84才
「大学病院に行くバスはこれにのればいいのですか。
いつもはタクシーを使うのでバスで行くのは久しぶりで、どれがいいのかよく判りません 。やれやれです。
終点の一つ手前で降りて、一五分ほど歩くのですよ。あるかないとあしが弱るし、歩けばしんどいし、どっちもどっちですわ。
私84才で未亡人ですねん。一人暮らしです。六〇坪の家で。
売ろうと思っても売れません。買うときには十倍の倍率だったのに。」
「オクサン。とても84才には見えませんよ。モットお若いと思っていました。頭もしっかりしてはるし」
「これにはコツがありますね。誰もばあさんというてくれないから、ばあさんにならんのですわ。息子が二人いて東京と大阪に住んでいるが、今50代で働き盛り、私の家には年一回来ればいい方です。子供が来ないから孫も来ない。だから誰もばあさんとは言わない。このように話し相手もいないし、今日こうして話をするのは初めてですよ。ご近所と言っても百坪ののお屋敷ばかりで 声を掛け合うようなご近所さんもいません。賢い人はこの屋敷を売って便利の良いマンションを買ってはります。うちもそうしようと思うけど家の買い手が見つかりません。難儀してますよ。
「オクサン草取りが大変でしょう」
「年になると身体に応えるから草抜きはしません。だから生え放題です。子育ての自分はこの家が誇りだったけど、今は重荷になってます。
このまえ病院に行ったら、こんな程度では来るなとといわれましてね。今日は町へ出てきたら、バスの乗り場も判らない始末。長生きはしたいけどこれではねえ」
僕は早くバスが目的地に到着しないかなばかり思っている。
バスに同乗したという縁によって、長々と聞きもしない話をされて少々嫌気がして来た。
考えてると人ごとではない。吾もいつかこのように生きている事をかこつ時代がやって来る。年代順に行けば家内が残るようになるが、こういうパターンだろうなと思いながら、毒にも薬にもならん受け答えをしていた。
「大学病院に行くバスはこれにのればいいのですか。
いつもはタクシーを使うのでバスで行くのは久しぶりで、どれがいいのかよく判りません 。やれやれです。
終点の一つ手前で降りて、一五分ほど歩くのですよ。あるかないとあしが弱るし、歩けばしんどいし、どっちもどっちですわ。
私84才で未亡人ですねん。一人暮らしです。六〇坪の家で。
売ろうと思っても売れません。買うときには十倍の倍率だったのに。」
「オクサン。とても84才には見えませんよ。モットお若いと思っていました。頭もしっかりしてはるし」
「これにはコツがありますね。誰もばあさんというてくれないから、ばあさんにならんのですわ。息子が二人いて東京と大阪に住んでいるが、今50代で働き盛り、私の家には年一回来ればいい方です。子供が来ないから孫も来ない。だから誰もばあさんとは言わない。このように話し相手もいないし、今日こうして話をするのは初めてですよ。ご近所と言っても百坪ののお屋敷ばかりで 声を掛け合うようなご近所さんもいません。賢い人はこの屋敷を売って便利の良いマンションを買ってはります。うちもそうしようと思うけど家の買い手が見つかりません。難儀してますよ。
「オクサン草取りが大変でしょう」
「年になると身体に応えるから草抜きはしません。だから生え放題です。子育ての自分はこの家が誇りだったけど、今は重荷になってます。
このまえ病院に行ったら、こんな程度では来るなとといわれましてね。今日は町へ出てきたら、バスの乗り場も判らない始末。長生きはしたいけどこれではねえ」
僕は早くバスが目的地に到着しないかなばかり思っている。
バスに同乗したという縁によって、長々と聞きもしない話をされて少々嫌気がして来た。
考えてると人ごとではない。吾もいつかこのように生きている事をかこつ時代がやって来る。年代順に行けば家内が残るようになるが、こういうパターンだろうなと思いながら、毒にも薬にもならん受け答えをしていた。