小浜逸郎・ことばの闘い

評論家をやっています。ジャンルは、思想・哲学・文学などが主ですが、時に応じて政治・社会・教育・音楽などを論じます。

こんな無意味・有害なことやめろ(2)

2013年11月10日 12時27分41秒 | 社会評論
こんな無意味・有害なことやめろ(2)


月曜振替休日

 いま日本では、祝日と日曜日が重なると、月曜日を振替休日にしますね。もちろん、偶然月曜日が祝日に当たっている場合もあるのですが、海の日などは、はじめから7月の第三月曜日と決まっています。

 2013年のカレンダーでは、日曜日以外の休日が19回、そのうち月曜が休日になる日が11回もあります。一年は約52週ですから、全月曜日のうち2割強が休日ということになります。

なんでこんなに公式的な月曜休日が多いのか。これはいろいろと弊害が多いのではないか、と私は以前から考えていました。その弊害についてこれから述べますが、その前に、諸外国(主要先進国)ではどうかということを調べてみました。(いずれも2013年 *1)



        全休日(日曜日以外)   うち月曜

アメリカ     10         6

イギリス     12         6

ドイツ      16         2

フランス     12         3

イタリア     9         1

スウェーデン   16         1

オランダ     8         2

カナダ      20         14

韓国       14         1



 以上挙げた中で、日本より多いのはカナダだけですね。あまり勤勉な国民性とは言えないイタリアのような国の公式休日が少ないのにびっくりされた方もいるのではないでしょうか。もっとも深刻な不況と高失業率で苦しんでいるスペインは、なんと36回公式休日があります。おいおい、そんなに休んでちゃ生産力落ちるぜ、と言ってやりたくなりますが、それでも月曜日は8回です。

 さて、月曜休日の弊害ですが、この曜日を本当に休みにしてしまうのは、官公庁、銀行、郵便局、公的教育機関、証券取引所、恵まれた一部の大企業、医療機関など、高い公共性が要求されるところに限られます。じっさいには、商店、デパート、コンビニ、新聞社、テレビ局、鉄道、観光業、流通業、運輸業など、多くの民間サービス業者は休んでいません。総労働人口のうち、どれくらいが実際に休んでおり、どれくらいが働いているのかはわかりませんが、第三次産業中心の社会では、相当多くの人が働いているものと考えられます。上に挙げた業種だけではなく、この不況下では、普通のサラリーマン、自営業者なども、さぞかし休日返上で働いているケースが多いでしょう。

 ですから、私がここで取り上げたいポイントは、休日を多くすると日本人の伝統的な勤勉さが衰えるといった道徳的な心配にあるのではありません。それはむしろ杞憂というべきです。

 問題の要点は、高度な公共性が要求される業種ほどしっかり休日をとっていて、民間業者の多くは休んでいない、このギャップをどう考えるかというところにあります。いろいろ弊害が思い浮かぶのですが、ここでは、次の四点に絞ってその弊害を述べましょう。



① 医療機関が休日を多くすると、緊急時の対応が遅れがちになる。

② 公的教育機関が月曜を休みにすると、カリキュラムの構成に支障をきたし、その分、しわ寄せが他の日に回ってくる。

③ 銀行や郵便局、証券取引所などが閉まっている日が多いと、大切な資金取引や通信業務に支障をきたし、結果的に経済の不活性化を惹き起こしやすい。

④ 官公庁や一部大企業など、地位も給料も安定している機関に対して、中小企業で喘いでいる人たちの不満が高まりやすい。



① については、多言を要しないでしょう。

もっとも、おそらく実態はさまざまで、看護師さんなど、過酷な環境下で休日出勤している人たちもさぞ多いことと思います。こうした人たちがゆったりと働けるように、多くの人材を確保し、しかも待遇面で優遇する施策が切に望まれます。

② について、少し説明します。

まず小中学校では、土、日、月と三連休が多いと、年間授業時数をこなすために、その他の曜日にたくさんの時間を割り当てなくてはならなくなります。ことに現在は、ゆとり教育の失敗を挽回するために、学力向上が至上命題となっています。そうすると、先生は少ない曜日でたくさんの業務をこなさなくてはならず、そのジレンマに悩むことになります。

また、子どもも、ウィークデーの生活時間の大半を学校で過ごすことになります。いまの子どもたちは神経が繊細になっていて、固定集団で一日長い時間を過ごすことにうまく適応できない子がたくさんいます。つまり、不登校やいじめなどの間接的な要因になりやすいのです。週休2日くらいを上限として、各曜日、薄く広く時間配分をするのがちょうどいいバランスだと思います。

大学の場合は別の切実な問題があります。大学は講義ごとに教師が異なりますね。あらかじめ何先生の授業は何曜日の何時限と決めておかなくてはなりません。そうして一コマについて一学期何時限までこなすということも決められていますから、月曜日に当たった先生は、講義回数を十分確保することができず、土曜日などに補講をたくさん設定しなくてはなりません。ところが、補講って、学生が集まらないんですね。

③ については、三つの問題が考えられます。はじめの二

点に関しては、どこまで妥当か、あまり自信がないので

間違っていたらどなたか指摘してください。

一つは、国際金融市場での取引に関して、各国で休日が異なるために、必要な取引が遅滞しやすいのではないかということです。

もう一つは、資金繰りに苦労している経営者が、貸し借りや返済などでチャンスを逸してしまうと、不渡りを出すなど、致命的な失敗に陥りやすいのではないか。それを避けるために、町金、闇金などについ頼ってしまい、ますます泥沼にはまりやすいのではないか。これを考えると、銀行、郵便局などは、もっと公的な責任を自覚して、開かれた時間を多くする必要があると思います。

 三つ目。これは日常サービスに関する身近な不満ですが、手紙や振り込み、郵便振替などの必要があって、早くこうした懸案事項を済ませたいと思っている時に窓口が閉まっていると、何でもっと開いていてくれないのかと感じることが多いのですね。コンビニやスーパー、デパートなどはほとんど休まないので、その便利さがふつうだと感じているために、余計、こうした公的機関、準公的機関の不便さが際立ちます。ちなみにコンビニのATMでは、振り込み業務は扱っていませんね。

 以上の機能不全は、全体として経済的な不活性化を招きやすく、それは結局、当の営業者自身の不利につながってくると思うのですが、いかがでしょうか。

④ について。

これは、いちばん深刻な問題のように思われます。

私は、必ずしも官公庁や一部の大企業に勤めている人たちが楽をして高給を取っているとは思いませんが、外から見ると、どうしてもそう見えてしまうところがあります。経営に苦しんでいる中小企業の経営者や、低賃金で過酷な労働に耐えている人たちは、相当にストレスをためているものと思われます。

そういう感情的な下地があると、「あいつら、いい思いしやがって」というルサンチマンにつながりやすい。それが人情というものです。不満のはけ口を外に向けるというのは、まさに某隣国政府が悪用している政策ですね。それと同じように、ルサンチマンのため込みが思わぬ秩序攪乱、治安の悪化を呼び起こすかもしれません。そうならないためには、景気回復が何よりも大事なのですが、公的機関、準公的機関、一部の大企業などは、腹の太いところを見せて、せめて公休日を少し減らすべきではないでしょうか。

さてこの項、最後に、いまの日本はなぜこんなにやたら祝日や振り替え休日を増やすようになったのかについて考えてみましょう。

これについては、年配の方々はすぐ思いあたるでしょうが、高度成長期以後、日本人の働きすぎということがしきりと問題にされた時期があります。他の先進諸国に比べて、労働時間がこんなに多い。これは長年の貧乏性、余裕のなさで、恥ずかしいというわけですね。当時の労働省などがドイツは何時間、それに比べて日本はこんなに多いなどと統計を駆使して喧伝したのです。過労死も多いし、うまく余暇を楽しむことを知らない、等々。労働組合の活動がまだ活発だった頃でもあります。

そういう判断が、実態の正確な把握をせずにずっと残り続けて、いまに至っています。だから公式的に休日を増やせばいいという安易で観念的な解決策を取ってきてしまったのだと思います。公式的に休日を増やしたって、休めない人は休めないんだよ。

では、日本人の労働時間は、国際的に見てどのように推移してきたのか。この点について資料(*2)に当たってみましたが、各国の状況が一目でわかるものの、統計上の理由から、特定年次の比較には適さないと、わざわざ断り書きがあります。ただ、一応、1988年の労働基準法改正を契機に日本人の平均労働時間数は、かなり減ってきたことがわかります。

とはいえ、じつをいえば、私はこの資料をあまり信用していません。というのは、第一に、基礎データをどういう方法で抽出して算出しているのか、近年問題とされている派遣やバイト、残業などの実情がきちんと反映されているのか、そのへんが疑わしいのと、第二に、これはあくまで「平均」であって、格差の問題が考慮されていないからです。

そこで、この問題に関しては、次のように考えるのが妥当だと思います。

労働時間が増えたか減ったかというような抽象的な指標だけで、休日が多いことの正当性いかんを判断することには、根本的な限界があります。くどいようですが、この不況下、実際には統計にカウントされないところで人々、特に若者は休日返上で必死にはたらいている可能性があり、もしそうだとすると、ただ休日を増やすのが上策だなどとはとても言えないからです。形式的に休日を増やすことによって、第三次産業中心の社会では、特にあまり良い目を見ていない階層でかえってつらい労働が増えているのかもしれません。

少なくとも、不況から脱却しなければ、日本の月曜日振替休日がいろいろな意味で有害無益だということだけは言えそうです。国際的に見てもかなり異常なこの制度的措置が、別に少しも寿ぐべきことではない、ということを知っておく必要があると思います。みんながそこそこ豊かになり、心置きなく休日や余暇を楽しむことができるようになってこそ、休日が多い国の真のメリットが生きるのではないでしょうか。



参考資料

*1:http://www.startoption.com/holidays/

*2:http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/3100.html

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