小浜逸郎・ことばの闘い

評論家をやっています。ジャンルは、思想・哲学・文学などが主ですが、時に応じて政治・社会・教育・音楽などを論じます。

いやな予感

2017年07月04日 18時02分59秒 | 政治
        





東京都議会選は、都民ファーストの圧勝、自民党の惨敗に終わりました。
自民党もまさかこれほどとは思っていなかったでしょう。
投票結果を見ると、自民党は、定数の多い地区で今までどおり2人候補者を立てていたために、共倒れや一人だけ当選というケースが多くなっています。党選対策本部の警戒感がまったく足りなかったのが最大の敗因だと筆者は思います。

各紙、「もりかけ」問題、豊田問題、稲田問題などにおける「自民党のおごり」が今回の結果を招いたと報じています。自民党自身もそのように総括しています。
しかし、マスコミ主導による反安倍キャンペーン、反権力・反日キャンペーンが功を奏したという意味でなら、それは当たっていますが、こういう形で勢力分布ががらりと変わること自体に、筆者は政治のマスヒステリア化を見ます。

また小池都知事の人気が都民ファーストの圧勝をもたらしたという見方もあるようですが、これも必ずしも当たっていないと思います。
というのは、まず、投票率が前回より上がったとはいえ、有権者の半分しか投票していないのです。都知事選に対する都民の関心の低さが歴然としています。
次に、小池都知事の人気は、選挙公示前の意識調査では決して高くなく、特に豊洲問題では、あの引き延ばし政策にほとんどの人が反対していました。
一月時点で安全確認がなされていたにもかかわらず、小池氏はこれをひと月以上も隠しており、「安心と安全」などという怪しげなキャッチコピーによって、いたずらに移転を引き延ばしてきました。そのために巨額の税金が無駄遣いされており、現在もこの事態は続いています。
ちなみに豊洲市場が築地に比べてはるかに安全であり、衛生的であることは、氏の都知事就任以前からわかっていたことです。
要するに「選挙ファースト」であり、肝心の問題を無視して陣営固めのために時間稼ぎをしていたにすぎないのです。
さらに、小池氏はゆくゆく国政進出を狙っているようですが(すでにそれを匂わせています)、この人には、日本をどうしたいのかというヴィジョンと信念が何もありません。悪い意味でのポピュリズム政治家の典型です(「国民ファースト」!)。
たとえば、安倍政権が進めてきたグローバリズム政策の害毒(消費増税、TPP,農協法改悪、「岩盤」規制緩和、移民政策、労働者派遣法改悪、電力自由化、種子法廃止など)について、何か定見を持っているでしょうか。筆者にはとうてい、そうは思えません。これまで国政にさんざん関与してきながら、重要課題に関する立場をほとんど明らかにしたことがないからです。

以上のように、今回の選挙結果は、安倍政権に対する都民一般の「飽き」の気分、「デフレ疲れ」の気分、権力者や公務員に対する「ルサンチマン」の気分の蔓延に、反日・反権力野党やマスメディアがうまく乗っかった結果にすぎないのです。

これがただの気分、ムードにすぎないというのは、都民(あるいは国民)の大半が、安倍政権の政策の問題点や、これまでの都政一般の問題点について、よく理解しているとは思えないからです。
それは、ここ最近、首長や政権批判が高まる時に、具体的な政策に関しての理性的な批判として現われるのではなく、必ず権力者のスキャンダルだけを大げさに騒ぎ立てる感情的な形として現れるのを見てもわかります。
しかもそのスキャンダルは、半分以上、反日・反権力野党やマスメディアによってほじくり出されたりフレームアップされたりしたもので占められています。

思えば、この大衆のムードによる権力者引きずりおろしの兆候は、舛添要一前都知事に対する執拗な攻撃の時から始まっていました。多くの人が舛添批判にうつつを抜かしている時に、筆者はこの引きずりおろしの動きには実に不快なものがあるということを、このブログに発表しておきました(「舛添騒動に見る日本人の愚かさ」2016年6月16日)。
http://blog.goo.ne.jp/kohamaitsuo/e/0ced7935bbc25e77b979dc7856739432

気分、ムードの支配による政治の転換は、たいへん危険です。
安倍政権や自民党には上述のように、良くないところがたくさんあります。しかし外交、軍事的安全保障、憲法問題などの面では、現行憲法やアメリカの睨みなどに手足を縛られた厳しい制約の中で、概してよくやっています。
そのように、是々非々で物事を見ず、他に適切な対抗馬も見当たらないうちに、「盥の水と一緒に赤子を流す」体のことをやってしまうと、そこに空白が生じます。アナーキー状態ですね。いま、日本の政治は、確実にこの道を歩んでいます。
アナーキー状態では、国民の不満感情、やけっぱち感情が高まります。それに乗じて、国民感情を巧みに束ねたデマゴーグ政治家が登場して、一挙に全体主義政治体制を作り上げてしまう。これは、歴史が教えているところですね。

安倍長期政権疲れやデフレ不況疲れ、ブラック企業下での過重労働疲れ、これらが重なって、中身は何でもいいから、とにかく都政も国政もリフレッシュ! 
先の拙ブログ原稿には、日本がこうした傾向を深めていることがすでに書かれているのですが、この傾向は、残念ながらさらに脈拍を高めていると思わずにはいられません。
というのは、メルマガ・三橋経済新聞(新経世済民新聞)でも以前触れましたように(https://38news.jp/politics/10577
)、天才的デマゴーグ・橋下徹氏が、いよいよ国政の中枢部に登場しようとしているからです。

すでに藤井聡氏が7月4日の同メルマガでこの危険について強調されているとおり、橋下氏入閣は、かなり確度が高そうです。水面下では橋下氏入閣の交渉が進んでいるのでしょう。
「ゴネ得」という言葉がありますが、橋下氏は、入閣しない、しないと拒否し続けることで、「ほかに人がいなくてそんなに求めるなら、仕方ないから引き受けるか」という手法で印象をよくしておくと同時に、「ただし引き受ける以上は、こちらにも条件が……」などと切り出して、巧みに「条件闘争」をしていくのではないかと疑われます。有力ポスト、実際に発揮できる権限などについて。

政府が彼に求めているポストは、報道によれば「人づくり革命」担当相だそうです。
https://dot.asahi.com/wa/2017070200034.html?page=3
何じゃ、そりゃ? という感じですね。
人づくりは養育者、教育者、社会全体が行なうもので、橋下氏などにそんなことをされたらたまったものではありません。このネーミング(誰が考えたのか知りませんが)そのものが、イデオロギーに付和雷同する単純人間製造装置の新設を企んでいるようで、全体主義的発想そのものではありませんか。

ちなみに、予定されている内閣改造は、「都知事選の大敗を受けて」と報道しているメディアが多いですが、都知事選とは直接関係なく、任期中に憲法改正を実現したいとする安倍総理が、その体制固めを目論んで以前から決めていたことです。橋下氏の入閣プランは、そのための最大の目玉です。
先のメルマガでは、それがいかに百害あって一利なしか書いておきましたが、都議会選大敗という結果と合わせて考えると、さらにとてもいやな予感がしてきました。

以下は、筆者が考えた最悪のシナリオです(敬称略)。

都議会選大敗の結果、これまでくすぶっていた自民党内の反安倍勢力がさらに力を増し、安倍引きずりおろしの気運が高まる。安倍はそれを敏感に察知し、自分の首相生命は遠からず終わりを告げるだろう。早々に自分の任期中に改憲を実現させなくてはならない。内閣改造を急ごう。改憲発議を急ごう――こうして8月には橋下徹が入閣。
一方、ポスト安倍を狙う石破茂は、安倍凋落という絶好の機会を逃さず、消費増税の必要性を党内外で力説する。おバカな自民党員の多くの賛同を集め、増税延期を防ぐため、来年の総裁選を待たずして首班交替を画策する。
年内に改憲の発議が成立し、来年早々に国民投票へ。安倍政権支持率低下のため、公明党もこれまでの協力的態度を変え、国民投票では「自衛隊の存在を憲法に記入」ならず。安倍の責任が問われ、総理辞任。総裁選前倒しで石破が当選、そのまま総理に就任。橋下は安倍の期待に応えなかったにもかかわらず、新閣僚人事で巧みな根回しにより留任。総務大臣に。
経済音痴の石破は、財務省の緊縮真理教をそのまま実行。日本のデフレ化が加速し、国民生活は貧困化を深める。財務省と黒幕竹中と橋下が実権掌握。国民の不満表現を弾圧。言論統制へ。
グローバリズムの浸透さらに早まり、中国人の移民、不動産取得、企業買収激増。小池は中国の一帯一路に賛同、二期目の習近平主席に媚びを売り、東京五輪の財政は事実上中国資本で。

こんなことにならないように、心より祈念いたします。



最新の画像もっと見る

3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (nanba)
2017-07-04 20:37:37
都議選結果を受けての現状認識と論考部分については仰る通りだと思います。しかしそこから「橋下を警戒せよ」になるのが全然ピンと来ません。

私兵を抱えたお山の大将、軍閥の長的なポジションにいる時には、ああいう人には迫力がある。
しかしそこから降りてしまえば「小銭稼ぎのコメンテーター」の一人でしかない。
げんこつが直接届かない大きなパースペクティブの話や、個別具体的な社会の中の細やかな話について喋ると「間違いですらない毒にも薬にもならないこと」か「素人臭いトンチキなこと」しか言えない。
身一つで、客将あるいは客寄せパンダとして(もしも)安倍陣営に招聘されたところで、今更彼に何ができるというのか?
そもそも維新自体がもはや公明と都民Fに分担してお株を奪われ、存在感が褪せてしまっているのに?

斜陽の大マスコミが自分たちの特権性いまだ健在なりとデモンストレートするためだけに政権攻撃に熱中し、「無党派」と美称される単なる情報弱者層がムダにキャスティングヴォートを握るという“マスヒステリー”状況、その中を泳ぐ巧みさに特化して最適化した小池百合子という人物が今一番コワイです。その腹黒さがというより肚の中の「何も無さ」が。

橋下さんなんて元祖「劇場型」小泉純一郎同様、まったくの「過去の人」としか思えないのですが?
返信する
nanbaさんへ (小浜逸郎)
2017-07-04 21:57:31
コメント、ありがとうございます。

橋下氏がおっしゃるような人で、私の心配が杞憂であれば、それこそありがたいのですが、この人をあまり舐めないほうがいいと思います。

もしまだでしたら、本文中にURLを提示した二つの拙文をお読みいただきたいのですが、彼は現実に「大阪都構想」(実際には大阪市解体構想)で、非常に狡猾な方法で大阪市民を騙し、かつこの構想に反対した京都大学大学院教授の藤井聡氏の言論を卑劣極まるやり方で圧殺しようと諮ったのです。

この経過は、藤井氏自身が詳しく書いていますが、最近のものでは、以下のURLでその概略を知ることができます。
氏は「都構想」の住民投票の直前に多くの有識者を集め、「都構想」のインチキさを、専門的な見地から暴きました。その甲斐あって、住民投票では、かろうじて僅差で反対にこぎつけることができたのです。

もし橋下氏が「民間大臣」になれば、憲法改正という国論を二分する大問題で、その欺瞞的手法をフルに発揮することになります。
ちなみに私は改憲論者ですが、卑劣な人間の権力行使によってそれが成し遂げられることを、藤井氏同様、潔しとしません。それだけではなく、選挙によって選ばれたのでもない民間人が、国政の重要な問題を動かす(竹中平蔵氏がその典型で、彼は今までさんざんそうしてきました)のは民主主義の原則にもとる話ですし、いったん入閣して中枢に居座ることができれば、自己延命と権力増殖のためにさまざまな手を使うことが可能になるでしょう。

関東では、橋下氏は今のところたしかに人気がないですが、それは関東人が、彼のデマゴーグとしての巧みさに対して免疫がないので、その才能を実感できていないからです。

なお私は、単に橋下氏の力量を恐れているのではなく、政策論議をまったく無視して動く今の日本の政治やマスコミのひどさが、彼のようなデマゴーグを呼び寄せる結果になっている、その状況的な必然性を憂慮しているのです。

小池氏については、おっしゃるように、その空っぽさがコワイというのは、かなりわかる気がいたします。ただ、当分は都知事としての実務的な課題に追われるでしょうし、国政に進出してポピュリストとしての辣腕(?)をふるったとしても、しょせんは何かか誰かに媚びずにはいられない「藝者根性」をさらすだけではないでしょうか。あれは、私の見る所では、断固として何かを貫くというタマではないですね。だから「ぼんやり日本人」にとって人気があるのかもしれませんが。

まあ、お互い、今後の経緯を注意深く見守ることにいたしましょう。
返信する
nanbaさんへ (小浜逸郎)
2017-07-04 22:02:02
先のコメントで、藤井氏の文章についてURLを記すのを忘れました。失礼いたしました。
以下のとおりです。
https://38news.jp/politics/10721
返信する

コメントを投稿