「分りました。ご迷惑はかけません。次に函館に出ていくまでの金は持っていますから、大丈夫
です」
高志は猛さんと鉄さんに、かわるがわる頭を下げて、嬉しそうに笑った。
二人はその顔が随分と子供っぽく見えたのに驚いて、思わず顔を見合わせた。それで何だか二人
共気分が軽くなって笑った。
鉄さんの所には船で向かった。
船と言っても魯漕ぎの磯船に、焼玉エンジンを取り付けた小さなものだ。
高志は言われるままに、先ほどセリ場に運びこみを手伝った、トロ箱の上に腰を下ろした。
「ぼやぼやしているとまた時化(しけ)そうだから少し急ぐぞ」
鉄さんは雲行きを眺めながら、凪(なぎ)とは言ってもうねりが出始めた海に乗り出した。白波こそ立っ
ていないが、漁港を出ると船はたちまち恐ろしく揺れ出した。
うねりを越える時は、切り開いた波のしぶきを浴びた。
高志は思わず船べりに掴まる手をこわばらせた。船は複雑な形で海に迫り出した崖に沿いなが
ら西に向かった。
矢尻のように海面から突き出た奇岩と、覆いかぶさる波間に迫る岸壁は、陽気の良い時に遊覧船
からでも眺めるなら、雄大奇観でさぞかし楽しいものだろうが、冬の黒々とした海で、今にも呑み
込まれそうになりながら、揉まれていては、そんな余裕もない。
入り組んだ入江の奥には渚すらなく、その上前方は見渡す限り、同じような景観がどこまでも連
なっている。
港を出て30分、高志はさすがに不安になった。
です」
高志は猛さんと鉄さんに、かわるがわる頭を下げて、嬉しそうに笑った。
二人はその顔が随分と子供っぽく見えたのに驚いて、思わず顔を見合わせた。それで何だか二人
共気分が軽くなって笑った。
鉄さんの所には船で向かった。
船と言っても魯漕ぎの磯船に、焼玉エンジンを取り付けた小さなものだ。
高志は言われるままに、先ほどセリ場に運びこみを手伝った、トロ箱の上に腰を下ろした。
「ぼやぼやしているとまた時化(しけ)そうだから少し急ぐぞ」
鉄さんは雲行きを眺めながら、凪(なぎ)とは言ってもうねりが出始めた海に乗り出した。白波こそ立っ
ていないが、漁港を出ると船はたちまち恐ろしく揺れ出した。
うねりを越える時は、切り開いた波のしぶきを浴びた。
高志は思わず船べりに掴まる手をこわばらせた。船は複雑な形で海に迫り出した崖に沿いなが
ら西に向かった。
矢尻のように海面から突き出た奇岩と、覆いかぶさる波間に迫る岸壁は、陽気の良い時に遊覧船
からでも眺めるなら、雄大奇観でさぞかし楽しいものだろうが、冬の黒々とした海で、今にも呑み
込まれそうになりながら、揉まれていては、そんな余裕もない。
入り組んだ入江の奥には渚すらなく、その上前方は見渡す限り、同じような景観がどこまでも連
なっている。
港を出て30分、高志はさすがに不安になった。