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【経営コンサルタントのお勧め図書】アニマルスピリッツを持とう CFO思考 2312

2023-12-25 12:06:00 | 【経営】 経営コンサルタントの本棚

本  【経営コンサルタントのお勧め図書】アニマルスピリッツを持とう CFO思考 2312

経営コンサルタントがどのような本を、どのように読んでいるのかを教えてください」「経営コンサルタントのお勧めの本は?」という声をしばしばお聞きします。

 日本経営士協会の経営士・コンサルタントの先生方が読んでいる書籍を、毎月第4火曜日にご紹介します。

 

 【経営コンサルタントの本棚】は、2012年に、経営コンサルタントがどのような書籍を読んでいるのか知りたいという、ブログ読者の声を反映して企画いたしました。

 幸い、日本で最初に創設された経営コンサルタント団体である日本経営士協会には優秀な経営士・コンサルタントがいらっしゃるので、その中のお一人である酒井闊先生にお声をかけましたところ、ご協力いただけることになりました。

 それが、今日まで継続されていますので、10年余もの長きにわたって、皆様にお届けできていることに誇りを持っています。

本

■    今日のおすすめ

『日本企業最大の欠落とその処方箋「SFO思考」』

                    (徳成旨亮著 ダイヤモンド社)

本

■ 「CFO思考」は非上場企業の経理・財務部門にも有益です(はじめに)

 紹介本の書名「CFO(Chief Financial Officer:最高財務責任者)思考」から何をイメージされますか。『「CFO」は上場会社の役職。非上場の我が社には関係ない。』でしょうか。
 そこで今日は、そのような一般的な考えを横に置いておいて、『非上場企業にも役立つ「CFO思考」』について考えてみたいと思います。
 私事になりますが、メガバンクの支店長⇒上場企業のCFO⇒メガバンク関係会社社長(非上場会社CEO)のキャリアをベースに紹介本を読み、「CFO思考」は非上場会社に於いても有益と痛感しました。つまり、CFOの知見が有ったが故に、非上場企業の社長としての、ガバナンス・企業価値向上などの責任を全う出来たと思います。
 著者は、上場企業における体験を通じ、CEOのビジネスパートナー(諫言も含め)としてのCFOの役割の重要性を説いていますが、非上場企業に於いてもCEOをサポートするCFOの役割は重要です。CFOが『経理・税務・財務に止まる「“金庫番思考”のCFO」』を脱却し、『CEOをサポートする「“企業成長をもたらすCFO思考”のCFO」』になることで企業の成長が促進されるのです。
 著者は、「上場企業に求められるCFO」について記していますが、著者の主張を非上場企業向けに読み直し、『非上場企業版「CFO思考」』について考えてみたいと思います。
 それでは、次項で『非上場企業に有益な『非上場企業版「CFO思考」』について触れてみたいと思います。

本

■ 非上場企業に有益な『非上場企業版「CFO思考」』とは

【アニマルスピリッツを持とう】
 著者は、海外投資家から繰り返し投げかけられたフレーズを紹介しています。『日本人・日本企業・日本経済には「アニマルスピリッツ」はないのか?』です。
 この「アニマルスピリッツ」は、ジョン・メイナード・ケインズが、「雇用、利子および貨幣の一般理論」の中で言及した言葉で、その意味は「実現したいことに対する非合理的なまでの期待と熱意」です(著者要約)。
 海外投資家の上記フレーズの言わんとすることは、次のことです。『日本の世界競争力(IMD2023〈注〉)のランキングが1980年の1位から2023年の35位まで下落し続けてる要因は、日本人・日本企業・日本経済に「アニマルスピリッツ」が無くなったからだ』。
〈注〉「IMD世界競争力ランキング2023」(下記URLを参照ください)

 

 

 著者は、日本企業最大の「欠落」は、『アニマルスピリッツ』の欠如であり、その症状の「処方箋」は『責任領域にアニマルスピリッツを持って走り回り、企業価値向上と企業成長の成果を上げる「CFO思考」』であると主張します。
 『アニマルスピリッツ』は、『人生・仕事の結果=考え方(「‟まねび”;真似を通じた学び」でもOK)×熱意×能力(実行力)~稲盛和夫~』の“熱意”を魂のレベルで持つこと、と言い換えることが出来ます。
 『アニマルスピリッツ的「CFO思考」』は、上場、非上場に関係なく重要な考えです。この様な熱意に基づく経営革新無くしては、日本経済・企業の再興はあり得ません。

【「CFOの10の責任領域」を、非上場企業版に置き直してみよう】
 著者が示す「CFOの10の責任領域」を『非上場企業版「CFO思考」』に書き直してみました(次表)。非上場企業の「CFO」は、企業成長をもたらす戦略・戦術実施の「火付け役」、戦略・戦術を実行する為の社内組織・アウトソーシング組織の「結節点」としての役割を果たすことが期待されます。

非上場企業版「CFO思考

鮮明画像(pdf)

http://glomaconj.com/joho/blog/sakai20231226-ver2cfo.pdf

(注)「説明を要する英語略記」の脚注
CSV:Creating Shared Value(共創価値;詳細は下記URL記事を参照下さい。)
https://ameblo.jp/keieishi17/entry-12147257165.html?frm=theme
ROIC逆ツリーによるKPI(詳細は下記URL pdfの3Pを参照下さい。)
http://www.glomaconj.com/joho/blog/sakaisensei20210928omron.pdf
CSA:Control Self-Assessment(社員自らが監査手続きに加わり、内部監査を行い、評価・課題発見・解決する監査方法。)

 

【その他の「CFO思考」について】
 以上の他、紹介本には貴社の「CFO思考」を刺激する素材が多くあります。是非、ご一読下さい。

本

■ 『非上場企業版「CFO思考」』で成長を(むすび)
 アニマルスピリッツに促された企業価値向上と企業成長を目指す「CSO思考」は非上場企業にとっても有益です。
 非上場企業におけるCFOの役割は、経理部門のDirectorが務めてもいいですし、Chairman・Presidentが兼務しても良いです。大事なことは『非上場企業版「CFO思考」』を実践することです。
 社員・社会を幸せにしたいという「アニマルスピリッツ」を持って、10の責任領域を、“自社流”の『非上場企業版「CFO思考」』で満たし、実践してみませんか。

本

【酒井 闊プロフィール】

 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。
 企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。

  https://www.jmca.or.jp/member_meibo/2091/

  http://sakai-gm.jp/index.html

【 注 】  著者からの原稿をそのまま掲載しています。読者の皆様のご判断で、自己責任で行動してください。

本

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【経営コンサルタントのお勧め図書】「history」から学ぶ  大東亜戦争へ至る歴史 2311

2023-11-28 06:36:00 | 【経営】 経営コンサルタントの本棚

本  【経営コンサルタントのお勧め図書】「history」から学ぶ  大東亜戦争へ至る歴史 2311



経営コンサルタントがどのような本を、どのように読んでいるのかを教えてください」「経営コンサルタントのお勧めの本は?」という声をしばしばお聞きします。


 日本経営士協会の経営士・コンサルタントの先生方が読んでいる書籍を、毎月第4火曜日にご紹介します。


 


 【経営コンサルタントの本棚】は、2012年に、経営コンサルタントがどのような書籍を読んでいるのか知りたいという、ブログ読者の声を反映して企画いたしました。


 幸い、日本で最初に創設された経営コンサルタント団体である日本経営士協会には優秀な経営士・コンサルタントがいらっしゃるので、その中のお一人である酒井闊先生にお声をかけましたところ、ご協力いただけることになりました。


 それが、今日まで継続されていますので、10年余もの長きにわたって、皆様にお届けできていることに誇りを持っています。


本


■    今日のおすすめ


『(増補版)「大東亜戦争へ至る歴史」国際的視点から戦争の誘因を探る』


                    (斎藤 剛著 株式会社22世紀アート)



本


■ 「大東亜戦争へ至る歴史」が追究する「真実な歴史」(はじめに) 


  紹介本との出会いは、友人の元千葉文化振興財団理事長で近現代史研究家の著者が紹介本を出版したとの情報を得たことでした。早速手に取って読みました。
 驚いたことがあります。それは著者の視点です。単なる史実(歴史の事実)に止まらず、歴史の探求(history)をnarrativeに語り、その語り方はX軸(「通史」の軸)・Y軸(国際的視点と地政学的視点)・Z軸(関係する個人個人の人間力)の立体軸で語っていることです。X軸の時間軸については、幕末まで遡り、大東亜戦争に至る思想的背景を探索しています。Y軸については、著者の得意とする西洋史観により、日本と世界のシナジーを「歴史綜合」的に語っています。X軸については、史実に係ったリーダーの人間力の良し悪しが歴史の良否を決めていることを解説します。最も貴重なことは、「ファクトに基づく真実」を追及していることです。
 ファクトに基づく真実の例として『「大東亜戦争」と「太平洋戦争」の違い』があります。戦後1945年12月、GHQは「大東亜戦争」の用語を禁止しGHQが創った「太平洋戦争」の用語を使うよう指令を出します。著者は、「日米開戦の原因は、戦略的・意図的に日本を開戦に引込んだ、アメリカにある」とします。GHQは「悪いのは日本の軍部であるという史観」を押付けるために、「太平洋戦争」の用語を使うよう指令したのです。本欄では、日米戦争の呼称を、幕末から連綿と続くアジア主義(アジアとの連携を求める)に基づき、アジアに於ける「欧米列強の植民地主義に終止符を打った(アーノルド・トインビー)」という戦争の本質を現し、史実的に正しい、「大東亜戦争」の用語を使います。
 なお、本欄で「history」を用いる意義は、語源のギリシア語historia(探究)の意味と著者の意図の合致を強調したいからです。「historia」の意味は『歴史は単に人間世界で生起する史実の連続や全体像を語るのではなく,その史実の持つ意味・示唆を探究することである』です。
 紹介本からの多くの新しい発見に基づき、次項で『「大東亜戦争へ至る歴史」の「history」から学ぶ「経営」への示唆』を記させて頂きます。


本


■ 「大東亜戦争へ至る歴史」の「history」から学ぶ「経営」への示唆』


【「日米開戦の双方の戦略の巧拙」から学ぶ「経営戦略のあり方」】
 紹介本から日米開戦における日米の戦略の巧拙を見ることが出来ます。日米の戦略の巧拙を『「戦略ストーリーの5C理論〔注1〕」と「戦略ストーリーの“骨法(根本)10か条”理論〔注2〕」-楠木健「ストーリーとしての競争戦略」より-』から分析してみましょう。
 米国大統領ルーズベルトの戦略は、5C、10カ条全てを満たしています。それに対し、日本の真珠湾奇襲戦略(山本五十六連合艦隊司令長官と永野軍令部総長〈東条内閣〉が遂行)は、著者の表現『日本軍は作戦偏重で戦術には優れていても、経済、輸送・兵站などトータルな戦略を立てる システムも人材も不足していた』の通り、『長期戦では負けるとの認識による「短期決戦に勝利し講和に持ち込む」』というCompetitive Advantage(競争優位)だけに止まり、残りの4Cは欠けているのです。
 さらに言えば、日米双方の一番の戦略上の相違は、戦略における「クリティカルな検証(10カ条の③)」です。ルーズベルトの最大の「懸念」は1940年11月の大統領選における公約である「皆さんのご子息を決して海外の戦争に送らない」でした。ルーズベルトは、宣戦布告(日本外務省のミス?)もない真珠湾奇襲攻撃を事前に察知しながら、敢えて甚大な被害を受入れ、日本に真珠湾奇襲攻撃をさせ、それを「無通告のだまし討ち」とアメリカ国民と全世界に訴え、国民世論を味方につけ「議会の日本への宣戦布告決議」へと繋げていくのです。ルーズベルトはこの「懸念」をクリティカルな課題として持ち続け真珠湾奇攻撃を活用し「懸念」をクリアーしたのです。
 ルーズベルトは英国首相チャーチルの要請を受けたドイツ戦への参戦の機会を懸命に創ろうとしていましたが、日本の真珠湾奇攻撃により、大統領選での公約て「懸念」がクリアー出来、ノルマンディー上陸作戦(1944年6月6日)に向けて走るのです。
 一方日本は、「短期決戦に勝利し講和に持ち込む」戦略が失敗した場合の次の戦略は全くなく、ミッドウエー海戦以降負け続け、敗戦に至るのです。「クリティカルな検証(10カ条の③)」の欠落により、失敗する確率の高さを考慮しないまま開戦した日本の戦略上の誤りは明らかです。



〔注1〕5Cとは:
  ① Competitive Advantage(競争優位)戦略の最終的な帰結論理。起承転結の結。
  ② Concept(コンセプト))戦略目的の設定。起承転結の起。
  ③ Components(構成要素)ライバルとの差異化・差別化。起承転結の承。
  ④ Critical Core(クリティカル・コア)独自性と一貫性の源泉となる戦略の中核的な構成要素。起承転結の転。
  ⑤ Consistency(一貫性)構成要素をつなぐ因果論理。戦略ストーリーの評価基準。〔注1の補足〕5Cと起承転結:
  ² 『起』は「コンセプト」です。コンセプトを具体的な「構成要素」にブレイクダウンするのが『承』です。構成要素が相互に繋がることによって「競争優位」を確立し、戦略目的を達成・持続します。これが『結』です。そして『転』は全ての「構成要素」を実現可能にする「クリティカル・コア」です。「コンセプト」と「クリティカル・コア」が戦略の良否を左右する重要なカギとなります。「一貫性」は戦略の評価・検証基準。
〔注1〕「スターバックスの戦略ストーリーにおける『5C』」




〔注2〕10カ条とは:
  ① エンディングから考える。   ⑥失敗を避けようとしない。
  ② 普通の人々の本性を直視する。 ⑦賢者の盲点を衝く。
  ③ 悲観主義で論理を詰める。   ⑧競争他社に対してオープンに構える。
  ④ 物事が起きる順序にこだわる。 ⑨抽象化で本質をつかむ。
  ⑤ 過去から未来を構想する。   ⑩思わず人に話したくなる話をする。



【その他の学び】
 上述以外に、『大東亜戦争の開戦に繋がる「外交の失敗」から学ぶ』など、著書から多くの新しい発見が有りました。



■ 「歴史の持つ意味・示唆」に注目しよう(むすび)
 「大東亜戦争に至る歴史」の「history」から、経営への示唆を見てきました。これからも『歴史の持つ「経営」への意味・示唆』に注目していきたいです。


本


【酒井 闊プロフィール】


 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。
 企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。


  https://www.jmca.or.jp/member_meibo/2091/


  http://sakai-gm.jp/index.html


【 注 】  著者からの原稿をそのまま掲載しています。読者の皆様のご判断で、自己責任で行動してください。


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【経営コンサルタントのお勧め図書】「history」から学ぶ 大東亜戦争へ至る歴史 2311

2023-11-28 06:06:00 | 【経営】 経営コンサルタントの本棚

本  【経営コンサルタントのお勧め図書】「history」から学ぶ  大東亜戦争へ至る歴史 2311



経営コンサルタントがどのような本を、どのように読んでいるのかを教えてください」「経営コンサルタントのお勧めの本は?」という声をしばしばお聞きします。


 日本経営士協会の経営士・コンサルタントの先生方が読んでいる書籍を、毎月第4火曜日にご紹介します。


 


 【経営コンサルタントの本棚】は、2012年に、経営コンサルタントがどのような書籍を読んでいるのか知りたいという、ブログ読者の声を反映して企画いたしました。


 幸い、日本で最初に創設された経営コンサルタント団体である日本経営士協会には優秀な経営士・コンサルタントがいらっしゃるので、その中のお一人である酒井闊先生にお声をかけましたところ、ご協力いただけることになりました。


 それが、今日まで継続されていますので、10年余もの長きにわたって、皆様にお届けできていることに誇りを持っています。


本


■    今日のおすすめ


『(増補版)「大東亜戦争へ至る歴史」国際的視点から戦争の誘因を探る』


                    (斎藤 剛著 株式会社22世紀アート)



本


■ 「大東亜戦争へ至る歴史」が追究する「真実な歴史」(はじめに) 


  紹介本との出会いは、友人の元千葉文化振興財団理事長で近現代史研究家の著者が紹介本を出版したとの情報を得たことでした。早速手に取って読みました。
 驚いたことがあります。それは著者の視点です。単なる史実(歴史の事実)に止まらず、歴史の探求(history)をnarrativeに語り、その語り方はX軸(「通史」の軸)・Y軸(国際的視点と地政学的視点)・Z軸(関係する個人個人の人間力)の立体軸で語っていることです。X軸の時間軸については、幕末まで遡り、大東亜戦争に至る思想的背景を探索しています。Y軸については、著者の得意とする西洋史観により、日本と世界のシナジーを「歴史綜合」的に語っています。X軸については、史実に係ったリーダーの人間力の良し悪しが歴史の良否を決めていることを解説します。最も貴重なことは、「ファクトに基づく真実」を追及していることです。
 ファクトに基づく真実の例として『「大東亜戦争」と「太平洋戦争」の違い』があります。戦後1945年12月、GHQは「大東亜戦争」の用語を禁止しGHQが創った「太平洋戦争」の用語を使うよう指令を出します。著者は、「日米開戦の原因は、戦略的・意図的に日本を開戦に引込んだ、アメリカにある」とします。GHQは「悪いのは日本の軍部であるという史観」を押付けるために、「太平洋戦争」の用語を使うよう指令したのです。本欄では、日米戦争の呼称を、幕末から連綿と続くアジア主義(アジアとの連携を求める)に基づき、アジアに於ける「欧米列強の植民地主義に終止符を打った(アーノルド・トインビー)」という戦争の本質を現し、史実的に正しい、「大東亜戦争」の用語を使います。
 なお、本欄で「history」を用いる意義は、語源のギリシア語historia(探究)の意味と著者の意図の合致を強調したいからです。「historia」の意味は『歴史は単に人間世界で生起する史実の連続や全体像を語るのではなく,その史実の持つ意味・示唆を探究することである』です。
 紹介本からの多くの新しい発見に基づき、次項で『「大東亜戦争へ至る歴史」の「history」から学ぶ「経営」への示唆』を記させて頂きます。


本


■ 「大東亜戦争へ至る歴史」の「history」から学ぶ「経営」への示唆』


【「日米開戦の双方の戦略の巧拙」から学ぶ「経営戦略のあり方」】
 紹介本から日米開戦における日米の戦略の巧拙を見ることが出来ます。日米の戦略の巧拙を『「戦略ストーリーの5C理論〔注1〕」と「戦略ストーリーの“骨法(根本)10か条”理論〔注2〕」-楠木健「ストーリーとしての競争戦略」より-』から分析してみましょう。
 米国大統領ルーズベルトの戦略は、5C、10カ条全てを満たしています。それに対し、日本の真珠湾奇襲戦略(山本五十六連合艦隊司令長官と永野軍令部総長〈東条内閣〉が遂行)は、著者の表現『日本軍は作戦偏重で戦術には優れていても、経済、輸送・兵站などトータルな戦略を立てる システムも人材も不足していた』の通り、『長期戦では負けるとの認識による「短期決戦に勝利し講和に持ち込む」』というCompetitive Advantage(競争優位)だけに止まり、残りの4Cは欠けているのです。
 さらに言えば、日米双方の一番の戦略上の相違は、戦略における「クリティカルな検証(10カ条の③)」です。ルーズベルトの最大の「懸念」は1940年11月の大統領選における公約である「皆さんのご子息を決して海外の戦争に送らない」でした。ルーズベルトは、宣戦布告(日本外務省のミス?)もない真珠湾奇襲攻撃を事前に察知しながら、敢えて甚大な被害を受入れ、日本に真珠湾奇襲攻撃をさせ、それを「無通告のだまし討ち」とアメリカ国民と全世界に訴え、国民世論を味方につけ「議会の日本への宣戦布告決議」へと繋げていくのです。ルーズベルトはこの「懸念」をクリティカルな課題として持ち続け真珠湾奇攻撃を活用し「懸念」をクリアーしたのです。
 ルーズベルトは英国首相チャーチルの要請を受けたドイツ戦への参戦の機会を懸命に創ろうとしていましたが、日本の真珠湾奇攻撃により、大統領選での公約て「懸念」がクリアー出来、ノルマンディー上陸作戦(1944年6月6日)に向けて走るのです。
 一方日本は、「短期決戦に勝利し講和に持ち込む」戦略が失敗した場合の次の戦略は全くなく、ミッドウエー海戦以降負け続け、敗戦に至るのです。「クリティカルな検証(10カ条の③)」の欠落により、失敗する確率の高さを考慮しないまま開戦した日本の戦略上の誤りは明らかです。



〔注1〕5Cとは:
  ① Competitive Advantage(競争優位)戦略の最終的な帰結論理。起承転結の結。
  ② Concept(コンセプト))戦略目的の設定。起承転結の起。
  ③ Components(構成要素)ライバルとの差異化・差別化。起承転結の承。
  ④ Critical Core(クリティカル・コア)独自性と一貫性の源泉となる戦略の中核的な構成要素。起承転結の転。
  ⑤ Consistency(一貫性)構成要素をつなぐ因果論理。戦略ストーリーの評価基準。〔注1の補足〕5Cと起承転結:
  ² 『起』は「コンセプト」です。コンセプトを具体的な「構成要素」にブレイクダウンするのが『承』です。構成要素が相互に繋がることによって「競争優位」を確立し、戦略目的を達成・持続します。これが『結』です。そして『転』は全ての「構成要素」を実現可能にする「クリティカル・コア」です。「コンセプト」と「クリティカル・コア」が戦略の良否を左右する重要なカギとなります。「一貫性」は戦略の評価・検証基準。
〔注1〕「スターバックスの戦略ストーリーにおける『5C』」




〔注2〕10カ条とは:
  ① エンディングから考える。   ⑥失敗を避けようとしない。
  ② 普通の人々の本性を直視する。 ⑦賢者の盲点を衝く。
  ③ 悲観主義で論理を詰める。   ⑧競争他社に対してオープンに構える。
  ④ 物事が起きる順序にこだわる。 ⑨抽象化で本質をつかむ。
  ⑤ 過去から未来を構想する。   ⑩思わず人に話したくなる話をする。



【その他の学び】
 上述以外に、『大東亜戦争の開戦に繋がる「外交の失敗」から学ぶ』など、著書から多くの新しい発見が有りました。



■ 「歴史の持つ意味・示唆」に注目しよう(むすび)
 「大東亜戦争に至る歴史」の「history」から、経営への示唆を見てきました。これからも『歴史の持つ「経営」への意味・示唆』に注目していきたいです。


本


【酒井 闊プロフィール】


 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。
 企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。


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【 注 】  著者からの原稿をそのまま掲載しています。読者の皆様のご判断で、自己責任で行動してください。


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【経営コンサルタントのお勧め図書】「新冷戦時代」の世界を見る 断末魔の数字が証明する「中国経済崩壊宣言!」 2310

2023-10-24 08:06:00 | 【経営】 経営コンサルタントの本棚

本  【経営コンサルタントのお勧め図書】「新冷戦時代」の世界を見る 断末魔の数字が証明する「中国経済崩壊宣言!」 2310


 



経営コンサルタントがどのような本を、どのように読んでいるのかを教えてください」「経営コンサルタントのお勧めの本は?」という声をしばしばお聞きします。


 日本経営士協会の経営士・コンサルタントの先生方が読んでいる書籍を、毎月第4火曜日にご紹介します。


 


 【経営コンサルタントの本棚】は、2012年に、経営コンサルタントがどのような書籍を読んでいるのか知りたいという、ブログ読者の声を反映して企画いたしました。


 幸い、日本で最初に創設された経営コンサルタント団体である日本経営士協会には優秀な経営士・コンサルタントがいらっしゃるので、その中のお一人である酒井闊先生にお声をかけましたところ、ご協力いただけることになりました。


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本


■    今日のおすすめ


『断末魔の数字が証明する「中国経済崩壊宣言!」』


                    (高橋洋一 石平著(対談) ビジネス社)



本


■ 中国の動向から「新冷戦時代」の世界のトレンドを見る(はじめに)
 


 紹介本は、著者の高橋洋一と石平の対談(2023年7月)を文字起しして、2023年8月1日に出版されたものです。執筆本と比較すれば、速報性抜群と言えましょう。9月の紹介本『「新冷戦の勝者になるのは日本」(中島 精也著 講談社α新書)』の続編として、中国の動向から、「新冷戦時代」の世界を見てみましょう。

【でたらめな中国政府の統計からではなく、「データ」から見る中国経済】
 著者の石平は『でたらめな中国政府の統計からではなく、「資料やデータ」から判断』すると言います。同時に、対談形式で、石平の「資料やデータ」に基づき、経済学者の高橋洋一が解説します。中国情勢に精通している石平のデータと高橋洋一のファクト・チェック解説で「新冷戦時代」の中国と世界を、『「ファクト」から「正しく」』読み取ることが出来ます。

【中国の経済の実態・真実を次項で見てみましょう】
 民主主義と専制国家の2つのブロックに分断される「新冷戦時代」の専制国家側の主要国である中国の経済の実態・真実を『「ファクト」から「正しく」』次項で見てみましょう。
本
■「新冷戦時代」の中国で起こっていること

【「税収」マイナスは、経済成長もマイナス】
 中国統計局の発表によれば、GDP(前年同期比)は、2023年1-3月(第一4半期)は+4.5%でした。
 一方、これに対し石平のデータによれば、中国財務部発表の第一4半期の「全体税収」は▼1.4%でした。内訳では、「増値税(日本の消費税)」は▼22.2%、「車両購入税」は▼23.3%、「証券交易印紙税(株の売買にかかる税金)」は▼52.8%、「関税収入」は▼19.9%でした。この期間の税率の変更は無いので、数量の減少でしかありません。これらの数値から、石平と高橋は、「財務部の数字は予算執行と係るので信憑性が高いとして、どう考えてもマイナス成長」と判断します。

【「貿易統計」から中国経済の実態をつかむ】
 高橋は言います。「貿易統計はWTO加盟から、相手国との数字合わせをするので統計局の発表する数字で唯一信用できる数字」と。
 因みに、2023年1-3月(第一4半期)の前年比は、輸出総額▼2.9%、輸入総額▼7.1%でした。「マイナス成長っぽい」ですね。

【「オークンの法則」から世界で唯一外れている中国「統計の真偽」】
 実質GDP成長率が上昇すると、失業率は低下するという逆相関関係の「オークンの法則」が有ります。1962年、アーサー・オークンの提唱した理論で、経験則と言われるくらい的中率の高い理論です。
 中国統計局発表の2023年第一4半期の失業率は5.5%です。2019年から2023年は5.2~5.6%の範囲で動いています。
 統計局は別途に、2023年3月の16歳-24歳の若年者失業率が19.7%(6月21.3%)と発表しています。統計局は通常失業者数の詳細は公表しませんが、若年失業率の上昇に社会の関心が集まった今春、3月分の詳細なデータを明らかにしました。それは、3月の16〜24歳の就業者数は2587万人、失業者数は632万人、職探しをしていない非労働力人口は6418万人でした。失業率は632万人÷(632万人+2587万人)×100=19.6%と公表数字とほぼ一致します。
 一方、上記の定義による失業率とは別に、北京大の張副教授は、公表の非労働力人口から学生・研究者などの在校生4800万人を差し引いた「隠れ失業者」「慢就業者(卒業後も慌てずにゆっくりと仕事を探して就職する)」は1600万人と推計し、加算し、潜在的な若年失業率を46.5%と推計します。若年失業率の上昇要因は、製造業の低迷、家庭教師規制やデジタルプラットフォーム規制などの規制強化などが指摘されています。(『「財新」から削除された北京大の張副教授研究発表』及び『日経電子版2023.7.31』より)
 統計局の若年失業率(定義の)は、コロナ化前(2018~19年)の10%から倍増しています。「オークンの法則」から、若年失業者の著しい増加とGDP+4.5%に大きな矛盾が有りそうです。因みに中国国家統計局は8月15日、若年失業率の公表を一時停止すると発表しています。

【「投資の誘い」と「反スパイ法」から見る中国政策の矛盾“FDI(Foreign Direct Investment;対内・対外直接投資)統計に現れている”】
 石平は語ります。『2023年7月1日から施行された「反スパイ法」により、「誰でもいつでもスパイにされる」時代が始まりました。外国人としては「中国に行かない」ことが身を守る唯一の方法です』と。
 高橋洋一は語ります。『外資に中国への投資を呼びかけながら、反スパイ法で外資を追い出している。ブレーキとアクセルを一緒に踏んでいる矛盾が中国では成り立つのです。日本企業も中国に幻想を抱いてはいけません。なるべく中国から早く帰ってくるしかありません』と。
 このような状況が、FDI(Foreign Direct Investment;中国への直接投資及び中国からの対外投資)の統計に現れています。中国国家外貨管理局(SAFE)の統計によると、2023年4-6月のFDIは、対内投資(流入)が49億ドル、対外投資(流出)が390億ドルと純流出341億ドルとなりました。嘗ては500~1000億ドルの純流入であったことを考慮するとかなり大きな変化です。(2023.8.7 REUTERSニュースより)

【中国経済は「胸突き八丁」を迎えている】
 高橋洋一は、紹介本の「おわりに」で、次の様に締めます。『中国は2019年に一人当たりGDPが1万ドルに達し、最近は1万2000ドルになった。中国の民主主義指数は1.94と167ヶ国中156位(2022年)であり、民主主義指数が6程度以下の国は、一人当たりGDPは1万ドルに達しないという「中所得国の罠」の経験則からして、中国経済は胸突き八丁を迎えている。中国崩壊論はこれから現実味を帯びてくる。短期的ではなく、10年単位の長期的視点で見ていく必要がある』と。
 高橋洋一は上記を、2023.4.26zakzakで、端的・具体的に次の様に表現をしています。『現在の中国の人口は約14億人なので、GDPは14兆ドル。今後25年で人口は13億人となり、1人当たりGDPも頭打ちの公算が大きい。GDPは13兆ドル程度から大きく増加することはないだろう』と。
本
■「新冷戦時代」世界はどうなる!?(むすび)
  民主主義と専制国家の2つのブロックに分断される「新冷戦時代」の専制国家側の主要国である中国の経済状況を見てきました。先行きは不透明ですが、明確に言えることは、民主義国側から見て投資の魅力が急激に落ちてきていることです。
 グローバル・サプライチェーンを見直し、リ・ショアリング(国内回帰)、ニア・ショアリング(近隣友好国への工場移転)、フレンド・ショアリング(米提唱のIPEFなど)の構築が喫緊の課題になるのではないでしょうか。


本


【酒井 闊プロフィール】


 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。
 企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。


  https://www.jmca.or.jp/member_meibo/2091/


  http://sakai-gm.jp/index.html


【 注 】  著者からの原稿をそのまま掲載しています。読者の皆様のご判断で、自己責任で行動してください。


本


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 経営コンサルタントを目指す人の多くが見るというサイトです。経営コンサルタント歴半世紀の経験から、経営コンサルタントのプロにも役に立つ情報を提供しています。

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【経営コンサルタントのお勧め図書】「貧しい国」日本から脱却 給料の上げ方 2308

2023-08-22 07:46:00 | 【経営】 経営コンサルタントの本棚

本  【経営コンサルタントのお勧め図書】「貧しい国」日本から脱却 給料の上げ方 2308

 

経営コンサルタントがどのような本を、どのように読んでいるのかを教えてください」「経営コンサルタントのお勧めの本は?」という声をしばしばお聞きします。

 日本経営士協会の経営士・コンサルタントの先生方が読んでいる書籍を、毎月第4火曜日にご紹介します。

 

 【経営コンサルタントの本棚】は、2012年に、経営コンサルタントがどのような書籍を読んでいるのか知りたいという、ブログ読者の声を反映して企画いたしました。

 幸い、日本で最初に創設された経営コンサルタント団体である日本経営士協会には優秀な経営士・コンサルタントがいらっしゃるので、その中のお一人である酒井闊先生にお声をかけましたところ、ご協力いただけることになりました。

 それが、今日まで継続されていますので、10年余もの長きにわたって、皆様にお届けできていることに誇りを持っています。

 

本

■    今日のおすすめ

『給料の上げ方』

                    (デービッド・アトキンソン著 東洋経済新報社)

本

■世界第3位の「経済大国」日本は、「貧しい国」?(はじめに)

 紹介本の著者は、在日30年のイギリス人で、現在は京都にある小西美術工芸社の社長です。ゴールドマンサックス(日本)のアナリストなども歴任し、日本は勿論、イギリス、世界の経済、文化について深い洞察力を持っている経営者・学者です。菅政権においては成長戦略会議議員を勤めています。

 この著者の衝撃的な一言は、驚きと同時に、私の認識の甘さを覚えました。次がその一言です。「日本は世界第3位の『経済大国』。しかし一人当たりGDPでは世界35位、一人当たり労働生産性では世界39位、G7では何れも最下位(2021年)。チェコ、スロベニアなど日本と同じ順位のグループはつい最近まで中進国とみなされていた国ばかり。日本は、国民一人一人が決して豊かではない『貧しい国』である。」(OECD 38ヶ国中では、一人当たり労働生産性は29位と下位グループ〔図1〕。)

図1 pdfファイル ↓

http://glomaconj.com/joho/blog/sakai20230822kyuryounoagekata.pdf

 一人当たりGDPは次の式で表されます〔一人当たりGDP=GDP/人口=GDP/労働者×労働者/人口=一人当たり労働生産性×労働参加率〕。つまり、生産年齢人口が減少する中、高齢者と女性の就業者の増加により労働参加率の順位は横ばいですが、一人当たり労働生産性の順位は下がり続けています。〔図1〕を参照ください。

 ここで注意しておきたいのは、著者の言う『貧しい国』は、絶対的ではなく相対的なものだということです。〔図1〕を見ると、日本の順位(OECD)は1998年から2017年までの過去20年間21位前後で推移してきましたが、2018年は25位、2019年は26位、2020年28位2021年29位と急速に順位を下げています。〔注1〕のレポートにある様に、OECD 38ヶ国の中で、日本だけが停滞している間に、2019年には、レポートにある5か国に抜かれ26位に順位が下がりました。また、2021年にはポーランド、リトアニア、エストニアに抜かれ29位に落ちてしまったのです。

 〔注1〕「2015年から2019年まで4年間の一人当たり労働生産性の上昇幅は、日本が+1.2%に対して、トルコが+10.5%、スロベニアが+22.4%、チェコが+23.6%、韓国が+18.0%、ニュージランドが+12.3%となっている。4年前には10%以上もあった日本との乖離を埋められて逆転してしまった(第一生命経済研究所レポート2021.5.13より)。」

 この様に日本だけが伸び悩んでいる状況を変革し、「貧しい国」から「豊かな国」へ歩む道筋を、著者が示しています。

 著者の提言のポイントは「付加価値を上げる」「給料を上げる」の2点です〔注2〕。それは経営者、従業員双方の意識・行動変革により実現できるとします。次項で提言の一部をご紹介します。

 〔注2〕次の式から「付加価値」と「給料」の連関性を見て下さい。「一人当たり賃金(総賃金/従業員)=一人当たり労働生産性(付加価値/従業員)×労働分配率(総賃金/付加価値)。」日本の労働分配率は世界平均水準ですから、課題は一人当たり労働生産性「付加価値」を上げ、その上で、一人当たり「給料」を上げることです。

本

■「貧しい国」から脱却し「豊かな国」に向かうロードマップ

【目指す賃上げの水準ー年率4.2%以上-】

 著者は2種類の賃上げについて言及しています。

 一つがベース・アップ(含む初任給アップ)です。人口減少を考慮した場合、貧困化しないためには、2022年のGDPを生産年齢人口で割った一人当たり労働生産性(742万円)を2022年のGDPを2060年の生産年齢人口で割った一人当たり労働生産性(1,258万円)まで高め、GDPを2022年レベル以上とする必要があり、その為には、毎年、年率+1.4%以上〔注3〕のベース・アップと生産性の向上が必要とします。

 二つ目は定期昇給です。給与の上昇は52歳まで上昇し、年率+2.8%です(全国平均。厚労省データ)。この部分の企業の総支給額は変わりません。定年制により入れ替わるだけで企業視点での支給総面積は不変だからです。

 この二つを合わせると+4.2%です。これに実質賃金をマイナスにしないためにはインフレ率の上乗せが必要です。日銀が目指すインフレ目標2%を考慮すると+6.2%になります。

 〔注3〕著者は+1.4%の数字を算出する前提として、2060年の生産年齢人口を4,418万人(社会保障・人口問題研究所2012年1月推計〈出世中位、死亡中位〉)を使っています。2023年4月推計の5,078万人を使うと+1.1%となります(筆者コメント)。

【一人一人の行動で、給料を上げよう―従業員として取るべき行動―】

 著者は日本以外の多くの国で給与水準が上がっているのに対し、日本では30年間ほとんど上がっていない理由を2つ挙げています。一つは一人当たりの付加価値つまり労働生産性がほとんど上がっていないことです。二つ目はOECDの国では7割以上の労働者が給料を上げてもらう給料交渉をしますが、日本では給与交渉をする労働者は3割に止まっています。

 著者は、日本でも「1年に1回、経営者と社員がひざ詰めで面談し、従業員側の希望・要望・不満を聞き取り、給与の妥当性についても意見交換をすべき」と強調します。

 これからの人口減少時代には、給料を上げられない企業は、労働者から選択されず、雇用を確保できなくなると指摘します。経営者も労働者も給料を上げ続けることが出来る企業に変革する行動と実現を、真剣に求めていくべき時代なのです。

【従業員から「見限られる社長」ではなく「ついていくべき社長」になる

-経営者のとるべき行動ー】

 上述のとおり「労働者から選択される」企業でなければ、雇用を確保できない時代であることを認識し、経営者としての在り方を「ついていくべき社長の5つの特徴」として提言しています。是非、紹介本をお読み下さい。

【より付加価値の高いものをより高く売るー経営者、従業員の共通の行動-】

 経営者・従業員の共通課題は付加価値の向上です。給料の引き上げ以上の付加価値を生み出すことが必須です。「より付加価値の高いものをより高く売る」を常に考え、行動・実現していくことが必要です。真剣に取り組めば、必ず結果が出ます。

本

■「労働生産性」が今のままだと日本は崩壊する。今こそチャンス!(むすび)

 2023.4.26国立社会保障・人口問題研究所〈出生中位・死亡中位〉の人口推計によれば、生産年齢人口(15~64歳)は、2022年7,417万人、2060年は5,078万人(22年比▼32%)です。一方高齢者(65歳以上)は、3,605万人と3,643万人(22年比+1%)です。

 2060年のGDPは、GDPが生産労働人口により創出される付加価値との前提に立ち、一人当たり労働生産性と労働参加率が2022年と同じとして、単純計算をすると、2022年の550兆円比▼32%の376兆円となります。一方支える高齢者はほぼ横ばいです。これでは社会の仕組みは崩壊です。

 今、私達はその危機の入り口にいるのです。このGDPのマイナス174兆円(550-376)を、毎年+1.1%(著者の2012年人口推計の場合は+1.4%)の付加価値増加(併せてベースアップ)を、2060年迄の37年間継続して複利的に積み上げることにより、その累積額を以ってカバー出来るのです。こうして、この危機を回避できるのです。

 危機はチャンス。「付加価値」「給料」を上げ、日本を崩壊から救いましょう。

本

【酒井 闊プロフィール】

 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。
 企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。

  https://www.jmca.or.jp/member_meibo/2091/

  http://sakai-gm.jp/index.html

【 注 】  著者からの原稿をそのまま掲載しています。読者の皆様のご判断で、自己責任で行動してください。

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【経営コンサルタントのお勧め図書】ファクトでPESTチェック 高橋洋一2023年版 2307

2023-07-25 12:03:00 | 【経営】 経営コンサルタントの本棚

本  【経営コンサルタントのお勧め図書】ファクトでPESTチェック 高橋洋一2023年版 2307

 

経営コンサルタントがどのような本を、どのように読んでいるのかを教えてください」「経営コンサルタントのお勧めの本は?」という声をしばしばお聞きします。

 日本経営士協会の経営士・コンサルタントの先生方が読んでいる書籍を、毎月第4火曜日にご紹介します。

 

 【経営コンサルタントの本棚】は、2012年に、経営コンサルタントがどのような書籍を読んでいるのか知りたいという、ブログ読者の声を反映して企画いたしました。

 幸い、日本で最初に創設された経営コンサルタント団体である日本経営士協会には優秀な経営士・コンサルタントがいらっしゃるので、その中のお一人である酒井闊先生にお声をかけましたところ、ご協力いただけることになりました。

 それが、今日まで継続されていますので、10年余もの長きにわたって、皆様にお届けできていることに誇りを持っています。

 

本

■    今日のおすすめ

『高橋洋一のファクトチェック2023年版』

                    (高橋洋一著 ワック文庫)

 

 

本

 

■    You Tubeチャネルが、書籍に(はじめに)
 

 紹介本は、You Tubeの「高橋洋一チャネル」の2021年から2023年3月までに配信した中から、40テーマにポイントを絞り、国内経済、国内政治、国際経済、国際政治の四つのジャンルに編成・編集し、書籍にしたものです。
 最近は音声認識を簡単かつ安価に、文字起しを出来る時代になりました。DX時代・SNS時代を象徴する書籍と言えます。
 この書籍の面白いところは、執筆のような文章ではなく、ナラティブな文章であることです。加えて、40テーマが232ページでナラティブされており、1テーマ当り5.8ページで簡潔に語られています。ちょっと一休みし乍ら、PESTのP(政治)とE(経済)のポイントを読み取ることが出来る“コラム”と言えます。
 それでは次項で「ちょっと一休みし乍らの『PEコラム』」の幾つかをご紹介しましょう。
本
■    ちょっと一休みし乍ら「P(政治)E(経済)コラム」をどうぞ

 

【実は日本は黒字なのに赤字に見せたい財務省―国債の仕組みから解説―】
 著者が言う「日本の財政は黒字」を数字で追ってみましょう。著者は国債の仕組みから黒字と説明します。日本国債の残高は1000兆円〈1079。以下〈〉は実数〉、、その内500兆円〈526〉は日銀が保有、残りの500兆円〈553〉は民間が保有する前提で説明します。
 その上で、日銀の保有分について、政府の支払い金利は、日銀から入る収入で支払うのでチャラ。民間の保有分についての金利支払いは、政府が保有する600兆円〈606〉の金融資産などの収入でカバーできるとします。
 加えて、返済・借換については、日銀保有分については借換債を渡すだけで良いし、また、民間分については政府保有金融資産などの処分で、何時でも返済できる状態の中で、借換できるので全く問題ないとします。(〈〉の実数は、令和5年3月財務省主計局「令和3年度『国の財務書類』のポイント」より引用)
 以上収支の面から黒字であることを見てきましたが、連結B/Sの面で見てみましょう。最新の連結B/Sを示す「令和3年度『国の財務書類』」によると、▲571兆円の資産・負債差額です。つまり純資産が赤字だと言っているのです。ここが「赤字に見せたい財務省」のキー数値です。しかし、著者によれば、政府純資産は黒字と主張します。この点についてのIMFの報告を見てみましょう。
 IMFの「Managing Public Wealth oct 2018」(公的機関のバランスシート:対GDP比 2016年)です。〔図1〕を参照ください。

 

図1 拡大(pdf)

 

IMF基準では、中央銀行の国債保有残高は、連結では相殺されるのです。IMF基準では、日本の純資産の赤字は3兆円。G7の中で、日本はカナダに次いで財政状態が良いのです(イタリアの日本以下は別途確認)。
 この点について著者は、外為特別会計の含み益23兆円や埋蔵金を加味すれば純資産はトントンないしはプラスとし、財務省の、赤字を強調し実態を明らかにしない姿勢に疑問を投げかけています。
 

【アベノミクス潰えて失われた20年がやってくる】
 日本の金融政策は、金融緩和を行うとインフレ率が上がり失業率が下がる「フィリップス曲線」理論と、インフレ率を上げても失業率が下がらない失業率の最低ラインNAIRU(自然失業率=完全雇用下における理論的失業率;〈注2〉)の考え方が背景にあります。現在は、安定的な経済成長と雇用状況(失業率と実質賃金)を目標に、NAIRUを2.5%、NAIRUを実現する安定的目標インフレ率を2%として金融緩和を継続しています。〈注2〉
 直近の、インフレ率(消費者物価とGDPデフレーター)、失業率、実質賃金について見てみましょう。2023年4月の消費者物価の前年比は、コアコア(除く生鮮食品・エネルギー)で+4.1%です。失業率は、2022年通年は2.6%、2023年1月は2.4%、2月2.6%、3月2.8%、4月2.6%です。実質賃金の前年比は、2022年▲1.0、2023年1月▲4.1%、2月▲2.9%、3月▲2.3%です。12か月連続のマイナスです。GDPデフレーターの前年比は、2022年は+0.2%、2023年1~3月期は+2.0%です。(GDPデフレーター=名目GDP÷実質GDP:GDPに計上される全ての財・サービスを含むため、消費者物価指数よりも包括的な物価指標と言えます。)
 著者は今の状況について次の様に説明しています。「見かけ上はインフレ目標を達成したように見えるけれど、GDPデフレーターで見ると達成していませんから、こういう時には積極財政と金融緩和が必要ですよ」「インフレ目標のターゲットに到達していないのに増税なんかすると、もう1回、失われた20年が来るかもしれない。」
 今後の金融政策の動向には、実質賃金のプラス圏での安定的な伸びとGDPデフレーターに注目したいですね。
 

【ようやく30年前に戻れたのに、円安の何が悪い?】
 著者は日経新聞の「悪い円安論」を次のように解説します。「日経新聞は円安だ!大変だ!と騒いでいた。・・日経がなぜこのようなスタンスをとるのか。それは、厳しい資本規制により、下手をすれば撤退と引き換えに工場からインフラからすべて取り上げられる中国をこれまでずっと押してきた。・・だから円安が悪い悪いと言わざるを得ないんだ。」
 一方、日経新聞は「消えた『悪い円安』、株高との好循環が再び」(2023.5.22日経朝刊)と題し、「2023年1月には、輸出物価が輸入物価を上回り、5月には株価も上昇し、『悪い円安』が消え、好循環がやってきた」とする記事で、辻褄を合わせています。
 最初から「円安の何が悪い」と言っていたのが著者です。著者は経済学と世界のファクトから、通貨安は「近隣窮乏化政策」と、次のように解説します。「通貨安は海外から文句が来ることはあっても、国内から止めることは国益に反する。これは国際機関での経済分析からも知られている。ざっくり言えば、10%の円安でGDPは1%程度高まる。その結果、税収増も望めるので、円安は抑えてはいけない。」(2022.9.8 J-castニュース 著者執筆より)
 間違ったマスコミや世論には左右されず、ファクトに基づく政策が遂行されることを期待したいですね。
 

【環境運動家のグレタちゃんは真っ赤な女の子】
 著者は次の様に語ります。「グレタさんは共産主義に転向したのかって言う人がいるけれど、・・もともとそうだったのが判りますよ。だって世界最大のCO₂排出国・中国のこと何も言わないじゃない。」
 この延長で著者は、環境問題に係る多くの学者・活動家の歴史を語ります。「それは30年前のソ連邦の崩壊に遡ります。ソビエト連邦が崩壊して共産主義の研究が出来なくなり、何をしようかと、かなりの人が環境問題に移ってきたのです。環境問題の延長線上にあるのが、環境問題にビジネス風味を付けたのがSDGsです。環境問題と共産主義の親和性は高いんですよ」と。
 環境問題、SDGsに於いて、資本主義・経済成長にマイナスとなる、原理主義的な側面のあることに注意したいですね。
本

■    知って得する「PEコラム」(むすび)
 一休みし乍らのコラムの散歩は如何でしたか。これからの政治・経済の行方を見るときの参考になるファクトチェックだったのではないでしょうか。
 

本

【酒井 闊プロフィール】

 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。
 企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。

  https://www.jmca.or.jp/member_meibo/2091/

  http://sakai-gm.jp/index.html

 

 

【 注 】  著者からの原稿をそのまま掲載しています。読者の皆様のご判断で、自己責任で行動してください。

本

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 経営コンサルタントを目指す人の多くが見るというサイトです。経営コンサルタント歴半世紀の経験から、経営コンサルタントのプロにも役に立つ情報を提供しています。

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【経営コンサルタントのお勧め図書】ファクトでPESTチェック 高橋洋一2023年版 2307

2023-07-25 08:16:00 | 【経営】 経営コンサルタントの本棚

本  【経営コンサルタントのお勧め図書】ファクトでPESTチェック 高橋洋一2023年版 2307

 

経営コンサルタントがどのような本を、どのように読んでいるのかを教えてください」「経営コンサルタントのお勧めの本は?」という声をしばしばお聞きします。

 日本経営士協会の経営士・コンサルタントの先生方が読んでいる書籍を、毎月第4火曜日にご紹介します。

 

 【経営コンサルタントの本棚】は、2012年に、経営コンサルタントがどのような書籍を読んでいるのか知りたいという、ブログ読者の声を反映して企画いたしました。

 幸い、日本で最初に創設された経営コンサルタント団体である日本経営士協会には優秀な経営士・コンサルタントがいらっしゃるので、その中のお一人である酒井闊先生にお声をかけましたところ、ご協力いただけることになりました。

 それが、今日まで継続されていますので、10年余もの長きにわたって、皆様にお届けできていることに誇りを持っています。

 

本

■    今日のおすすめ

『高橋洋一のファクトチェック2023年版』

                    (高橋洋一著 ワック文庫)

 

 

本

 

■    You Tubeチャネルが、書籍に(はじめに)
 

 紹介本は、You Tubeの「高橋洋一チャネル」の2021年から2023年3月までに配信した中から、40テーマにポイントを絞り、国内経済、国内政治、国際経済、国際政治の四つのジャンルに編成・編集し、書籍にしたものです。
 最近は音声認識を簡単かつ安価に、文字起しを出来る時代になりました。DX時代・SNS時代を象徴する書籍と言えます。
 この書籍の面白いところは、執筆のような文章ではなく、ナラティブな文章であることです。加えて、40テーマが232ページでナラティブされており、1テーマ当り5.8ページで簡潔に語られています。ちょっと一休みし乍ら、PESTのP(政治)とE(経済)のポイントを読み取ることが出来る“コラム”と言えます。
 それでは次項で「ちょっと一休みし乍らの『PEコラム』」の幾つかをご紹介しましょう。
本
■    ちょっと一休みし乍ら「P(政治)E(経済)コラム」をどうぞ

 

【実は日本は黒字なのに赤字に見せたい財務省―国債の仕組みから解説―】
 著者が言う「日本の財政は黒字」を数字で追ってみましょう。著者は国債の仕組みから黒字と説明します。日本国債の残高は1000兆円〈1079。以下〈〉は実数〉、、その内500兆円〈526〉は日銀が保有、残りの500兆円〈553〉は民間が保有する前提で説明します。
 その上で、日銀の保有分について、政府の支払い金利は、日銀から入る収入で支払うのでチャラ。民間の保有分についての金利支払いは、政府が保有する600兆円〈606〉の金融資産などの収入でカバーできるとします。
 加えて、返済・借換については、日銀保有分については借換債を渡すだけで良いし、また、民間分については政府保有金融資産などの処分で、何時でも返済できる状態の中で、借換できるので全く問題ないとします。(〈〉の実数は、令和5年3月財務省主計局「令和3年度『国の財務書類』のポイント」より引用)
 以上収支の面から黒字であることを見てきましたが、連結B/Sの面で見てみましょう。最新の連結B/Sを示す「令和3年度『国の財務書類』」によると、▲571兆円の資産・負債差額です。つまり純資産が赤字だと言っているのです。ここが「赤字に見せたい財務省」のキー数値です。しかし、著者によれば、政府純資産は黒字と主張します。この点についてのIMFの報告を見てみましょう。
 IMFの「Managing Public Wealth oct 2018」(公的機関のバランスシート:対GDP比 2016年)です。〔図1〕を参照ください。

 

図1 拡大(pdf)

 

IMF基準では、中央銀行の国債保有残高は、連結では相殺されるのです。IMF基準では、日本の純資産の赤字は3兆円。G7の中で、日本はカナダに次いで財政状態が良いのです(イタリアの日本以下は別途確認)。
 この点について著者は、外為特別会計の含み益23兆円や埋蔵金を加味すれば純資産はトントンないしはプラスとし、財務省の、赤字を強調し実態を明らかにしない姿勢に疑問を投げかけています。
 

【アベノミクス潰えて失われた20年がやってくる】
 日本の金融政策は、金融緩和を行うとインフレ率が上がり失業率が下がる「フィリップス曲線」理論と、インフレ率を上げても失業率が下がらない失業率の最低ラインNAIRU(自然失業率=完全雇用下における理論的失業率;〈注2〉)の考え方が背景にあります。現在は、安定的な経済成長と雇用状況(失業率と実質賃金)を目標に、NAIRUを2.5%、NAIRUを実現する安定的目標インフレ率を2%として金融緩和を継続しています。〈注2〉
 直近の、インフレ率(消費者物価とGDPデフレーター)、失業率、実質賃金について見てみましょう。2023年4月の消費者物価の前年比は、コアコア(除く生鮮食品・エネルギー)で+4.1%です。失業率は、2022年通年は2.6%、2023年1月は2.4%、2月2.6%、3月2.8%、4月2.6%です。実質賃金の前年比は、2022年▲1.0、2023年1月▲4.1%、2月▲2.9%、3月▲2.3%です。12か月連続のマイナスです。GDPデフレーターの前年比は、2022年は+0.2%、2023年1~3月期は+2.0%です。(GDPデフレーター=名目GDP÷実質GDP:GDPに計上される全ての財・サービスを含むため、消費者物価指数よりも包括的な物価指標と言えます。)
 著者は今の状況について次の様に説明しています。「見かけ上はインフレ目標を達成したように見えるけれど、GDPデフレーターで見ると達成していませんから、こういう時には積極財政と金融緩和が必要ですよ」「インフレ目標のターゲットに到達していないのに増税なんかすると、もう1回、失われた20年が来るかもしれない。」
 今後の金融政策の動向には、実質賃金のプラス圏での安定的な伸びとGDPデフレーターに注目したいですね。
 

【ようやく30年前に戻れたのに、円安の何が悪い?】
 著者は日経新聞の「悪い円安論」を次のように解説します。「日経新聞は円安だ!大変だ!と騒いでいた。・・日経がなぜこのようなスタンスをとるのか。それは、厳しい資本規制により、下手をすれば撤退と引き換えに工場からインフラからすべて取り上げられる中国をこれまでずっと押してきた。・・だから円安が悪い悪いと言わざるを得ないんだ。」
 一方、日経新聞は「消えた『悪い円安』、株高との好循環が再び」(2023.5.22日経朝刊)と題し、「2023年1月には、輸出物価が輸入物価を上回り、5月には株価も上昇し、『悪い円安』が消え、好循環がやってきた」とする記事で、辻褄を合わせています。
 最初から「円安の何が悪い」と言っていたのが著者です。著者は経済学と世界のファクトから、通貨安は「近隣窮乏化政策」と、次のように解説します。「通貨安は海外から文句が来ることはあっても、国内から止めることは国益に反する。これは国際機関での経済分析からも知られている。ざっくり言えば、10%の円安でGDPは1%程度高まる。その結果、税収増も望めるので、円安は抑えてはいけない。」(2022.9.8 J-castニュース 著者執筆より)
 間違ったマスコミや世論には左右されず、ファクトに基づく政策が遂行されることを期待したいですね。
 

【環境運動家のグレタちゃんは真っ赤な女の子】
 著者は次の様に語ります。「グレタさんは共産主義に転向したのかって言う人がいるけれど、・・もともとそうだったのが判りますよ。だって世界最大のCO₂排出国・中国のこと何も言わないじゃない。」
 この延長で著者は、環境問題に係る多くの学者・活動家の歴史を語ります。「それは30年前のソ連邦の崩壊に遡ります。ソビエト連邦が崩壊して共産主義の研究が出来なくなり、何をしようかと、かなりの人が環境問題に移ってきたのです。環境問題の延長線上にあるのが、環境問題にビジネス風味を付けたのがSDGsです。環境問題と共産主義の親和性は高いんですよ」と。
 環境問題、SDGsに於いて、資本主義・経済成長にマイナスとなる、原理主義的な側面のあることに注意したいですね。
本

■    知って得する「PEコラム」(むすび)
 一休みし乍らのコラムの散歩は如何でしたか。これからの政治・経済の行方を見るときの参考になるファクトチェックだったのではないでしょうか。
 

本

【酒井 闊プロフィール】

 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。
 企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。

  https://www.jmca.or.jp/member_meibo/2091/

  http://sakai-gm.jp/index.html

 

 

【 注 】  著者からの原稿をそのまま掲載しています。読者の皆様のご判断で、自己責任で行動してください。

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【経営コンサルタントのお勧め図書】人口減少問題に打ち勝つ 「未来の年表」業界大変化/瀬戸際の日本で起こること 2306

2023-06-27 05:46:00 | 【経営】 経営コンサルタントの本棚

本  【経営コンサルタントのお勧め図書】人口減少問題に打ち勝つ 「未来の年表」業界大変化/瀬戸際の日本で起こること 2306


 



経営コンサルタントがどのような本を、どのように読んでいるのかを教えてください」「経営コンサルタントのお勧めの本は?」という声をしばしばお聞きします。


 日本経営士協会の経営士・コンサルタントの先生方が読んでいる書籍を、毎月第4火曜日にご紹介します。


 


 【経営コンサルタントの本棚】は、2012年に、経営コンサルタントがどのような書籍を読んでいるのか知りたいという、ブログ読者の声を反映して企画いたしました。


 幸い、日本で最初に創設された経営コンサルタント団体である日本経営士協会には優秀な経営士・コンサルタントがいらっしゃるので、その中のお一人である酒井闊先生にお声をかけましたところ、ご協力いただけることになりました。


 それが、今日まで継続されていますので、10年余もの長きにわたって、皆様にお届けできていることに誇りを持っています。


 


本


■    今日のおすすめ


  『「未来の年表」業界大変化/瀬戸際の日本で起こること』


                    (河合雅司著 講談社現代新書)


 



 


本


■ 人口減少は、未来の予測ではなく、確実に到来する確定的事実(はじめに)


 


 「未来の年表」シリーズは、2017年に初本「未来の年表(人口減少でこれから起こること)」が出版され、以降、「未来の年表2(人口減少日本であなたに起こること)」(2018年)、「未来の地図(人口減少日本で各地に起こること)」(2019年)、「未来のドリル(コロナが見せた日本の弱点)」(2021年)が出版されました。
 紹介本はシリーズ本の集大成として2022年12月に出版されました。著者の強調する点は『人口減少は「未来の予測ではなく、確実に到来する、確定的事実」である』及び『今直ちに、「日本人の底力」で対応すれば、衰亡か成長かの瀬戸際で、人口減少に打ち克てる』の2点です。
 それでは、確定的事実の一部を見てみましょう。
【20年後の「20代前半(20歳~24歳)」は▼26.1%】
 20~24歳の人口は、2021年の593万人が2041年には438万人と26.1%減少します。これは確定している事実です。一つの象徴的事実です。企業の活性化を図るには、企業文化・慣習を変えざるを得ないことは自明ではないでしょうか。
【2030年32億トンの需要に対し11億トン(36.0%)は運べない】
 日本ロジスティックシステム協会の報告書では、2015年77万人のドライバーが2030年には52万人と、▼32.3%になるとしています。人口減少後も高齢化要因などで物流需要が2030年には2015年の30億トンから微増の32億トンを見込みます。これに対し、2030年の供給は21億トンと、11億トン(36.0%)が運べない、とレポートしています。
 加えて2024年4月より、労働基準法36条(時間外労働の上限規制)が「自動車運転業務(年間上限960時間)」に適用され、労働時間が制約されます。「2024年問題」として政治的課題になっています。
【最も人手不足の厳しい建設業界に、「2024年問題」が追打ち】
 建設業界の人手不足は、低賃金・長時間労働から常態化しています。因みに2023年2月の厚生労働省の労働経済動向調査における労働者過不足判断D.I.( Diffusion Index〈不足の回答社数百分比)-(過剰の回答社数百分比〉)において56ポイントと、引続き、最も人手不足が厳しい業界です。ここに「2024年問題」が追打ちをかけます。建設業については、年間上限720時間の法規制(2019年)が、2024年4月まで猶予されていました。
 建設需要が横ばいと仮定し、建設業の労働時間を、製造業を下回る労働時間(5%の減少)とするには、新規に就業者を16万人増やす必要があります。加えて、国土交通省の建設業人手不足の将来推計によれば、コロナにより2万人減り、外国人労働者が3万人不足すると推計されており、2023年度中に合計21万人(16+2+3万人)の就業者の確保を要するのです。
 一方、インフラの老朽化が進み、建設後50年を超える施設の割合が2029年には52%になるとされています。建設業界の厳しい人手不足は、インフラの更新需要に対応できるのでしょうか。
 以上、確定的事実の一部を見てきましたが、紹介本では、28の業種・職種について、統計に基づき、人口減少による将来の行方を分析し記述しています。「エ!と驚きつつ、それはヤバイ!」と思う内容です。是非紹介本をお読みください。
 さて、近い将来到来することが確定的なリスクにどう対応したらよいのでしょう。『瀬戸際の日本企業が「人口減少に打ち克つ」には』を次項でご紹介します。
本
■    瀬戸際の日本企業が「人口減少に打ち克つ」には
 著者は、人口減少を前提として、その中で、日本社会が豊かでであり続けられるようにするための方策を見つけ出すことで「人口減少に打ち克てる」とします。その方策が「未来のトリセツ(10のステップ)」です。
 それは、「量的拡大モデルと決別する」、「残す事業とやめる事業を選別する」、「製品・サービスの付加価値を高める」、「無形資産投資でブランド力を高める」、「一人当たりの生産性を向上させる」、「全従業員のスキルアップを図る」、「年功序列の人事制度をやめる」、「若者を分散させないようにする」、「『多極分散』ではなく『多極集中』で商圏を維持する」、「輸出相手国の将来人口を把握する」の10項目です。詳細は是非紹介本をお読みください。
 「未来のトリセツ(10のステップ)」の要点は2つです。一つは「人口減少と高齢化に伴う一人当たりの消費が減るダブルの縮小からくる、国内マーケットの変化に合わせて、ビジネスモデルを変える」です。二つ目は「海外マーケットに本格的に進出するための準備を整える」です。
 ここで、海外マーケットへの準備をするに際しての留意点としての「輸出相手国の将来人口を把握する」を見てみましょう。
【輸出相手国の将来人口を把握する】
 国内需要が急速に減少する日本では、海外マーケットを求める必要があります。日本のGDPの貿易依存率(2020年)は12.7%と、ドイツの35.9%、イタリアの26.3%、カナダの23.8%を見れば、海外マーケット開拓の可能性は十分にあります。
 しかしここで留意すべき点は輸出相手国の将来人口です。
 国連の「世界人口推計2022」によれば、将来人口が大きな伸びを示すのは「サハラ砂漠以南のアフリカ」です。2022年11.5億人が2050年には20.9憶人、2100年には34.3憶人と同年の世界人口103.5億人の3分の1を占めます。
 また、インドなどがある「中央・南アジア」は、2020年は20.7憶人、2050年には25.4億人、ピークの2072年には27.2億人と人口激増エリアです。「欧米・北米」は2022年、2050年も11.2億人と横ばいです。
 一方、2022年最多の23.4億人の「東アジア・東南アジア」は、2034年23.4億人をピークに、2050年には23.1億人、2100年には16.5億人に落ち込みます。
 長期視点からは「サハラ砂漠以南のアフリカ」と「中央・南アジア」が狙い目となります。
 中国とインドを見てみましょう。中国の総人口と(高齢化率)は、2022年14.2億人(13.7%)、2050年13.2億人(30.1%)、2100年7.7億人です。インドは、2022年14.1億人(6.9%)、2050年16.7億人(16.7%)です。人口推移と高齢化率から、また、長期視点に立つならば、開拓すべきマーケットはインド、高齢者向けマーケットは中国となります。
本
■    人口減少、高齢化を経営改革のバネにして乗り切ろう(むすび)
 紹介本が示す28の業種・職種における人口減少・高齢化のリスクを参考に、10の対応ステップを活用し、少子高齢化に打ち克ちましょう。


本


【酒井 闊プロフィール】


 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。
 企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。


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【経営コンサルタントのお勧め図書】最新「ロジカル・シンキングがよくわかる本」 2305

2023-05-23 05:46:00 | 【経営】 経営コンサルタントの本棚

本  【経営コンサルタントのお勧め図書】最新「ロジカル・シンキングがよくわかる本」 2305


 


【 注 】


 一部、誤記がありましたので部分修正しました。


 ご迷惑をおかけいたしましたが、今後ともよろしくお願いいたします。



経営コンサルタントがどのような本を、どのように読んでいるのかを教えてください」「経営コンサルタントのお勧めの本は?」という声をしばしばお聞きします。


 日本経営士協会の経営士・コンサルタントの先生方が読んでいる書籍を、毎月第4火曜日にご紹介します。


 


 【経営コンサルタントの本棚】は、2012年に、経営コンサルタントがどのような書籍を読んでいるのか知りたいという、ブログ読者の声を反映して企画いたしました。


 幸い、日本で最初に創設された経営コンサルタント団体である日本経営士協会には優秀な経営士・コンサルタントがいらっしゃるので、その中のお一人である酒井闊先生にお声をかけましたところ、ご協力いただけることになりました。


 それが、今日まで継続されていますので、10年余もの長きにわたって、皆様にお届けできていることに誇りを持っています。


【 当ブログ運営者より】


 酒井先生には、毎月几帳面に当ブログにご寄稿下さっているだけでもありがたいと思っています。


 その上で、今回は、ロングセラーを続けています弊著を取り上げて下さり感謝以外の何ものでもございません。


 ありがとうございます。


本


■    今日のおすすめ


  『最新「ロジカル・シンキングがよくわかる本」』


                  (著者:今井信行 発行所:秀和システム)


 



 


本


■ K・K・D(経験・感・度胸)思考からの脱却を(はじめに)


 ロジカル・シンキングと聞いて、ピンとくる人はどれ位おられるでしょうか。私の周りの人に試してみましたが、まともに反応した人は、感覚的ですが、30人に一人位いでしょうか。
 そこで、私流に、出来るだけ紹介本の表現に沿いながら、ロジカル・シンキングを分かり易く述べてみたいと思います。
 ビジネスを戦いに例えます。戦いには武器が必要です。武器無しでK・K・Dで戦うのは、自己流・非論理思考ビジネスパーソンです。これに対し、ロジカル・シンキングという武器で武装し、突き進むのは、発展的・勝利型・論理思考ビジネスパーソンです。
 ここでロジカル・シンキングの概念を明確にするために、クリティカル・シンキングと対比してみましょう。
 著者はこれについて、別の著書での記述も併せて、次のように述べています。『ロジカル・シンキングは、信頼できる結論を導き出す「意思決定ツール」です。一方、クリティカル・シンキングは、現状をクリティカル、ゼロベース思考で考え、ロジカル・シンキングの「意思決定ツール」を手段とし、統合的に思考の手順を体系化し、組合せ、問題・課題に取り組む「思考技術体系」です。ロジカル・シンキングは簡単な課題解決に、クリティカル・シンキングは複雑な課題解決に向いています。』
 著者のこの記述は、私流に言い換えると、ロジカル・シンキングはブロックで、クリティカル・シンキングはブロック(以下ではツールと表記)を組立てて経営の仕組み(管理設備)を作る構築テクニックと言えるかもしれません。
 私がここで強調したいことは、良い仕組みを作る上でも、ツール単独の効能を高める上でも、良いツールを掘り起こし正しく活用することです。
 紹介本は、目的に合う良いツールを掘り起こし、効能を引き出す指南書です。つまり、良いツールの効能を的確に引き出す「心構え」(「思考基本」)、目的に適う良いツールと結びつく発想法を分類した「発想法の体系」(「思考手法」)、幅広い思考用の一般的ツールを体系化し有効な使い方を示す「ツールの体系と活用法」(「思考用具」)の3項目をロジカル・シンキングの基本要素として体系化しています。まさに、著者が言う「ロジカル・シンキング習得の近道」を具現化しているのです。
 紹介本は、ロジカル・シンキングの著書の中で、MECEで全体最適な体系化、網羅的、分り易さではナンバー・ワンではないでしょうか。
 次項では、他の著書では見られない「ロジカル・シンキングの体系的全体俯瞰」について述べます。
本
■    ロジカル・シンキングの全体を、体系的に俯瞰する


 


【ロジカル・シンキングを体系的に全体を俯瞰する】
 著者の言う「近道」である体系的全体俯瞰を具体的に見てみましょう。
 100を超えるロジカル・シンキング・ツール全体を一度に理解することは難しいです。全体を把握するには体系化・構造化が必須なのです。紹介本は、ロジカル・シンキングの「基本要素の3項目(上述)」を、それぞれMECEに適切に解析・分類し、ロジカル・シンキングの体系を構築しています〔図1〕。



図1



 まず「思考基本」です。ゼロベース、包括的な全体最適、MECE、新規性・創造性、プラス思考、体系化・構造化を挙げています。
 ここで、「思考基本」の有る無しで大きく変わる事例を上げましょう。「改善」「改革」の例で見てみましょう。「改善」は今までの延長線上での改良ですので、体験・経験を持ち寄ることが求められます。「改革」はこれまでの全てをリセットして新しく再構築することで可能になります。ロジカル・シンキングのスタートの段階で、ゼロベース思考にリセットしなければ、「改革」は成就しません。
 次は「思考方法」です。信頼できる結論を導き出す「意思決定ツール」を見つけるには、求める課題に相応する「思考方法」を明確に意識することが重要です。紹介本が上げる思考方法は、発散・収束、演繹・帰納、因果関係、仮説、階層(ヒエラルキー)、枠組み(フレームワーク)、選択肢(オプション)、過程(プロセス)の8思考です。
 最後に「思考用具」です。幅広い思考用の一般的ツールを包含できるように、階層型思考ツール(ヒエラルキー)、枠組型思考ツール(フレーム&マトリックス)、過程思考型ツール(フロー・プロセス)に分類し、集約・体系化しています。これにより、「思考用具」全体を俯瞰できる枠組みができます。紹介本の優れている特徴です〔図2〕。



図2



 ここで、ロジカル・シンキングの基本要素を3項目に体系化する理由を見てみましょう。
 それは、「求める課題」に応じて、「思考基本」を常に認識しながら、「思考方法」に相応しい、単独または組合せの「思考用具」を選択し、活用・思考し、最適解を得ることが出来るからです。
 最適解を得る一つの例を示しましょう。「7S分析による戦略検討表の例」です〔図3〕。この例示は、経営戦略立案を課題とするケースに於いて、戦略立案の要素が多岐に亘ることを考慮し、「思考方法」の中の枠組み(フレームワーク)思考に加え選択肢(オプション)思考が不可欠と考え、7Sのフレームと三次元マトリックス(枠組型思考ツール〈フレーム&マトリックス〉)を「思考用具」として選択し、「思考基本」の全てを意識しながら、思考・選択し、戦略を導く例です。得られた最適解は、クリティカル・シンキングを通して、最良の経営の仕組み(管理設備)の構築に繋がるでしょう。



図3



【詳細は紹介本をお読みください】
 ロジカル・シンキングについて、入口を見てきましたが、字数の関係で、ここで止めます。是非、紹介本を読み、その先に進み、「思考しながら体得」して下さい。
 特に、「思考基本」「思考方法」を踏まえた、ビジネス会話・交渉、プレゼンテーションについての教示は必読です。
本
■    ビジネスパーソン・ライフをスパイラルアップしよう(むすび)


 ビジネスパーソンは日々、会話、メール・チャット、会議・ファシリテーション・プレゼンテーション、課題との出会い、立案、レポート等に直面します。紹介本を読み物としてではなく、日頃からこれらの実務に用いながら、ロジカル・シンキングを「思考しながら体得」し、様々な分かれ道において、成功方向への道を歩み、ビジネスパーソン・ライフをスパイラルアップしましょう。


【 注 】


  図版は、下記URLにて、pdf形式でも見ることができます。


http://www.glomaconj.com/joho/blog/sakai20230523logicalthinking.pdf


 


本


【酒井 闊プロフィール】


 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。
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【 注 】  著者からの原稿をそのまま掲載しています。読者の皆様のご判断で、自己責任で行動してください。


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【経営コンサルタントのお勧め図書】「ファイナンス×事業数値化力」(著者:大津広一 発行所:日経BP) 2304

2023-04-26 10:01:09 | 【経営】 経営コンサルタントの本棚

本  【経営コンサルタントのお勧め図書】「ファイナンス×事業数値化力」(著者:大津広一 発行所:日経BP) 2304

 

【 注 】

 一部、誤記がありましたので部分修正しました。

 ご迷惑をおかけいたしましたが、今後ともよろしくお願いいたします。

経営コンサルタントがどのような本を、どのように読んでいるのかを教えてください」「経営コンサルタントのお勧めの本は?」という声をしばしばお聞きします。

 日本経営士協会の経営士・コンサルタントの先生方が読んでいる書籍を、毎月第4火曜日にご紹介します。

 

 【経営コンサルタントの本棚】は、2012年に、経営コンサルタントがどのような書籍を読んでいるのか知りたいという、ブログ読者の声を反映して企画いたしました。

 幸い、日本で最初に創設された経営コンサルタント団体である日本経営士協会には優秀な経営士・コンサルタントがいらっしゃるので、その中のお一人である酒井闊先生にお声をかけましたところ、ご協力いただけることになりました。

 それが、今日まで継続されていますので、10年余もの長きにわたって、皆様にお届けできていることに誇りを持っています。

【 注 】

 本文中のリンクをクリックしますと図版資料をpdfファイル形式で開けます。

 リンクサイトがhttpsではなくhttpサイトですので、その際に警告表示が出ることがありますがクリックして下さっても大丈夫です。

本

■    今日のおすすめ

  「ファイナンス×事業数値化力」(著者:大津広一 発行所:日経BP)

 

 

本

■ まず、ファイナンスとアカウンティングの違いを理解しよう(はじめに)
 

 ファイナンス論の分野には資本市場論、証券投資論、コーポレートファイナンス、金融工学、行動ファイナンスなどがありますが、紹介本のファイナンスはコーポレートファイナンスを指します。以下、コーポレートファイナンスをファイナンスと表記します。
 ファイナンス(財務)とアカウンティング(会計)は、ビジネスマン向け講座などにおいては財務・会計講座の名前で使われている様に、財務・会計は一つのジャンルとして捉えられています。
 しかし、ファイナンス(財務)とアカウンティング(会計)について、紹介本は、「ファイナンスとアカウンティングの違い」を次表の様に示しています。

 

 アカウンティングとファイナンスの関係を車に例えると、「アカウンティングはルームミラー、ファイナンスはカーナビゲーションとフロントライト」と表せます。
 ファイナンスの目的である企業価値の最大化は、ルームミラー(アカウンティング)で状態確認を的確に行い、その情報をカーナビゲーション(ファイナンス)にインプットし、カーナビゲーション(ファイナンス)を使って、「稼ぐ力=資本生産性・ROICの向上戦略」に加え、コーポレートガバナンスコード「原則5-2経営戦略や経営計画の策定・公表」にある「自社の資本コスト(WACC)」を的確に把握し、その上で、キャッシュフローを中心とする将来の事業計画を構築・実行・実現をします。併せて、フロントライト(ファイナンス)を使い事業環境を探索し「成長戦略(含むポートフォリオ戦略)」を立案・実行・実現を並行して行うことが不可欠です。
 ファイナンスのイメージを描いて頂けましたでしょうか。ファイナンスの機能である企業価値の算出、投資案件の評価、事業計画の作成(事業数値化力)などについては紹介本をお読みください。紹介本で,カーナビゲーション&フロントライト(ファイナンス)のcontentsを体験できます。
 本稿では、ファイナンスの大切な基本について、次項で記させて頂きます。それは、「真の企業価値EVAはWACCを上回るROICから生まれる」です。
本
■    真の企業価値EVAはWACCを上回るROICから生まれる

 

【ファイナンスの基本】
 「会計は見てもファイナンスを見ない日本企業」と言われている様に、日本では会計によるコミュニュケーションは出来ても、ファイナンスには弱いのではないでしょうか。しかし、将来を切り開くには、ファイナンスは重要です
 ファイナンスの起点であり是非とも押さえておきたい重要な概念をご紹介します。加えて、ファイナンスへのハードルを下げると同時に、ここからスタートして欲しい基本です。それはEVAです。EVAは次の式で表されます。(WACCについては【スライド4】を参照ください。)
 EVA=NOPAT-WACC×投下資本=税引き後営業利益-資本コスト
    =ROIC×投下資本-WACC×投下資本=(ROIC-WACC)投下資本
この式の持つ意味を考えてみましょう。それは、
  ¨    EVAは、PLとBSの一体化であり、アカウンティングとファイナンスの架け橋です。【スライド1】を参照して下さい。
  ¨     http://www.glomaconj.com/joho/blog/sakai20230425-1.pdf
  ¨    上記数式の(ROIC-WACC)をEVAスプレッドと言います。EVAをプラスにするためには、ROICをWACCより高くする(EVAスプレッドをプラスにする)必要があることがわかります。【スライド2】を参照してください。
  ¨     http://www.glomaconj.com/joho/blog/sakai20230425-2.pdf
     「EVA経営の花王の苦境(日経新聞2023.3.4)【スライド3】」は、EVAスプレッドの視点が欠けていたことが原因ではないでしょうか。ファイナンスの視点から言えば、EVA経営にROIC経営、EVAスプレッドを加えた3点セットの同時導入が良かったと思います。
      http://www.glomaconj.com/joho/blog/sakai20230425-3.pdf
     花王といえば、市場の声を誰もが検索できる「エコーシステム」が、「ハイパーテキスト(多組織連結)型組織」の好事例として、「知識創造企業(野中郁次郎著)」で採りあげられていました。この様な優れたマネジメントに加え、ファイナンスの視点が必要と思いました。

【ファイナンスの壁WACCは簡単に超えられる】
 WACCは多くの人にとって、逃げていた壁ではないでしょうか。特に“β”と“株式プレミアム”が高い壁になっています。でも、簡単です。【スライド4】によりWACCの算出方法をお示しします。
 “株式プレミアム”は公表される数値を使えば済みます。簡易的には、現時点では、5.5%を使えば良い事が分かりました。(【スライド4】の【注1】参照ください。)
   http://www.glomaconj.com/joho/blog/sakai20230425-4.pdf
 “β”は5年間のTOPIXと対象企業の月次株価増減データ(WEBから簡単に取得できる)の散布図と回帰分析により簡単に得られます。“β”は回帰直線の傾きなのです。「やってみればWACCは難しくない」と思いました。
 

【中小企業におけるWACC】
 中小企業は非上場ですので、株主資本コストの考えがありませんが、EVA・ROIC・WACC等のファイナンス的視点は、中小企業の企業経営においても有効ではないでしょうか。
 中小企業庁の『「経営承継法における非上場株式等評価ガイドライン(2009.2.9)」【スライド5】』において示されているWACCも、遺留分額計算の時だけではなく、ROIC経営や成長戦略(ポートフォリオ戦略)と併せて活用することで、将来の事業計画構築及び生産性向上戦略において活用できる指標ではないでしょうか。
   http://www.glomaconj.com/joho/blog/sakai20230425-5.pdf
本
■    「ファイナンスに弱い日本」から脱却しましょう(むすび)

 ファイナンスでは3つのキーワードが有ると言われています。ROICとWACC(いずれもEVAの構成要素)と成長戦略(ポートフォリオ戦略を含む)です。
 3つのキーワードを中点とする企業経営は、必ず良い結果を生むと思います。アカウンティングに止まらず、ファイナンスにも目を向けましょう。
 

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【酒井 闊プロフィール】

 10年以上に亘り企業経営者(メガバンク関係会社社長、一部上場企業CFO)としての経験を積む。その後経営コンサルタントとして独立。
 企業経営者として培った叡智と豊富な人脈ならびに日本経営士協会の豊かな人脈を資産として、『私だけが出来るコンサルティング』をモットーに、企業経営の革新・強化を得意分野として活躍中。

  https://www.jmca.or.jp/member_meibo/2091/

  http://sakai-gm.jp/

 

【 注 】  著者からの原稿をそのまま掲載しています。読者の皆様のご判断で、自己責任で行動してください。

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 経営コンサルタントを目指す人の多くが見るというサイトです。経営コンサルタント歴45年余の経験から、経営コンサルタントのプロにも役に立つ情報を提供しています。

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