神なる冬

カミナルフユはマヤの遺跡
コンサドーレサポーターなSFファンのブログ(謎)

「児童ポルノ禁止法」改正法案に反対します

2013-06-02 20:40:52 | Weblog

「児童ポルノ禁止法」改正法案が、性懲りもなく、再提出されたらしい。自民、公明、日本維新の会の三党が共同で提出とのこと。次の参院選でこいつらに入れるということは、表現の自由を捨てるということだ。

これまでにも、数々の問題点が指摘されながら、申し訳程度の補足を追加しただけで、大枠を変えずに提出。結局、彼らは現実に苦しんでいる児童ではなく、彼らが不快感を覚える表現を殺したいだけなのだろう。

18歳以上でも児童に見えたらダメ(いったいそれを判断するのは誰なのだ?)とか、自分の子供のころの写真(もちろん、親が子供の写真なんてもってのほか)でも所持禁止とか、過去に出版されたもの(よく例に出るのは宮沢りえの『サンタフェ』)でも破棄(しかも、ゴミに出すのではなく焼却が必要)しなければならないとか、まったくもって正気の沙汰ではない。これこそ現代の焚書と呼ばずに何と呼ぶ。

有川浩の『図書館戦争』がベストセラーとなり、アニメや実写映画でヒットしたというのに、あの物語で描かれたメディア良化法と、「児童ポルノ禁止法」改正法案の関係性が見えない人が多いのはなぜなのか。

そうは言っても、児童ポルノは厳しく禁止すべきという人も多いだろう。そういう人は、まず改正案の内容を読んで、下記の反対意見書を読んでみて欲しい。そして、ちゃんと自分の頭で考えて欲しい。

とにかく、児童ポルノと判断される範囲が大きすぎる。下記のリンクにも上げてあるのだが、ジャニーズジュニアですら無関係ではないのだ。さらに、その範囲を確定しないがゆえに、恣意的に悪用される可能性がある。

くわえて、誰もが児童ポルノと判断するようなものでも、所持するだけで逮捕とはどういうことか。表現の自由、思想の自由は、少しでも譲った瞬間に歯止めが効かなくなる。

私は児童ポルノはもちろん、ヘイト・スピーチを含むすべての表現に対する法的規制に反対します。それは個別にわいせつ罪、名誉棄損罪で戦えばよい。一律な規制や、主観的な運用の懸念を含む規制は、ディストピアにつながる。そしてこれは、フィクションではない。

 

「児童ポルノ禁止法」改正法案への反対声明
一般社団法人 日本雑誌協会 人権・言論特別委員会
一般社団法人 日本書籍出版協会 出版の自由と責任に関する委員会


児童ポルノ規制法案に向けての意見書
日本漫画家協会


「児童ポルノ禁止法案」に対する意見表明
コミックマーケット準備会


「児童ポルノ禁止法」改定案への反対声明
全国同人誌即売会連絡会


ニーメラーの詩
『彼らが最初共産主義者を攻撃したとき』
ナチ党が共産主義を攻撃したとき、私は自分が多少不安だったが、共産主義者でなかったから何もしなかった。
ついでナチ党は社会主義者を攻撃した。私は前よりも不安だったが、社会主義者ではなかったから何もしなかった。
ついで学校が、新聞が、ユダヤ人等々が攻撃された。私はずっと不安だったが、まだ何もしなかった。
ナチ党はついに教会を攻撃した。私は牧師だったから行動した―しかし、それは遅すぎた。


チョムスキーの表現の自由
もし私たちが、軽蔑する人の表現の自由を信じないなら、
表現の自由を全く信じていないのだ。


【ジャニヲタ向け】児童ポルノ法案がはらむ危険性とは

 

 

 


[SF] 巨獣めざめる

2013-06-02 20:11:50 | SF

『巨獣目覚める(上下)』 ジェイムズ・S・A・コーリイ (ハヤカワSF文庫)

 

地球、火星、小惑星帯を巻き込む惑星間大戦争の危機。それを引き起こしたのは、遥かな昔に太陽系を訪れた謎の生命体だった。

行方不明の少女を追う刑事、ミラー。破壊された水運搬船から、辛くも脱出したホールデン。地球や火星から比べると過酷な小惑星帯に属するふたりの視点から、太陽系全体を巻き込む陰謀と、宇宙生命体の正体を巡る謎が描かれる。

なんだか、久しぶりに本格SFを読んだ気がする。

SFネタとしてはありがちなのだけれど、スリリングな展開で飽きさせない。すばらしいエンターテインメント小説。ただ、ミステリーとしては動機がいろいろ不明確な気も。

主人公のひとり、ミラーはさえない刑事のおっさん。行方不明になったジュリーに魅入られたように、彼女の幻影を追い続ける。

もう一人のホールデンは地球出身の正義感。理屈のうえでも正しい道を信じるが故に、惑星間大戦争の引き金を引いてしまう。

この二人が時には協力し合い、時には反目しあいながら、真実に近づいていく。この二人がそれぞれに共感でき、読者を引き付ける。特に、ミラーの行動はなかなか浪花節っぽいところもあり、時折登場するヘンな日本趣味とも合わさって、なかなかおもしろい。

ふたりの主人公は小惑星側なので、過酷で貧しい環境が判官贔屓につながり、火星も地球も自分勝手な悪役に見える。格差社会や南北問題のことを指しているかもしれないが、そこでの問題意識は低い。どちらかというと、人間はどこまで人間であり、どこまで他人を同じ人間としてみることができるのかということがテーマかもしれない。

小惑星帯で生まれ育ったベルター新世代、さらに、研究されているという4本腕の無重量のための靭帯改造、さらに、宇宙生物により変容したジュリーと、各段階の人類の中で、どこまで人類の範疇として実感できるのか。そこがSFとして読者に付きつける問いなのである。

さて、この作品は3部作から5部作になりそうということで、今後の展開も気になるところ。

 


[NF] 鳥類学者 無謀にも恐竜を語る

2013-06-02 19:35:45 | SF

『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』 川上和人 (技術評論社)

 

7、8歳の頃には、『恐竜のひみつ』をいつも持ち歩いて、ぼろぼろになるまで読んだ。最初にSFとして意識して読んだ本は『恐竜の世界』で、これは今思えば、コナン・ドイル『失われた世界』の子供向け翻案本だった。そんな恐竜好きにとっても、これは評判通りの楽しい恐竜本。

著者は恐竜学者ではなく、鳥類学者。最近、羽毛率が急激に増えだした恐竜に対し、鳥類学の知見で語ってみたという趣向。恐竜に関する新たな知見という意味では、古生物学の専門書やナショジオの方が早い(新しい)し、詳しいと思う。しかし、恐竜に限らず、最近読んだ科学ネタは漏れなく取り込まれている感じ。

たとえば、ハヤブサがタカの仲間ではなくてインコの仲間であるとか、カメは主竜類であるとか……。

ただ、羽毛恐竜の後ろ肢風切り羽は、羽ばたきではなく滑空時の舵取りに浸かったんじゃないのかという話が言及されていなかったのが気になる。あれはまだ定説じゃないのか。

しかしながら、この本が面白いのは、著者が恐竜学の権威ではなく、ただの恐竜ファンだというところ。それが、我々読者の目線に一致していて、とても共感が持てるつくりになっている。我々が疑問に思うところや、面白いと思うところに、かゆいところに手が届くといった感じ。お前は俺か(笑)

さらに、そこに専門である鳥類学のうんちくや、おたくネタ、さらにはまったく無関係なことがらまで言及におよび、足りない部分は注釈としてページ下部にまではみ出して記載されているという密度の濃さ。この注釈の無関係さ、無意味さがまた絶妙で笑わせてくれる。

もうちょっと大胆な考察があっても良かったかと思うんだけれど、そこはっぱりSFとノンフィクションの違いか。いや、この人、もっとすごい(というか、もっと無謀な)ことを考えていそうな気がするんだけれど。一緒に恐竜の化石を肴にお酒でも飲んでみたい。