彼の母が言った、
『先生に出逢えたこと、長年の武道経験は、ユウジにとって心の財産になりました…』
そんな言葉を聞く…聞かなければならない時が来たんだと、初めて彼に出逢った日のことを重ねながら、どこか哀しさにも似た感情を、静かに…静かに…受け入れてゆく。
幼年から小5になるまでの、長きにわたる空手修行。思えば、たくさんの想い出が揺れているのだが、その時間の中で彼が掴んだものは…何だったのだろう?
だが、きっとそれは、これからの彼の歩みの中、生き方の中で、少しずつ証明されて行くのかも知れない。
『お父さんのような医者になりたい!』
彼の言葉が踊る。
躍動するかのように、その言葉はとても生きていて、全日本選手権を制覇したことや、たとえば心の勉強会での受け答えからみても、ボクは彼の個性からくる可能性を信じずにはいられないし、そこから生まれる想いを持って、いつか、たくさんの人々を癒やしてほしいとも願うのだ。
心の中で彼に語りかける。
未来の彼にも語りかける。
ユウジ…聞こえるか?
俺の声が…聞こえるか?
いつか…人との繋がりの中で、たくさんの支えがある中での自分の存在というものを感じられたのなら、その時にこそ本当の仕事が出来るのだろうし、いつも返しの精神を、その胸に宿してほしいということを、長年の空手修行の中で伝えてきたんだと…
父の仕事の関係で、一年間、家族とアメリカで過ごすことからの空手クラブ卒業。
今日の稽古開始の時も、無意識の中で彼を探してしまった。
でも、もう彼はいない。
しばらく、この状態が続きそうだ…(苦笑)
でも、前を歩かなきゃ…
だから、
ユウジにも、兄のマコトにも、御家族の皆様にも、あふれる想いを、この、ありふれた言葉にこめよう…
『ありがとう』
でも、でもね、
いつか…
いつか、また…