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「李香蘭」って、なんだ?

取り敢えず「李香蘭」というのは、
中国生まれ、中国育ちの日本人歌手・映画俳優の「山口淑子」さんの「芸名」。
・・・なのですが、「李香蘭」がデビューしたのはかの傀儡国家「満州国」の国策映画会社「満映」。
というわけで時代に翻弄されつつ昭和を生きた女性の波乱万丈な物語が生まれたのでした。

で、その「李香蘭」の伝記といえば、下記が決定版と言えるでしょう。
1897年に単行本がでて、1990年に文庫化されています。
(双方の異同はざっとみたところ後書きだけのようです)
李香蘭 私の半生李香蘭 私の半生
山口 淑子 藤原 作弥

新潮社 1990-12
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「李香蘭」だった山口淑子さんご自身が書いているので「自伝」ともいえる訳ですが、
「自伝」に欠けがちな客観性を藤原作弥さんと組むことで回避しようと言う意図で書かれている辺りに
山口さんの並々ならぬ「李香蘭」に対する意志を感じさせる、志の高い名著であります。
先日紹介した「「李香蘭」を生きて」はこの本をベースに簡略化して読みやすくしたような趣な訳ですが、
内容の絞込み・記述の省略により読者の誤解・誤読の可能性は(当たり前ですが)強まってしまいます。
が、登場人物の当時の心情や行動の真意に関してある意味都合よく誤読してくれるように、
意識的・戦略的に構成している部分もあるような気がしないでもない、
その意味ではやや老獪な本ともいえるかも・・・な印象も。

山口淑子さんはもう一冊自伝を書かれていて、
それが1993年に出版された「戦争と平和と歌 李香蘭心の道」です。
この本には前掲書では省かれている戦後の「山口淑子」についても書かれていて、
実はこちらも波乱万丈!なのですが、
如何せん「私の半生」のような徹底的なリサーチを元に書かれた本ではないので
ややもの足りない感がすることは否めません。
ただ、時と共に少しずつ明らかになってきている事実などもあることが分かり、その点は興味深いです。

その戦後の山口淑子さんですが、彫刻家のイサム・ノグチと結婚していたことがあるのですが、
結婚後にアメリカに再渡航しようとしていつまでもビザが降りない、という事態に遭遇します。
当時のアメリカはマッカーシー旋風が吹き荒れていたのでその影響であろう、として
上記の本のなかでも色々と理由が推理されていたのですが、その辺りの詳しい話が
ドウス・昌代さんが書かれた「イサム・ノグチ~宿命の越境者」にかなり詳しく出てきます。

イサム・ノグチ〈下〉―宿命の越境者イサム・ノグチ〈下〉―宿命の越境者
ドウス 昌代

講談社 2003-07
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この本のリサーチの徹底ぶりもかなり凄いと思いますが、
この件に関しては情報公開法を利用して入手したFBIのイサム・ノグチ関連ファイル、
山口淑子関連ファイル(ノグチの倍の厚さがあったらしい)をも参照して記述されています。
読むとかなりダークな気持ちになりますが、こういった書類がきちんと保管されていて、
しかるべき時が経てば公開されるアメリカと言う国の深さも感じさせられますね。

あと、「私の半生」をしっかり読むと「李香蘭」は戦争終結と共に消えたのではないことが分かります。
・・・抽象的な意味ではなくて、香港映画に「李香蘭」として出演しているのですよ!
そんな関連でアジア(中国語圏)映画における李香蘭、そこでまた歴史が折りかえって
満映の位置・意味、そっから戦中日本の文化政策の遺産(?)についての興味に繋がっちゃうんですが、
取り敢えずむちゃくちゃ面白かったのがこれ。

李香蘭と東アジア李香蘭と東アジア
四方田 犬彦

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一応学術書で、表題になったシンポジウムの記録でもあるのですが、一気に読みました。
この版元の本は高くてホイホイ買う訳に行かないのが難点ですが、
なんとか図書館で買って貰うなどしてして読みましょう!(案外所有率高いかも)

因みにアマゾンでレビュー書いているのは今のところお一方でこの人の評価で☆☆になってますが、
まさに、この方のが期待していたのとは別のテーマで、本の構成が行なわれただけでしょう。
僕も張愛玲、気にになってますけどね。


■070220 一部の文章・語句を訂正しました


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