サン・ガール (Sun Girl)
初出:『サン・ガール』第1号 (1948年8月)
今やディズニーの傘下となってしまった、アメコミ2大巨頭のひとつマーベル社。スパイダーマンやアイアンマンほか数多くのスーパーヒーローを世へ輩出している事で知られていますが、創立最初からこの屋号ではありませんでした。1939年に創立されたタイムリー・パブリケーションズが発行したコミック誌『マーベル・コミックス』が現在知られるマーベルの (1961年より) 由来となっています。現在主によく知られるのは《マーベル》になった後のヒーローですが、コミック黄金時代のタイムリー時代、次の社名であるアトラス時代のヒーローは、リバイバルされたサブマリナーやキャプテン・アメリカを除けばほとんど知られておらず、長いコミック史の闇に隠れてしまっています。
そんなタイムリー時代のスーパーヒーローであるサン・ガールは、第二次大戦後の1948年に登場し、犯罪者やマッドサイエンティストらと戦っていましたが、主演誌が3号刊行されただけで消滅してしまいます。後にマーベル・ユニバースでもちょいちょい出てきたりしましたが、彼女が主役に返り咲くことは二度とありませんでした (2013年に同名の女性ヒーローが登場しますが)。掲載誌が3号で終わってしまっているため、コミックの中では彼女の個人的なキャラクターが示されず、メアリー・ミッチェルという本名が出たのはずっと後の事で、彼女は誰にもプライベートを見せることなく、腕にはめた太陽光線照射器と高い身体能力で、この世の悪と戦う姿を延々と紙の中で見せているだけでした。
ジル・トレント:科学探偵 (Jill Trent, Science Sleuth)
初出:『ザ・ファイティング・ヤンク』第6号 (1941年12月)
女性の主人公が大活躍するコミックスといえば、大体が超能力もちか奇抜なコスチュームを着けたキャラクターが登場しますが、このジル・トレントは一見普通のお嬢さんなのですが、探偵で科学に強いという《能力》を持っています。推察力と頭脳で悪を懲らしめるという事です。この科学+探偵という要素は、なんとなくバットマンに通ずるものがありますね。
この女性版バットマン(マスクなし)は、本家と共通する点がもうひとつあり、それは同性の相棒である、デイジーと一つ屋根の下で一緒に住んでいる、という所です。当時は (多分) 誰も気に留めなかったでしょうが、LGBTQが叫ばれる現在の視点からみれば、これはかなり画期的だと思います (本人たちにその気がなくても) 。
アメリカ上院議員のヘンリー・ナイトの、ひとり娘であるサンドラ・ナイトがその正体で、ひとたび事件が起きればファントム・レディに変身し、ポーチ型の黒色光線銃を武器に(照射された者は目が見えなくなる)犯罪者たちと戦うのですが、彼女が裏の女性ヒーローといわしめる要素、それは彼女のコスチュームにあります。ほぼ半裸のワンダーウーマンに比べれば露出度は低いですが女性らしいボディラインや、コスチュームの隙間から胸の谷間が見えていたりとかなり煽情的に描かれているのです。恋愛コミックスなど女性を描くのが得意であったアーティスト、マット・ベイカー(1921-1959)の作画によるもので、表紙に描かれたレディは子ども向け出版物とは思えないくらい艶やかであります。
しかし性を煽るようなファントム・レディの表紙絵は、保守的な「大人」たちの目に留まり1954年、暴力やセックスなど子供に「悪影響」を及ぼすような表現を規制する機関・CCA(コミックス倫理規定委員会)の誕生と共に、隆盛を誇ったコミックスの黄金時代は幕を閉じるのでありました。つまり彼女は自由を謳歌していたコミック表現に、とどめを刺した《魔女》だったといえるでしょう。
この『サリーは探偵 (Sally the Sleuth)』はスパイシー探偵小説誌に掲載されていました。見開き2ページというわずかなものでしたが、スパイシー物語の基本がちゃんと押さえられていて、このジャンルの何たるかを理解するのに最良な教材です。
レディ・サタン
初出:『レッド・シール・コミックス』17号 (1946年7月)
黒魔術を使う事ができる彼女を、いつしか人々は《レディ・サタン》と呼んで恐れ奉る存在となりました。彼女に出来ない魔術はなく、その力を使って世の中に潜む悪と戦うのです。
最初の数号は第二次大戦中だったので、ナチス・ドイツ軍が敵でしたが、戦後に入ると大きくホラー・アクションへ方向転換し、狼男や吸血鬼などのオカルト相手に戦うようになりました。ただこの作品は6ページと実に少なく、いい所まで盛り上げておきながら唐突に終わってしまうのが惜しい限りです。
ブラック・エンジェル
初出:『エア・ファイター・コミックス』4号(1943年1月)
またもや軍事女性ヒーローもの。
《ブラック・エンジェル》と言っているけど、その恰好は欧米人がよくする悪魔のコスチュームであります。黒い天使→堕天使→悪魔といった思考経路なんでしょうね。
この作品では《東京》が物語の舞台となっていますが、現実とはかけ離れ完全にファンタジーと化していて、「どこの東京なんだよ?」とツッコミを入れたくなります。