中米パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」の内部文書が流出し、その中に世界の政府要人の関係者が含まれていたことで、大騒ぎになっていますね。キャメロン首相の亡父、プーチン大統領の友人、習近平国家主席の親族、ウクライナのポロシェンコ大統領自身、シリアのアサド大統領のいとこ、アルゼンチンのマクリ大統領自身、ブラジルの七つの政党の政治家、マレーシアのナシフ首相の息子等々、みんなみんなヴァージン諸島やパナマにペーパーカンパニーを作って「タックスヘイヴン」の利用者だったと。いやはやにぎやかなスキャンダルです。アイスランドの首相の辞任騒ぎまで起きました。
この問題、これからも相当複雑な形で尾を引くことでしょう。
ところですでにあちこちで言われていますが、これらの要人の中に米政府関係者や米国大企業主の名が一つも入っていない事実がまず疑問点として浮かび上がります。パナマやカリブ海諸国といえばアメリカの裏庭であり、米政府関係者やそれに近い大企業が最も数多く含まれていて当然と考えられるからです。事実、産経新聞二〇一六年四月七日付の記事によれば、「米メディアによると、問題の法律事務所は米国内(ネバダ州やワイオミング州)で千社以上の設立に関与していた。文書にはテロ資金に関わっている可能性もある会社も含まれ、司法当局は調査に着手した」とあります。
これについては、当然、次のような推測が成り立ちます。すなわち、米政府筋はこの情報をリークした国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)に初めから深く関与しており、それを利用して米国に敵対的または不服従的な国の威信を失墜させ、自国の覇権を回復する戦略的目的があったのだ、と。しかし、ロシア、中共、シリア、イスラム教国のマレーシアについてなら、そういう推測が成り立つ余地があることはわからないでもありませんが、ウクライナ(ポロシェンコ政権はアメリカが作ったようなものです)やアイスランドやブラジルやアルゼンチン、同盟国のイギリスまでが入っているとなると、首をかしげざるを得ません。もっとも、最近、イギリスは米国の言うことを聞かずに中共にばかりすり寄っているのは確かですが。
とはいえ米国は、国内にすでにマネー・ロンダリングや租税回避のための地域をいくらも抱えており、わざわざパナマの地にペーパーカンパニーを作る必要はないのだという説もあります。
http://www.afpbb.com/articles/-/3083379?pid=0
しかしこの説はにわかには信じ難い。たとえばタックスヘイヴンとして有名なケイマン諸島には、アメリカ企業が集中していて、世界第一位の巨額な資金をここにプールしています。アメリカ企業がパナマだけをはずす理由はありません。
また社会分析家の高島康司氏によると、今から16か月前、パナマ文書はすでに独立系メディア「VICE」にその怪しい内情が報じられていましたが、一年前にある匿名の人物から南ドイツ新聞に21万4000社のリストが持ち込まれました。これとICIJとの協力によって、このたびのリークに至ったそうです。またICIJは、今後アメリカ企業の名も出てくるが政治家の名前は含まれていないと答えているそうです。
氏はまた、ICIJの上部組織・アメリカの非営利の調査報道団体「センター・フォー・パブリック・インテグリティ(CPI)」による「組織犯罪と汚職の報告プロジェクト」の資金源を調べてみると、共和党や米国務省と深いつながりのある次のような提供者がはっきり記載されていると述べています。
フォード・ファウンデーション
カーネギー財団
ロックフェラー家財団
WKケロッグ・ファウンデーション
オープンソサエティー(ジョージ・ソロス設立)
さらに、CPIは、米政府の海外援助を実施する合衆国国際開発庁(USAID)から直接資金の提供を受けているそうです。
http://www.mag2.com/p/money/9580
アメリカは外交政策のためにさまざまなNGOを利用しており、たとえば「カラー革命」や「アラブの春」を引き起こすことに貢献したフリーダムハウスというNGOは、その活動資金を上記の団体から得ていたというのです。
こうした事情から高島氏は、このたびのリークにも米政府の外交政策という目的が絡んでおり、その外交政策とは、ロシアと中共を牽制することによって、日米韓同盟による北朝鮮への攻撃を正当化することではないかと推定しています。
この推定には一定の説得力があります。というのは、第一にアメリカは中東から手を引き、「リバランス」政策によってアジアの安全保障にその力をシフトさせることを建前上表明していますし、第二に、北朝鮮の相次ぐ暴発を、国連常任理事国や六か国協議によって消し止めることは、中共やロシアがいるかぎり不可能に近いからです。
また、北朝鮮が新たなタックスヘイヴンになっているという情報もあります。
http://www.realinsight.tv/nishi/episode_3_rzcf4bq5/
今回のリークは、二〇一四年七月から実施されているFATCA(外国口座税務コンプライアンス法)によって租税回避を抑え込もうとする米政府の意志との間に整合性があるという見方も成り立ちます。外交面・経済政策面でほぼアメリカのいいなりになっている日本政府が、この騒ぎに対して口をつぐみ、文書を調査することは「考えていない」(菅官房長官)と表明していることも、高島説の妥当性を匂わせます。
しかしここで疑問が湧いてきます。高島氏の説は、プーチン大統領が言っているのとだいたい同じ米政府陰謀論ということになりますが、それにしては、リークのされ方がナイーブすぎないでしょうか。というのは、現時点でアメリカ企業やアメリカ政治家の名前が一つも出ていないという状態に対しては、誰もが疑問を抱くに決まっているからです(現に抱かれています)。そうしてその疑問に対する答えも単純で、それは、米政府が自分の国のことは棚に上げてこの陰謀を仕組んだに違いないからだというものでしょう。
しかしもし私が米政府の立場に立って陰謀を企むとしたら、権力中枢に致命的なダメージが及ばない限りで、アメリカの有力企業や有力政治家の名前をわざと公表させるでしょう。その方が、事実の公正な発表だという体裁が保てるからです。
そこで、あえて別の陰謀論的仮説を出すなら、「ある匿名の人物」と南ドイツ新聞という左派系のメディア、およびICIJ(これも思想的には左派リベラルと考えていいでしょう)とが、いかにも米政府の陰謀らしく見せるような陰謀を仕組んだという見方も成り立つわけです。または、ここには、アメリカの政治的影響を排除したいドイツ(あるいはほぼ同じことですがEU)の思惑が何らかの形で絡んでいるとか。
しかしじつは、この稿を起こした目的は、こうした陰謀論合戦をするところにあるのではありません。その本来の目的については次回に譲りましょう。
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