日々雑感

心に浮かんだこと何でも書いていく。

田舎人

2008年04月17日 | Weblog
田舎人

先ほどから向かいの席に座っているおばさんは年の頃は50代。しきりに何か話したそうにしいる。僕は思いきって、見知らぬ彼女に声をかけた。
何を思ったのか。彼女は、身の上話を始めた。

彼女が生まれた年に、父が死んだ。母は再婚したらしいが、この人の、苦労が、しのばれる。
「人生って、大変ですね。」僕は同情した。
ところが、彼女は、次のようなことを語った。

「知り合いの奥さんは脳梗塞でもう14年も寝たきりで病院に入っている。何しろ38才の若さで発病したから、初めは主人もずっと自宅で看病していたが、仕事があるので看病に付きそう事も出来ず病院に預けて働いているが、そんな生活がもう14年も続いている。その奥さんや家族の事を考えると私の苦労など物の数ではない。回りを見渡せばいろんな形で苦しんでいる人が沢山いる。その人達に励ませれている訳ではないが、少しのことで不満を言うのは賢くないと思い、毎日を暮らしている。」

「奥さんは偉いですね。もし僕がそういう立場に置かれたら、僕は逆境に負けて不平不満ばかりほざいていたでしょうね。きっとそんな生活をしていたと思いますよ。」

「いや、人間その立場に立てば結構状況に合わせて円を描くものですよ。そりゃ最初はがたがたしますがね。
ところで奥さん今日はどちらに?」

「父の50回忌の墓参りに。田舎なもんで墓は山の奥に有るんです。後何年生きるかしらんが、私で最後でしょうね。父の墓参りをするのは。子供達は都会に住んでいるので山奥の先祖の墓参りなどしないように思います。また出来ませんよ。
それはそれでいいのです。

200年も立てば皆同じように忘れ去られていくのが人間でしょう。仕方がないことです。誰にいわれることもなく墓参りするのは自分がしたいからするのです。今日は3月20日。彼岸です。中日さんですね。喜んでくれるかどうか知らないが、お参りに行くだけでも心が落ち着きます。」

「そうですか。なかなか人生そうも行かないものですよ。お宅は人生をよく考えておられますね。おっしゃるとおりですよ。皆そうなるんです。近頃若い人達と話す機会が有るのですが、この手の話は話題にも上らないです。世代が違うのか、世相が違うのか、とにかくこんな真面目話はなかなかないですよ。」

「いやいや私は無学ですから難しいことは何もわかりませんが、単純にそう思っているのです。ほんなら次で降りますので。さようなら」
僕はしばらく考え込んだ。奥さんの話があまりにも新鮮に聞こえたからである

そういえば徒然草にはこう書いてある 第30段より

思いいでてしのぶ人あらんほどこそあらめ。
そもまたほどなくうせて聞き伝えるばかりの末々はあはれやとはおもう、、、
ふるき塚はすかれて田となりぬ。そのかただになくなりぬるぞかなしき