彼は最初に丁寧に腰を折って礼を言ってから、笑顔で続けた。
「おかげ様で行き斃れにならずに済みました。それどころかストーブを消さないでおけと言って
もらったので、暖かくて良く眠れました」
「それは良かった」
「母さん達にも親切にしてもらって、今朝は弁当までいただいて、それで何かお手伝いさせても
らいたいと言ったら、この仕事を指示されました。助かりました。
こんなに良くしてもらえるなら、いっそここに居付いてしまいたいくらいです」
「なつくなよ。悪くない話しだが、給料も出面賃(でめんちん)も出ない。函館行きの汽車の時間は確認したの
か」
「一応、昼頃の鈍行にしょうかと思っています」
高志は言ってから、まだ言いたいことが残っているといった様子で猛を見ている。
「まだ何か話しでもあるのか」
高志は言い淀んでいたが、促されて意を決したように言った。
「さんざん迷惑をかけてから、またこんなことを言うのは厚かましいのですが、私、本当にここ
に住みたくなりました。何か仕事はないでしょうか」
猛は表情を変えずに高志を見た。それからギョロ眼を強くつぶって、どんよりと垂れこめた雪空
を仰いで言った。
「仕事かぁ、無理だなぁ」
溜息混じりに言って、今一度高志を見てから、「ちょつと待て、中に入って茶でも一服やろう」
と休憩所の引き戸を指した。
高志は誘われるままに、デッキブラシを片付けて猛の後に続いた。
休憩所の中には男が一人、所在なさ気にストーブに当たっていた。
「おかげ様で行き斃れにならずに済みました。それどころかストーブを消さないでおけと言って
もらったので、暖かくて良く眠れました」
「それは良かった」
「母さん達にも親切にしてもらって、今朝は弁当までいただいて、それで何かお手伝いさせても
らいたいと言ったら、この仕事を指示されました。助かりました。
こんなに良くしてもらえるなら、いっそここに居付いてしまいたいくらいです」
「なつくなよ。悪くない話しだが、給料も出面賃(でめんちん)も出ない。函館行きの汽車の時間は確認したの
か」
「一応、昼頃の鈍行にしょうかと思っています」
高志は言ってから、まだ言いたいことが残っているといった様子で猛を見ている。
「まだ何か話しでもあるのか」
高志は言い淀んでいたが、促されて意を決したように言った。
「さんざん迷惑をかけてから、またこんなことを言うのは厚かましいのですが、私、本当にここ
に住みたくなりました。何か仕事はないでしょうか」
猛は表情を変えずに高志を見た。それからギョロ眼を強くつぶって、どんよりと垂れこめた雪空
を仰いで言った。
「仕事かぁ、無理だなぁ」
溜息混じりに言って、今一度高志を見てから、「ちょつと待て、中に入って茶でも一服やろう」
と休憩所の引き戸を指した。
高志は誘われるままに、デッキブラシを片付けて猛の後に続いた。
休憩所の中には男が一人、所在なさ気にストーブに当たっていた。