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伊達だより 再会した2人が第二の故郷伊達に移住して 第二の人生を歩む

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ジャコシカ12

2018-03-15 22:18:38 | ジャコシカ・・・小説
 「分りました。ご迷惑はかけません。次に函館に出ていくまでの金は持っていますから、大丈夫

です」

 高志は猛さんと鉄さんに、かわるがわる頭を下げて、嬉しそうに笑った。

 二人はその顔が随分と子供っぽく見えたのに驚いて、思わず顔を見合わせた。それで何だか二人    

共気分が軽くなって笑った。


 鉄さんの所には船で向かった。

 船と言っても魯漕ぎの磯船に、焼玉エンジンを取り付けた小さなものだ。

 高志は言われるままに、先ほどセリ場に運びこみを手伝った、トロ箱の上に腰を下ろした。

 「ぼやぼやしているとまた時化(しけ)そうだから少し急ぐぞ」

 鉄さんは雲行きを眺めながら、凪(なぎ)とは言ってもうねりが出始めた海に乗り出した。白波こそ立っ

ていないが、漁港を出ると船はたちまち恐ろしく揺れ出した。

 うねりを越える時は、切り開いた波のしぶきを浴びた。

 高志は思わず船べりに掴まる手をこわばらせた。船は複雑な形で海に迫り出した崖に沿いなが

ら西に向かった。

 矢尻のように海面から突き出た奇岩と、覆いかぶさる波間に迫る岸壁は、陽気の良い時に遊覧船

からでも眺めるなら、雄大奇観でさぞかし楽しいものだろうが、冬の黒々とした海で、今にも呑み

込まれそうになりながら、揉まれていては、そんな余裕もない。

 入り組んだ入江の奥には渚すらなく、その上前方は見渡す限り、同じような景観がどこまでも連

なっている。

 港を出て30分、高志はさすがに不安になった。
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