小金持ちっぽい中年夫婦アンジェイとクリスティーナは、週末を湖上のヨットで過ごすべく車で向かっていた。すると、ヒッチハイクの若い青年が現れ、夫婦は青年を車に乗せ、挙句、アンジェイはヨットにまで青年を乗せて、いざクルーズへ。
なんだかギクシャクする雰囲気。これと言ったトラブルも起きずに一夜を明かし、翌日、ヨットハーバーへ戻ろうとしたその途中、アンジェイと青年は、青年が持っていたナイフが原因で諍いに。そして、青年は湖に落ちて姿が見えなくなる、、、。果たして彼は溺れてしまったのか?
ポランスキーの長編デビュー作。う~~ん、微妙な三角関係を描いた意味深な映画。
☆゜'・:*:.。。.:*:・'゜☆゜'・:*:.。。.:*:・'☆゜'・:*:.。。.:*:・'゜☆゜'・:*:.。。.:*:・'☆゜'・:*:.。。.:*:・'゜
この夫婦、夫は36歳らしい(リンク先のあらすじにそうある)。結婚して何年目かは分からないけれど、ラブラブ期はとうに過ぎ、子どもはいないみたいで、そこそこ恵まれた環境であることが分かる。そこへ、恐らく20代前半の若さが眩しい青年が闖入することで、夫婦の間の微妙なバランスがどんどん崩れていく。
これはかなり厳しいシチュエーションです。男2:女1。しかも女は美人、ってのがミソですね。これが並以下のルックスならば、残念ながら、男同士が仲良く盛り上がるというオハナシになるんじゃないかしらん。そう、なんだかんだ言っても、女が美しくないと、オトナな話は始まらんのです。
これが逆パターンでもそう。ヒッチハイカーが若く美しい女性だったら、、、? これは本作以上にタイヘンで下世話なものになるかも。・・・しかし、若くても残念なルックスの女性だったら、、、、まぁ、ホラーにすることはできるか。
とにかく、美女を間に男2人が牽制し合います。日頃は倦怠ムードが漂っているくせに、夫は青年に居丈高に接することで妻に自分を大きく見せようとするし、青年はそんな夫の態度に反発し、「ヨットは勝手に流されて進んで行くが、オレは地上を自分の足でナイフで藪を切り開きながら歩いて行くんだ」と気を吐きます。美女はそれをクールを装いながらもしっかり聞いていて、内心ジャッジしているのね。
ポランスキーは、こういう、じわじわ心理戦を描くのが最初から上手かったのですね。後の『反撥』や『ローズマリーの赤ちゃん』にもつながる描写です。
終盤、青年が湖に落ち、夫婦は彼が溺れたと思い込んで、ヨットの上で激しい口論となります。ここが本作の見どころの一つでしょうか。互いに罵り合い、クリスティーナは「見栄っ張りの俗物!」と夫を詰り、アンジェイは「もううんざりだ!」と怒鳴る。お互いの日頃の鬱憤がここで図らずもぶちまけられる、、、。
青年が湖に落ちたのは、アンジェイが青年のナイフをわざと湖に落としたからですが、これはオヤジの若さに対する嫉妬でしょう。ナイフはある意味、若さや向こう見ずな危険さの象徴であり、オヤジのアンジェイにはもう失われたものです。どうやったって取り戻すことは出来ないけれど、せめてそれを湖に落とすことで、自分と同じ土俵に青年を引きずり下ろしたい、という醜い足掻きです。この幼稚な夫の行動に、妻が幻滅しないはずはないのに、なぜ、そんな単純なことが分からないのだろうか、彼は。
口論の後、アンジェイは、自分のしてしまったこと(青年を溺れさせた)の罪の意識からか、ヨットから泳いで行ってしまいます。甲板に一人になったクリスティーナの下へ、青年は湖から上がってきて、そして二人は引き寄せられるかのように抱き合う。、、、うーーん、正直、この妻の心理、分かってしまう! そうだよね、こうなったらそうするよ、女なら。
ヨットハーバーに戻るまでに青年は姿を消し、クリスティーナ一人がヨットに乗って戻ってきます。アンジェイは先に泳ぎ着いていて、そのヨットを黙って迎える。ヨットを降りるための作業をする夫婦に会話はなく、淡々と阿吽の呼吸でヨットを降りて行きます。なんか、この描写も寒々しいというか、宴の後の妙な虚脱感が漂う、、、。
夫がヨットに乗っているときから途切れ途切れにしていた船乗りの話も、ストーリーと微妙にリンクしています。
帰りの車の中、青年を溺死させたと思い込んでいるアンジェイは警察へ行こうかと、分かれ道の所で車を止める。するとクリスティーナは「彼は溺れていなかった。戻って来て私を抱いたの」と事実を話すが、アンジェイは信じない。妻の優しい嘘だと思い込む(思い込もうとしているのかも)。そして、例の船乗りの話の続きを妻に話すのですが、そのオチは、夫の自省を込めたものにも聞こえます。
そして、「警察へ」の看板が出ている分かれ道に車を止めたまま、ジ・エンド。
う~~ん、なんとも胸の痛くなる映画です。思いがけない闖入者のおかげで、夫婦が互いに見ないようにしてきた部分を直視させられてしまったのですよね。この後、この夫婦はどうやって生きていくのでしょう。今までと同じ、何事もなかったように過ごすのでしょうか。それとも、、、。
私がクリスティーナだったら、形はこれまでどおりでも、夫に対する侮蔑感と自己嫌悪がないまぜになって夫との間に流れる空気は完全に変わってしまうと思うなぁ。それが何年もすればまた元通りになるのかも知れないけれど。
アンジェイを演じたレオン・ニェムチックという俳優さんが、ときどきニコラス・ケイジっぽく見えてしまって、どうもダメでした。美しい妻クリスティーナを演じたヨランタ・ウメッカという女優さんは、その後は女優業は続けていないとか。彫りの深い個性的な美人で素敵です。ヒッチハイカーの青年は、うーーん、個人的にあまり好みじゃないというか、あまりイケメンには見えなかった。悪くはないけど、私がクリスティーナだったらときめかないな。、、、って、さっきと書いていることが矛盾しているケド。
ところどころで流れるジャズ調の音楽が、不穏な空気と絶妙にマッチしていて、見ている者の心をザワつかせます。特に何が起きる訳じゃないけれど、常に緊張感が漂う映画。この独特の不穏さと緊張感は、その後のポランスキー作品にも通じるものではないでしょうか。
長編デビュー作がこれってことは、やはり天才ですね、ポランスキー。
★★ランキング参加中★★