日々雑感

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機上で乾杯3

2013年07月05日 | Weblog
機上で乾杯3


               3
彼女はとみれば、あいかわらずのほほーんと構えている。僕はあきれる前にこんな性格に生まれついた彼女が羨ましかった。恐らく枕が変わって寝付かれないと言うことはないだろう。僕なんかこのインドの旅では常に緊張しているので、神経がたって寝付きの悪いことが多く、毎晩睡眠導入剤を用いているというのに。
人さまざまだ。

 僕が空港のオフイスでチケットを手配するように言った事が効を奏して新米派遣君は、上手く買えた、とにこにこしながら連絡してくれた。僕は彼女を促してすぐ代金を払い、チケットを手にするようにいった。オフイスにいった彼とにこやかな顔をしながらロビーに戻ってきた彼女に、これで帰れるのだから、明日は時間に遅れないように、と注意して、この幸運を喜んだ。

 チケットを見るとそれは僕と同じ飛行機じゃないか、よかった。これで間違いなく日本にも帰れる。僕はほっとした。なんと運のいい子だ。仲間は先に帰り、たった一人で見知らぬ外国で1日遅れて帰ることに、内心は不安いっぱいだろうと僕は推測したが、彼女は表面は相変わらず,のほほーんとしていた。
 
 考えてみればチケットを手配してとってくれた人がいた。明日乗る飛行機にはエスコートしてくれるおじさんもいる。これで万全の筈だ。もし乗れないと言う事態になったら、この子の面倒はもう誰も見きれない。とにかくついている子だ。僕はそのラッキーさに感心した。

 ともかくもハッピーなかたちで事態は進んでいるが、考えてみれば、ここダムダム空港では前回僕はひどい目に遭っていたのである。両替では金をだまし取られ、タクシーでは約束と違った所でつれていかれ、わずか30分ほどの間に2回も胃が真っ赤になるような苦汁を飲まされた所なのだ。僕の感覚からすれば、今回のように助っ人がいないで彼女一人で、あの態度で事を進めていたら、たちまちにしてここにいる悪党の餌食にされてしまう。男の僕でさえかなり恐ろしい思いをしたのだから、旅慣れない女一人ではどんな罠が仕掛けられるかしれたものではない。僕にいわせれば虎の檻にほりこまれた子羊みたいなものである。危険きわまりない。
しかし彼女にはそのことが判っていない。僕があなたはラッキーだと言ってもラッキーの表面的な意味しか判らない。恐らく僕が経験したような深刻な事態は想像だにしないだろうから、きっと理解出来ないに違いない。僕自身はあつものに懲りてなますを吹くきらいがないでもないが、そう思った。

 僕はチケットが手に入った段階で、今晩はここで一緒に泊まろうと誘いたかった。僕だって明日の便には絶対に乗らないとチケットが無駄になるので20時間も前にここで待機しているのである。
 その理由はインドでは何が起こるかしれたものではない、また何が起こっても不思議ではないというインド観であった。早目はやめに手を打っておかないとこちらの計画通りには事が運ばないと思っていた。

 僕はそうらいいとしても、恐らく彼女は耐えられないだろうと思ったからである。でも一応泊まるかどうか声は掛けてみた。彼女は派遣館員の車で街迄行き一晩て車に乗せた。
僕は夜明かし覚悟だがそのことが気になって、1時間おきに目が覚めた。遅れませんように。それは祈りにも似た気持ちだ泊まって明日になったらここへ来るという。僕は5時起きしてすぐタクシーに乗ってここに来るように、決して寝過ごしてはいけない、と何回も釘をいう自分の心つもりを詳しく話さなかった。というのは一口で20時間と言うがどれほどそれは気の遠くなるような退屈な時間であるか。よしんば彼女とここで夜明かしをするにしても話すことはない。2、3時間も話せば話はつきるしその後は黙るしかない退屈が待っている。

つづく