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映画は動員されたか?

ようやく読了。映画統制や文化工作に興味がある人には一読をお勧め。

難点は分析がややこなれていない感があるのと、
せっかく当時の植民地や占領地(旧満州国や華中、華南、台湾、朝鮮半島、南方)
まで視野を広げて包括的に取り上げているのに(いるからとも言える?)、
いくら現資料が無いとは言え、2次資料を、しかもやや無批判とも思える形で根拠にしているところか。

だから満映、中華電影に関しては特に目新しい新しい内容はないとも言えるんだけど、
相互の関係を考えるには纏まっていて便利、とも言える。
(他の地域も探し回る手間を考えると「先にこちらを読んでいれば」感はあるね)

「本土」に関しては、アプローチが異なるにもかかわらず古川隆久さんの
戦時下の日本映画―人々は国策映画を観たか」と同じような結論になっていたのが面白かった。

総動員体制と映画総動員体制と映画
加藤 厚子

新曜社 2003-08
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でもこの値段(古書価もUP!)とお堅い内容じゃそうそう「お勧め!」とは言えないよなー。
かく言うプラナリアだって図書館から借りてる訳だしね。

なお、上記熱帯書店でのお勧めがわずか星二つで(評価しているのは一人だけだが)、しかもレビュー欄に
「映画のことをよく知らない著者による映画本」などという間の抜けたコメントが付いてたりしていますが、
本書は総動員体制下での生産統制的手法による「映画」への統制が「文化統制」として有効であったかを、
大日本帝国勢力圏全域(内地と外地両方)における映画文化工作全体を視野に入れて分析した学術書であって、いわゆる映画本ではない。
そのジャンルのことを狭くしか理解しない「マニア」の短絡的な評価に騙されないように。
ま、こういう人は二言目には「映画を見たことがない」とか言うんですぐ区別がつきますが。

ところで、このような統制手法は「商品」それ自体ではない「広告・宣伝」でも行われたわけだけど、
そのプロパガンダ効果を「商品」的な視点から分析することも可能だろう、
ということで、機会があれば同時代のビラやグラフ雑誌を論じた本を取り上げる予定、っていよいよ本丸ですね。

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批評がグローバル化を促進する?

読んでみました、ロバート・パーカー師の評伝。

なんで大して興味もなかったワイン関係の本を読んでいるかといえば。

有名建築家っていうのは世界中どこでも自分の建築を建てている訳ですが、
本来建築ってそういうものなの?もっと地域に根ざしたものじゃないの?
という意見(あるいは姿勢)もある訳で、そこからの興味で
ぴりかさんご紹介のドキュメンタリー映画「モンドヴィーノ」を見たのが最初のきっかけ。
で、そこに登場するロバート・パーカーと言う人が気になってしまった訳ですね。
それでたまたま図書館にあった本書を手にとってみることにしたのでした。

ただ、どうも本書の著者のグローバル化に対するスタンスはどうも曖昧な感じで、
自身の価値観に圧倒的な自信をもつパーカーが
その普遍化(グローバル化)に何ら疑問を感じていない(ように見える)ことに対して
明快な批評軸を示しえていない感じがしました(著者もアメリカ人だからね)。
だから訳者が紹介しているような「本書は聖人伝である」といった批判が出てくるのでしょう。
とはいえ、リサーチは詳細にされているし、ヨイショ本でもないので、一読の価値はありました。

ワインの帝王ロバート・パーカーワインの帝王ロバート・パーカー
Elin McCoy

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あと、本書の340P、ワインのグローバル化に触れた部分に
「モンドヴィーノ」にも登場した醸造コンサルタント、ミッシェル・ロランが

> こうした「空とぶ醸造家」連中は、世界的に有名な建築家やシェフと同じように
> 助言を売ってべらぼうな報酬を得る。

なんていう感じで紹介されて、
あはは、建築がグローバル化しているのはもはや既定の事実なのね・・・、
と思わぬところで指摘されてげっそりしてしまったのでした。
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幻のブックデザイナー

1930年代に数々の美しい装丁の詩集を出版したことで名を知られる「ボン書店」。
その刊行人であった「鳥羽茂」と言う謎の人物を追ったノンフィクションです。

恥ずかしながら、日本戦前期のモダニズムに興味があるようなことを言っていながら
ボン書店はおろか、本書に登場するモダニスト詩人についても何も知りませんでした。

ボン書店の幻―モダニズム出版社の光と影 (ちくま文庫)ボン書店の幻―モダニズム出版社の光と影 (ちくま文庫)

筑摩書房 2008-10-08
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で、その鳥羽茂と言う人がこの出版社をやっていた訳ですが、
この出版社、社員は全一名、つまり彼しかいない。
なので著者との交渉(まあ基本お友達な訳ですが)から販売まで、
あるいは装丁(デザインも製本作業も!)から印刷まで、
とにかく全て一人でやってしまっていたらしい。
しかもその印刷、活字まで鳥羽が組んで印刷機廻していたというのだから、
もうなんというか・・・凄すぎます。究極のブックデザイナーですね。

とにかく一度実物を見てみたい。

同書によると、中学在学中から同人誌や投稿誌などで活躍を始めた詩人でもあり、
しかもその時点で自分の持っている活版印刷機で同人誌を印刷していたらしい。
文庫本のあとがきでは、父親を早く亡くした家族を支えるために、
生活の糧として印刷業をやっていたのではないか?という仮説も書かれていましたが、
まーとにかく活版印刷機もっているハイティーンってちょっと凄い。
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なぜか建築本は後廻し(苦笑)

カメラ量販店でホームページビルダーの参考書二種を散々比較検討して購入した後、
ちょっとばかり魔が差して本屋さんに行ったら、
シャルロット・ペリアンの自伝やら、今井兼次の小論集やら、欲しかった本が並んでいた。
でもでも今日は我慢。
柳宗理の小さな本と、「付録」がついているという体裁に抗えずブックデザイン関係の雑誌を購入。

柳さんの本は新刊だと思って買ったんだけど、出たのは昨年だったようだ。

Yanagi Design―Sori Yanagi and Yanagi Design InstituteYanagi Design―Sori Yanagi and Yanagi Design Institute
柳工業デザイン研究会

平凡社 2008-08-26
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職人さんとの協働の現場が紹介されていたり、なかなか丁寧な内容。
柳の入門書として定番になるかも。
個人的には土田真紀氏の論文が収録されているのも嬉しい。
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娯楽映画VS国策映画

戦前、映画も検閲の対象であった訳ですが、その目的は風紀と思想。
当時は検閲自体は世界各国とも行っていたし、
その内容も同時代的には特別なことではなかったも言える。
つまり、一般の日本人にとっても天皇・皇族に対する不敬な表現とか、
男女間の恋愛表現なんかは制限されてしかるべき、と言うコンセンサスだった訳です。

で、検閲は規制ではあったけれど、この段階では国から
「こういう映画を作れ」という方針が示されている訳ではなかった。

ところが、総力戦として戦われた第一次大戦以降、
映画を政府のプロパガンダの手段として重視する考えが生まれてきて、
ドイツのウーファー社なんかはまさにその流れの中で、
ドイツ参謀本部の肝いりで生まれた会社だったりする訳ですが、
ナチは政権獲得後さっそく支配下に収めて自らの政治活動に利用していく)
日独伊で枢軸作って近衛新体制に向かわんとする日本もその真似をする訳です。

具体的には、1937年の検閲手数料の減免による誘導施策に始まり、
1939年の映画法制定で「国策映画」を作らせようという姿勢が明確になった。

ところでこの映画法、当時の文化人や映画人は大賛成だったのだそう。
それは低俗な日本映画の水準向上には国家の介入が必要とか、
活動屋とか言われて低く見られていた映画人が、
国の登録制で自らの文化的・社会的地位が向上することを期待したりとか。
でも当時は映画は(読書に次ぐ)最大の娯楽だったから、
一般大衆は楽しくて笑える「低俗な」娯楽映画が見たいんだよね。
で、そこでの「バトル・オブ・娯楽映画」の記録がこの本なのです。

戦時下の日本映画―人々は国策映画を観たか戦時下の日本映画―人々は国策映画を観たか
古川 隆久

吉川弘文館 2003-02
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著者は中公新書の「皇紀・万博・オリンピック」を書いた古川隆久さんなので、
面白くない訳がないと思って読み始めましたが、
こちらは大衆娯楽映画を扱っているせいか、より筆運びが滑らかで読ませます。

で、著者の結論は「人々は国策映画を見なかった」ということなんですが、
ここで注意しなければいけないのは、国策映画と言うコトバの定義です。
というのは、著者は国策映画を国家の正式なサポートにより作られた映画としているので、
いままで国策映画と言われてきた映画が著者の言う国策映画には含まれないのです。

その点については著者が詳細に論じているし、それがこの本のキモでもあるので
まー面白いから読んでみて下さいよ!ということなのですが、
個人的に気になっているのは李香蘭主演の「支那の夜」。
見たことないのでどっかで見てみたいです。
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