか成瀬喜兵衛に面談した清右衛門は派閥抗争に絡む意外な事実を知ることになる。
《夢》
清右衛門が若い頃の同僚小木慶三郎に自分が何かを弁疏している夢を幾度も見る。その夢の原因が何かを回顧していく。そして、今までに小木慶三郎が左遷された原因を一度もつきとめようとしていなかったことに気づく。佐伯と話をし、当時の上司金橋の話を聞いた後、清右衛門は小木慶三郎の屋敷を訪ねる行動をとる。小木の回顧談を聞く。
金橋の当時の覚書から清右衛門は左遷の理由を知る。「涌井」での挿話が興味深い。
《立会い人》
道場主の中根弥三郎が、清右衛門の隠居部屋を訪れ、立会い人を依頼する。30年前の試合にこだわった納谷甚之丞が飛脚の手紙で立会いを申し込んで来たという。30年前の試合は今の中根の女房を争う試合でもあったという。中根は甚之丞との試合で思わぬ技を使うことになるかもしれない。是非清右衛門に立会い人を頼みたいという。
試合の当日、清右衛門は中根の予想どおりの立会い人になってしまった。
《闇の談合》
急な風雨の中を、新藩主の用人船越喜四郎が清右衛門を訪ねてきた。石見守病死の件に絡んでいた。実は国者による毒殺だという。清右衛門はその経緯を聞くことになる。話は数年前まで溯り、そこには世嗣の問題が絡んでいた。船越は明晩朝田家老に面談するに際し、清右衛門に同道を依頼にきたのだった。それは新藩主の意向でもあった。
船越と清右衛門は、朝田家老と談合し、処分についても新藩主の意向を伝えることに。
《早春の光》
派閥抗争が終焉した後の移行期が語られる。藩の執政府が音もなく交替し、藩の役職が交替していく。今のところは交替が静謐に進んでいる。朝田家老への処分の言い渡しがどのような波紋を引き起こすかに注目が集まっていた。いくつかの事件が点描されていく。清右衛門の周囲にもいくつかの変化が現れる。「涌井」のみさが店をおなみに譲り故郷に替える決心をした。
清右衛門の目を通して、それらの状況が冷静に眺められていく。
「平八が、やっと歩く習練をはじめたぞ」と清右衛門が惣領の嫁に語ることでこのストーリーは終わる。中風で倒れた平八が行動を起こした。清右衛門にも大きな刺激を与える。清右衛門が己の決意をこの平八の行動に仮託したのだろう。清右衛門らしいエンディングといえる。
ご一読ありがとうございます。
こちらもお読みいただけるとうれしいです。
『蝉しぐれ』 文春文庫
『決闘の辻 藤沢周平新剣客伝』 講談社文庫
『隠し剣孤影抄』 文春文庫
『隠し剣秋風抄』 文春文庫
『人間の檻 獄医立花登手控え4』 講談社文庫
『愛憎の檻 獄医立花登手控え3』 講談社文庫
『風雪の檻 獄医立花登手控え2』 講談社文庫
『春秋の檻 獄医立花登手控え1』 講談社文庫
江戸屋敷詰めの用人の職まで勤め、新藩主が家督を継承する時点で、三屋清右衛門は家督を惣領又四郎に相続させ、隠居となった。清右衛門は国元に戻り、新藩主から隠居部屋を普請してもらうという厚遇を受けた。このストーリーは、隠居した清右衛門が、様々な人から依頼され、様々な課題・案件に取り組んで行くプロセスを描き出していく。
清右衛門は隠居して、日記をつけ始めた。日記の題が「残日録」である。清右衛門はその題について、惣領又四郎の嫁里江に、「日残リテ昏ルルニ未ダ遠シの意味でな。残る日を数えようというわけではない」(p16)と説明している。本書のタイトルはここに由来する。
このストーリーは、日記に記された内容がショート・ストーリーに変換されて続いていくというスタイルと私は受けとめた。短編連作集と言えよう。一つ一つの内容が一応完結していく。
一方で、日記としての時間軸で経緯が綴られていく。そこには、新藩主の次の継承者(世嗣)に絡んで、静かに蠢いている派閥抗争の事情が日記の根底に継続して綴られていくという側面を含んでいる。このストーリー全体を眺めると、派閥抗争の進展状況ををとらえていると言える。時にはその派閥抗争がショート・ストーリーの表に出てくることがある。藩の執政府が紛糾の渦中にあるという側面に着目すると、長編小説とも言える。
以下、小見出し単位に大凡の筋と印象をご紹介したい。
《醜女》
10年前、城の奥御殿に奉公中の菓子屋鳴戸の娘おうめは在国中の先代藩主の気紛れから一夜の伽をさせられた。その後おうめは暇を出され実家に戻る。おうめが最近身籠もった。おうめをひそかに処分せよという強硬な意見の噂が流れる。町奉行の佐伯から相談を受けた清左衛門が動き出す。清左衛門は藩の手続き面での過誤に気づくことに・・・・。
一人の女のひとなみのしあわせがかかった状況にどう対処するかがテーマである。
《高札場》
大手前の高札場で安冨源太夫が七ツ(午後4時)すぎに腹を切った。死にきれずに苦しんでいるところを家の者に引き取られて後に死んだ。殿に対する怨みという類いのものではなく、女の名前をわめいていたという。源太夫と道場での同門、釣り仲間とみられている清左衛門は佐伯からその女について内密に事情をさぐることを頼まれる。
人それぞれの思い込みが真実を歪める。清左衛門も己の思い込みに気づくはめに。
《零落》
保科笙一郎の塾からの帰路、にわか雨を避け小禄の武家屋敷の笠門で雨宿りをする。それが30年ほど交際の途絶えていた金井奥之助との再会となる。若き頃の派閥の選択が人生の岐路になっていた。その経緯を回想することになる。それを契機に零落した金井は清左衛門の屋敷を訪れはじめる。二人で磯釣りに行くことが一波乱をよぶ。
落ちぶれたまま隠居した男の悲哀と憎しみが噴出する。その機微がテーマと言える。
《白い顔》
菩提寺で百年忌の法事を終えた御礼に清左衛門が寿岳寺を訪れたとき、頭巾で顔を包んだ武家の女とすれ違う。清左衛門は顔を見なかったが不意に見覚えがあった気がした。老住職に尋ねてその女性の身元がわかる。それが清左衛門の若き日に、波津というひとと、はからずもひとつの秘密を分け合うことになった出来事に繋がっていく。
訪れた佐伯の話を聞き、清左衛門は平松与五郎に縁談話を持ちかけることに・・・・。
《梅雨ぐもり》
御蔵方の杉村要助に嫁ぎ3年、子供が1人いる末娘奈津に久しぶりに清左衛門が会う。奈津の窶れようを異常と感じた。惣領の嫁・里江から「近ごろ、杉村さまは外に女子がおられるのだそうです」と告げられる。奈津の推測話ばかりでなく、義理の姉からの注意もあったという。末娘の事を案じる清左衛門は、それとなく事情を調べ始める。
派閥に絡む内密の行動が、あらぬ噂に転化するという錯誤がテーマになっている。
《川の音》
川釣りで、よい釣り場を求めて小樽川の上流へと遡った清左衛門は、帰路、野塩村の近くで、急流の中で助けを求める女おみよと子供を発見する。二人を助けた清左衛門は、近くの橋の上に鳥刺しと思える男が見物していたことを思い出す。その不可解な思いが記憶に残る。残暑が遠のいたある日、深夜に面識のない近習組の黒田欣之助が訪れた。
黒田の警告は、逆に派閥抗争に絡む藩内の闇を清左衛門に気づかせる。
《平八の汗》
江戸詰めの右筆として勤める伜に家督を譲り、隠居して1年ほどになる大塚平八が清左衛門に頼み事に来た。家老のどなたかに紹介状を書いて欲しいという。間島家老を紹介したが、平八は清左衛門にも要件を明かそうとはしなかった。ある日、塾で牧原新之丞から論語を読む会に誘われる。誘いを受けたので一度は出席すると約束した。
その会の性質を清左衛門は見抜く。一方、間島家老から平八の一件を聞くことになる。
《梅咲くころ》
論語の読書会で清左衛門は安西佐大夫と知り合い、彼を気持ちのいい男と感じていた。安西と別れて自宅に戻ると、江戸から戻ってきたという松江が訪ねてきていた。縁談話があり、嫁ぎ先は金丸小路の野田だという。清左衛門は奇妙な不快感を抱いた。佐伯に尋ねたことで不快感の原因がわかった。清左衛門は松江に意見を述べる
清左衛門は命を狙われ安西に助けられる。「佐大夫、嫁をもらわぬか」と告げることに。
《ならず者》
清左衛門は江戸屋敷で近習頭取を勤める相場与七郎と「涌井」で会う。話題は藩内にある派閥対立のことだった。三屋なら派閥にかたよらずに公平に話を聞かせるだろうと言う殿の意向を受けてのことである。さらに、半田守右衛門の収賄事件が持ち出されてきた。事件からおよそ10年が経つ。清右衛門は半田の収賄事件を密かに調べ直し始める。
冤罪とわかる一方で、やるせない状況が明らかになっていく。これも人生。
《草いきれ》
夏風邪をひいた清右衛門は遠藤派の会合には出ていなかった。久々に中根道場に赴き、そこで、会合に朝田派の者と思しき金井祐之進が紛れ込んでいたと平松から聞く。一方、道場では少年2人の殴り合いがあり、清左衛門は少年時代を思い起こすことになった、
過去の回想から現在の隠居の身に戻る。旧友小沼惣兵衛の現在の生き様を見せられる。 人生の回顧と今の対比がテーマであるようだ。「足掻く齢」という語句が印象に残る。
《霧の夜》
清右衛門は佐伯と「涌井」で酒を酌み交わす。話題は藩内の派閥抗争。朝田派で近習組の黒田欣之助と郷方回りの村井寅太が江戸に出た。彼等の帰国が江戸の動きを伝えることに繋がるという。一方で、佐伯は成瀬喜兵衛の奇異な行動を話題にし、ボケたという。
だが、清右衛門は、無外流道場主中根弥三郎を介して、伝言を伝えられる。何とか成瀬喜兵衛に面談した清右衛門は派閥抗争に絡む意外な事実を知ることになる。
《夢》
清右衛門が若い頃の同僚小木慶三郎に自分が何かを弁疏している夢を幾度も見る。その夢の原因が何かを回顧していく。そして、今までに小木慶三郎が左遷された原因を一度もつきとめようとしていなかったことに気づく。佐伯と話をし、当時の上司金橋の話を聞いた後、清右衛門は小木慶三郎の屋敷を訪ねる行動をとる。小木の回顧談を聞く。
金橋の当時の覚書から清右衛門は左遷の理由を知る。「涌井」での挿話が興味深い。
《立会い人》
道場主の中根弥三郎が、清右衛門の隠居部屋を訪れ、立会い人を依頼する。30年前の試合にこだわった納谷甚之丞が飛脚の手紙で立会いを申し込んで来たという。30年前の試合は今の中根の女房を争う試合でもあったという。中根は甚之丞との試合で思わぬ技を使うことになるかもしれない。是非清右衛門に立会い人を頼みたいという。
試合の当日、清右衛門は中根の予想どおりの立会い人になってしまった。
《闇の談合》
急な風雨の中を、新藩主の用人船越喜四郎が清右衛門を訪ねてきた。石見守病死の件に絡んでいた。実は国者による毒殺だという。清右衛門はその経緯を聞くことになる。話は数年前まで溯り、そこには世嗣の問題が絡んでいた。船越は明晩朝田家老に面談するに際し、清右衛門に同道を依頼にきたのだった。それは新藩主の意向でもあった。
船越と清右衛門は、朝田家老と談合し、処分についても新藩主の意向を伝えることに。
《早春の光》
派閥抗争が終焉した後の移行期が語られる。藩の執政府が音もなく交替し、藩の役職が交替していく。今のところは交替が静謐に進んでいる。朝田家老への処分の言い渡しがどのような波紋を引き起こすかに注目が集まっていた。いくつかの事件が点描されていく。清右衛門の周囲にもいくつかの変化が現れる。「涌井」のみさが店をおなみに譲り故郷に替える決心をした。
清右衛門の目を通して、それらの状況が冷静に眺められていく。
「平八が、やっと歩く習練をはじめたぞ」と清右衛門が惣領の嫁に語ることでこのストーリーは終わる。中風で倒れた平八が行動を起こした。清右衛門にも大きな刺激を与える。清右衛門が己の決意をこの平八の行動に仮託したのだろう。清右衛門らしいエンディングといえる。
ご一読ありがとうございます。
こちらもお読みいただけるとうれしいです。
『蝉しぐれ』 文春文庫
『決闘の辻 藤沢周平新剣客伝』 講談社文庫
『隠し剣孤影抄』 文春文庫
『隠し剣秋風抄』 文春文庫
『人間の檻 獄医立花登手控え4』 講談社文庫
『愛憎の檻 獄医立花登手控え3』 講談社文庫
『風雪の檻 獄医立花登手控え2』 講談社文庫
『春秋の檻 獄医立花登手控え1』 講談社文庫
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