軽井沢からの通信ときどき3D

移住して11年目に入りました、ここでの生活と自然を写真と動画で発信しています

庭に来たチョウ(30)メスアカミドリシジミ

2024-09-13 00:00:00 | 
 久々にゼフィルスが我が家の庭にやってきた。夕方、帰宅時にブッドレアの花の上を活発に飛び回っている1個体を目撃し、目で後を追っていると、傍らのカツラの枝先に止まり動かなくなった。カメラを取りに2階に行って戻ってきてもまだそのままじっと止まっていたので、撮影することができた。
 高い場所に止まっていて、翅裏しか写すことができなかったが、図鑑で調べてみて、メスアカミドリシジミだろうと判定した。

 いつもの「原色日本蝶類図鑑」(1964年 保育社発行)には次のように紹介されている。

 「日本全土に産するがいずれの地にも多産せず、近縁種の雌は多く翅裏の黒褐色なO型のものが多いが、本種の雌は他種のB型に類する翅端の橙色紋が大型で色もあざやかで、その雌の翅紋に因る名が、和名として、定められている。しかしこの美しい翅紋も近畿以西のものは暖地に向かって次第に小さくなり、中にはほとんど消失して名に反するものもあるが、それとは逆に中部以北は次第に橙色紋が大きく、北海道に産するもののごときは前翅のなかばにも拡大しすばらしい。
 本種の特徴は前翅雌雄とも裏面中室に現れる『短帯は明らかな白線でくまどられる』ことである。・・・
 従来コナラ・カシワと推定されていた食樹はエゾザクラ・オオヤマザクラなどであることが知られ、発芽の早いサクラによって本種が他のゼフィルスにさきがけ6月末から7月中旬に現れることもうなずける。・・・
 北海道では平地・山地、いずれも広く産し、関東・中部では山地各所に、近畿では滋賀・京都の山地にまれながら産するが、大阪府下には未だ発見されたことを聞かない。・・・」
 
 種の同定にはこの解説に示されている裏面中室に見られる短帯の形状とそのくまどりを参考にしたが、これはアイノミドリシジミとよく似ているので、翅裏だけでは迷うところである。



自宅庭に来たメスアカミドリシジミ 1/2(2024.8.10 撮影)


自宅庭に来たメスアカミドリシジミ 2/2(2024.8.10 撮影)

 今年は、もう1度このメスアカミドリシジミを見ている。小諸のMさんのバタフライガーデンを訪ねた時で、ガーデンから少し離れた場所にある、やはりMさんの畑地に案内されたときである。ここにはチョウの食樹となる数種類の木が植えられているが、この日はスミナガシの幼虫がいるというアワブキの木を見に行った。

 この時、近くの大きな木の枝先にチョウがいると妻に教えられて、超望遠レンズ越しに眺めてみると、ゼフィルスらしい姿が認められた。撮影した画像を帰宅後確認して、メスアカミドリシジミではないかと判定したのであった。
 
小諸のMさんの畑で見たメスアカミドリシジミ1 /2(2024.6.19 撮影)

小諸のMさんの畑で見たメスアカミドリシジミ2 /2(2024.6.19 撮影)

 メスアカミドリシジミを初めて見たのは弘前にアカシジミの大発生を見に行った時で、この時は渓流に架かる橋の上から見下ろす形で枝先に止まって、テリトリーを張る数種類のゼフィルスを見ることができた。

 翅表を撮影することができたので、その内の1頭が、その太い後翅の外縁黒帯からメスアカミドリシジミと判定できた。

弘前の山間地の渓流で撮影したメスアカミドリシジミ♂(2013.7.6 撮影)

 義父のコレクションにもメスアカミドリシジミが含まれている。よく似たアイノミドリシジミ、ミドリシジミと比べてみると次のようである。

標本写真(上から ミドリシジミ、アイノミドリシジミ、メスアカミドリシジミの♂)


同上裏(上から ミドリシジミ、アイノミドリシジミ、メスアカミドリシジミの♂)





コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

庭に来たチョウ(29)カラスアゲハ

2024-08-16 00:00:00 | 
 2020年11月以来久々の「庭に来たチョウ」の紹介。今回はカラスアゲハ。 

 いつもの「原色日本蝶類図鑑」(1964年 保育社発行)には次のように紹介されている。

 「東部アジア全域に棲息するこの蝶の、本土内においての分布は、『キアゲハ』ときわめて酷似している。北海道の寒冷高地に現われ、沖縄から台湾に及び、亜熱帯にも棲息するが、温暖な地方や平地には少ない。
 本種はこの種の『あげはちょう』の中で最も華麗な『ミヤマカラスアゲハ』と、青緑鱗の美しさも発生の場所や季節も似ているので、両種の判別は時に困難であるが、やや顕著な特徴は本種後翅裏面の外縁に添う白帯が現れない。・・・
 8月半ばから現れる夏型は、形も大きく路上に群がって吸水するものや、小暗い樹間の『蝶道』を行き返るものや、好んでクサギの花上に飛来するさまは壮観である。・・・
 産卵はコクサギ・キハダに多く、カラタチ・サンショウにも幼虫は見いだされる。
 雌雄はきわめて顕著な相違を認められるが、特に雄は『あげはちょう』の雄共通の特徴として、前翅の発香鱗(ビロード状長毛)によっても更に明らかである。」

 上記の記述にも見られるように、カラスアゲハはミヤマカラスアゲハと、とてもよく似ており、判定に迷うことがしばしばである。

 表・前翅の外縁部の帯が広く、上に向かって広がっていることと、裏・前翅の黄白帯も同様に幅広く上に向かって広がっているところが、カラスアゲハの特徴とされる。

 裏・後翅の黄白帯がミヤマカラスアゲハには現われるが、カラスアゲハには見られないことも、私は判定に迷った時に用いている。ただ、春型では明瞭とされるが、夏型では不明瞭になったり、時にないこともあるというので、注意を要する。

 軽井沢でも両者を見ることができるが、ややミヤマカラスアゲハの方が多いようである。

 これまで、庭のブッドレアの花に吸蜜に来たところを撮影しているが、頻度はそれほど多くなく、数回にとどまっている。

 昨年からクサギの花が庭で咲き始めたこともあり、さっそくカラスアゲハやミヤマカラスアゲハが吸蜜に来るようになった。その際、すぐ横に植えているキハダに産卵するところを妻が目撃したので、ミヤマカラスアゲハだと思い込み、室内に取り込んで育て、観察・撮影した。ところが、幼虫が成長してしばらくして、カラスアゲハだったと気が付いたことがあった(2023.10.13 公開当ブログ)。

 このカラスアゲハの成長記録はすでに当ブログで数回にわたって紹介しているが、今年春、無事2頭の♂が羽化し飛び立っていった(2024.5.31 公開当ブログ)。

 庭のクサギは今年はさらにたくさんの花をつけている。本種やミヤマカラスアゲハなどアゲハの仲間の大好物の花なので、これからどれくらいの数のチョウが吸蜜に訪れるか、楽しみにしている。

 以下、庭のブッドレアに来たもの、山地のクサギに来ていたもの、雲場池の遊歩道脇のアザミの花に来ていたものを紹介する。

 義父のコレクションを見ると、ミヤマカラスアゲハが圧倒的に多く、カラスアゲハは意外に少ないのであるが、これは特に義父がミヤマカラスアゲハ好きだったことによるものかと思う。

ブッドレアの花に吸蜜に来た前・後翅共に激しく傷んでいるカラスアゲハ♂(2017.8.12 撮影)

ブッドレアの花に吸蜜に来た前・後翅共に激しく傷んでいるカラスアゲハ♂(2017.8.12 撮影)

クサギの花で吸蜜するカラスアゲハ♀(2016.8.8 撮影)

クサギの花で吸蜜するカラスアゲハ♂(2016.8.8 撮影)

クサギの花で吸蜜するカラスアゲハ♂(2016.8.8 撮影)

アザミの花に訪れたカラスアゲハ♀(2023.9.12 撮影)

アザミの花に訪れたカラスアゲハ♀(2023.9.12 撮影)

アザミの花に訪れたカラスアゲハ♀(2023.9.12 撮影)


キハダに産卵した卵から飼育し羽化させたカラスアゲハ♂(2024.5.13 撮影)

カラスアゲハ春型♂(2024.5.14 撮影)


カラスアゲハ春型♂(2024.5.14 撮影)

庭に咲き始めたクサギ(2024.8.15 撮影)

 義父の蝶コレクションには次のようなカラスアゲハの標本が含まれているので紹介させていただいて本稿を終わる。


義父のコレクション・カラスアゲハ♂
(上から 1977.5.5/オニシ、1977.5.21/ナガトロ、1974.8.15/イシガキ )


同上・裏面

カラスアゲハのペア(上♂ 1975.8.24/アカギ、下♀ 1975.8.24/アカギ)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

山野で見た蝶(16)ミヤマシジミ

2024-06-28 00:00:00 | 
 以前、このミヤマシジミと、近縁でよく似たアサマシジミ、ヒメシジミを比較して紹介をしたときは、まだ確実に、ミヤマシジミを山野で見たわけではなく、義父のコレクションの標本で確認していた(2019.6.28 公開当ブログ)。

 そのミヤマシジミを、自然に近い形で繁殖させているバタフライガーデンが小諸にあることを知ったのは、3年前の10月のことであった。その時はもうミヤマシジミの発生時期も終わりかけたころで、この年には実際に見ることはできなかった。

 その後、このバタフライガーデンでは思うようにミヤマシジミが発生しなかったようで、年に数回、このバタフライガーデンに通う機会があったものの、ミヤマシジミを見ることはできなかった。

 今回、このバタフライガーデンの管理者Mさんからミヤマシジミを見ることができそうですよとの連絡を受けて早速出かけてきた。

 現地では、自然に発生したという♂が1頭、ガーデン内に植えられている食樹の周辺をあちらこちら、飛び回っては止まるといった行動を繰り返しているのを見、撮影することができた。♀はまだ少し先の発生になりそうである。

 園内のコマツナギは、ミヤマシジミの産卵習性に合わせて、冬の間は丈を低めに刈り込んでいる。今回見た個体は、こうした環境下で自然に発生したものとのことである。

 この他、1mx1.5mほどのネットで囲ったケージの中にコマツナギとナンテンハギを植え、ミヤマシジミやアサマシジミの卵と幼虫を保護できるようにしている場所もあるが、今のところこのケージ内での発生は認められないとのことであった。

 いつもの「原色日本蝶類図鑑」(横山光夫著 1964年保育社発行)によると、ミヤマシジミは次のようである。

 「本種は従来、前種『シジミチョウ(注:ヒメシジミのこと)』と多く混同されてきたもので、独立種と認められたのは最近のことで、分類上の大きな業績といわなくてはならない。本種の分布は狭く本州においても中部・関東以外は不連続的に生息し、北海道・九州には発見されていない。東北でも山地は南にかたより、山形・福島以東に知られ、中部には前種(ヒメシジミ)と混棲してやや多産するが、関東以北の山地には前種のみ多く本種はきわめて少ない。
 前種との相違点は、① 雄の翅表は紫色を帯びて明かるく、② 外縁の黒縁はきわめて細く、③ 後翅外縁の黒紋列はあざやかに特徴を示す。卵はコマツナギの根もとに近い茎や枯枝・枯草などの上に見出される。本種は他の近縁のものとは異例の多化性の蝶で、5月から11月に至る長期にわたって、暖地や低地では年4~5回、寒冷地や高地では3回の発生をみる。」

 「信州 浅間山麓と東信の蝶」(鳩山邦夫・小川原辰雄 著、 2014年信州昆虫資料館発行)で、近年の分布と個体数の動態をみると次のようである。

 「長野県では分布に濃淡があり、稀な地域があるものの、平地から低山地にかけて比較的広く分布している。かつては、多産地も数多く存在したが、近年は長野県でも減少傾向が著しく、保全対象として注目されている。
 東信地方でも千曲川の河川敷や里山の草地環境などでよく見られたが、里山農地周辺を中心に減少、消滅した産地が多い。
 環境省版レッドリストで絶滅危惧Ⅱ類、長野県版では準絶滅危惧種に区分されている。

 採集・目撃記録
 1972.6.18 軽井沢町追分
 1973.7.25 軽井沢町追分
 1980.6.22 軽井沢町追分
 1981.6.21 小諸市井子
 1981.6.27 小諸市井子
 1982.7.11 軽井沢町追分
 1993.6.20 小諸市井子
 1995.8.15 佐久市
 1995.9.3   軽井沢町追分原
 1996.6.16 軽井沢町追分原
 2001.9.17 小諸市
 2010.6.13 小諸市」

 ヒメシジミ、アサマシジミは年1回、6月から7月にかけての発生であるが、このミヤマシジミは上記のように、5月下旬から発生し始め、10月まで、年3回発生する。

 では以下、今回撮影したミヤマシジミを紹介する。翅を全開してくれなかったので、その写真はないが、翅表の青色の見える写真から。

ミヤマシジミ♂(2024.6.11 撮影)

ミヤマシジミ♂(2024.6.19 撮影)

ミヤマシジミ♂(2024.6.11 撮影)

ミヤマシジミ♂(2024.6.11 撮影)

ミヤマシジミ♂(2024.6.19 撮影)


ミヤマシジミ♂(2024.6.19 撮影)

続いて左右の側面からの写真。

ミヤマシジミ♂(2024.6.11 撮影)

ミヤマシジミ♂(2024.6.11 撮影)

ミヤマシジミ♂(2024.6.11 撮影)

ミヤマシジミ♂(2024.6.11 撮影)

 次は右側面から。

ミヤマシジミ♂(2024.6.11 撮影)

ミヤマシジミ♂(2024.6.11 撮影)

ミヤマシジミ♂(2024.6.11 撮影)


ミヤマシジミ♂(2024.6.11 撮影)

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

オオルリシジミ戻っておいで

2024-06-14 00:00:00 | 
 2024年6月8日の購読紙の地域面に、表題の見出しの記事が掲載された。サブ見出しには、「絶滅危惧種 上田の児童 エサの多年草 植樹」とある。

2024.6.8 読売新聞 地域・長野面の記事から

 記事を読んでいくと、「上田市のワイン用ブドウ畑『椀子(まりこ)ヴィンヤード』に、市立塩川小学校の5年生がマメ亜科の多年草『クララ』を植樹する活動を続けている。」とあり、2021年から同校の畑でクララを育て始め、翌年に移植する作業を続けていて、今年で3回目となるという。

 オオルリシジミについては、当ブログでも紹介したことがあり(2022.5.27 公開)関心をもって記事を読んだ。
 
 記事によると、オオルリシジミは、「約20年前までは上田市でも目撃された例があったが、現在では自然個体群は椀子から約4~5キロ離れた東御市に生息している」とされる。

 その東御市でも、一度は絶滅状態となっていたが、地元産の累代飼育個体があったことから、「北御牧村のオオルリシジミを守る会」が発足し、2002年から本格的に保護増殖活動が始まり、食草であるクララの保全と栽培による増殖、累代飼育個体の増殖と野外への放蝶による自然発生に取り組み、現在では順調に野外での発生が継続するまでに回復している。

オオルリシジミを天然記念物に指定している東御市のHPから

 今回の小学生の取り組みは、この東御市の成功例に習って行われているものと思うが、ぜひ、クララの増殖を順調に進めて、次の目標のオオルリシジミの自然発生にまでたどり着いてもらいたいものと思う。

 改めて、手元にある「信州 浅間山麓と東信の蝶」(鳩山邦夫・小川原辰雄 著、 2014年信州昆虫資料館発行)を見ると、上田市内でのオオルリシジミの目撃記録は次のようであり、ここでも1986年が最後であることから、この本が発行された2014年までの30年ほどは記録が途絶えていたことになる。

 1973.6.10 上田市小牧山 
 1981.6.24 上田市芳田
 1981.6.27 上田市芳田
 1986.5.27 上田市芳田
 1986.5.31 上田市芳田


「信州 浅間山麓と東信の蝶」(鳩山邦夫・小川原辰雄 著、 2014年信州昆虫資料館発行)のカバー表紙

 新聞記事をもう少し読み進めると、次のようである。

 「5月24日、青空の下で同校の5年生18人が校舎内の畑で昨年から育ててきたクララを16苗、スコップを使って丁寧に周辺の土とともに掘り起こし、カップに移した。その後、車で5分ほど離れた椀子ヴィンヤードに向かい、ワイン畑近辺の草地に植え替え、水やりをした。植樹をした寺西慧悟君(10)は『植えるのが楽しかった。クララが育って、オオルリシジミが来てくれればいいな』と声を弾ませた。・・・これまでに計約70苗を植樹してきた。キリングループ傘下のワイン製造大手メルシャンが椀子ヴィンヤードを運営していることや、上田市と同グループが19年に包括連携協定を結んだことが縁で始まった。
 この日は椀子ヴィンヤードの生態系の調査を続ける農研機構西日本農業研究センター研究員の楠本良延さん(53)が、同校でクララとオオルリシジミをテーマにした特別授業を行った。
 このワイン畑がこれまで養蚕地として利用されてきたが養蚕産業の斜陽化に伴い、放置され荒廃地となったことや、クララが草原を保全するためのアイコンとして重要な植物であることなどを説明。楠本さんは『ワイン産業を通じて草原が保全されていることの大切さを知ってほしい』と訴えた。
 オオルリシジミは瑠璃色の羽が特徴のチョウで、草原に生息する。野生の『自然個体群』は主に九州・阿蘇地域で見られ、本州では県内の一部地域でのみ観察されている。・・・」
ヴィンヤードに囲まれた丘陵地にある椀子ワイナリー(2024.6.12 撮影)

 自然豊かな信州地方と思われがちであるが、そこでも自然環境の変化は進んでいて、多くの野生生物が絶滅に追いやられている。小学生がそうした環境変化と生態系の変化に目を向けて、関心を持ち、行動することはとても大切なことだと思う。

 先の本「信州 浅間山麓と東信の蝶」で紹介されているチョウの保護活動の記事や、私の聞き知ったチョウの保護活動には次のようなものがある。

1.オオルリシジミ:信州の初夏を代表するチョウであるが、近年土手の草刈りが機械化され、さらに幼虫の餌となるクララの薬草としての価値も無くなってきたため、一辺倒に刈り取られるようになり、生息域は急速に減少した。東御市などの生息地は、一時絶滅状態となったが、チョウ愛好家が中心となり、元生息地の生育環境を地元のみなさんとともに整備したうえで、累代で飼育していた個体を現地に放す活動を続けている。現在、放チョウした個体は、現地に定着し世代を繰り返すまでに復活した。昆虫愛好家と地元住民のみなさん、さらには行政が見事にスクラムを組んだ素晴らしい成功例である。

2.ミヤマシロチョウ:かつてシナノシロチョウとも呼ばれた信州の高原を代表するチョウ。主な生息環境は標高1500~1800mの明るい渓流沿いや疎林環境で、森林化など環境変化の影響を受けて1970年代以降急激に生息域が消滅した。
 現在、八ヶ岳南部、美ヶ原、浅間山系の一部でかろうじて命脈を保っている。浅間山系でも安定した生息域が数か所から1か所に減っている。
 湯ノ丸高原では、2009年に、ミヤマシロチョウについて早急な保護対策が必要との機運が高まり、翌2010年に会員35名で「浅間山系ミヤマシロチョウの会」が発足。環境省、林野庁、長野県、東御市、日本チョウ類保全協会などの支援も受けて長野・群馬両県に跨っての保護活動が始まり、生息環境や食樹の保全、密猟防止パトロールや観察会、越冬巣モニタリング調査を行っている。
 その結果、この地域では個体数が維持されているという。

 他方、絶滅が懸念される八ヶ岳を念頭においての取り組みと思われるが、各地域のミヤマシロチョウの遺伝子解析を行い、再導入の検討も進められている。


ミヤマシロチョウの再導入を検討する長野県環境部のプレスリリースから(2022.3.23 公表)

 その八ヶ岳周辺のミヤマシロチョウについては、保存活動が行われてきたが、2023年に解散との報道があった。次のようである。
 「ミヤマシロチョウの会、解散へ 茅野・15年の歴史に幕 八ケ岳で絶滅状態『やれることやった』 
 高山チョウの一種・ミヤマシロチョウ発見の地である八ケ岳で、調査や保護活動をしてきた『茅野ミヤマシロチョウの会』(事務局・長野県茅野市)は3月末で解散し、15年の歴史に幕を閉じる。数年前から姿が見られず絶滅状態と考えられることに加え、会員の高齢化が理由。福田勝男会長(81)は『いなくなった最大の理由は地球温暖化だと思うが、我々に手の打ちようがない。やれることはやった。解散は仕方ない』と話す。(2023.3.15 長野・毎日新聞)」

3.アサマシジミ:東信地方でも各地の草地・草原で多産したが、1980年代から急速に減少し、消滅した産地も多い。現在(2014年)は確実な産地も数える程度となっている。環境省版レッドリストで絶滅危惧種Ⅱ類、長野県版では準絶滅危惧種に区分されている。

 御代田町では昭和49(1974)年に、このアサマシジミを天然記念物に指定している。もう随分前の指定ということで、現在どのような状況にあるか、問い合わせてみたところ、次の回答をいただいた。

 「お問い合わせいただきました町天然記念物アサマシジミについてですが、生息数の確認や生息地域の保全についは、具体的な取り組みは行なっておりません。・・・御代田町教育員会 博物館係(2024.6.12) 」

    
「みよた広報 やまゆり」より

 御代田町でのものではないが、周辺3地域について、「信州 浅間山麓と東信の蝶」のアサマシジミの採集・目撃記録では次のようである。

 1972.6.18 軽井沢町追分
 1972.7.16 小諸市浅間山
 1977.7.15 軽井沢町追分
 1982.7.2   佐久市内山
 1994.7.17 小諸市菱野
 2006.6.25 小諸市
 2008.6.28 小諸市
 2008.8.9   小諸市
 2009.8.27 小諸市
 2013.7.13 小諸市

4.ミヤマシジミ:長野県では分布に濃淡があり、・・・平地から低山地にかけて比較的広く分布している。かつては多産地も数多く存在したが、近年は長野県でも減少傾向が著しく、保全対象として注目されている。
 東信地方でも千曲川の河川敷や里山の草地環境などでよく見られたが、里山農地周辺を中心に減少、消滅した産地が多い。環境省レッドリストで絶滅危惧Ⅱ類、長野県版では準絶滅危惧種。

 このミヤマシジミについては、小諸市滋野にある、蝶の里山会「ミヤマシジミを守る会」が食樹のコマツナギを植え、保存活動を行っている。 

 前出書の採集・目撃記録を見ると、小諸市周辺の記録は次のようである。

 1972.6.18 軽井沢町追分
 1973.7.25 軽井沢町追分
 1980.6.22 軽井沢町追分
 1981.6.21 小諸市井子
 1981.6.27 小諸市井子
 1982.7.11 軽井沢町追分
 1993.6.20 小諸市井子
 1995.8.15 佐久市
 1995.9.3   軽井沢町追分原
 1996.6.16 軽井沢町追分原
 2001.9.17 小諸市
 2010.6.13 小諸市
  
5.クロツバメシジミ:特異な離散的生育分布を示す種で、東信地方では比較的広範囲に生息し、地域変異の研究のため各地で調査されている。河川の護岸、石垣などで見られ、改良工事などの影響を受ける場合があるが、全般的には個体数の目だった増減は認められない。環境省版レッドリストで準絶滅危惧種、長野県版では留意種に区分されている。
 上記の小諸市滋野の、蝶の里山会では食草のツメレンゲの増殖を図り、クロツバメシジミの保存活動も行っている。

 小諸市周辺の、前出書の採集・目撃記録は次のようである。

 1994.5.13   望月町
 1996.10.6 小諸市
 2003.7.1   小諸市
 2010.7.21 東御市

 この、蝶の里山会のM氏は、地元小学校の生徒たちと一緒に、チョウの飼育・観察を行っていると聞く。

  我が家でも、チョウの食草や食樹を植え、吸蜜できる草木を植えてチョウを呼び寄せてはいるが、点でしかなく、チョウの増殖には程遠い状況である。時には卵を採集して、幼虫の成長記録を観察・撮影しているが、これも記録をとっているに過ぎない。

 できることなら、軽井沢から消えてしまった種を再び呼び戻したいと思うが、事はそう簡単ではない。

 チョウを卵から育ててみると判るが、寄生バチや天敵による捕食から守ることで、羽化率は飛躍的に増大する。数世代の飼育を行うことで個体数を大きく増やすことができる。

 今年は、ウスバシロチョウ(ウスバアゲハ)の特異な生態の観察・撮影をしようと計画し、先日♀2頭を捕獲して、飼育ケースで蜜を与えながら様子をみていたところ、中に入れてあった枯れ枝に20数個の卵を産み付けた。

 その後、この♀2頭は再び野に放したが、得られた卵は来年2月から3月には孵化(実際には卵の中で孵化したまま越冬するとのこと)するはずなので、その様子を撮影したいと思っている。食草のムラサキケマンは自宅庭にある程度生育している。

 このウスバシロチョウは、まだ自宅周辺にも飛来するなど、個体数は維持されているようであるが、アサマシジミなどはもう見られなくなってしまっている。

 上田市の小学生が取り組んでいるように、先ずは植樹を行い、チョウの生育環境を整えることで、希少種のチョウを再び呼び戻す第一歩を踏み出せる。子供たちの始めた活動に刺激され、多くの大人たちと共にこうした保全活動の輪を広げたいものと思う。

 
 


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

カラスアゲハの羽化

2024-05-31 00:00:00 | 
 昨年、我が家の庭にあるキハダにカラスアゲハの♀が飛来し、産み付けていった卵を育て、蛹になるまでを観察・撮影したが(2023.12.8 公開当ブログ)、この蛹が無事冬を越して、今年の春に羽化していった。

 蛹は3匹で、その内2匹はキハダの木から卵の状態で室内に取り込んで、飼育してきた。もう1匹は、3齢になったところを、同じキハダの木で見つけ、先の2匹と共に室内で育て、昨年10月に蛹になっていたものであった。

 5月のGWになり、旧軽井沢銀座通り近くにある私のガラスショップの前の道を、春型のカラスアゲハかミヤマカラスアゲハが青い構造色を輝かせながら、悠々と飛んでいるのを見かけるようになった。

 カラスアゲハの羽化の様子を撮影したいと計画していたので、我が家の3匹の蛹の羽化も近いと警戒を強めて、毎朝外観の変化を観察した。

 やがて、これまで全体に緑色をしていた蛹の内(腹)側の色が黒っぽくなってきているのに気が付いた。内側には翅が回り込むようにして折りたたまれているので、その色が見えてきたのであろう。いよいよ羽化が迫っている。

 前日の夕方に、黒化がさらに進んでいることを確認した翌朝、見に行ってみると羽化が始まっていて、すでに成虫が蛹から抜け出し、支柱の割りばしにつかまっている所であった。

 早速用意してあった室内の撮影場所にこの成虫を移して撮影を始めた。まだ伸び切っていなかった翅が次第に伸びていくところを撮影でき、次のようであった。

 
1頭目のカラスアゲハ♂(A)の羽化(2024.5.11, am 7:47~8:53  30倍タイムラプスと通常撮影後編集)

 残りの2匹の蛹の内、1匹は先に羽化した個体と同等の大きさであり、蛹化した時期も半日遅れとほぼ同じであったので、羽化は時間の問題と考え、2匹とも一緒に室内に取り込んで撮影にとりかかった。

蛹の外観変化(上から、2024.5.12, am5:18, 13:59, 22:40 撮影ビデオからのキャプチャー画像)

 1頭目はすでに蛹から出てしまっているところを見つけたので、2頭目の今回は、蛹から出てくるところから撮影したいと思っていた。

 タイムラプス撮影をする都合上、連続してLED照明を当て続けることになる。羽化は通常夜明け前に起きると予想されるので、やむを得ず夕方に撮影を開始し、夜間も照明を使用し続けることにした。

 今回は心配した照明光の羽化への影響もなく、無事羽化を見届けることができた。次のようである。この2頭目も♂であった。

 
2頭目のカラスアゲハ♂(B)の羽化(2024.5.12, pm 22:49~5.13, am 7:51  30倍タイムラプスと通常撮影後編集)

 この時、羽化したカラスアゲハの周囲を這いまわったり、飛んだりしている1匹のハチがいることに気がついた。まだ飛ぶことのできないカラスアゲハを攻撃する心配があったため、これを追い払った。

 翅はすっかり伸びていたが、まだ乾くまでは大丈夫だろうと、撮影場所を離れてから戻ってみると、カラスアゲハはすでに飛び立っていて、ビデオ撮影画面から消えていた。

 締め切った室内のことで、すぐに見つけて捕らえ、そのまま前々日に羽化した個体を入れている大型のケージに移すことにした。

 この時、最後の1匹の蛹を確認しておこうと思い、よく見ると、内側の一部に数mmの穴があいていた。蛹の中は空洞である。


寄生バチが抜け出した穴があいているカラスアゲハの蛹(C: 2024.5.13 撮影)

 ここで、ようやく気がついたのであるが、先ほどのハチはカラスアゲハに寄生していたハチであった。成虫が羽化した後の他の2匹の蛹の色は褐色であるが、寄生バチが抜け出した後に残っているこの蛹の色は、緑色が残っていて、何とも生々しい感じがする。

 思い返してみると、この3匹目の蛹は、キハダにいるところを見つけた幼虫を育てたものであった。先の2匹は卵を見つけたので、すぐに室内に取り込んで育ててきたが、こちらはキハダにいた時にすでに寄生バチに卵を産み付けられていたようである。そのせいか、この3匹目の幼虫は、終齢になった時の大きさも、従って蛹になってからの大きさも他の2匹に比べると一回り小さかった。


卵から育てた2匹(左、中央)と3齢幼虫を採集して育てた1匹(右)の写真(2023.10.17 撮影)

 これは、寄生バチの影響ではなかったかと、今になってみると思える。それにしても、孵化してからわずかの間にすでに寄生バチに卵を産み付けられ、将来の運命も決まっていたことになり、自然界の厳しさを思わせる出来事であった。

 一方、キハダに産み付けられた卵から室内で孵化・成長し、蛹になり、この春無事羽化することができた2頭については、100%の羽化率であり、改めて、人の手が加わることで、羽化の確率が飛躍的に伸びることを実感する結果であった。

 羽化した2頭の♂のカラスアゲハは、揃って元気に飛び立っていった。この後、この2頭とペアとなった♀が庭のキハダやコクサギに産卵に来てくれることを期待したい。また更に夏にはクサギの花も咲くので、今回の2頭の次の世代の個体が吸蜜に来たり、傍らのキハダに今年も産卵してくれるところを今から楽しみにしている。そして、できることならミヤマカラスアゲハを連れてきてもらいたいと願うのである。

羽化して飛び立っていったカラスアゲハ♂ A(2024.5.14 撮影)

羽化して飛び立っていったカラスアゲハ♂ B(2024.5.14 撮影)


 

 
 


 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする