数羽はいつも見ることが出来ます。久しぶりに撮ったので掲載します。
「わすれな草をあなたに」というフォークソングがあり、芹洋子が歌っている。若かりし頃、歌声喫茶等で流行った歌で、山歌としても有名である。NHK第二放送で高校講座古文の講義で話されていた。外来種と思っていたが、我が国にも古くはあった様で、早速古語辞典を引っ張り出し調べてみた。古語辞典には「忘れ草」として掲載されていた。
ユリ科の多年草で、かんぞうの異名であり、やぶかんぞうのことである。身につけると憂いを忘れさせるとされていた。憂いを忘れさせてくれるものについても使っていた。草ばかりではなく、潮、霜、音、花、水、井戸などにも使われていた。忘れ形見は、昔のことを忘れぬための記念の品のことで、現在でも形見分けが行われている。親の死後、その面影を偲ばせる子供のことにも使い、遺児のことである。
古語辞典など見ることがないと思うので簡単に紹介すると、忘れ潮(わすれじお)は潮が引いた後、岩の窪みに残った海水のこと、忘れ霜は八十八夜の頃の霜のこと、忘れ音(わすれね)は時節が過ぎて忘れた頃に鳴く虫の声のこと、忘れ花は時節が過ぎて忘れた頃に咲く花、忘れ水は野中の茂みや岩陰にあって、人に知られない流れのこと、忘れ井(わすれい)は人に忘れ、捨てられた井戸又は泉のことである。
忘れ草を忍草(しのぶぐさ)ともいっていたようである。シダの一種で、形は蕨に似て小さい。釣り忍。偲ぶ種(しのぶくさ)と書く場合もあり、昔を懐かしく思い出すよすがのことで、忘れ形見の意味である。
忍の意味には「人目に付かない様に秘密にする意味があり、感情を抑えて耐える、こらえる意味で用いられ、草に託すなど男女の愛情を表現する詩(うた)が多く詠まれている。
今の時代に使われるわすれな草とは、庭に植えるヨーロッパ原産で、春、空色で小さな花を房の様につけるムラサキ科の多年草である。歌で歌われるとエーデルワイスを思い浮かべるが、わすれな草とは別種である。
先人が使っていた勿忘草は何処か明るさを感じられず、人の思いを草に託す細やかな感情表現であったことが判った。言葉の持つ意味は忘れ去った言葉であっても、使われていた時代背景が変わったとしても、深い意味を持ち、古人への思いを彷彿とさせるものがある。