外務省が警告を発しているにもかかわらず巻き込まれ殺害されたとみられる二人の行動や動機は、あまり同情できない。周囲の心配をよそに親よりも先に死ぬという親不孝でもある。
TV、新聞による安倍政権に対する「テロ便乗攻撃」には呆れる。
テロ事件の背景はなかなか判りにくい。軍事ジャーナリスト鍛冶俊樹氏の解説。
TV、新聞による安倍政権に対する「テロ便乗攻撃」には呆れる。
テロ事件の背景はなかなか判りにくい。軍事ジャーナリスト鍛冶俊樹氏の解説。
鍛冶俊樹の軍事ジャーナル第174号(2月4日)
http://melma.com/backnumber_190875/
*狙いはヨルダン王室だ。
「安倍総理が後藤氏を殺した」という、テロリストと同様の発言をする人が日本にもいるらしいが、ヨルダン軍パイロットの焼殺映像が公開されて、「これも安倍政権の責任だ」とでも言うのだろうか?
ISIL(イスラム国)は始めからヨルダン王室を標的にしていた。12月に後藤氏の身代金20億円を要求しながら、1月には240億円の身代金を要求している。20億円を支払わない相手が240億円を支払う筈はない事は猫でも分かるのに、である。
つまりISILは日本が身代金を支払わない事を知った上で、敢えて法外な金額を提示して、世界の注目を集めたのだ。「安倍総理がイスラエルの首相と握手している写真がイスラム教徒を刺激した」との指摘もあったが、ビデオ声明ではそれには触れていない。
声明で述べているのは「日本の首相がイスラム国と敵対する国々に2億ドル拠出した」事への不満である。この2億ドルは安倍総理が1月中旬、中東歴訪で表明したもので、その半分の1億ドルはヨルダンに拠出されることも表明されていた。
最初のビデオ声明から4日後、湯川氏が殺害された写真を含む映像が公開され、そこでISILは身代金の要求を取り下げ、代わりに後藤氏とヨルダンに収監されている女死刑囚との交換を提案し、さらに3日後「応じなければ捕虜となっているヨルダン軍パイロットを殺す」と脅迫したのである。
ここで脅迫の対象が日本ではなく、実はヨルダンであることが明らかになる。そしてヨルダン国内で、「女死刑囚を日本人と交換するより、ヨルダン軍パイロットと交換せよ」という声が澎湃として沸き起こり、ヨルダン政府批判から王室打倒のデモにまで発展した。
本誌昨年の7月3日号「イスラエルの戦略」で、筆者は「イスラエルがISILを利用してヨルダンの解体を目論んでいる」可能性を指摘した。ISILは元々、米CIAが反シリア勢力として養成したもので、現在は米国と敵対しているものの、トルコやイスラエルなど、米国と中近東で特別な関係にある国々とは現在でも敵対していない。
国際政治は常に中近東から動き出す。今回の事件も戦後秩序崩壊の過程の一コマなのだろう。
軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)
1957年広島県生まれ、1983年埼玉大学教養学部卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、主に情報通信関係の将校として11年間勤務。1994年文筆活動に転換、翌年、第1回読売論壇新人賞受賞。2011年、メルマ!ガ オブ ザイヤー受賞。2012年、著書「国防の常識」第7章を抜粋した論文「文化防衛と文明の衝突」が第5回「真の近現代史観」懸賞論文に入賞。
鍛冶俊樹の軍事ジャーナル第152号(7月3日)
*イスラエルの戦略
イスラエルの高名な戦略研究家の話を聞く機会があった。話には刺激的な所もあったが、イスラエル政府の顧問の立場にあるようで、全体的には慎重な言い回しで、現在中東で起きている事象のある重要な部分については、質問しても回答を拒否するという場面もあった。
従って以下に記すことは、その人の発言ではなく、その発言を聞いた筆者の印象に基づく分析である。
*
現在、中近東で起きている事象は、国家対国家の戦争と言うより国家崩壊の戦乱である。イスラエルは周辺の国家が崩壊していくことを自国にとって好ましい事象と見ており、陰では推進している。
イラクにおける戦乱については、北部クルド地域、中部スンニ派地域、南部シーア派地域の3分割は不可避であり、イスラエルは既にクルド独立承認の姿勢を見せている。クルド人地域はイラク、トルコ、イランに跨っているからクルディスタン国家が成立すれば、必然的にイラク、トルコ、イランの解体となる。
またイラク中部スンニ派地域が独立すれば、アルカイダが主導権を握ることは確実であるが、アルカイダはサウジ王家を標的にしているから、必然的にサウジアラビア崩壊に直結する。 イスラエルがシリア解体を目論んでいることは既に知られているが、新たにヨルダンの解体を目論んでいる。現在イラクに侵入しているイスラム武装勢力ISILはシリア、イラク、ヨルダンに跨るイスラム国家の樹立を目指しているのである。
ヨルダンが解体されれば、パレスチナ人をヨルダンに強制移住させ、かくてパレスチナ問題は解消する。イスラエルが中近東全面支配を目指しているかの印象を与えるが、そこは巧妙なバランス・オヴ・パワーを考えている。
イラク南部シーア派地域をイランに併合させ、イラン北部クルド地域独立の見返りにし、さらにはイランの核開発を承認し、イスラエルとイランの2大核武装国で中近東を分割する。
*
以上は筆者の類推を交えた分析だが、モサドがこの位の計画をしていると聞いても中近東の専門家なら驚かないだろう。ついでに言えば、中近東に限らず、もはや国際情勢の流動化は誰の目にも明らかであり、こうした大胆な再編計画は東アジアにも必要だろう。
http://melma.com/backnumber_190875/
*狙いはヨルダン王室だ。
「安倍総理が後藤氏を殺した」という、テロリストと同様の発言をする人が日本にもいるらしいが、ヨルダン軍パイロットの焼殺映像が公開されて、「これも安倍政権の責任だ」とでも言うのだろうか?
ISIL(イスラム国)は始めからヨルダン王室を標的にしていた。12月に後藤氏の身代金20億円を要求しながら、1月には240億円の身代金を要求している。20億円を支払わない相手が240億円を支払う筈はない事は猫でも分かるのに、である。
つまりISILは日本が身代金を支払わない事を知った上で、敢えて法外な金額を提示して、世界の注目を集めたのだ。「安倍総理がイスラエルの首相と握手している写真がイスラム教徒を刺激した」との指摘もあったが、ビデオ声明ではそれには触れていない。
声明で述べているのは「日本の首相がイスラム国と敵対する国々に2億ドル拠出した」事への不満である。この2億ドルは安倍総理が1月中旬、中東歴訪で表明したもので、その半分の1億ドルはヨルダンに拠出されることも表明されていた。
最初のビデオ声明から4日後、湯川氏が殺害された写真を含む映像が公開され、そこでISILは身代金の要求を取り下げ、代わりに後藤氏とヨルダンに収監されている女死刑囚との交換を提案し、さらに3日後「応じなければ捕虜となっているヨルダン軍パイロットを殺す」と脅迫したのである。
ここで脅迫の対象が日本ではなく、実はヨルダンであることが明らかになる。そしてヨルダン国内で、「女死刑囚を日本人と交換するより、ヨルダン軍パイロットと交換せよ」という声が澎湃として沸き起こり、ヨルダン政府批判から王室打倒のデモにまで発展した。
本誌昨年の7月3日号「イスラエルの戦略」で、筆者は「イスラエルがISILを利用してヨルダンの解体を目論んでいる」可能性を指摘した。ISILは元々、米CIAが反シリア勢力として養成したもので、現在は米国と敵対しているものの、トルコやイスラエルなど、米国と中近東で特別な関係にある国々とは現在でも敵対していない。
国際政治は常に中近東から動き出す。今回の事件も戦後秩序崩壊の過程の一コマなのだろう。
軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)
1957年広島県生まれ、1983年埼玉大学教養学部卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、主に情報通信関係の将校として11年間勤務。1994年文筆活動に転換、翌年、第1回読売論壇新人賞受賞。2011年、メルマ!ガ オブ ザイヤー受賞。2012年、著書「国防の常識」第7章を抜粋した論文「文化防衛と文明の衝突」が第5回「真の近現代史観」懸賞論文に入賞。
鍛冶俊樹の軍事ジャーナル第152号(7月3日)
*イスラエルの戦略
イスラエルの高名な戦略研究家の話を聞く機会があった。話には刺激的な所もあったが、イスラエル政府の顧問の立場にあるようで、全体的には慎重な言い回しで、現在中東で起きている事象のある重要な部分については、質問しても回答を拒否するという場面もあった。
従って以下に記すことは、その人の発言ではなく、その発言を聞いた筆者の印象に基づく分析である。
*
現在、中近東で起きている事象は、国家対国家の戦争と言うより国家崩壊の戦乱である。イスラエルは周辺の国家が崩壊していくことを自国にとって好ましい事象と見ており、陰では推進している。
イラクにおける戦乱については、北部クルド地域、中部スンニ派地域、南部シーア派地域の3分割は不可避であり、イスラエルは既にクルド独立承認の姿勢を見せている。クルド人地域はイラク、トルコ、イランに跨っているからクルディスタン国家が成立すれば、必然的にイラク、トルコ、イランの解体となる。
またイラク中部スンニ派地域が独立すれば、アルカイダが主導権を握ることは確実であるが、アルカイダはサウジ王家を標的にしているから、必然的にサウジアラビア崩壊に直結する。 イスラエルがシリア解体を目論んでいることは既に知られているが、新たにヨルダンの解体を目論んでいる。現在イラクに侵入しているイスラム武装勢力ISILはシリア、イラク、ヨルダンに跨るイスラム国家の樹立を目指しているのである。
ヨルダンが解体されれば、パレスチナ人をヨルダンに強制移住させ、かくてパレスチナ問題は解消する。イスラエルが中近東全面支配を目指しているかの印象を与えるが、そこは巧妙なバランス・オヴ・パワーを考えている。
イラク南部シーア派地域をイランに併合させ、イラン北部クルド地域独立の見返りにし、さらにはイランの核開発を承認し、イスラエルとイランの2大核武装国で中近東を分割する。
*
以上は筆者の類推を交えた分析だが、モサドがこの位の計画をしていると聞いても中近東の専門家なら驚かないだろう。ついでに言えば、中近東に限らず、もはや国際情勢の流動化は誰の目にも明らかであり、こうした大胆な再編計画は東アジアにも必要だろう。