年明けに刊行予定の拙著『大日本貧困帝国 新しい学問のすゝめ』(仮)で、筆者は「インテリ愚民」という用語を使っています。
「愚民」という言葉は、福沢諭吉が当時の一般民衆を指してしきりに使った言葉ですが、これは差別用語ではありません。
当時の民衆の実態を正確にとらえたもので、福沢は、愚民が何とか少しでも愚民でなくなってくれるように願って、自主独立の精神を説いたのでした。
しかし筆者は、「インテリ愚民」という用語をあえて差別的に用います。
彼らが愚民でなくなる可能性がゼロだからです。
折から、財務省のポチである元東大教授・吉川洋氏の後任として東京大学大学院経済学研究科教授を務めている福田慎一氏が、ロイターのインタビューに応えた記事を読みました(2019年12月18日)。
ここで彼が言っていることは、間違いだらけであるだけでなく、臆病犬のつぶやきに満ちています。
まさに東大の経済学研究科というところは、「インテリ愚民」の生産工場で、その再生産能力には恐るべきものがあります。
以下、記事を引用します(太字は引用者)
《福田教授は、人口減少などの構造問題を抱えている日本において、ポリシーミックスで経済成長に向けた対策をいくら打っても、その有効性には疑問があると指摘。課題は少子化を食い止めることにあり、それに応える政策が打ち出されていないと言う。さらに、ポリシーミックスで本格的に景気浮揚が図れたとしても、その時には金利も同時に上昇しているはずで、財政悪化は急速に進むと指摘する。
今回の大型経済対策は災害対策など国土強靭化に向けた多額の財政出動を盛り込んだものだが、財源が限られる中で大規模自然災害に大型歳出で備えることはどの程度意味があるのか、あるいは成長につながるのか、といった視点も必要との立場を示す。(中略)
このため同教授は「金利ゼロ・低成長という時代に同じようにポリシーミックスを行うことで、どの程度の効果が生まれるのか。歴史的に初めてのことだ」として、効果不明ながらも壮大な社会的実験を行っているに等しいと指摘する。(中略)
福田教授は効果に2つの疑問を呈する。
「一つには、財政の持続可能性の問題がある。ポリシーミックスは成功すると経済が上向き、通常は金利も上昇する。そうなると成長率よりも金利が高くなり、財政赤字の拡大要因となる。財政再建は難しい状況に陥る」と指摘。
もう一つは、「そもそもポリシーミックスを実施しても経済自体が構造問題を抱えていれば、本格回復はできない。日本がまさにそうで、デフレ構造の本質は、人口減少や老後不安で将来が見通せず、物価や賃金が上がりにくいということだ」という。
安倍政権は今月、事業規模26兆円の総合経済対策を閣議決定した。そこには、日銀による強力な金融緩和継続のもとで思い切った財政政策を講ずることが可能との考え方が盛り込まれている。
福田教授は、こうした今回の大型対策について、「ポリシーミックスは、財政の使途が成長に資する内容かどうかが重要だ」と指摘。「日本では少子高齢化対策が本丸のはず。しかし、これまでそれに応える政策はやっていないし、結果として出生率の低下には歯止めがかかっていない」と厳しい見方を示す。
またこのところ、大規模な自然災害が相次いでいるため国土強靭化に巨額の財政をつぎ込む姿が目立つが、「老朽化インフラの補修は必要とはいえ、災害対策は成長に寄与するとはいい難い。自然災害にお金で対抗するには無理があり、成長には結びつかない」と主張。》
まず福田教授は、今回の安倍政権の来年度予算についての閣議決定が、「大型経済対策」であるという、基本的な勘違いをしています。
26兆円の財政出動というマスコミが喧伝した数字にコロリとだまされているのですね。
26兆円の内訳をよく見てください。
半分の13兆円は民間事業です。
残りは財政支出ですが、うち、国・地方の歳出は9.4兆円程度、財政投融資3.8兆円程度。今年度補正予算で4.3兆円、予備費で0.1兆円を確保するとともに、来年度当初予算の臨時・特別の措置で1.8兆円。
国・地方・財政投融資の合計が13.2兆円で、国の予算としては、計6.2兆円に過ぎません。
しかも補正予算はたったの4.3兆円です。
この程度の増額は、毎年行われている額に災害対策費、社会保障費などを少しばかり上積みしただけのことです。
しかもこれは単年度だけの話で、長期的な計画のもとに割り出されているわけではないので、次の年度には、元に戻ってしまうでしょう。
朝日から産経まで大マスコミは、102兆円の大型予算を組んでだいじょうぶなのかなどと、さかんに騒いでいます。
恐ろしいのは、見かけだけ大きな金額を示すことで、実際にデフレ脱却できなかった場合に(できっこないのですが)、「それみろ、大胆に財政出動したのに効果がなかったじゃないか」という口実を財務省に与えてしまうことです。
福田教授は、こういうことも見抜けない「インテリ愚民」なのです。
前期記事の教授のご心配は、ポリシーミックス(金融緩和と積極財政との二刀流のことでしょう)などと恰好をつけていますが、マスコミが流す「大型予算で大丈夫か」という毎年繰り返される心配をただなぞっただけのものです。
もし本当に長中期も視野に入れた「大型経済対策」が実施されてデフレから脱却できれば、そこそこ金利が上昇するのは当然ですが、どうしてそれが「財政悪化は急速に進む」結果を導くのか。
この判断には、金利の高騰や高インフレが起きるのがただの自然現象で、政府がそれを何もコントロールできないといった、まことに冷ややかな経済観が反映しています。
政府・日銀が金利高騰や高インフレに対して何も対策を打てないなどというはずはなく、それはこれまでの緊縮路線を見れば明らかです。
何しろ財務省はデフレ期にインフレ対策を打っているくらいなのですから!
また、「ポリシーミックスは成功すると経済が上向き、通常は金利も上昇する。そうなると成長率よりも金利が高くなり、財政赤字の拡大要因となる。財政再建は難しい状況に陥る」と述べているところから見て、福田教授が何を気にしているかは明らかです。
国民経済の回復や国民生活の豊かさのことなど全く考えておらず、財務省べったりの緊縮路線のことしか頭にないのです。
経済が上向きになるなら、それは大いに結構なことで、それこそデフレ30年で苦しんできた国民にとって朗報ではありませんか。
またマイルドなインフレによって金利が適切な水準を維持できれば、ゼロ金利や手持ちの国債不足で苦境に陥っている銀行業界は、息を吹き返すはずです。
その意味からも、国債発行による財政出動が今こそ必要とされるときはありません。
ところが、頭の空っぽなこの経済学者は、それが直ちに「成長率よりも金利が高くな」ると、ひどい短絡思考に走っています。
学者なら、どれくらいの財政出動によってどれくらいの成長率が期待でき、それがどれくらいの金利上昇に結びつくのか、予測でもいいですから、それを数字で示す責任があるのではありませんか。
また「財政赤字の拡大要因となる」と、財政赤字を極度に恐れているようですが、残念ながら、財政赤字は、そのまま民間の黒字を意味することが、MMTによって証明されています。
また教授は、「デフレ構造の本質は、人口減少や老後不安で将来が見通せず、物価や賃金が上がりにくいということだ」などともっともらしい口を利いていますが、物価や賃金が上がりにくくなっているのは、デフレ構造の「本質」ではなく、政府が誤った経済政策を続けてきた結果生じた「現象」です。
最近、何かというと社会問題の原因を「人口減少」に帰する論客が跡を絶ちませんが、人口減少という抽象的なマジックワードを使いさえすれば、ことの「本質」を説明したかのような気になるのは困ったものです。
「デフレ構造」の主因は、財務省が長年とってきた緊縮財政のために、内需がさっぱり伸びないところに求められます。
ゼロ金利に至るまで金融緩和を行なっても、企業が借金によって投資に踏み切らない事態は、儲かる見込みがないほどデフレマインドが染みついているからです。
そのことがまたいっそう内需の拡大を抑制します。
実体経済市場がこうした悪循環に陥っている時に、政府が何の刺激も与えない状態を何年も続けているので、ますますデフレは促進されます。
この下降スパイラル構造こそが「デフレ構造の本質」なのです。
教授はまた、財政出動に対して、「効果不明ながらも壮大な社会的実験を行っているに等しい」などと大げさに恐怖をあおっています。
「効果」とは何の効果なのか、抽象的で何の説明もありません。
教授の頭は混乱していて、それが整理できないのでしょう。
教授の期待している「財政健全化」の効果と、景気を回復させる効果とでは、その意味がまったく異なります。
前者を目的として緊縮財政を行なえば行うほど、後者の効果は阻害されます。
その関係がわからないということは、政府と民間との区別がついていないことを意味します。
また教授は、政府が少子高齢化対策をやっていないとし、その「結果として出生率の低下には歯止めがかかっていない」と指摘しています。
しかし一応断っておくと、政府はこれまで「少子高齢化対策」と称して巨費を投じてきました。
ところが出生率の低下に歯止めがかかっていない。
それは、少子高齢化対策をやっていないからではありません。
やってはいるのですが、特に少子化対策として不適切な手しか打っていないからです(たとえば子ども手当など――子ども手当は子どもを産める比較的ゆとりのある家庭をしか潤しません)。
それだけではありません。
もっと大きな理由があります。
少子化に歯止めがかからないのは、若者が貧困化していて、結婚したくても結婚できないからです。
それは、政府が適切な景気刺激対策を打ってこなかったためです。
月収15万円稼ぐのがやっとな非正規労働者が、どうして結婚できるでしょうか。
つまりここにも財務省の緊縮財政路線が悪影響を与えているのです。
積極的な財政出動によって景気が回復すれば、無駄な少子化対策などにお金を使わなくても、自然に結婚率が高まり、少子化も解決の方向に向かうでしょう。
教授は、少子化の原因を完全にはき違えています。
少子化が止まらないのは、政府が少子化対策を打ってこなかったからではなく、ゆとりをもって結婚でき子どもを産めるような経済環境を政府が作ってこなかったからです。
さらに教授は、これほど災害で人々が命を落としているのに、インフラにお金を投じることに否定的です。
とんでもない話です。
「災害対策は成長に寄与するとはいい難い。自然災害にお金で対抗するには無理があり、成長には結びつかない」
何というバカな言いぐさでしょうか。
どうして災害対策(この場合、主としてハードな対策)が成長に寄与しないのか。
堤防一つかさ上げするだけで、どれだけの命が救えるか。
人が死んでしまっては、成長もくそもありません。
防災施設が完備していればこそ、安心して経済活動もできるのだし、インフラの整備という投資自体が内需拡大に寄与しますし、それがまた次なる投資を生み出していく。
こういう当たり前の理屈を打ち消して平気でいられる経済学者なる存在の神経を疑います。
「自然災害にお金で対抗するには無理があり」に至っては、開いた口が塞がりません。
お金で対抗する以外、公共体として、どうやって大規模自然災害に備えるのでしょうか。
しかも教授は、この最後の部分で、「成長」という言葉を2度繰り返しています。
あれ? 初めの方で、景気浮揚(つまり成長)すると金利が上がって財政再建を達成できないからという理由で、景気浮揚(成長)には反対の立場をとっていたんじゃなかったっけ。
支離滅裂とはこれを言います。
財政再建を果たしながら、大規模災害対策にお金も使わず、どうやって「景気浮揚」を達成するのか。
福田東大教授にぜひその深遠な教えを請いたいものです。
いやいや、この人、じつは何にも考えていないんだよね。
どなたかが言ってましたが、小難しそうな顔をしてただ疑問を呈するだけで、東大教授が務まる。
「財源が限られる中で大規模自然災害に大型歳出で備えることはどの程度意味があるのか、あるいは成長につながるのか、といった視点も必要」だってさ。
その「成長につながる視点」て、どうすれば持てるんですか。
「ザイゲン、ザイゲン」と、財務省の口癖をオウムのように繰り返しているだけのように見えますが。
教授、MMTをしっかり勉強してください。
通貨発行権を持つ政府は、財源の心配をする必要がない、ということがすぐわかるはずですから。
もっともちゃんと聞く耳を持てばの話ですが。
要するにあれですね。
あの吉川洋東京大学名誉教授の後釜に座って、財務省御用達の学者の地位を見事に受け継いだということですね。
知性の退廃、つまりは、「インテリ愚民」がまた一人、この日本国に誕生しました。
めでたし、めでたし。
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