『汗牛充棟』古閑萬風川柳句集 を読む
かんぎゅうじゅうとう こが まんぷう
「感謝」、「出逢い」、「好奇心」の3章立てて綴られ、作者の思いが強く伝わってくる渾身の第一句集です。
特に各章の最終句は、次章への導入句となっているなど、構成にも作者の細かい配慮がうかがえます。
大根を抜いて大地に感謝する
夕焼けに出世払いの恩がある
と自然への感謝も忘れません。家族をはじめこれまで出会った人々への感謝の気持ちが綴られていきます。
正直な家族でいつも揉めている
と楽しく微笑ましい家族を紹介したかと思えば
全身で父の怒りを聞いている
裏切りに一つ貰った知恵袋
震災がくれた絆という褒美
など、怒りも裏切りもそして自然からの試練も、自分を高めてくれたと感謝しつつ
神様がくれた出会いに感謝する
と、次章の「出逢い」へとつなげます。
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老いてなお出会いに燃える好奇心
で、次章の「好奇心」へと誘われますが、タイトルの「汗牛充棟」を選ばせたのが、取りも直さずこの好奇心なのです。
好奇心僕をどんどん太くする
蝉時雨負けぬ破調のバイオリン
絵皿溶くなかなか出せぬ私色
趣味三昧カレンダーに空きが無い
とにかく、好奇心の塊といった風情で毎日が充実しています。
セピア色の恋を小指が悔いている
優しいが芯は突いてる女文字
など、時々ニヤリとさせられる句も。
私が、特に共感できた句は
出直せばいいよと夕陽あたたかい
老化への美学素敵な物忘れ
残された勇気で約束を破る
詠まれた句が巾広く多岐にわたるのも、圧倒的な情報量のなせる技で「汗牛充棟」の面目躍如というところでしょう。第二句集が待たれます。
令和川柳選書 『汗牛充棟』 2023年2月19日初版 著者 古閑萬風 発行所 新葉館出版
B6判96ページ264句 1200円(税別)
(紹介 村上和巳)
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