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技術とモダニズムの間
ようやく読了しました、600ページ。大変な力作です。
本書で取り上げられているエンジニアは樺島正義、太田圓三、田中豊の三人で、
三人とも震災復興事業に関連した人物であるにも関わらず、
プラナリアは誰も知らなかったです、、土木と建築の溝は深い。。。
本書の構成としては各々に一章づつが当てられている他、包括的な論考が三章あり、
橋梁史全体の中での三人の位置や復興事業の意義が俯瞰できる構成になっていますが、
この包括的な各々の論考だけで中公新書一冊書けそうな内容です!
(例えば近代橋梁史を知りたい人はその章だけ読めば足りてしまいそう、なのだ)
近代日本の橋梁デザイン思想―三人のエンジニアの生涯と仕事 東京大学出版会 2005-07 売り上げランキング : 654302 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
ところで技術オリエンテッドに見える「橋梁」ですが、
現在の日本で橋梁がそのような雰囲気になってしまっているのは
どうも日本の橋梁技術を鉄道が先導したことにも遠因があるらしい。
(鉄道橋はもともと場所性に依存しない傾向が強い上に、
全国一律に短期間に敷設を進めたいので、標準化への志向が更に強まった)
昔ブルーバックスか何かで橋の本を読んだ気がするけれども、
ほとんど構造力学の話で景観とか計画の話って殆ど付け足しだった気がする。
あと、モダニズムの技術信仰的な側面が(意識するしないに関わらず)
そのことを正当化したことも伺えるように感じました。
本書に登場する樺島は景観やコンテクストにも意を用いたエンジニアですが、
その意味ではあまりに先駆的過ぎて、
今日ようやくその思考が理解されるようになった様にも見えます。
(いや、言ってることは別に普通なんだけど)
という訳でお値段に遜色ない内容のなかなか良い本だと思いますが、
とは言えやはり気軽に買うには高いのと(プラナリアは図書館→古本購入コース)、
専門用語の説明がないので(専門書なので当たり前ですが)
できればこれを噛み砕いた内容にした上で、写真をいっぱいつけた本を
どこかの出版社が企画してくれると嬉しいです~!
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専門書ではもったいない
一冊目は復興小学校絡みで図書館の蔵書を検索していてたまたま引っかかった本。
特に期待もしないで学校建築のところから読み始める。
子どもたちの建築デザイン―学校・病院・まちづくり (人間選書) 鈴木 賢一 (著) 農山漁村文化協会 2006-08 売り上げランキング : 514199 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
いや、すみません。この本は素晴らしいです。
著者は名古屋市立大学の先生という事で全然存じ上げなかった訳ですが、
方法論的な部分については一歩引いていて「俺のやり方が絶対一番だかんね」
「僕の見てきたこの事例が最新だかんね」みたいな嫌らしさは一切ないのですが、
しかし「子ども」に対する真摯な姿勢については全くゆるぎなく。
副題の「学校・病院・まちづくり」もそこだけ見るとなんかあれだわねぇ、な印象ですが、
別に受けそうなテーマにあちこちちょろちょろと手を出しているというのではなくて、
子どもと建築を中心としたデザイン全般を考える中から
自然と出てきたテーマであることに深く納得させられました。
勉強になったり考えさせられ足りする本は結構あるけど、
自分のデザインに対する姿勢を原点から問い直されるような本とはなかなか出合えない。
かといって全然難しい本じゃなくて、楽しく読めるところも素晴らしい。
子どもやデザインに興味がある人に強くお勧めします!!
次の一冊ですが、こちらはというと考えさせられる、という意味では極北かも。
日本の伝統建築の構法―柔軟性と寿命 内田 祥哉 (著) 市ケ谷出版社 2009-10 売り上げランキング : 28898 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
本書には30年近く前に書かれた近・現代建築の保存に関する論考も収められているのでけれども、
今でもまったくアクチュアリティを失っていないのは凄いとしか言いようが無い。
(いまだにその指摘を解決できない建築界も問題アリアリではありますが)
本書も文章は極めて平易で、専門家でなくても楽しく読むことができます。
にもかかわらずこの深さ・・・。
真の学識というものを感じさせる好著です。
内田先生の考えを纏めた本というのは意外と無いように思うので、その意味でも貴重。
結構強引に(?)先生に原稿を纏めさせた編集者もグッドジョブです。
*ところで上記の書籍のリンクの情報欄に著者名が入っていないことに気がつきました。
とりあえず手で入れてみたんだけど、過去ログを見ると入っていたりいなかったり。
どういうシステムかわからないけど、著者名がわからない、というのではちょっとこまりますよねぇ。。
どうしましょ。
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三玲本の庭・探検
知人が編集を担当した本のフェアが開催されていると言うので非常に久しぶりに池袋に。
重森三玲庭園の全貌 学芸出版社 2009-09-10 売り上げランキング : 44432 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
字ばっかりの本だと思いこんでいたのですが、
予想に反してカラー写真がいっぱい収録されていました。
ジュンク堂でのフェアは三玲を始めとする庭園関係の本の他、
三玲設計の庭園のある施設のパンフレットを備え、
壁面には写真展示もあると言うなかなか気の利いた構成。
ただ、欲を言えば書籍リストとかがあると嬉しかったかも。
(昔のリブロでは必ずあったんだけど、今時見かけませんね。。)
で、三玲の庭を撮った写真集ではこの本が欲しいかも。
重森三玲―永遠のモダンを求めつづけたアヴァンギャルド (シリーズ京の庭の巨匠たち 1) 溝縁 ひろし 京都通信社 2007-09売り上げランキング : 182968 おすすめ平均 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
シリーズには植治や遠洲の巻もあるので揃えたいかも、です。
ジュンク堂、リブロ、新宿に戻ってブックファーストと三店廻ったので
(しかも途中にタワレコ入り)ちょっと疲れたかも。
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自由なワイン
ワイン研究者で、ロバート・パーカー師の友人でもある堀賢一氏のワインエッセイを読む。
著者はそのロバート・パーカーの評伝にも登場した「佐竹」が登場する漫画「ソムリエ」の監修者で、
「ワインの自由」はその漫画に掲載されていたコラムをまとめたものだそうです。
ワインの自由 集英社 1998-10 売り上げランキング : 47739 おすすめ平均 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
堀氏のインディペンデントな姿勢の批評精神が読んでいて気持ちが良い。
二冊の著書の間にほぼ10年の歳月があります。
「自由」ではややアンビバレントにも感じられたテロワールに対する考えが
「個性」では熟成を感じさせられました。
ワインの個性 ソフトバンク クリエイティブ 2007-02-10 売り上げランキング : 110046 おすすめ平均 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
二冊をまとめて読んでの印象は「ワインって物語なのね」ということ。
(テロワールだっていろいろな物語のひとつに過ぎない・・・)
でもこの複雑な世界を楽しむにはちょっと根気(とお金)が要るかな。
とは言え、「個性」で紹介されていた南アフリカとレバノンのワインは
自由と独立を感じさせる物語に触発されて飲んでみたい気がしました。
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写真は動員されたか
日中戦争から第二次世界大戦にかけての日本のグラフジャーナリズムについてといえば、
この本に止めを刺すだろう。
表現に磨きに磨きをかけた「NIPPON」や「FRONT」がその表現の先鋭性故に
現実と乖離し失速していくのに反し、
あきらかにレイアウトもダサいし写真も野暮ったい「アサヒグラフ」海外版などの
新聞社系のグラフ雑誌がそのノイズの多さゆえに多様な読みを許容し、
メディア(あるいは「写真」)として生命力を保ったことが指摘されているのが面白い。
さて、それらの華麗なメディアに比べると、戦場で大量に撒かれる「ビラ」は
撒く側の意向がストレートに表出されるという意味で興味深いメディアである。
この本は絶望的な戦場でビラから必死に戦況を読み取ろうとする兵士達の声を
数多くの部隊の記録文集などから拾い上げた労作であると共に、
(プロパガンダの「しかた」から彼らはその内容の真偽を見抜くのである)
そこから、例えば「なぜ捕虜にならないのか」といった兵士達の精神状態までを
現場の視点から読み解いた稀有の書でもあると思うのだけれども、
今回のテーマはグラフ雑誌のメディア論なので、「LIFE」の話を紹介したいと思う。
ご存知のように「LIFE」は1936年に創刊された写真週刊誌で、
ドイツからの亡命者により伝えられたフォト・ジャーナリズムをベースにしているという点では
「NIPPON」の兄貴分とも言える雑誌である。
ところで、南方の孤島で孤立している日本軍の兵士には武器弾薬もや食料も補給されないのだから
当然「NIPPON」どころか「写真週報」だって届かない。
しかしアメリカ兵には「LIFE」がきちんと送られてきて、読み終わると彼らはそれをゴミとして捨てるのである。
食料に困った日本兵はアメリカ軍の兵舎に夜襲をかけて食料を奪ったりしていた訳だが、
そのうちアメリカ軍も夜襲の意図を理解して、兵舎から離れた場所にゴミを捨てるようになったらしい。
そこに捨てられていた「LIFE」が意図的に一緒に捨てられたいたのかは不明だけれども、
写真と図表で視覚的に訴える構成の「LIFE」誌の誌面は英語が分からない日本兵にも理解可能であり、
事実彼らは食入るようにそれらを読み、自身の状況と照らし合わせて戦況を判断していたのだそうだ。
「写真週報」の内容が国民にどの位信用されていたのかはよく分からないけれども
この週報、新聞出身者による編集なだけあってグラフジャーナリズム誌としては
(戦争末期のヒステリックな状態に至る前までは)やはり「ノイズが多い」感じで、
このことはかえって雑誌の信頼感を醸成するのにプラスであったと思う。
ただ、仮に敵軍兵士や占領下の住民が見た場合はどうだろうか?
たぶんノイズが多すぎて、誌面からだけでは内容を掴む事は難しいのではないか。
「LIFE」に掲載されている連合軍の進出を示す図や戦場の写真を見て
日本軍兵士が「でっち上げだ!」と思わなかったのは何故だろう。
これを写真の持つ真実を伝える力によって読者を説得する
グラフジャーナリズムの勝利だ、と解するのはちょっと単純すぎるだろうか?
(日本側の写真が種々の加工を大量に施されたものであることは周知の事実ではある)
いずれにせよ、ここでも「大日本帝国」は生産統制の論理で写真文化の統制を企て、
その担い手の多くの主体的参加を得ながら、結局その動員に失敗したと言えるのかもしれない。
この本に止めを刺すだろう。
戦時グラフ雑誌の宣伝戦 ―十五年戦争下の「日本」イメージ (越境する近代) 青弓社 2009-02 売り上げランキング : 246009 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
表現に磨きに磨きをかけた「NIPPON」や「FRONT」がその表現の先鋭性故に
現実と乖離し失速していくのに反し、
あきらかにレイアウトもダサいし写真も野暮ったい「アサヒグラフ」海外版などの
新聞社系のグラフ雑誌がそのノイズの多さゆえに多様な読みを許容し、
メディア(あるいは「写真」)として生命力を保ったことが指摘されているのが面白い。
さて、それらの華麗なメディアに比べると、戦場で大量に撒かれる「ビラ」は
撒く側の意向がストレートに表出されるという意味で興味深いメディアである。
戦場に舞ったビラ― ―伝単で読み直す太平洋戦争 (講談社選書メチエ) 講談社 2007-03-09 売り上げランキング : 281303 おすすめ平均 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
この本は絶望的な戦場でビラから必死に戦況を読み取ろうとする兵士達の声を
数多くの部隊の記録文集などから拾い上げた労作であると共に、
(プロパガンダの「しかた」から彼らはその内容の真偽を見抜くのである)
そこから、例えば「なぜ捕虜にならないのか」といった兵士達の精神状態までを
現場の視点から読み解いた稀有の書でもあると思うのだけれども、
今回のテーマはグラフ雑誌のメディア論なので、「LIFE」の話を紹介したいと思う。
ご存知のように「LIFE」は1936年に創刊された写真週刊誌で、
ドイツからの亡命者により伝えられたフォト・ジャーナリズムをベースにしているという点では
「NIPPON」の兄貴分とも言える雑誌である。
ところで、南方の孤島で孤立している日本軍の兵士には武器弾薬もや食料も補給されないのだから
当然「NIPPON」どころか「写真週報」だって届かない。
しかしアメリカ兵には「LIFE」がきちんと送られてきて、読み終わると彼らはそれをゴミとして捨てるのである。
食料に困った日本兵はアメリカ軍の兵舎に夜襲をかけて食料を奪ったりしていた訳だが、
そのうちアメリカ軍も夜襲の意図を理解して、兵舎から離れた場所にゴミを捨てるようになったらしい。
そこに捨てられていた「LIFE」が意図的に一緒に捨てられたいたのかは不明だけれども、
写真と図表で視覚的に訴える構成の「LIFE」誌の誌面は英語が分からない日本兵にも理解可能であり、
事実彼らは食入るようにそれらを読み、自身の状況と照らし合わせて戦況を判断していたのだそうだ。
「写真週報」の内容が国民にどの位信用されていたのかはよく分からないけれども
この週報、新聞出身者による編集なだけあってグラフジャーナリズム誌としては
(戦争末期のヒステリックな状態に至る前までは)やはり「ノイズが多い」感じで、
このことはかえって雑誌の信頼感を醸成するのにプラスであったと思う。
ただ、仮に敵軍兵士や占領下の住民が見た場合はどうだろうか?
たぶんノイズが多すぎて、誌面からだけでは内容を掴む事は難しいのではないか。
「LIFE」に掲載されている連合軍の進出を示す図や戦場の写真を見て
日本軍兵士が「でっち上げだ!」と思わなかったのは何故だろう。
これを写真の持つ真実を伝える力によって読者を説得する
グラフジャーナリズムの勝利だ、と解するのはちょっと単純すぎるだろうか?
(日本側の写真が種々の加工を大量に施されたものであることは周知の事実ではある)
いずれにせよ、ここでも「大日本帝国」は生産統制の論理で写真文化の統制を企て、
その担い手の多くの主体的参加を得ながら、結局その動員に失敗したと言えるのかもしれない。
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