私がやりました/フランソワ・オゾン監督
有名映画のプロデューサーに襲われかけた若い女優だったが、その後彼が殺されたことにより容疑をかけられ、結局逮捕される。司法はまったくあてにならないので、同棲している友達の弁護士と共に嘘の供述をして、襲われたので正当防衛で殺したことにして無罪を勝ち取る。この事件ですっかり時の人となり、それで女優としても大成功を収めることになる。ところがこれに嫉妬して、元サイレント映画時代の大女優が、実際は自分が殺したと名乗り出てきて、事実をバラされたくなければ大金を払えと恐喝してくるのだったが。
1930年代のフランスを舞台にしていて、まだ女性の地位が社会的に低いと見られていた時代背景がある、という前提になっている。もっとも基本的にコメディで、そういうのはあまり深刻ではなく、むしろ現代社会の中だから成り立つ設定になっている。男性をふつうにやりこめて成功する賢い女性たちのドタバタのふるまいを描いている。これで成り立つ犯罪っていったい何だろう? という疑問が無いでは無いが、目まぐるしく展開しながら話が進んでいくのである。まあ、正直言ってそういう恐喝がなぜ成り立つのか、僕にはさっぱりわからなかったのだけれど……。冷静に考えるならば、真実がばらされても、ふつうに捕まって終わりである。
しかしながらそういう映画では無くて、やはり華麗なコメディと考えた方がいいようだ。フランス映画だから、不必要な女性の肌の露出があったりして、そういう娯楽作に徹しているともいえる。なぜそうなるかというよりも、そういう悪ノリにみんな乗ってしまえば怖くない、ということのようだ。実際深刻さはみじんもないので、貧乏であってもみじめでは無いし、若い娘の為なら色仕掛けが無くても、言うことを聞く紳士がいる。いわゆるおとぎ話なのである。まあ、現実の社会もそうあっては欲しいものであるが……。
思想的な正義や建前を重んじるフランス的な考え方もあるだろうと思う(東洋=日本とはかなり違う)。彼らは本音と建て前を使い分ける人種である。現実は厳しいものがあるのだから、映画の世界くらい楽しく行こうじゃないか。そういう精神性を養うのも、一興かもしれない。