3.11以降、私にとって最も重要な著作の一つであった、中野剛志氏の「国力とは何か」について皆様方に再
度ご紹介をしたいと思います。
3.11同年7月に上辞されたこの本は、その啓示される内容はもちろんとして、著者の、国民国家日本に対す
る危機意識と、危機に当たった同胞への強い関心と支援の気持ちにに裏打ちされたものでした。その後彼の献
策に、安倍政権は、ほとんど振れていませんが、心ある国民国家日本の皆さま(私たち)が、彼の思考と政策
に意識的であるということは、日常的に「敵」と闘うことについて大きな力になることを信じます。
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「国力とは何か」(経済ナショナリズムの理論と政策)について(2011年7月刊行)その1 H27.3.18
一 危機と国家(ステイト)
パラダイム(パラダイムシフト(英: paradigm shift)とは、その時代や分野において当然のことと考えら
れていた認識や思想、社会全体の価値観などが革命的にもしくは劇的に変化することを言う。パラダイムチェ
ンジとも言う。)を引き起こしたのは、東日本大震災だった。
当時の支配的イデオロギー「グローバル化により、国民国家は有効性を失い、後退する。(1990年代構造改
革から繰り返し、「規制緩和」、「小さな政府」、「地方分権」、2010年「平成の改革」で典型的に取沙汰され
たもの)
東日本大震災の惨状は、「グローバル化による国家の退場」を根こそぎ吹き飛ばした。「地域主権」の空疎
さ、中央から地方への関与なくして、巨大危機に対応は困難、である。
国家は非常時に備え、危機管理機能の準備と、その暗黙の了解がなければ、平時の経済体制、日常生活の営
みも困難となる。
国家の役割は、グローバル化(西欧)、ローカル化(地方分権)で後退することは、虚妄のイデオロギーだ
った。
二 国民(ネイション)という運命共同体
被害大の東北地方は、宮城・岩手は国家の食糧供給県であり、福島は国家中枢の電力の3分の1を供給する拠
点であり、国家の生命線を脅かすものである。同時に、被災の現実に対し、深い同情と共感を寄せた。(外国
の被災者に対するものと質的に違った。)・・・・・人間の心理や意識は、同郷・同国人に対し、より高い関
心を向けるものという現実がある。
ア 天皇陛下のお言葉
「ナショナリズム」という言葉には、排外主義的・利己的・攻撃的というイメージがある。しかし、東日本大
震災を目のあたりにした国民の多くに自然とわきあがった確かな強い感情を否定することはできない。(私見
:考えれば、昔、私も、左翼のナショナリストと名乗ろうとしていました。G.オーウェルの「右であれ左であ
れわが祖国」も同様なものかもしれません。) 出国を試みた外国人は多くいたが、日本人で出国しようとし
た(できなかった)日本人がほとんどではなかったか。また、偏狭な排外主義で、他国の支援を受け入れない、
在日外国人を排斥するような話も全くなかった。
このたびの大震災の直後、3月16日に今上天皇よりビデオメッセージが発せられた。
( 略 (本文を参照ください。) )
この言葉の内容を否定するものはほとんどいないだろう。
しかし、会ったこともない被災者の苦難を分かち合うということは、実は当たり前のことではない、それは
他人であるは図の被災者を単なる他人と考えず、同じ運命共同体に属する同胞として意識することにより、可
能となること、である。その意識こそナショナリズムである。
たとえば、東日本大震災級の危機になると、国民全体が連帯しなければ克服はできない、もし西日本の住民
が東日本の不幸をみすてるようであれば、日本は経済的のみならず、精神的にも東西に分裂してしまうだろう、
この大震災は、国民国家(ネイション・ステイト)分裂の危機である。(私見;当然、国家間の戦争も想定さ
れるはずである。)
三 国力(ナショナル・パワー)とは
東日本大震災の被災者の救済や被災地の復興に当たっては、国家が物資、人材、資金、技術などの資源を大
規模かつ計画的に動員し続けなければならない。国家は、東北地方という一部の地域を救済・復興するために、
北海道から沖縄までの日本国民全体に一定の負担を強いなければならない、ここでいう「日本国民」には、ま
だ生まれていない将来の世代も含む、ものである。
国家は、課税による①復興資金をねん出し、被災者だけのために集中的に投下する。②国債を発行すること
で現在の被害者の救済のため将来の国民と負担を共有する。③国家予算の優先順位を操作し、電力不足による
停電の回避のため、電気使用の抑制や、止むを得ない場合は強制する。(復興を効果的に進めようとすればす
るほど課す負担は大きくなる。)
独裁国家であればまだしも、東北地方の被災地の復興に対し直接利害を持たない人々が、復興の費用負担に
同意するうえで大きな役割を果たすのが、彼らが被災者に対し抱く強い同情の念である。被災地以外に住む日
本人は、被災した日本人を同じ運命共同体に属する同朋と見做し、その不幸に深く共感する。この同国人に対
する同朋意識、すなわちナショナリズムが、復興費用の負担への同意を可能にする。
国家(近代国家)は、とりわけ民主国家は、ナショナリズムに訴えることで国民の資源を動員する。国民
(ネイション)が団結・連帯して行動することによって生み出される力こそ、「国力(ナショナル・パワー)」
にほかならない。
国民の団結と連帯により被災地が復興し、経済活動が正常化すれば日本全体がその恩恵を受ける。
東日本大震災が国難であるとすれば、被災地を放置し、東北地域をみすてることが、東北地域以外に住む日
本人が、東北地方に住む人を同朋と見做していないこと、国民という共同体が分解しているということであり、
真の国難とは、国民の間で共有すべき一体感や同朋意識が失われ、国民が分裂することなのである。
四 危機と国力
危機は、大地震、原発事故にとどまらない。アジア通貨危機、リーマン・ショックなども同様である。国力
は同様に試される。経済における国力の維持や強化を追及しようとする主張や立場は、一般的に「経済ナショ
ナリズム」と言われてきた。この、「経済ナショナリズム」の理論づけと危機克服の、「国力」の本質を明ら
かにしようとするのが本書の目的である。
「構造改革論」の論理 人口減少と、少子高齢化により内需は縮小の一途をたどる。その閉塞感の打破の
ため、海外市場に進出し、海外殊にアジアからの投資や人材を呼び込みたいため、
国家の規制や社会の慣行などの障壁は、モノ、カネ、ヒトなどの国際移動の活発化
を妨げるものであり、即刻撤廃すべきだ。
「平成の開国」(民主党菅内閣)は、遅れてきた構造改革論である。しかし、「構造改革」や「平成の改革
を支持したものには、被災地復興の理念と根本的に矛盾することに無自覚である。
被災後、日本から出ていった外国人のように、外国から入ってきたマネーは、利益を最大化するものにしか
(日本が市場として有効かどうか)以外にしか動かない、我が国がグローバル化すればすれほど、東北の被災
地を復興することは困難となる。
ア 危険性も確かにある
ナショナリズムの危険な側面、ア 2003年のイラク戦争、2001年の同時多発テロを引き金にした、イラ
ク戦争(テロに憤激したアメリカ国民を背景にしたイラク侵略)、イ 資源ナショナリズム 他
イ 本書の構成
あ グローバル化を引き金にした、世界経済危機
い 「経済ナショナリズム」の理論、理念
う 「国力」の実態解明
え 経済ナショナリズムに基づく経済政策
お ケインズ主義的財政金融政策の検討
か 経済ナショナリズムから見る国際秩序の構造
き 今日の世界危機と、日本の進むべき進路