2005年5月29日(日)
#273 フィル・コリンズ「II(心の扉)」(ワーナー・パイオニア PKF-5347)
フィル・コリンズ、82年リリースのセカンド・アルバム。彼自身のプロデュース。
ジェネシス解散後、ソロ・シンガーとなり、81年、アルバム「FACE VALUE」を出してからのフィルの活躍は、皆さんご存じだろう。これは、彼がブレイクするきっかけとなった一枚。
なんといっても、シュープリームスの大ヒット「恋はあせらず」のカヴァーは印象的だった。特にそのPVにおける、彼自身のおどけた演技が。のちに、日本の某カップラーメンCMでもこれをパクったのが現れたくらい、インパクトは強烈だった。
元々はジェネシスという英国のプログレ・バンドにいたフィル・コリンズが、意外と正統的なアメリカン・ポップスを志向していたことには、正直驚いたものだ。
もちろん、このカヴァー・ヒットはPV同様、一種のパロディというか、戦略的なギミック、確信犯的な演技だといえなくもない。
それはこの一枚を通して聴くと、よく見えてくる。「空虚な心」や「心の扉」といったナンバーの、極めて内省的なムードは、脳天気な「恋は~」とはあまりに対極的だ。このあたりに、一筋縄では行かない彼の「たくらみ」を感じる。
ただ、彼の場合、歌いぶりがあまりに「正統派」なので、そのへんの「毒」がほとんど気付かれないのだと思う。
表向きはあくまでもわかりやすい、正統派ポップス。でも、その本質は、水面下に大量のアイロニーを含んだ、英国人ならではのロック。
フィルの、バラード・シンガーとしてのうまさは、英米にあまたいる白人シンガーの中でも、群を抜いていると思う。
そんな彼がアメリカ制覇をなしとげたのも、当然のことか。
アーティスティックなセンスでいえば、かつての盟友、ピーター・ゲイブリエルの方に軍配が上がるかも知れないが、より多くのひとに理解され、支持されるシンガー/コンポーザーとしてのセンスはフィル・コリンズが断然上だという気がする。
ルックスこそコメディ俳優ダニー・デビートに酷似しているが、その音楽はまさに「男前」。
彼の歌心の素晴らしさを痛感する一枚。ぜひ一度、聴いて欲しい。
<独断評価>★★★★