HIMAGINE電影房

《ワクワク感》が冒険の合図だ!
非ハリウッド娯楽映画を中心に、個人的に興味があるモノを紹介っ!

追悼:パンナー・リットグライ ~さようなら、偉大なタイのアクションマスター~

2014年07月22日 | タイ映画

 2014年7月20日、53歳の若さで『マッハ!』や『チョコレート・ファイター』などのアクション監督であるパンナー・リットグライ師匠が亡くなられました。早速動画サイトでは、世界中の熱心なファンの方々が追悼トリビュート映像をアップして、彼の《早すぎる死》を惜しんでいます。

 『マッハ!』公開時のパンナー・リットグライの紹介に、“伝説的なアクション映画『Gead Ma Lui』”の文字がなければ、また実際にタイからVCDを取り寄せて観なければここまで師匠に入れ込むことはなかったでしょうし、おいては古今のタイ娯楽映画に熱をあげる事もなかったでしょう。


 私にとってパンナー師匠はタイ・アクション映画の導入口であり、道標的な存在でした。数々の傑作で我々を楽しませていただいて、今まで本当にありがとうございました……心よりご冥福をお祈りいたします。

 

 


あれ、ジージャって可愛いじゃん? 『Juk-Ka-Lan』

2011年09月10日 | タイ映画

 ついこの間、主演第2作目の『チョコレート・ソルジャー(Raiging Phoenix)』がリリースされたばかりのジージャ・ヤーニンの最新作が遂にタイで発売となった。マム・ジョクモック(『マッハ!』『ダブルマックス!』他)が監督&出演する『Juk-Ka-Lan』(2011)である。

 タイ映画関係のブログでその存在は知ってはいるものの、正直今回はスルーしちゃおうか?なんて思っていたが、周りの知り合いからは「パンナー師匠関連のタイ・アクション映画ならHIMAGIMEが買うから心配ない」と思われているので、半ば義務的に購入した次第。ま、これでひとつブログのネタが出来たからヨシとしよう!


 映画は、ジージャ演じるメッセンジャー(自転車宅配業者)が、配送依頼物である麻薬(だと思う…)を巡るギャング同士の抗争に巻き込まれる騒動をメインに、彼女と育ての親である叔父との疑似親子関係(実はこれが基本ライン)や淡い恋愛模様などを散りばめたコメディで、『チョコレート・ファイター』ではヤクザとその愛人との間に生まれ、修羅の人生を歩まざるを得ない自閉症の少女、国際的売春組織に拉致→脱出し、仲間たちと組織壊滅に繰り出した『~ソルジャー』の前2作のように、ジージャが《闘う》事を前提に作られたストーリーとは違い本作では(極論を言ってしまえば)、 彼女自身が無理矢理にでも闘わなくてもいいような流れなのだ。

 今作に置けるアクションシーンの比重はすごく軽い。それはマム監督が《コメディ映画》を撮っているからに他ならない。
 だけど《可愛い》だけのジージャでは満足しない客がいる。そこで彼女の最大の売りである格闘アクションの登場となる。これも前2作のような殺伐としたものと違い、とにかく明るいのだ。


 見せ場となるアクションシーンは3つ。まずはギャングの構成員たちを乗っていた自転車を武器に蹴散らす場面。ジージャの持つ体技と自転車の特性を生かしたアクロバティックなアクションが見事である。

 次は自転車便の事務所に攻め込んできたギャングたちを一人で迎え撃つ場面。ここでは自転車ではなく、自転車の部品を武器に大格闘する。タイヤチューブやギア部品、ナットを駆使し襲い来る敵を倒す。この格闘シーンには女子高生ルックに身を包んだ、中華系ギャングのボスの情娼兼ボディガードが登場(モデル体型で制服コスが似合わないのなんの)。ジージャと短いながらも激しいシバき合いを見せてくれる。

 最後はジージャ&メッセンジャー仲間、敵対する2組のギャングたちとが倉庫内での大乱戦。銃を撃ち合ったりと殺伐とした中、キャラクターが個性的なギャングたちのギャグ合戦が行われて、血みどろでありながらも何故か楽しい場面に仕上がっている。そんな中ジージャは決してブレる事なく、ゴチャゴチャとした倉庫内を縦横無尽に駆け回り、敵を一人また一人と片付けていき、先程登場したモデル風制服コス女戦士との決着戦を迎える。果たしてジージャの運命や如何に…?


 まるてマンガ的なアクの強すぎる登場人物たちが繰り広げる《笑い》に押されてしまって、いつもの《強い》ジージャを期待する御仁には、きっと物足りなく感じる映画だろうと思う。だけど《戦い》はあれども、今作ほどジージャが表情豊かで可愛く撮れている作品はなかったハズだ(個人的には)。1カットだけ見せるストレートヘアの彼女は本っ当に魅力的なのだ。しかもカメラに向かってキス顔ですよ、キス顔。いやぁマム監督、えぇモン観させて貰いましたわ。だけど一言いいですか?…ギャグシーン長すぎですぜ、コレだけはいただけなかった。

 でもやっぱり「強いジージャが観たいんだいっ!!」という貴方、本作を編集&追加撮影した海外版『The Girl is Bad Ass』の発売を楽しみに待っていようではないか!


パンナー師匠主催大運動会っ!『Bangkok Knockout』を観た

2011年05月02日 | タイ映画

 肉体表現は言語を超える。

 そんなのは映画がサイレントの時代から分かっている事なのだが、目の当たりにするとこの言葉がいつも頭に浮かんでくる。
 ハリウッドが多額の資金をつぎ込んで新たな映像技術を開発し、観客たちを驚かせ感動させているが、やはり生身の人間によるギリギリのアクションには敵わない。息づかいや体温が画面から感じられないから。
 今や編集やCG等視覚効果によりバーチャル世界のような無気質なものとなった格闘アクション映画が多い中、数少ない《本物のアクション映画》を作る男がタイに存在する。

 パンナー・リットクライ師匠である。

 トニー・ジャーの出世作『マッハ!』により世界的知名度を得た彼は、自分の育てた俳優たちの作品において次々と新たなアクションを見せてくれた。それはかつてジャッキー・チェン作品
などで感じた《痛みが共感できる》ような血肉の通ったアクション。そんな彼の生み出すアクションに世界中のファンたちは賞賛の声を贈った。
 だが、『チョコレート・ファイター』以降、パンナー師匠自らが直々にアクション指導する作品は減り、彼のアクションチームの手による《パンナー師匠的アクション》作品ばかりとなり、正直編集と受け手(やられ役)の技術向上ばかりが目に付き、ここ数本はちょっと食傷気味でパンナー作品のこれ以上の期待が望める要素がなかった。あの『マッハ!』の興奮を、『7人のマッハ!!!!!!!』の興奮よもう一度!とそれらの作品を見ながら(決してアクションのレベルが落ちているわけではないが)そう思っていた。

 だが、やってくれましたよ師匠!

 昨年末(2010)にタイで公開された、パンナー・リットクライ久々の監督(共同)作である『Bangkok Knockout』 はそんな世界中のパンナー信者の心の叫びを一瞬で満たしてくれた、危険度MAXな超絶アクション満載のどこから切っても《パンナー印》な作品だったのだ。

 ストーリーはあってないようなもので、闇の賭博組織によって拉致され、死と隣り合わせな格闘ゲームの《駒》とされてしまったスタントチームの生き残りを賭けたサバイバル・バトルを延々と描いており、多少の恋愛要素はあるものの映画の大半は紅一点のヒロインや身内を《賞品》として、スタントチームの面々と闇組織の用意した《敵》たちとの壮絶な闘いの連続だ。
 集団劇である故に、トニー・ジャーやダン・チューポンみたいな頭一つ飛び抜けた存在が登場しないので(ひと山幾ら的な感じがする)個々で感情移入しにくいのが難点だが、各面々にそれぞれ振付けられた異なるアクションを堪能することができ、格闘振付師パンナー・リットクライの才能の高さを窺い知る事ができる。

 久々のパンナー師匠度100%な作品を楽しんだわけだが、よ~く考えてみるとやってる事は前作の『7人のマッハ!!!!!!!』と変わっているわけでもないし、もっというと代表作『Gead Maa Lui』(86)や90年代に仲間たちで製作した数々の作品群とも大きな違いはない。それは何か?彼の作るアクション映画が、ストーリーを語る上の手段でアクションを用いているのではなく、アクションの積み重ねによって映画を構築していく点である。このあたりは全然進歩がない。武術指導・アクション監督としての才能はものすごいものを持っているのだが、ドラマを含め総合的にやってしまうと映画のバランスがものすごく悪いのだ。そうやって考えると『マッハ!』や『トム・ヤム・クン!』そして『チョコレート・ファイター』で一緒に組んだプラッチャヤー・ピンゲーオ監督は映画というものを知っている。

 過激なアクションのみがずば抜けて突出し、全体のバランスが悪い映画ではあるものの、面白い事には変わりはない。肉体で映画を語ってきた80年代香港明星たちは既に演技に重点を置いた作品に移行し、人命が安っぽく感じられるスタントシーンが満載だった香港アクション映画も過去のものとなった2011年現在、未だに肉体の可能性を信じ、敢えて安全性度外視で(実際は経験と技術でカバーしているけど)映画を作っている御仁がいるなんて感動ものだとは思わないか?


 追記:変わってないといえば、敵の集団が忍者風なのも昔と全然変わってない。好きだねぇ、パンナー師匠…


『ザ・サンクチュアリ』、テレビ放映ですっ!

2010年11月06日 | タイ映画

 東海地方のタイ映画ファン並びに非ハリウッド娯楽映画ファンの皆さん、朗報です。

 本日深夜1:24からメ~テレにて、以前当ブログでも紹介したマイクB、ラッセル・ウォン主演のタイ映画『ザ・サンクチュアリ』(09)が放映されます!100年もの間行方不明になっていたタイ王家の秘宝を巡って繰り広げられる国際窃盗団と主人公&女考古学者の死闘を描いた佳作(傑作とはいい難い…)であります。

 朝、テレビ欄を見てビックリしました(笑)ついこの間レンタルビデオ店で「おっ、出てるじゃん」と確認したばっかりだったのですが…時の流れは予想以上に速いようです。メ~テレさんの快挙(か?)に拍手を送ると共に是非チェックしてみましょう、数少ないタイ映画ファンの皆様!なかなかこんな機会ないですから。


『Ong-Bak3』を観た

2010年08月24日 | タイ映画
 今年のアジア・アクション映画最大の注目作であるトニー・ジャー主演・監督作(パンナー・リットクライと共同)『Ong-Bak3』(2010)、ようやく鑑賞することができました。

 製作中におけるトニーの失踪事件など紆余曲折を経て完成した本作は、前作(『マッハ!弐』)にもまして本人考案の新アクションは見事で、ちゃんと開巻当初→荒々しく野性的、物語後半→達観して落ち着いた硬軟織り交ぜた動作、とちゃんとキャラクターの心の成長とともにアクションを変えているのがとても良い!タイ・マーシャルアーツ映画の《シンボル》的な動作である膝・肘を多用したアクションは少なく、トニーならびにパンナー印のアクションが現状維持ではなく、新たなるステージへ向かっている事がうかがい知ることが出来る。

 ラスト近くの《最高に盛り上がるクライマックス場面をわざわざゼロに戻す》演出は観ていて「へっ?」と思ったが、これって当初からトニーが考えていた脚本にあったんでしょうか?ものすごく不自然だし、興奮が途切れちゃうんですよコレだと。仕切り直しでトニー対本作の悪役ダン・チューポンの一騎打ちが開始されるのですが全然感情が入らない。格闘アクションは凄いですけどね。果たして本作はどこまでトニーの意見が織り込まれているのか?『マッハ!弐』がもの凄い緊張感で物語が推し進めていただけにその点だけが悔やまれます。


 この作品を最後にトニーは、仏門に入るため映画界を引退(?)するわけですが、「残念」「もっと作品が観たかった」等という声があるけれど、私はここらで一旦観客の目からフェイドアウトして自身のキャリアをリセットするのもアリかな?と思います。『マッハ!』で始まった怒涛のトニー・ジャー・アクションですが、自身の監督作である『マッハ!弐』『Ong-Bak3』を完成させた現在、彼がこれ以上のハイレベルなアクションを見せ続ける事は難しいと思いますし、映画ファンの興味を繋ぎ止める事だって難しいでしょう。それならば数年後かに今までとは違った魅力を持つ《新生トニー・ジャー》としてカムバックしたほうが良いのではないか?と考えています。

 果たして彼は今でも映画への情熱は持っているのでしょうか…?

『Ong-Bak3』と『Insee Dang』

2010年08月06日 | タイ映画

 熱中症や夏風邪が流行っているそうですが、みなさん如何お過ごしでしょうか?(←私らしくないなぁ、この挨拶)

 この度8/11にタイで発売(予定)になるトニー・ジャー主演・監督作『Ong-Bak3』のVCDを毎度お世話になっているニューロードさんの所で予約したんですが、トニーが出家して映画界から身を引いた現在、肉体をフルに稼動させて作り上げた最後の(?)超絶アクションを見るのが今から楽しみです!!

「予約したよ~」と同じ趣味の知り合いにメールを送った所、「これ見たら、今年の行事はほぼ終了」との返事をいただきました。そうだよなぁ、アジア映画ファンからすれば今年一番の話題作だったもんな、これを観ちゃったら…ねぇ?

だが、タイ映画にはもう一つ個人的注目作が残っていたのだ。それが10月公開予定の『Insee Dang(Red Eagle)』である。タイの大衆小説から生まれたこの義賊ヒーローは何度も映画化され、伝説的映画スター、ミット・チャイバンチャーの当たり役でもあったこの作品が彼の40周忌にあたる今年、いよいよ復活するのだ。

「何故に40周忌に公開?」と思う方もいらっしゃるだろうが、実は彼の最後の作品であり遺作がこの『インスィー・ディン』シリーズの一つで自身の監督作『Insee Tong(Golden Eagle)』それもこの映画の撮影中に不慮の事故で亡くなってしまったという悲劇性と相まってタイ人にとってはインスィー・ディン=ミット・チャイバンチャーという意識は強いのである。

この作品を監督するのは『怪盗ブラックタイガー』や『シチズン・ドッグ』で独特の色彩感覚と映像美でタイを代表する監督の一人であるウィシット・サーサナティアン。2007年頃にこのリメイク版『Insee Dang』を製作するという発表があって早3年。自然消滅したかと思っていた時もあったが、こうして予告編で観れる日がこようとは…世界配給を狙ったかのようなスタイリッシュ&ダークな雰囲気にすげー期待なんですケド!!ソフトが出るとしたら来年早々か…絶対買おうっと。

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『Suay Samurai』を観る

2010年02月19日 | タイ映画
 こないだ紹介した『The Sancutuary』と並んで、「09年末・観たかったタイ映画」の一つである『Suay Samurai(英題:The Vanquisher)』(09)がようやくウチに届いたので早速観賞してみた。


 元・CIAの女特殊工作員、クンジャーがテロ組織壊滅の任務遂行中、上官・クレアの裏切りに会い桟橋に仕掛けられた爆弾の餌食になってしまう。そして2年後、奇跡的に生きていたクンジャーは爆破テロの横行するバンコックに舞い戻ってきた。彼女は、襲い掛かるテロ組織やかつての剣術の恩師率いる暗殺集団に立ち向かい、すべての悪の首謀者であるクレアに復讐を挑む…!
            
             
             

 タイ映画で、女性アクションと聞くと真っ先に『チョコレート・ファイター』『レイジング・フェニックス』並みの格闘アクションを連想してしまうが(特に最近)、本作では特殊効果+カメラワークで見せるハリウッド大作アクション映画風のイメージで、「痛そう」とか「ヤバそう」とかということは無く、アニメやゲーム感覚で「お~、凄ぇ!」と目の前に映し出されるド迫力画面を楽しめばよいのである。
 主役のクンジャーを演じたソーピター・シーバーンチューンは『チョコレート・ファイター』のジージャ・ヤーニンのような格闘技経験は皆無なので「本物」の動きを期待するのはチョイ酷だが、それでも彼女の演技力と振り付けのおかげでそれなりにカッコいいキャラクターになっている。格闘アクション映画に必要なのは格闘技経験だけでなく、相手を睨み付ける目力や闘いと闘いの間に見せる決めポーズの美しさ・格好良さなのだな、と改めて思った次第。
 ただ、これだけではインパクトに欠けると思ったのか、劇中にはもう一人正義の女戦士が登場する。クンジャーの元同僚で現在はタイ警察の特殊部隊長・シリン役のケーサリン・エークタワットクンである。彼女は正真正銘のテコンドー高手であり、あのパンナー師匠の監督作『7人のマッハ!』にも出演しているのでご記憶の方もいられよう。本作でも忍者姿の暗殺集団(このキャラクターの元ネタって『GIジョー』だよね、きっと)相手に得意の蹴りや肘&膝のムエタイ・ムーブ、はたまた主役のソーピター同様に日本刀を振り回しての大チャンバラまで披露してくれるサービス振り!アクション比率の高さといい、劇中ではどちらのアクション(またはインパクト)が勝っていたかは一目瞭然であろう。

              
              

 いろいろなシチュエーションで行われる爆破シーンなどはすべてCGで処理されているので何かしら「軽い」印象は否めないが、予算面などの関係なので仕方なかろう。監督の思い通りのカット割りにしたければ爆薬を使用しての発破では限界があるのでこれからはこういう撮り方が増えてくると思う。もはや役者はブルーバックの前で演技するのが当たり前の時代になってきたんだなぁ。視覚効果(照明・カメラワーク・特殊技術)で驚かせるか、本物の迫力(命を張ったスタントやオープンセットを使ったスペクタクル)で驚かせるかは監督の力量次第ってことですね、結局。

               
             
              
●まるで次回作が作られそうなエンディング。続編は作られるのか…?!

              
●暗殺者役でタイ在住の日本人女優・斎藤華乃が出演。いきなり登場するネイティブな日本語にちょっと不意打ち気味でした。

『THE SANCTUARY』を観る

2010年02月04日 | タイ映画

 今回の紹介作品は久しぶりのタイ映画『THE SANCTUARY』(09)です。公開前の情報も少なく(日本語で読める範囲内では)、あまり期待せずにVCDを購入しましたが、いざ鑑賞してみると…拾い物的な一作でした。


 内容は100年前に盗まれ、以後行方知れずだったタイ王家の秘宝を中心に武力・知能に長けた外国人盗掘団と、ムエタイ修行中の青年&考古学を専攻する女子大生との闘いを描いたもので、一見アドベンチャー映画風だがお宝探しの描写は意外に少なく、衛星や最先端ハイテク機器などを使ってあっさりと見つけ出してしまい、トレジャー・ハンティングの興奮は残念ながら味わえない。この映画の大半は主人公と傭兵を含む盗掘団との闘い、盗掘団と彼らを利用する反政府ゲリラとの闘い等のバトルが占めている。よって宝探し要素を期待して観ると肩透かしを喰らうだろう。だが、それ以上に主人公を演じるパイロート・ブンクート(洋名:マイケルB)の身体能力の凄さに驚かされる。
 
             
             
 
 パイロート・ブンクートはトニー・ジャー等を育てたタイの誇るアクションマスター、パンナー・リットクライ師匠のスタントチーム出身で、今回が映画初主演。一見、今や世界的スターとなったトニーが簡単に使えないので低価格の小型版を作りました、という感じがしないでもない。香港電影に例えるならばチャウ・シンチーに対してのディッキー・チョン、と言えば分かるかな?
 主人公が最初から格闘技術に優れていたりする場合が多いパンナー系俳優作品が多い中、この作品ではパイロート演じる主人公がラスト近くまで弱いのが特徴。それまでは蹴られ殴られ、挙句の果てにはビルから突き落とされたりとまるでかつてのジャッキー映画のよう。彼は危険度の高いアクションを演じることによって先輩たちとの差別化を図っているようだ。まぁ、この作品だけかもしれませんが今後に注目したいアクション俳優でしょう。

             
             
             

 あとこの映画最大の悪役を演じたラッセル・ウォンについても触れておきたい。クールな顔つきから頭脳明晰なのはありありと分かるのだが、果たして“強さ”についてはどうなのか?と思っていた。ガタイもゴツいし銃撃戦を見る限りでは運動神経鈍そうだし、結局喋りとベッドシーンだけが売りのキザ系悪役なのかなと思っていたら…やってくれました。合気道風の関節技&投げや身体の重さを利用したパンチとキックを駆使して主人公を死の一歩手前まで追いやるんですから(対ラッセル戦までに散々殴られ蹴られてましたが)大したものです。ちゃんとラッセルの持つキャラクターを生かしきりましたね、見事です!タナポン・マリワン監督。

                      
                             
             


愛しさと、切なさと、心強さと 『Raging Phoenix』

2009年11月13日 | タイ映画
 『チョコレート・ファイター』(08)で世界中に衝撃を与えた新星マーシャルアーツ・アクトレス、ジージャ・ヤーニンの最新作『Raging Phoenix』(09)をようやく鑑賞することができた。


 童顔で小柄ながら危険度の高いアクションを披露して人気を勝ち得た彼女の主演第2作目というので期待は大きかった。楽しみにしている反面、不安も大きいのもまた事実。

 前作と同じようなキャラクターだったらどうしよう?そんな不安も映画が始まったら一気に吹っ飛んでしまった。

 内容はジージャとダンシング・マーシャルアーツ(TRICKZというのだそうだ)の使い手である訳ありの男と共に、女性を拉致して強制的に売春させる闇組織と対決する、というもので、開巻当初はジージャは酒におぼれる自堕落な女性であったが、男に格闘術を仕込まれるにつれとんでもないポテンシャルを発揮するという設定になっている。

            

 とにかく今回のジージャは最高である。前作では自閉症という設定上感情を表に出すことができなかったが、泣き、笑い、おどけ、怒り、恐れおののく…といったリアルな人間的感情が表現されていて、観客に感情移入させやすくなっているのだ。それ故闇組織の女ボスや用心棒たちとの対決は壮絶である。
 この女ボスも久々に《強くて悪い》キャラで、ラスト近くに登場し、ステージを変え何度もジージャ(と仲間の男)に戦いを挑んでくるという力の入れよう。最近の映画では悪党の出し方に問題がある作品が多々ある中、今作の女ボスはお見事でした。

            

 アクションでは今回はHIP-HOP系のダンススタイルにマーシャルアーツ的動作を加えたTRICKZをベースに《パンナー印》の肘・膝を使ったムエタイ要素を入れた斬新なもの(っていうか最近のタイ・アクション映画ってこんな振り付け多いよね?)で、ジージャの身体の柔軟さを生かした見事なものになっている。
 今回もアクション監督は我等がパンナー・リットクライ師匠なので、高所でのバランス芸や落下(下は砂浜だけど痛そう)、格闘時にはモロに顔面を蹴られるといった師匠のやりたい放題な演出で可哀想にも思えてくる。これを観て、かつて香港でムーン・リーやシベール・フー、シンシア・ラズロックといった格闘系アクトレスが80年代末期~90年代初頭にかけて命を張って演じていた数多くの女性アクション映画を思い出してしまうのは私だけではないはず?やはりパンナー師匠は80年代香港アクション映画(成家班や洪家班系スタイル)の正統継承者なのだ。

            

 最後に一言。ジージャにはもう、普通のマーシャルアーツ・スタイルの格闘アクションでいいんじゃないか?と思う。確かに肘・膝を使ったアクションはパンナー師匠の、そしてタイらしさを表現する《記号》なのかもしれないけど、十分堪能しましたから次回は違った振り付けや動作で我々を驚かしてください。そしてジージャの次作はツンデレ系のコメディー・アクションものが観たいです、以上。

            

『Bangkok Adrenaline』を観る

2009年10月04日 | タイ映画
 『マッハ!』の世界的大ヒットと共に一躍格闘アクション映画の産地として注目されたタイ。そのアクロバティックかつデンジャラスなスタイルはかつての香港クンフー映画のように模倣され、産地であるタイはもちろん、アメリカやヨーロッパのマーシャル・アーツ映画に影響を与えている。

 さて、今回はタイ映画でありながら海外俳優が主演、監督も外国人という、国内よりもむしろ海外市場向けに製作されたであろうと推測される『Bangkok Adrenaline』(09)を紹介しよう。

           

 内容はタイ・バンコックにやって来た4人の外国人バックパッカーが現地のギャング画経営するカジノで多額の借金を作ってしまい、返済のために資産家の一人娘を誘拐して身代金を奪うことを計画する。無事誘拐は成功、後は身代金を受け取るだけとなったが、受け渡し場所でこれまた身代金目的の外国人ギャングが彼女を奪っていってしまう。4人組は彼女を奪い返すため外国人ギャング団に闘いを挑む…というもの。

           
 
 ざっと見た感想は、話題になった(現地で)タイ・アクション映画のおいしい部分を上手いこと織り込んで一本の映画にしたな、って感じ。

 格闘スタイルなんかは『マッハ!』や『トム・ヤム・クン!』などのトニー・ジャーのスタイルを手本にしているし、高所・狭所でのアクションや三輪タクシーを使用したバトルは確実に影響を受けているだろう。またバックパッカー仲間の一人の巨人キャラは『SOMTUM』の主演俳優、ネイサン・ジョーンズを思わせるし、劇中に誘拐された令嬢が見せるバスタオル一丁でのギャグ・シチュエーションは『マッハ!エンジェル』にも存在する。

           
           

 つまりこの作品は、タイ・アクション映画をたくさん観ている人は「あー、あったね。そんな場面」とワイワイ言いながら楽しめるし、タイ映画初体験の観客は、どこの国とも違うタイ独自のアクションスタイルに驚きながら、この作品を入り口に他の作品にも興味を抱かせるであろう親切設計になっているのだ。

           

 果たしてこの作品、現地・タイでは一体どのような評価なのであろうか…?