引き続きミサゴです。
数日おきに訓練現場へ出向き、状況を見て回ったが、確かに委託先の指導員はベテランの造園士であり、経験も豊富で、指導力もある立派な指導員であった。受講していた訓練生にも話を聞く機会を作り、話を聞いたが、入校前に説明したカリキュラムの内容を殆ど理解しないまま、応募したとのことで、当方としても、何とか第一期生を無事に送り出し、就職にマッチさせようとの思いが先行し、出来るだけ受講生の要望に添うよう調整することとした。しかし、盆栽は年間を通して行うことが重要であり、夏場は時期的に合わない剪定等は学科で行うこととした。
話してみて判ったことであるが、自己都合で離職する場合と異なり、企業の都合による希望退職者が殆どで、退職手当が加算され、失業後の年金の受給も問題ない方が多く、再就職の希望は一割にも達せず、再三訓練生から出る要望は道楽の域を出ず、これには委託先ばかりではなく、いささか自分も閉口した。緊急雇用対策の一環なので、一般の失業者に比べ優遇されていたが、本来就職に有利な造園工を育成する仕上がり像とは異なる内容を入れざるを得なかった。造園工の必要な訓練から若干逸脱した内容になってしまった苦い思い出がある。
結局この委託訓練は委託先の委託料金の問題と就職実績が殆ど無いに等しかったため、所内の会議と職安との協議とで廃止することとなり、第二期生をもって中止に追い込まれた。一方の大型自動車運転科の方は順調に修了者を出し、折からの新日鐵大分工場関連企業への再就職は順調であった。
事務作業の経験がほとんど無かった者が、ちょっとしたボタンの掛け違いが引き起こす人生の展開は、組み込まれた世界では決して無く、偶然としかいえない選択を受けざるを得ないことが起こる。しかし、この経験は後の職業生活に大いに関係し、学んだ多くのことが決して無駄ではなかったと回顧している。この展開のとらえ方は個人によって許容できるかどうかの判断は異なるが、チャレンジしてみないと判らないことも多い。わらしべ長者の話や、禍転じて福となすとの格言もある。人生至る所に青山はあると思えば向かうところ敵なしである。(このシリーズ最終回です)