カワセミ側溝から

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

レモンさんのPTA爆談

2008-07-04 | 読書
レモンさんのPTA爆談/山本シュウ著(小学館)

 普通はこのような本を手にすることはない。表紙もケバいし本として全く魅力を感じない装丁だ。いや、それは決して間違っているということではなくて、僕の趣味に合わないということにすぎない。むしろこの装丁の方がインパクトは強く一般的な狙いとして手に取る人が多くなるのだろう。しかし、そういう手に取るはずがなかった本と何故僕が出会ってしまったかというと、ひとえに僕がPTA会長をしているからである。それに松沢呉一の何かの文章で著者の山本シュウのことを知ったので、出来心でネットで注文してしまったのである。出会ってしまって大誤算だったのは、意外にものすごく感動してしまったことだ。実は期待もしてなかったけど、なんかの足しにはなるだろう、ぐらいにしか考えてなかったのにだ。それに送られてきた本を見るととても食指が動かない。(買ってしまって)ちょっと失敗したかなとさえ思いながら読みだしたら、目から鱗が落ちる思いがした。レモンさんってスゴイ。この学校の運動会を見てみたいって、本気で思うようになってしまった。
 レモンのかぶり物をしてスピーチをするのは、学校教育の現場がビタミン不足なのではないかないかと考えて、レモンのビタミンを注入するつもりであるらしい。そういう馬鹿げた理由を真面目に実行するから、学校を変えるぐらい空気を動かしてしまうのだろう。何で山本シュウさんがPTA会長になったかというと、ラジオのDJをやっていてしゃべりのプロだから、しゃべりが苦手で挨拶をしたくないお母さん方(PTA役員)から請われて引き受けたのである。話すだけならということで引き受けたのだが、それがそれだけで終わらないのが山本シュウさんの真骨頂である。目の前に広がる学校常識の壁に向かって、ひたすら真摯にもがき続けるのである。運動会で「天国と地獄」が流れるのは常識的な定番だが、それに疑いを持つというようなセンスが光るのである。読んでいて、ああそういえばそうかもな、と思わせられるのは、このような根本的なセンスの良さ(あるいは悪さ)を具体的に改革していこうとする姿かもしれない。誰でも出来ることだったかもしれないのに誰も手をつけようとしなかった学校問題の根本に切り込んで、少なからぬ成果を収めていく姿に感動を覚えないはずはないのである。
 それでも、と、思うことはある。実際にPTA活動をやっていて思うのは、PTA活動をがんじがらめにして足を引っ張る勢力が、親にも地域にも先生にもあることだ。明確な主義主張でそうなっているのではなく、全体的な空気として醸成されている倦怠感が、PTA活動の道を曇らせているのである。そうして純粋にかかわっている親や先生のやる気というものをザックリと切り裂き、絶望感を植え付けてしまうのだ。僕自身もその一人で、その防衛策として、最初から誰にも期待などしていないという現実はある。誰だって傷つくのは怖い。のめり込んで取り返しのつかない傷など負いたくないのである。
 ところが、この本を読んでいくと、そういう自分の弱さにも喝を入れられる上に、なんだか温かいものが流れていくような気分にさせられてくるのだ。この人は人が本気になるという純粋な力を信じているところがある。そうしてそういう純粋さを貫けるだけのイメージというものを、自分の中に確立できている。後半にはそういう自分の哲学も披露していて、人間がしあわせになる秘訣までさらけ出している。答えは是非読んで確認してほしいのだが、何にも難しいことではなく、ごく常識的なことなんだけれど、このようなPTA活動を実践できた人だからこそ言えることだってあるのだということを思い知らされるのである。別に子供がいなくたってものすごく参考になるし、組織や人間関係に悩んでいる人にも、このレモンさんの言葉は響くのではないかと思われる。
 ネットでも見られるがやはり変な人で、素直に食指が動かされるものかはわからないけれど、僕は実物の話を聞いてみたいなあと、要チェックをしたのであった。
コメント
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