伊達だより 再会した2人が第二の故郷伊達に移住して 第二の人生を歩む

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ジャコシカ13

2018-03-16 15:25:41 | ジャコシカ・・・小説
 いったいこの小舟はどこに行こうとしているのか。どう眺めても行先には砂浜や港があるように

は見えない。

 そうこうしている内に、胸苦しさと吐き気と頭痛が始まった。昔から船酔いには弱いのだ。

 安じていたことが早々と襲ってきた。蒼白になった高志を見て、鉄さんは船足を落とした。

「吐く時は海だぞ、遠慮なくやれ。なんなら船を止めるぞ」

「大丈夫、多分まだ大丈夫」

 高志は我ながら情けなく弱弱しい声で言った。もう景色など眼に入ってこない。

 できれば船底に仰向けになりたかったが、足元は船のアカがちゃぷちゃぷと音を立てているので、

仕方なく沖の遠くを見ていた。

 それも束の間、とうとう合図を送り、船べりから顔を突き出して吐いた。

 鉄さんは直ぐに船足を停止に近い状態にして舳先(へさき)の方角を保った。

 こういう時に横揺れのうねりに揉まれると頭から吸いこまれるように、転落することを知ってい

るのだ。

 ひとしきり吐いたら楽になった。

 様子を見て鉄さんは、また船足を速めた。ほどなく鉄さんは励ますように叫んだ。

 「着いたぞ」

 ようように顔を上げると、船は両側に大岩と絶壁が、巨大な門構えに見える、小さな入り江に進

入しょうとしていた。

 入江は思ったよりも奥が深く、その上扇形に広がり、意外にも小さな渚もある。

 渚には磯船が一艘、引き上げられ、その奥には平家の小さな家が見える。さらに門構えの岩山の

裏側には、しっかりとしたコンクリートの船着場まで出来ている。
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