小浜逸郎・ことばの闘い

評論家をやっています。ジャンルは、思想・哲学・文学などが主ですが、時に応じて政治・社会・教育・音楽などを論じます。

日本よ、外国人観光客誘致などに浮かれるな

2017年08月01日 22時09分07秒 | 経済
        





2020年東京五輪を控え、外国人観光客をもっともっと迎えようではないかという機運が高まっています。
実際、ここのところ訪日外国人数はうなぎ上りに増えています。
2014年と2016年とを比較すると、わずか2年間で、1340万人から2400万人、倍率にして1.8倍という目覚ましさです。
http://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/since2003_tourists.pdf

また先ごろ、2016年の「旅行収支」が1.3兆円の黒字を記録したことがマスコミによって報じられ、一般国民を喜ばせています。
なかには、日本はこれから観光立国を目指すべきだなどという、いささかおっちょこちょいなことを言いだす人も出てくる始末です。

たしかに、多くの外国人が(移民としてでなく)観光のために日本を訪れ、「おもてなし文化」のような日本のよいところを知ってもらうのは悪いことではありません。
また、外国人がたくさんお金を落として行けば、観光資源の豊富な地域は儲かるでしょうし、新たに外国人誘致のための観光開発に力を入れることで、経済波及効果が望めるかもしれません。

しかし、です。

こういう議論が、果たしてどれだけこれからの日本経済全体や日本文化全体に資するものかどうかは、もっと慎重に考えてみなくてはなりません。

まず、訪日外国人といっても、すべてが観光目的で日本に来るわけではありません。
観光目的は、全体の約6割にとどまります。残りはビジネスその他なのです。
https://www.mlit.go.jp/common/001084273.pdf#search=%27%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E5%A4%96%E5%9B%BD%E4%BA%BA%E8%A6%B3%E5%85%89%E5%8F%8E%E5%85%A5+%E5%B9%B4%E6%AC%A1%E6%8E%A8%E7%A7%BB%27
ビジネスでは、利にさとい中国商人などが、巧みに利益をかっさらっていかないとも限りません。

次に、外国人の内訳ですが、韓国、中国、台湾、香港の4地域で、全体の73%を占めます。
欧米加豪の合計はわずか14%にすぎません。
しかも、2014年当時、前者は、67%、後者は18%でした。
http://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/since2003_tourists.pdf

つまり、増えているのは、東アジアからの訪問者であって、ヨーロッパや英米圏から日本を訪問する人たちの割合は、むしろ減っているのです(絶対数は増えていますが)。
数字を大きく押し上げているのは、近隣諸国だということがこれでわかります。

私たちは、外国人と聞くと、何となく西洋人を思い浮かべてしまう習慣から抜けきっていないのではないでしょうか。
そうして、そういうお客さんがたくさん来てくれることはウェルカムだ、とどこかで感じていないでしょうか。
そこには、近代以降の西洋コンプレックスが微妙に左右していると思いますが、それはともかくとしても、韓国や中国がいまの日本にとって、たいへん不安定で剣呑な関係にあるということを忘れないほうがいいと思います。

筆者は別に、この両国の国民一人一人に対して嫌悪感情や差別感情を抱いているわけではありません。それは、筆者の勤務する大学での留学生に対する対応の仕方を見ていただければわかると思います。

しかし、実際に長野オリンピックの際に来日した中国人は、ああいう乱暴な振る舞いに及んだわけですし、最近は少しおとなしくなったものの、訪日中国人観光客のマナーの悪さは有名です。
さらに中共独裁政権には、国防動員法という法律があって、国外に滞在している中国人はすべて有事の際に政権の命令に従わなくてはならないことになっています。
違反すれば厳罰でしょうから、彼らは「便衣兵」としてゲリラ戦を展開する可能性が大きい。

また慰安婦問題に限らず、韓国の反日感情は尋常ではなく、サッカー大会やフィギュアスケート大会などにおけるヒステリックな反応、仏像の窃盗、靖国神社の放火、落書きなど、数々の狼藉ぶりは私たちの記憶に新しいところです。
日本なら確実に犯罪行為とみなされることも、本国ではとがめられるどころか、「もっとやれ」と言わんばかりの調子です。

こういう人たちが「訪日外国人」としてうなぎ上りに増えているからといって、外国人観光客が増えることはいいことだなどと単純に言えるでしょうか。

訪日外国人が増えることを素直に喜べない理由のもう一つ。
じゃんじゃん高級ホテルの建設でも進むなら話は別ですが、実際には、サービスの悪い民泊の増加による料金低下競争が起きています。老舗旅館などが経営難で閉鎖されていきます。
デフレ不況期にこういうことが起きると、移民による賃金低下競争と同じで、日本の経済全体に悪影響を及ぼすのです。

さらに、次の点が重要です。

「旅行収支」が1.3兆円の黒字と聞くと、それだけで日本経済の復活に貢献するかのように思ってしまいます。
観光のにぎわいというのは目立ちますし、外国からたくさんの人がやってきて日本の土地を踏んでくれることは、日本が国際的に認知されて何となく繁栄につながるかのようなお祭り気分に国民を誘います。

しかし、「旅行収支」とは何でしょうか。
要するに、旅行によって外国人が日本に落とすお金(収入)と、日本人が外国に落とすお金(支出)との単なるバランスを示す数字です。日本人がお金がなくて海外旅行にあまり行かなくなれば、それだけで黒字幅は増えます。
知っておくべきなのは、旅行収支は、GDPに算入されないという事実です。
旅行収支は経常収支のうちのサービス収支の一種ですが、経常収支でGDPに算入されるのは、純輸出(輸出額-輸入額)だけです。
GDPは、次の恒等式によって算出されます。

Y(GDP)=C(消費)+I(投資)+G(政府支出)+NX(純輸出)

ここで、言うまでもなく、消費や投資や政府支出とは、国内における日本国民による支出(=他の「日本国民」にとっての所得)を指しています。
つまり、外国人がいくら日本にお金を落としても、それだけでは、GDPの増加にはつながらないのです。必ずしも内需(国内生産)が増えるわけではありませんからね。
一方で国内需要にもとづく財やサービスの生産が大きく落ち込んでいれば(いるのですが)、何にもなりません。

ところで、旅行収支1.3兆円の黒字というマスコミの報道ですが、これって、GDPのわずか0.26%にすぎませんよね。
GDPに算入されないうえに、この程度の黒字幅をもって、何か日本の経済が好転しているかのような幻想を振りまくマスコミの罪はたいへん重い
こうした報道は、政府が本来やるべきことをやらない口実として利用され、不作為の事実を隠蔽する効果を生むだけなのです。

日本は、「観光立国」などという、できもしない浮かれ騒ぎにうつつを抜かすのではなく、一刻も早くPB黒字化目標を破棄し、政府債務の対GDP比という正しい「財政健全化」概念を採用すべきです。
そのうえで、分母であるGDPを拡大させるために、政府支出を惜しまず、大胆な公共投資に打って出るのでなくてはなりません。