偵察用気球騒動で、米中関係修復の気運しぼむ。
米中「気球」騒動、両国の関係修復の機運しぼむ
2023年2月6日【解説】
スティーヴン・マクドネル中国特派員
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-64533687
動画:中国の気球が撃墜される様子
中国からアメリカ上空に飛来していた気球が撃墜され、海中へと落下した。同時に、両国の関係修復の試みも墜落した。
米国防総省は、空高く飛行し、ついには撃墜された機器の軌跡を追跡していた。それと同じように、気球に関して中国が示した次のような反応の軌跡を、誰もがたどることができる。
現在調査中だ
→私たちの気象観測気球がコース外に吹き飛ばされたのは遺憾だ
→アメリカの政治家とメディアは誇張している→みんな冷静に
→アメリカがこの飛行物体を攻撃したのは国際慣例の深刻な違反だ――
。 米外交トップのアントニー・ブリンケン国務長官は今週、中国を訪問予定だった。そのため中国は当初、今回の件はすべて事故だとして、米政府を安心させようとした。
しかし、ブリンケン氏が訪中を取りやめ、気球が戻ってこないことが明らかになると、中国は対決姿勢を明確にした。
そして現状は、中国政府が望んでいたものとはだいぶ違っている。
ブリンケン氏は今ごろ、米中の友好関係を築くか、最低でもこれ以上の関係悪化を食い止めようとしているはずだったのだ。
誤解のないように。中国の習近平国家主席は、ブリンケン氏の訪中に大きな期待を寄せていた。自ら同氏に会う予定だったとも言われている。
では、このプロセスを台無しにしてもおつりがくるような、どれほど有用な情報を、気球は集めたのか。
簡単な答えは「何も」だ。だからこそ、中国が今回、気球をこのような方法でこの時期に飛ばしたのは中国側のミスだったはずだと、多くのアナリストは考えている。それがたとえ、ある程度はスパイ行為に相当したとしてもだ。
もしその考えが正しいなら、今ごろ誰かがこの件で厳しく叱責されているはずだ。今や2つの高行動気球が問題になっており、もう1つは中南米の上空に浮いているだけに。そうした状況では、非難はなおさら強くなる。2つ目の気球については、同様に「限定的な自己操縦能力」によってコースを大きく外れたのか、まだ何の説明もなされていない。
国際的には、中国共産党は全知全能の権力機関で、習主席が操作する巨大で効率的なスーパーコンピューターのようなものだと、世界の大勢が想像しているようだ。
同党が巨大な、多岐にわたる組織なのは間違いない。しかし、その一方で、党内の各部門や各勢力が影響力を競い合っている。ライバルが有利にならないよう情報を隠し、意図的に行動を予見させないこともある。
機器を積んだ気球がアメリカの核ミサイル格納庫の近くを漂っているのが明らかになった時、目的はスパイ行為だけでなく、バイデン米政権へのメッセージでもあるはずだと、一部では憶測が飛んだ。
ブリンケン米国務長官は今月5〜6日に訪中の予定だった
しかし、中国政府の最高幹部に至るまで望んでいた米閣僚の訪中を頓挫させたというダメージの大きさを考えると、その説明は納得しにくい。
ブリンケン氏の訪中は、中国にとって重要だった。そのことは、中国政府がかなり融和的な言葉遣いで、訪中の可能性を残そうとしていたことから分かる。
中国外務省の報道官は、「不可抗力により飛行物体が意図せず米領空に入ったことを、中国側は遺憾に思う」と述べたとされる。
気球がどれだけ気象調査を目的とし、どれだけスパイ活動目的だったのかは、米中の緊張緩和を探っていた両国の関係者らにとって、あまり重要ではない。今回の出来事は、壊滅的なものだったからだ。
ブリンケン氏の訪中について、大きな進展をもたらすことが期待されていたわけではない。双方が会談すること自体が、大進展となるはずだった。
両国は、武力衝突へと進んでしまうのを防ぐため、さまざまな「ガードレール」や、コミュニケーションの取り方、越えてはならない一線について、話し合うはずだった。
習主席もこの会談を望んでいた。中国のかじ取りを未来に向けて戦略的に進めていると、国内向けにアピールする機会を求めていたからだ。
気球の概要
中国が「ゼロコロナ」政策について突然、決まりの悪い方針転換をしたのは、習主席が同政策は揺るがないと党大会で宣言したわずか数カ月後のことだった。
あまりに急なことだったため、救急病棟は患者であふれ、薬が不足。新型コロナウイルスによる死者数は把握不能となった。
中国政府は現在、こうした事態を乗り越えるとともに、経済的に好転して再び国境を開く中国の姿を印象づける必要がある。
その目的には、米閣僚の訪中はかなり役立ったはずだ。
主要超大国の米中双方がここまでどんな抗議をしてきたのか、分析してみよう。
アメリカは、「米主権に対する明確な侵害」だと主張している。ただ、アメリカが中国監視のための非常に高度な手段を多数保有しているのは、周知の事実だ。
一方の中国は、アメリカによる「民間の無人飛行物体への攻撃」を非難した。しかし、もしアメリカの偵察気球が中国領空に飛来したら、人民解放軍がすぐさま撃ち落としたはずだ。それも、誰もが知っている。
つまりある意味、双方の憤慨は、かなり芝居がかっているものなのだ。
しかし幸いにして、気球がなくなったことで、両国は先へ進める。そして、人々が「あの気球の件、覚えてる?」と聞き合うようなころに、ブリンケン氏の訪中日程を再調整するのだろう。
(英語記事 Balloon saga deflates efforts to mend US-China relations)
日本にも中国の「偵察気球」か 松野官房長官「去年1月 九州西方で所属不明の気球」 TBSテレビ 2023年2月9日(木) 14:06
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/319929?display=1
波紋を広げる気球について松野官房長官は、日本でも去年1月に、九州の西の上空で同じような気球が確認されていたと明らかにしました。
松野博一 官房長官
「所属不明の類似の気球を確認した事例があり、例えば令和4年1月、九州西方の公海の上空で確認しました」
松野官房長官はきょう午前の会見で、九州の西の上空で去年1月、今回アメリカで発見され、撃墜されたものと同じような所属のわからない気球が確認されていたと明らかにしました。
この時の気球がどういうものだったのかや、どう処理したのかなど詳細の説明は避けましたが、今後もアメリカなど同盟国とも連携し、情報収集と分析に全力をあげると述べました。
中国偵察気球に信号傍受の諜報機能 40カ国超の上空飛行 米、調査結果発表 2023/2/10 08:41 渡辺 浩生
https://www.sankei.com/article/20230210-YKFS4ALZSRKVZOASJMSGBQMXDI/
画像:7日、上下両院合同会議で一般教書演説を行うバイデン米大統領 (AP)
【ワシントン=渡辺浩生】バイデン米政権は9日、先月末から今月4日に米軍機に撃墜されるまで米本土上空を飛行した中国の偵察気球について、電波信号の傍受による諜報活動を行う機能を搭載していたとする調査結果を明らかにした。気球は人民解放軍が指揮する「中国気球船団」の一部で5大陸の40カ国超の上空を飛行、中国軍と関係のある企業が製造し軍に納入したとしている。
米政府は、一連の気球飛行について中国の世界規模の偵察計画の一環で「米国の安全保障と同盟友邦諸国に脅威を突きつけた」(高官)と指摘。対象となった国々と情報共有を進める一方、米領空の偵察に関与した中国の団体に対する制裁措置を検討する方針だ。
国務省高官の説明によると、米軍偵察機U2が飛行中の気球を撮影した高解像度画像を分析した結果、気球は地表の交信を傍受するアンテナを備え、「電波信号の傍受による情報収集を行う機能」を搭載。搭載装置は「明らかに諜報活動を目的としたもの」で「気象研究用」とする中国側の主張と矛盾するとしている。
高官はまた、気球は太陽光パネルによる電力で稼働していたと指摘。人民解放軍と関係を持つ企業が気球を製造していたほか、その企業は自社サイトで気球を宣伝し、米国の領空など過去に飛行した際の映像も流していたと明らかにした。
米本土上空を約1週間飛行した中国の気球は、米軍の大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射施設など複数の戦略施設の偵察を行っていたとみられている。
高官は「大規模な偵察活動を暴露し対処する取り組みを検討する」と強調。米政府は残骸の回収や分析などを続行し、中国政府に説明責任を求める方針だ。
一方、国務省は9日、議会上下両院に調査結果を説明。シャーマン国務副長官は同日、上院外交委員会で「この無責任な行動は、中国が海外で一段と攻撃的になっていることを存分に明示している」と非難した。
軍と関係のある企業が気球を製造していたことで、米政府は、中国軍が企業の先端技術を取り込み軍事力を増強する「軍民融合」の最新例として警戒を強めており、中国への技術移転の規制や監視の強化を求める声が議会で一段と高まるとみられる。
スティーヴン・マクドネル中国特派員
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-64533687
動画:中国の気球が撃墜される様子
中国からアメリカ上空に飛来していた気球が撃墜され、海中へと落下した。同時に、両国の関係修復の試みも墜落した。
米国防総省は、空高く飛行し、ついには撃墜された機器の軌跡を追跡していた。それと同じように、気球に関して中国が示した次のような反応の軌跡を、誰もがたどることができる。
現在調査中だ
→私たちの気象観測気球がコース外に吹き飛ばされたのは遺憾だ
→アメリカの政治家とメディアは誇張している→みんな冷静に
→アメリカがこの飛行物体を攻撃したのは国際慣例の深刻な違反だ――
。 米外交トップのアントニー・ブリンケン国務長官は今週、中国を訪問予定だった。そのため中国は当初、今回の件はすべて事故だとして、米政府を安心させようとした。
しかし、ブリンケン氏が訪中を取りやめ、気球が戻ってこないことが明らかになると、中国は対決姿勢を明確にした。
そして現状は、中国政府が望んでいたものとはだいぶ違っている。
ブリンケン氏は今ごろ、米中の友好関係を築くか、最低でもこれ以上の関係悪化を食い止めようとしているはずだったのだ。
誤解のないように。中国の習近平国家主席は、ブリンケン氏の訪中に大きな期待を寄せていた。自ら同氏に会う予定だったとも言われている。
では、このプロセスを台無しにしてもおつりがくるような、どれほど有用な情報を、気球は集めたのか。
簡単な答えは「何も」だ。だからこそ、中国が今回、気球をこのような方法でこの時期に飛ばしたのは中国側のミスだったはずだと、多くのアナリストは考えている。それがたとえ、ある程度はスパイ行為に相当したとしてもだ。
もしその考えが正しいなら、今ごろ誰かがこの件で厳しく叱責されているはずだ。今や2つの高行動気球が問題になっており、もう1つは中南米の上空に浮いているだけに。そうした状況では、非難はなおさら強くなる。2つ目の気球については、同様に「限定的な自己操縦能力」によってコースを大きく外れたのか、まだ何の説明もなされていない。
国際的には、中国共産党は全知全能の権力機関で、習主席が操作する巨大で効率的なスーパーコンピューターのようなものだと、世界の大勢が想像しているようだ。
同党が巨大な、多岐にわたる組織なのは間違いない。しかし、その一方で、党内の各部門や各勢力が影響力を競い合っている。ライバルが有利にならないよう情報を隠し、意図的に行動を予見させないこともある。
機器を積んだ気球がアメリカの核ミサイル格納庫の近くを漂っているのが明らかになった時、目的はスパイ行為だけでなく、バイデン米政権へのメッセージでもあるはずだと、一部では憶測が飛んだ。
ブリンケン米国務長官は今月5〜6日に訪中の予定だった
しかし、中国政府の最高幹部に至るまで望んでいた米閣僚の訪中を頓挫させたというダメージの大きさを考えると、その説明は納得しにくい。
ブリンケン氏の訪中は、中国にとって重要だった。そのことは、中国政府がかなり融和的な言葉遣いで、訪中の可能性を残そうとしていたことから分かる。
中国外務省の報道官は、「不可抗力により飛行物体が意図せず米領空に入ったことを、中国側は遺憾に思う」と述べたとされる。
気球がどれだけ気象調査を目的とし、どれだけスパイ活動目的だったのかは、米中の緊張緩和を探っていた両国の関係者らにとって、あまり重要ではない。今回の出来事は、壊滅的なものだったからだ。
ブリンケン氏の訪中について、大きな進展をもたらすことが期待されていたわけではない。双方が会談すること自体が、大進展となるはずだった。
両国は、武力衝突へと進んでしまうのを防ぐため、さまざまな「ガードレール」や、コミュニケーションの取り方、越えてはならない一線について、話し合うはずだった。
習主席もこの会談を望んでいた。中国のかじ取りを未来に向けて戦略的に進めていると、国内向けにアピールする機会を求めていたからだ。
気球の概要
中国が「ゼロコロナ」政策について突然、決まりの悪い方針転換をしたのは、習主席が同政策は揺るがないと党大会で宣言したわずか数カ月後のことだった。
あまりに急なことだったため、救急病棟は患者であふれ、薬が不足。新型コロナウイルスによる死者数は把握不能となった。
中国政府は現在、こうした事態を乗り越えるとともに、経済的に好転して再び国境を開く中国の姿を印象づける必要がある。
その目的には、米閣僚の訪中はかなり役立ったはずだ。
主要超大国の米中双方がここまでどんな抗議をしてきたのか、分析してみよう。
アメリカは、「米主権に対する明確な侵害」だと主張している。ただ、アメリカが中国監視のための非常に高度な手段を多数保有しているのは、周知の事実だ。
一方の中国は、アメリカによる「民間の無人飛行物体への攻撃」を非難した。しかし、もしアメリカの偵察気球が中国領空に飛来したら、人民解放軍がすぐさま撃ち落としたはずだ。それも、誰もが知っている。
つまりある意味、双方の憤慨は、かなり芝居がかっているものなのだ。
しかし幸いにして、気球がなくなったことで、両国は先へ進める。そして、人々が「あの気球の件、覚えてる?」と聞き合うようなころに、ブリンケン氏の訪中日程を再調整するのだろう。
(英語記事 Balloon saga deflates efforts to mend US-China relations)
日本にも中国の「偵察気球」か 松野官房長官「去年1月 九州西方で所属不明の気球」 TBSテレビ 2023年2月9日(木) 14:06
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/319929?display=1
波紋を広げる気球について松野官房長官は、日本でも去年1月に、九州の西の上空で同じような気球が確認されていたと明らかにしました。
松野博一 官房長官
「所属不明の類似の気球を確認した事例があり、例えば令和4年1月、九州西方の公海の上空で確認しました」
松野官房長官はきょう午前の会見で、九州の西の上空で去年1月、今回アメリカで発見され、撃墜されたものと同じような所属のわからない気球が確認されていたと明らかにしました。
この時の気球がどういうものだったのかや、どう処理したのかなど詳細の説明は避けましたが、今後もアメリカなど同盟国とも連携し、情報収集と分析に全力をあげると述べました。
中国偵察気球に信号傍受の諜報機能 40カ国超の上空飛行 米、調査結果発表 2023/2/10 08:41 渡辺 浩生
https://www.sankei.com/article/20230210-YKFS4ALZSRKVZOASJMSGBQMXDI/
画像:7日、上下両院合同会議で一般教書演説を行うバイデン米大統領 (AP)
【ワシントン=渡辺浩生】バイデン米政権は9日、先月末から今月4日に米軍機に撃墜されるまで米本土上空を飛行した中国の偵察気球について、電波信号の傍受による諜報活動を行う機能を搭載していたとする調査結果を明らかにした。気球は人民解放軍が指揮する「中国気球船団」の一部で5大陸の40カ国超の上空を飛行、中国軍と関係のある企業が製造し軍に納入したとしている。
米政府は、一連の気球飛行について中国の世界規模の偵察計画の一環で「米国の安全保障と同盟友邦諸国に脅威を突きつけた」(高官)と指摘。対象となった国々と情報共有を進める一方、米領空の偵察に関与した中国の団体に対する制裁措置を検討する方針だ。
国務省高官の説明によると、米軍偵察機U2が飛行中の気球を撮影した高解像度画像を分析した結果、気球は地表の交信を傍受するアンテナを備え、「電波信号の傍受による情報収集を行う機能」を搭載。搭載装置は「明らかに諜報活動を目的としたもの」で「気象研究用」とする中国側の主張と矛盾するとしている。
高官はまた、気球は太陽光パネルによる電力で稼働していたと指摘。人民解放軍と関係を持つ企業が気球を製造していたほか、その企業は自社サイトで気球を宣伝し、米国の領空など過去に飛行した際の映像も流していたと明らかにした。
米本土上空を約1週間飛行した中国の気球は、米軍の大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射施設など複数の戦略施設の偵察を行っていたとみられている。
高官は「大規模な偵察活動を暴露し対処する取り組みを検討する」と強調。米政府は残骸の回収や分析などを続行し、中国政府に説明責任を求める方針だ。
一方、国務省は9日、議会上下両院に調査結果を説明。シャーマン国務副長官は同日、上院外交委員会で「この無責任な行動は、中国が海外で一段と攻撃的になっていることを存分に明示している」と非難した。
軍と関係のある企業が気球を製造していたことで、米政府は、中国軍が企業の先端技術を取り込み軍事力を増強する「軍民融合」の最新例として警戒を強めており、中国への技術移転の規制や監視の強化を求める声が議会で一段と高まるとみられる。
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