店には他にも眼を引く物があった。それは業務用のミシンだ。大型でいかにも使いこんだその外
観は、一見するとこれもアンテイク家具の一部かと思われそうだが、その脇に並べた縫製台と椅子
が、ただの飾りでないことを告げていた。
「ここを新しいファッションの発信基地にする」と言った優美の意気ごみの表われなのだ。
「ここはお客様と直接触れ合う、工房でもあるのよ」
優美はここで客の好みや体形に合わせた、手直しにも応じる構えなのだが、それ以上にファッシ
ョン工房の雰囲気を、強調する狙いがあった。
実際の本格的製作、手直しのための場所は同じこのビルの最上階に設けられていた。
当然ながらそちらには、ミシンも縫製台もあり、デザイン画や裁断図のための作図台もあった。
当面そこを使うのは優美だが、あやともう一人の服飾学校出で優美の弟子の桜沢志乃も自分の作
品を研究製作することを許されていた。
つまりあやと志乃は単なる売子ではなく、製作スタッフとしての活躍も期待されていた。
あや24歳、志乃23歳2人の若いファッションデザイナーの卵が、与えられたチャンスを前に、
燃えないはずはなかった。
優美もまた今こそ積み重ねた技術と経験を、直接世に問う時と考えていた。
「比較よ、対比の面白さでもあるわ、この重々しさが一層女性の新しいファッションの明るさと
軽快さを際立たせるじゃない。そのつもりで展示に工夫をしましょう」
「当然ブランド名『優』はショウインドウと入口近くですね」
あやと優美の会話を聴いていた志乃は、迷いのない口調で言った。
「春色花柄の明るいワンピースは家具の周りですか」あやが続く。
「そうよ」