小浜逸郎・ことばの闘い

評論家をやっています。ジャンルは、思想・哲学・文学などが主ですが、時に応じて政治・社会・教育・音楽などを論じます。

東部戦線、異常だらけ

2017年08月30日 00時59分49秒 | 政治



今年に入って14回目。
儀式のようになった北朝鮮のミサイル発射ですが、8月29日の発射では、襟裳岬上空を通過し、太平洋上に落下。迎撃措置は取りませんでした。本土上空を通過したのは、2007年以来とのこと(当時は人工衛星と発表されていました)。
安倍総理大臣は、「我が国の安全保障にとって、これまでにない深刻かつ重大な脅威」と発表し、「断固たる抗議を北朝鮮に対して行」うとともに、「国連安保理に対して、緊急会合の開催を要請し」、「さらなる圧力の強化を国連の場において求め」、「いかなる状況にも対応できるよう、緊張感をもって国民の安全・安心の確保に万全を期して」いくと発表しました。
http://www.yomiuri.co.jp/matome/20170416-OYT8T50000.html

毎度の決まり文句で、何とも空しく響きますね。「断固たる抗議」なんて効くわけないのに。万全を期するとは、いったい何をやるというのでしょうか。
次の措置も空しいとしか言いようがありません。

政府は発射直後、全国瞬時警報システム「Jアラート」を通じて、北海道・東北などの住民に避難を促した。(同記事)

Jアラートを発令した地域は、北海道、東北各県、北関東、新潟など、12の地域にまたがっています。こんな広い地域に警報を発令して、そこに住む膨大な住民の人たちはどうすればいいというのでしょうか。できること、やるべきこと、何にもありませんよね。
いくつかの自治体で避難訓練をやっている映像をテレビで見たことがありますが、滑稽そのものです。駆り出されている人たちも緊張感はまったくなく、笑ってさえいました。

北朝鮮のミサイル発射については、さまざまな事情により、日本独自の抑止策はほとんど不可能です。それを裏づけるため、信頼のおける情報を並べてみましょう。

1.北朝鮮の貿易は、カギを握っているはずの中国に9割依存している。仮に(ほとんど考えられませんが)、中国が北への石油輸出を止めたとしても、ロシアからの輸入を倍増させることが可能である(現在ロシアからの輸入は中国の六分の一)
http://news.livedoor.com/article/detail/12980205/

2.国連安保理の制裁決議があっても、中国やロシアが守るかどうかきわめて怪しい。

3.北朝鮮の存在は、中露にとって、米国およびその同盟国の圧力に対する緩衝地帯の役割を果たしている。金正恩体制が崩壊することは、中露が米と直接対峙する事態を招き、彼らにとって思わしくない。

4.北朝鮮に実質的な影響を与えている中国の北部軍区は、江沢民派が支配しているので、習近平主席は、たとえトランプ大統領からの協力要請に応じる気があったとしても、何もできない。
https://38news.jp/politics/10321

5.今年4月初めに北朝鮮が発射したミサイルは、中国製の弾道弾である。中国製の弾道弾には暗証チップが組み込まれており、暗証コードがなければ発射出来ないそうである。推測だが、このほかにも、これまで発射されたミサイルが中国製であることが十分考えられる。そうして、この中国製ミサイルを管理しているのはおそらく北部軍区である。ことほどさように、北部軍区と北との結びつきは強いのである。実質的には中国は、北のミサイル発射を強力にサポートしているわけだ。

6.日本の現在の防衛力、防衛体制では、どこに飛んでくるかわからないミサイルを迎撃することはきわめて困難である。PAC3は沖縄を含め全国に16基しか配備されておらず、また海上からの迎撃が可能なイージス艦も3隻にすぎないので、予告なしの攻撃にはとても対処できない。また、核基地やミサイル基地に対する先制攻撃も、理論上は可能だが、諸般の事情によりまず無理。

7.北朝鮮は、米国との直接対話を通して核兵器保有を認めさせるために武力行使をしているので、米国がそれを認めない限り(認めるはずがありませんが)、対話は不成立である。ティラーソン国務長官の先の対話ほのめかしは、ポーズのみ。したがって北朝鮮は、いつまでも、ボカボカと日本近海あるいは西太平洋にミサイルを撃ち続けることをやめない。これは、米の同盟国・日本の弱点を知悉した北の、いわば武力による「瀬戸際外交」である。先になされたグァム近海への発射予告の実行を引き延ばしているのも、その一つの手である。今回の発射は飛行距離がグァムに近いところから見て、グァムにだってこの通り撃てるぞというアッピールの意味があるだろう。

8.日本は北朝鮮と国交がないので、政府にとって有効な情報の直接入手や、外交交渉による圧力のかけようがない。たとえこれらができたとしても、いまの外務省の体たらくでは、その限界は推して知るべし。

9、日本人一般に危機意識が不足している。たとえあったとしても、それを活かすための新たな実践的方策がとられていない。財務省が防衛予算倍増を阻止しているからである。

というわけで、結局は、いつも通り、アメリカ親分の意向に全面的に依存するしかない、というのがいつわらざる実情なのです。
しかし覇権崩壊と内政危機を抱えるいまの親分に依存しても、それが役に立つかどうかは、はなはだ心もとない。なので、核武装の可能性も含めた自主独立・自主防衛の必要を訴え続けることはぜひとも必要ですが、情けないことに、政府がそれを積極的に進めようという気配はまったく感じられません。

本来なら、わが国にとっての緊急事態なのですから(それはもうずっと前から続いてきたのですから)、政府は直ちに特別予算を組んで、国防のためのあらゆる手段を速やかに講ずるべき「だった」のです。普通の国なら、とっくにそうしているでしょう。

北朝鮮問題に関して唯一、理想的で、かつ実現可能な方策として考えられるのは、次のシナリオです。これもアメリカ親分にやってもらうほかないのですが。

アメリカが戦後行なった戦争で唯一成功したのは、湾岸戦争でした。この時のスピーディーな処理に学ぶべきです。
つまり、当時よりもはるかに進歩しているハイテク軍事技術を駆使して、北朝鮮の核基地、ミサイル基地をピンポイント攻撃で一挙に破壊します。金正恩体制を崩壊させるための斬首作戦も同時並行的に遂行すべきでしょう。韓国や日本を巻き込んだドンパチは、犠牲が大きすぎるので禁じ手。

さてこれが成功したとして、代替政権の樹立に当たって、中露が黙っているはずはなく、世界大戦の危機はいっそう高まるかもしれません。しかし、北と話し合うよりは、中露相手のほうがまだ対話の可能性があります。大国同士のプライドがそれを許すのです。