日々雑感

心に浮かんだこと何でも書いていく。

機上で乾杯2

2013年07月04日 | Weblog
機上で乾杯2



僕は気が気でないのでよけいな事ながら、彼女たちに今までの経緯を聞かせて欲しい、そして僕に出来ることがあったら何か役に立ちたいと申し出た。そうしたら先ほどから一番落ち着いて、ばたばたしなかった子がよろしくお願いしますと言った。どの人がなくした人なのか、と聞いたら、「自分です」という。それでは先ほどから走り回っていた子たちはチケットをなくしたこの子のためにばたばたしていたわけだ。僕は驚いて彼女の顔を見た。

ひとこと小言を言いたかったけれど、ここで何を言うよりもまず真っ先にしなくてはならないことがあると思いなをして、言葉を飲み込んだ。即ち今日、明日中に乗れるチケットを手に入れることだ。僕はそのことを彼女に言った。そしてすぐ手配するようにアドバイスしたが、なにせ初めての海外旅行での出来事で、知恵が回らないだけでなく、どうしたらよいかさっぱり判らない風情である。当然だろう。これが僕だったら、やはり同じようにたちすくんだだろう。

ところが人にはツキと言うものがある。ちょうどこのとき領事館関係者が空港に来ていた。初めての面識で直接は知らないのに、この人が親切にも彼女の相談に乗ってくれた。彼は彼女が乗るはずだった飛行機にマラリヤ患者を乗せるべく、その仕事で空港に来ていたのだ。

 その患者と言えば、僕は今朝がたサダルの街で同席した人だった。灰色の顔をした女がひょっこり僕の前に現れた。僕はセキを詰めて、「狭いけれども良かったら、座りませんか」と彼女に声を掛けたのだった。彼女は何を思ったのか急に、
「私マラリヤにやられたの」と言いながら僕の横に腰を掛けた。
マラリヤがどんな病気か詳しく知らないが、伝染病の1つだと思い、僕は警戒して入れ替わるようにして席を立ったのだ。

 その女を所定の飛行機に乗せてから彼は仕事から解放され、真剣にこちらの相談にも乗ってくれるようになった。所で彼の話では、カルカッタは初めての赴任で地理はもちろんの事、街の様子がまだよくわからないという。それでも分からないなりに彼が協力姿勢を示してくれたことは、心の中では大きな支えになった。何をどうして良いか判らない彼女にかわって、とにかく明日の飛行機に乗れるようにチケットをとって欲しいと彼に頼んだが、彼が言うにはチケットは空港ではなくて、街に行かないと手に入れられないのではないかと言うことである。今日今から街へ直行しても4時になるのに明日8時のチエックインのチケットが手に入るとも思えない。
僕は無駄かもしれないが、航空会社のカウンターで何とか手にはいるよう頼んでみては?。もしそれが駄目なら街の旅行代理店に行くが、せめて明日の便の予約だけでもしておかないと、乗れなくなるおそれがある、と彼に言った。
彼も同感で、すぐ何らかの手配をしてみると言うことだった。
 
 さて僕はと言えば余程自分が動き回った方が納得できたし、安心もできた。しかし全く善意で困っている彼女を助けようと懸命になっている彼を差し置いて、手だしすることは、はばかられた。
それにしても、彼女はついている。ラッキーガールだ。確かに日本人が困っているのを座して見るに忍びない。だが、そうかといって、彼女と縁もゆかりもない人が、彼女のために何かをしなくてはならないと言う理由もない。冷たいようだが僕はそうも思った。、今のところ自分のことは何も心配ないような状態でいるからこそ彼女のことも心配してあげられる。つまり余裕があるのだ。それにしても海外の空港で、もし今回と同じようなケースが起こったら果たして、領事館に派遣されている彼のような人に巡り会うことが出来るだろうか。いやこんな事は滅多にないことだ。何処から考えてもやっぱり彼女はラッキーなんだ。きっとご先祖さんが善行を積んでその報いがいまこんな形で子孫に返ってきているのだろう。
僕はこんな事まで考えた。