少年時に殺人事件を犯した「少年A」が、保釈されることに。ジャック・バリッジと名を変え、テリーという保護監察司の全面的なサポートの下、仕事にもつき、職場の友人にも恵まれ、恋人もでき、順調に社会復帰のスタートを切った。
・・・が、ある日、ジャックの過去が世間に明るみになる。仕事は問答無用で解雇され、職場の友人には去られてしまい、何より、どこもかしこもかつての自分の話題で溢れている。一体、どうしてジャックの正体がバレたのか。
少年犯罪について考えさせられる作品。
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上野千鶴子さんの「映画から見える世界」で紹介されていた一本。気が進まないなあ、、、と思いながらレンタルリストに入れておいたばかりにとうとう見る羽目に。
こんなの、日本人なら誰だって“あの事件”を思い起こしますよね。特に、今年になってからは手記を出したり、HPを立ち上げたりと、話題になっておりますので(ちなみに、私は手記もHPも目にしていません)。イギリスでも、少年2人による凄惨な事件が起きたのは、まだ記憶している人も多いでしょう。本作は、その2つの事件を嫌でも頭の隅に置きながら見ることになります。
で、見ていて思ったのですが、薬丸岳の小説「友罪」と似ているなぁ、と。小説を読んでから時間が経っているので細かいところは忘れましたが、保釈される少年A、監察司(ではなかったかも。とにかく少年Aの社会生活を支える人です)、監察司と監察司の子どもとの関係、あたりの設定がそっくりです。小説の方の監察司は女性でしたけれど。
そしてさらに、ジャックが、途中で恋人に自分の過去を打ち明けたくなって葛藤する場面では、成瀬巳喜男監督の邦画『女の中にいる他人』とダブってしまいました。『女の中~』でも小林桂樹演じる主人公の中年男が浮気相手の女を殺してしまった(妻はそのことを知っている)ことを黙っているのが苦痛になり自首しようと葛藤するんですが、家庭と子どもの将来を案じる妻が断固自首を阻止します。
どうしてそんな映画とダブったのかというと、ジャックが過去を打ち明けたくなったのも、中年男が自首したくなったのも、単に「楽になりたいから」に見えたからです。
特に、ジャックの場合は、完全に過去を封印して別人を生きなければならないので、確かに苦しいだろうとは思います。しかし、そんな重大な過去を聞かされた人はどうすれば良いのでしょう。その人の抱える苦しみをまったく考えていないのですね。ジャックが苦しむのは当たり前です。それが自分の犯した罪の大きさと向き合うことであり、贖罪につながる第一歩であるのに、彼はそれを、まだ保釈されて日が浅い段階で、もう音を上げている。本当に自分のやったことの重さを理解していたら、殺された少女のことを真摯に考えたら、、、打ち明けて全て受け入れてほしい、などというのは甘い夢にすぎないと分かるはず。彼は、長く服役して好青年になったように見えるけれど、まだまだコトの本質を分かっていなかった、ということです。
そう、世間はそんなに寛容じゃないのです。私も、ジャックの過去を知ったら、やはり受け入れられないと思うし。人殺しは、私の想像力の範囲を遥かに超えています。生理的にも受け付けない気がする。
あと、本作を見ていてちょっと不快だったのは、ジャックがとても“かわいそうな子”と強調し過ぎな感じがしたからです。ジャック=エリック・ウィルソンの生育環境は確かに機能不全家族だったみたいだし、学校でも居場所がなくいじめられていた、、、。そして、そんなエリックがようやく出会った心許せる友が、フィリップという実の兄に性的虐待を受けた孤独で暴力的な少年だったのも必然と言わんばかり。でもって殺人に関しては、エリックはあくまで従犯であり、主犯はフィリップで、、、。しかも被害者の女の子は問題がある子のように描かれ、、、。つまり、少年エリックは大人や周囲の犠牲者、、、とでも言いたげなのです。そして、保釈後は人助けをしたり、真面目に仕事に励んだり、、、と、良い面ばかりが描かれる。ちょっと類型的過ぎで白けちゃう。
かわいそう度でいったら、フィリップの方が遥かに上かも。フィリップは服役中に死んでしまっているんだけど(自殺とされているが実は、ムショ内でのリンチだったらしい)。まあ、フィリップは、到底、更生などあり得なさそうな子でしたが。だからむしろ、彼こそ大人の犠牲者なのでは?
監督ジョン・クローリーは「人は変わることができる」というテーマで本作を撮影したとのことですが、、、。うーーん、「変わることができる」には賛成ですが、それなら、更生が難しそうなフィリップが変わるのを描いた方が、より説得力のあるものになったのでは?
本作で唯一共感できたのは、ラストシーンです。あれしかないだろうな、と。ちなみに、『女の中~』の小林桂樹は、新珠三千代演じる妻に毒殺されます。不謹慎かもしれないけどハッキリ言って、溜飲が下がる幕切れでした。ホント、身勝手そのもののオッサンだったんで。、、、引き換え、本作は、後味は悪いです。
監察司テリーを演じていたピーター・ミュランは、実の息子とはうまく行かない父親を相変わらず渋く演じておられました。この、テリーと息子のギクシャクが、ジャックの過去がバレることにつながったのですが・・・。
ジャックのアンドリュー・ガーフィールドは、不安定な感じを上手く出していて好演です。『ソーシャル・ネットワーク』での彼とはかなりイメージが違っていてビックリでした。
同じ職場のあの人が少年Aだったら、、、
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