日本のODA増額で、中国のAIIBから世界を守る!?
2017.08.31(liverty web)
アフリカ北東部にあるジブチの港に停泊する中国の軍艦。ジブチは中国軍にとって初の"海外基地"。
《本記事のポイント》
- 日本がODAの予算を増額し、中国が進めるインフラ開発に対抗する意欲を示している。
- 「一帯一路」の究極的な目的は軍事面での拡張と、世界各国の富と資源を中国に吸い上げることにある。
- 日本の強みを活かし、現地の発展につながる支援で中国と差別化することが必要だ。
アジアやアフリカなどの途上国におけるインフラ建設が今後、ますます活発化すると見られている。その開発支援を大規模に行っているのが日本と中国の2カ国。まさに日中の"タイマン勝負"となっている。
日本の外務省は2018年度の政府開発援助(ODA)予算について、17年度当初の4343億円から10%超の伸びとなるよう要求する。8月31日付日本経済新聞が報じた。
ODAの予算を増やす理由は、中国政府が進めている巨大経済圏構想「一帯一路」への対抗と考えられる。
中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)は、「一帯一路」のさまざまな建設プロジェクトに資金を貸し付け、世界中でインフラ開発を行っている。
一方、近年の日本のODAの主な支援先も、東南アジアへの巡視船供与やアフリカ湾岸地域でのインフラなど。中国の「一帯一路」の対象地域と重なるのだ。
軍事拡張の狙いを隠そうともしない中国
実際、「一帯一路」は、単にアジア・太平洋を発展させるものとして手放しで喜べない。
中国は、「一帯一路」の対象地域と重なる形で、「真珠の首飾り」という軍事戦略を進めている。インド洋にシーレーン(海上交通路)を確保するため、スリランカやパキスタン、アフリカのジブチなどで次々と港を建設しており、ジブチでは民生用の港を軍事転用したことも明らかになっている。
また、中国軍関係者は今年3月、共産党政府が海軍陸戦部隊を2万人から10万人に増強する計画であることを明かしている。増強した海軍は、ジブチやパキスタンなどの港に派遣するとみられる。
さらに、8月21日付読売新聞電子版では、驚くようなニュースが報じられた。約2年前、中国の国防大学が開催した会議において、軍当局者らが「『一帯一路』構想の枠組みで軍の海外拠点展開を図る」という認識で一致していたというのだ。
中国は、「一帯一路」が軍事拡張戦略と一体であることを露骨に示し始めている。
確かに、中国が「一帯一路」の下で進めているプロジェクトには、市場ニーズではなく"政治ニーズ"に突き動かされたものが多い。
例えばメインのプロジェクトとして、中国からヨーロッパまでを陸路で結ぶ長距離鉄道の建設が有名だ。しかし、ほとんどの路線は採算が取れる見込みはなく、中国政府の補助金があって初めて成り立つという状態だ。
中国がそのようなプロジェクトに手を出すのは、純粋なビジネス目的はないからだ。返済能力のない途上国に多額の資金を貸して恩を売り、その見返りにエネルギー資源や物流拠点などの経済権益を堂々と奪う――。それが真の狙いだ。
AIIBを選んで「痛い目」に遭う国も……
まさに中国中心の「一帯一路」構想に巻き込まれて、「痛い目」に遭う国も増えてきている。
その典型例は、2015年に日中が受注を争ったインドネシアのジャカルタ―バンドン間の高速鉄道計画だ。インドネシア政府は、中国が「政府予算を使わず、債務保証もしない」という条件を提示したため、中国案を採択。しかし中国は受注決定後、「事業への政府保証がなければ資金を出さない」「土地収用が完全に終わらなければ資金提供しない」という条件を突き付けた。受注後も建設計画は全く進まず、1年半を経た今年5月、ようやく中国が融資に合意したという有様だ。
また、アフリカのケニアでは2017年7月、総工費1200万ドル(約14億円)をかけて中国企業が建設していた橋が完成を目前にして崩落し、27人が負傷する事件が起きた。崩れ去る橋を前に呆然と立ちすくむ地域住民の姿が世界に報道された。
国同士の約束を簡単に覆し、ずさんな工事で被害を出す中国の"仕事ぶり"によって、その信頼は急速に失われつつある。中国側が今のやり方を改めない限り、こうした事例は今後も増えていくだろう。
さらに、世界各国が中国経済への依存を深めると、今後、中国経済が傾いたときに大きな負債を抱えることにもなる。
中国は、経済力を軍事力に変えようとして、世界中で様々な混乱を生み出しつつあるのだ。
日本の良さを生かした開発援助を
中国の「一帯一路」構想は、政治的・軍事的な影響力拡大の手段であると同時に、国内向けの経済政策でもある。
過剰生産に苦しむ中国が海外にインフラを輸出することで需要を確保するためのもので、基本的に自国中心的な開発援助になっている。
いずれにせよ、そこには自国中心の発想しかない。
しかし本来、途上国の開発援助の目的は、途上国が自立して経済発展できるようにするということに他ならない。
日本は正しい動機のもと、インフラ開発を支援することが必要だ。また、「誠実さ」や「勤勉さ」、「仕事の質の高さ」など、日本が伝統的に培ってきた強みを世界中に広めることで、現地の自立を助ける開発援助をし、世界からの信頼を勝ち取ることが大切だ。
(小林真由美)
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