百田尚樹って30年ぐらい前、朝日放送「ラブアタック!」の「みじめアタッカー」だった同志社の百田くんか?
そう思って検索してみました。
2009年度本屋大賞第5位です。百田尚樹著「ボックス!」。
やっぱりそうだった。
あの「同志社の百田くん」でした。
「探偵!ナイトスクープ」のエンドロールに制作者として名前が出てるのを見たときもびっくりしましたが
たくさん小説も書かれていて、2度びっくりです(文学に疎くてすみません)。
「ボックス!」は、高校ボクシング部を舞台にした青春小説です。
私の息子も高校でボクシング部に所属しており
アマゾンなどの読者評も非常に高いので
いっちょ読んでみようかと思い立ちました。
小説をまともに読むのはもう何十年ぶりでしょう、というほど
文学から遠ざかっていたので
完読できるか不安でしたが
いやあ
一気に読めてしまいましたよ。
おもしろい。
登場人物は
中学からジムに通っていて、天才的な才能を発揮するボクシング部員(でもかなり天然)の「カブ」。
カブの幼なじみで、授業料免除の超秀才だが運動が苦手な「優紀」。
ボクシングにまったく興味がないのに顧問になってしまった教師「耀子」。
この3人を中心に
ボクシング部の監督で、かつて鬼ファイターとして名を馳せた「沢木先生」。
大阪の強豪高校の部員で全国から注目されている無敵のボクサー「稲村」。
部員たちを和ませたマネージャー「丸野」。
中学生だったカブの才能を見抜いて鍛え上げたジムのトレーナー「曽我部」。
などが脇を固めます。
カブという少年を
優紀と耀子の二人の視点から描く形になっています。
あ、「優紀」ってユニセックスな名前ですが「男」ですよ。
幼少の頃、カブと隣同士に住んでいた幼なじみという設定です。
耀子はまったくボクシングの知識がないので
わからないことを監督や部員に質問して教えてもらいます。
その描写で、ボクシングを知らない読者も説明を受けることができます。
つまり作者は、耀子を介してアマチュアボクシングの説明をしてるんですね。
破天荒な天才・カブに憧れて
「強くなりたい」と入部した優紀。
最初は監督が「なんじゃこりゃ」とあきれるほど運動能力のなかった彼が
愚直なまでに監督のアドバイス通りにひたすら努力して
別人のように成長していく様は痛快でもあります。
クライマックスである
カブと稲村の試合のシーンは
どうなるんだろう、とドキドキしながら読むことになります。
天才が故に、努力せずに勝利を収め続け、そして挫折を経験したカブ。
ボクサーの息子で、廃人となった父親を見てボクシングの恐ろしさを知りつつ
無敗を誇る超人高校生・稲村。
どうよ!どっちが勝つの!ひょっとしてどっちかが再起不能になるのか?
…まあ、結末は言えないですね。読んでみてください。
私も息子がボクシング部だと先に書きましたが
耀子同様、知識はありません。
だからこの本を読んで初めて知ることがたくさんありました。
まず、試合開始のレフェリーのかけ声が
「ボックス!」
だということ。
英語の「BOX」は、「ボクシングする」という動詞でもあるんです。
だから「ボックス!」は「ボクシングしろ!」と言う意味になるんですね。
そして試合中
選手が全然攻撃をしていかなかったりすると
レフェリーに注意されるんです。
「へえ、攻撃せんとあかんのやね」と言うと、息子が
「当たり前やん。レフェリーが『ボックス!(ボクシングしろ!)』って言ってるのに、攻撃せんかったら、試合にならへん」
と答えました。
そうか。そらそうやね。
この話には、悪者が出てきません。
せいぜい、中学時代に優紀をいじめた不良がちょこっと出てくるぐらい。
それもカブにボコボコにされて退場するし(笑)。
まあ、それも青春小説の醍醐味かもしれませんね。
ところで冒頭に書いた
作者の百田尚樹氏についてですが
やっぱ「同志社の百田くん」って呼ぶほうがしっくりくるわ~。
百田くんが同志社大生だったころに出演していた
「ラブアタック!」をご存じの方は
40代から50代でしょうね。
途中から全国放送になりましたが
最初は関西ローカルでした。
素人の大学生が出演する番組で
ひとりの美人女子大生を「かぐや姫」と名付けて
5人の男子学生がそのかぐや姫をめぐって
様々なゲームに挑戦するという
バカバカしくも面白い番組でした。
番組は2部構成になっていて
1部は水の中に長く顔をつけている競争とか
一流ホテルのフルコースディナー早食い競争とかやってました。
この「フルコースディナー早食い競争」が、なんとももったいなく感じられ
(手づかみで料理を無茶苦茶に口に押し込むんです。吐いてる人もいました)
今だったら絶対放送できないだろうなと思います。
2部ではかぐや姫も挑戦者も1部とは違う人たちになり
4人の男子学生が、かぐや姫に自己アピールをして選んでもらう形式でした。
こういう番組でして
始まった当初の関西ローカル時代に
百田くんが登場したのです。
確か2部のほうだったと思います。
とにかく百田くんは目立ってました。
30年たった今でも私の記憶に残っているぐらいですから。
なんというか、黒いマントを羽織って
無表情で芝居がかったしゃべり方をされてました。
もちろんかぐや姫に選ばれることはなかったのですが
この番組では、選ばれなかった挑戦者は
「みじめアタッカー」として
「みじめアタッカー大会」という企画に出演できたりしました。
百田くんもみじめアタッカーとして出演してましたが
彼のように面白いキャラクターの人は
1部と2部の間に挟まれる「つなぎ」の時間に出てきて
しゃべったりもできたんです。
私が覚えてるのは
かぐや姫として出演したことのある女子大生が
何かをレポートして読み上げていたところ
途中で百田くんが「何を言ってるんだぁ~!」と怒鳴ったことです。
もちろん本気で怒ったのではなく、盛り上げる演出でした。
怒鳴られた女子大生も笑ってましたから。
当時私は高校生で
友人のお姉さんが京都の大学に通っていたのですが
そのお姉さんが「百田くんって、テレビに出てるあのまんまのカッコで同志社におったよ!」
と言うのを聞き
「あのマントで大学に行ってるのかぁ…。大学生って、なんかスゲェ」
と思ったものです。
「ラブアタック!」は芸人ばりの面白い学生がたくさん出てきました。
いまだに私が覚えてるのは
「同志社の百田くん」と
「関大の悪魔」ですね。
「関大の悪魔」は
当時公開されていた角川映画「悪魔が来たりて笛を吹く」の
悪魔のコスプレをしてきた関大の落語研究会の学生です。
眉毛を剃って、耳のてっぺんを尖らせて
「そうです、私は悪魔なのです」と言いながら
ゲンコツを口の中に入れるというパフォーマンスをやってました。
みじめアタッカーとなるために出演したようなのですが
なんとかぐや姫に選ばれてしまい
祝福のファンファーレと紙吹雪が舞う中
なんで?なんで?やべえ、予想外…というリアクションをしてたのが忘れられません。
この悪魔、その後は桂三枝に弟子入りし、桂三歩というプロの落語家になられています。
本の紹介のつもりだったのに
百田くんの思い出話になってしまいました。
「ボックス!」映画化されるかもしれませんね。
物語の中で、耀子の見合いの相手がボクシングをバカにするシーンがあります。
野蛮・前時代的・頭が空っぽ、など
それが多くの人たちのボクシングに対するイメージなんでしょうね。
何の役にもたたないことに一所懸命な部員たちを、バカにされたと思った耀子が言い返します。
「10代に何の打算もなく一所懸命にスポーツに打ち込むって無駄ですか」
「不良なんかが続けられる甘いスポーツじゃないんです」
本を読んだ人が
アマチュアボクシングのことを少しでも理解していただけたらいいなと思います。