今回はツマグロヒョウモン。前翅長が27~38mmの中型、暖地性のヒョウモン類で、タテハチョウ科ドクチョウ亜科ヒョウモンチョウ族ツマグロヒョウモン属に属する種。♂と♀で斑紋が大きく異なる。
雌雄ともに、後翅表の外縁が黒紫色に縁どられているが、♀では前翅表の翅端が黒紫色の構造色を示し、中に斜白帯を持つ美しい蝶である。
こうした特徴から種の同定と雌雄の判別は容易である。発生は暖地では年4回から周年、軽井沢周辺では年3~4回とされ、成虫は5月中旬頃から出現、秋にかけて個体数を増す。軽井沢では越冬できているかどうか詳細は不明とされるが、通常幼虫で越冬する。
前翅の裏には♂♀ともにピンク色の部分があり、他のヒョウモン類とは異なっている。ウラベニヒョウモンという種が南西諸島で見られるとされているが、写真で見る限り、赤さではツマグロチョウに軍配が上がる。
ピンク色が特徴のツマグロヒョウモンの前翅裏(2016.10.4 撮影)
♀の前翅表の斑紋はカバマダラに擬態したものと言われるが、カバマダラに酷似した種にはメスアカムラサキの♀がいるので、擬態のうまさではメスアカムラサキの方に軍配が上がる。義父の標本でこれらを比較しておこう。
カバマダラ♂(上)、ツマグロヒョウモン♀(中)、メスアカムラサキ♀(下)の翅表の斑紋比較(2017.9.7 撮影)
この擬態とは、動物が、攻撃や自衛などのために、体の色や形などを、周囲の物や植物・動物に似せることをいうのだが、有毒のカバマダラに姿を似せることで、鳥などの捕食者から身を守っていると考えられている。
ところが、分類上は、体に毒を持たないツマグロヒョウモンはタテハチョウ科ドクチョウ亜科に属し、毒を持っている方のカバマダラはタテハチョウ科マダラチョウ亜科に属していて、何とも皮肉なことになっている。
ヒョウモンチョウの仲間の多くは、タチツボスミレやスミレ(マンジュリカ)などの野生種を食草としているが、このツマグロヒョウモンはパンジーやニオイスミレなどのスミレ科の栽培種を好むとされ、このことも手伝って都市部でも多く見かける。
また温暖化に伴って分布が北方に拡大しており、東京付近では2000年代に入り普通に見られるようになったとされる。長野県でも、以前は偶産的稀種とされていたが、1990年代から目撃記録が急増し、現在(2014年)では平地でほぼ定着し、山地にも生息域を広げているとされている(信州 浅間山麓と東信の蝶・2014年4月30日 信州昆虫資料館発行)。
こうした生息域の変化を見てみようと思い、発行が古い保育社発行の「原色日本蝶類図鑑」のツマグロヒョウモンの項に目を通すと、次のような記載がある。
「日本に産する17種の『ひょうもんちょう』で北緯30度以南にまで分布するものは、本種の他に『みどりひょうもん』の只1種が台湾の高地に記録されているに過ぎない。同類はいずれも年1回の発生にとどまるが、本種のみはきわめて多化性の蝶で、九州・四国のような暖地では年4~5回、早期発生のものは4月より現われる。・・・遠く印度・ジャワ・スマトラ・フィリピンと南の熱帯から本種は『強力』と名づけられる迫力をもって北上し、迷蝶として関東にも現れる。他の『ひょうもん』類とは習性も異なり、夏眠することなく活動し、食草であるケナシスミレ等のスミレ類に直接産卵し幼虫で越冬するが、中部以北のものや、寒冷な場所に発生したものは冬季に死滅するものと思われる」
このツマグロヒョウモン、我が家の庭のブッドレアに吸蜜にやってくる。なぜか、♀が圧倒的に多く、♂はなかなか写真を撮ることができない。また、♀は庭のヴァイオレットに産卵していることがわかった。
ブッドレアで吸蜜するツマグロヒョウモン♀(2017.8.17 撮影)
葉上で休息するツマグロヒョウモン♂(2017.8.28 撮影)
ブッドレアで吸蜜するツマグロヒョウモン♀(2017.8.17 撮影)
ブッドレアで吸蜜するツマグロヒョウモン♀(2016.10.4 撮影)
ブッドレアで吸蜜するツマグロヒョウモン♀(2016.10.4 撮影)
ブッドレアで吸蜜するツマグロヒョウモン♀(2017.8.17 撮影)
ブッドレアで吸蜜するツマグロヒョウモン♀(2017.7.30 撮影)
ブッドレアで吸蜜するツマグロヒョウモン♀(2016.10.4 撮影)
ブッドレアで吸蜜するツマグロヒョウモン♀(2016.10.4 撮影)
葉上で休息するツマグロヒョウモン♂(2017.8.28 撮影)
ブッドレアで吸蜜するツマグロヒョウモン♀(2017.8.17 撮影)
ブッドレアで吸蜜するツマグロヒョウモン♀(2017.8.17 撮影)
庭のミニロックガーデンのスミレに産卵するツマグロヒョウモン♀(2017.8.28 撮影)
この産卵の様子を撮影できた日の前日、庭のヴァイオレットの手入れをしていたら偶然、そこに大きく育ったツマグロヒョウモンの終齢幼虫を見つけた。この幼虫をケースに入れて、しばらくヴァイオレットの葉を与えていたが、葉を離れて這いまわり始めたので、枯れ枝を入れておいたところ、枝からぶら下がり前蛹となり、そして蛹へと変身した。この様子を3Dビデオで撮影したので紹介する。
庭のヴァイオレットの葉上で見つけたツマグロヒョウモンの終齢幼虫(2017.8.27 撮影)
ツマグロヒョウモンの蛹化(2017.8.27 18時~8.28 12時まで、30倍のタイムラプスで撮影したものを編集)
蛹の下に落ちていた抜け殻(2017.8.28 撮影)
この蛹の棘の基部には美しい真珠光沢をした部分がある。他のタテハチョウ科の種にも類似の真珠光沢を持つものが見られるようだが、これらはキラキラと日光を反射させ、捕食者から身を守るための工夫なのだろうか。無事羽化するところを見届けたいものと思っている。
棘の基部が真珠光沢を持つツマグロヒョウモンの蛹(2017.8.28 撮影)
追記(2017.9.28):大阪に出かけていた留守中、このツマグロヒョウモンの蛹から9月19日、♀が羽化し飛び立って行った(予約投稿なので、日付が前後する)。
雌雄ともに、後翅表の外縁が黒紫色に縁どられているが、♀では前翅表の翅端が黒紫色の構造色を示し、中に斜白帯を持つ美しい蝶である。
こうした特徴から種の同定と雌雄の判別は容易である。発生は暖地では年4回から周年、軽井沢周辺では年3~4回とされ、成虫は5月中旬頃から出現、秋にかけて個体数を増す。軽井沢では越冬できているかどうか詳細は不明とされるが、通常幼虫で越冬する。
前翅の裏には♂♀ともにピンク色の部分があり、他のヒョウモン類とは異なっている。ウラベニヒョウモンという種が南西諸島で見られるとされているが、写真で見る限り、赤さではツマグロチョウに軍配が上がる。
ピンク色が特徴のツマグロヒョウモンの前翅裏(2016.10.4 撮影)
♀の前翅表の斑紋はカバマダラに擬態したものと言われるが、カバマダラに酷似した種にはメスアカムラサキの♀がいるので、擬態のうまさではメスアカムラサキの方に軍配が上がる。義父の標本でこれらを比較しておこう。
カバマダラ♂(上)、ツマグロヒョウモン♀(中)、メスアカムラサキ♀(下)の翅表の斑紋比較(2017.9.7 撮影)
この擬態とは、動物が、攻撃や自衛などのために、体の色や形などを、周囲の物や植物・動物に似せることをいうのだが、有毒のカバマダラに姿を似せることで、鳥などの捕食者から身を守っていると考えられている。
ところが、分類上は、体に毒を持たないツマグロヒョウモンはタテハチョウ科ドクチョウ亜科に属し、毒を持っている方のカバマダラはタテハチョウ科マダラチョウ亜科に属していて、何とも皮肉なことになっている。
ヒョウモンチョウの仲間の多くは、タチツボスミレやスミレ(マンジュリカ)などの野生種を食草としているが、このツマグロヒョウモンはパンジーやニオイスミレなどのスミレ科の栽培種を好むとされ、このことも手伝って都市部でも多く見かける。
また温暖化に伴って分布が北方に拡大しており、東京付近では2000年代に入り普通に見られるようになったとされる。長野県でも、以前は偶産的稀種とされていたが、1990年代から目撃記録が急増し、現在(2014年)では平地でほぼ定着し、山地にも生息域を広げているとされている(信州 浅間山麓と東信の蝶・2014年4月30日 信州昆虫資料館発行)。
こうした生息域の変化を見てみようと思い、発行が古い保育社発行の「原色日本蝶類図鑑」のツマグロヒョウモンの項に目を通すと、次のような記載がある。
「日本に産する17種の『ひょうもんちょう』で北緯30度以南にまで分布するものは、本種の他に『みどりひょうもん』の只1種が台湾の高地に記録されているに過ぎない。同類はいずれも年1回の発生にとどまるが、本種のみはきわめて多化性の蝶で、九州・四国のような暖地では年4~5回、早期発生のものは4月より現われる。・・・遠く印度・ジャワ・スマトラ・フィリピンと南の熱帯から本種は『強力』と名づけられる迫力をもって北上し、迷蝶として関東にも現れる。他の『ひょうもん』類とは習性も異なり、夏眠することなく活動し、食草であるケナシスミレ等のスミレ類に直接産卵し幼虫で越冬するが、中部以北のものや、寒冷な場所に発生したものは冬季に死滅するものと思われる」
このツマグロヒョウモン、我が家の庭のブッドレアに吸蜜にやってくる。なぜか、♀が圧倒的に多く、♂はなかなか写真を撮ることができない。また、♀は庭のヴァイオレットに産卵していることがわかった。
ブッドレアで吸蜜するツマグロヒョウモン♀(2017.8.17 撮影)
葉上で休息するツマグロヒョウモン♂(2017.8.28 撮影)
ブッドレアで吸蜜するツマグロヒョウモン♀(2017.8.17 撮影)
ブッドレアで吸蜜するツマグロヒョウモン♀(2016.10.4 撮影)
ブッドレアで吸蜜するツマグロヒョウモン♀(2016.10.4 撮影)
ブッドレアで吸蜜するツマグロヒョウモン♀(2017.8.17 撮影)
ブッドレアで吸蜜するツマグロヒョウモン♀(2017.7.30 撮影)
ブッドレアで吸蜜するツマグロヒョウモン♀(2016.10.4 撮影)
ブッドレアで吸蜜するツマグロヒョウモン♀(2016.10.4 撮影)
葉上で休息するツマグロヒョウモン♂(2017.8.28 撮影)
ブッドレアで吸蜜するツマグロヒョウモン♀(2017.8.17 撮影)
ブッドレアで吸蜜するツマグロヒョウモン♀(2017.8.17 撮影)
庭のミニロックガーデンのスミレに産卵するツマグロヒョウモン♀(2017.8.28 撮影)
この産卵の様子を撮影できた日の前日、庭のヴァイオレットの手入れをしていたら偶然、そこに大きく育ったツマグロヒョウモンの終齢幼虫を見つけた。この幼虫をケースに入れて、しばらくヴァイオレットの葉を与えていたが、葉を離れて這いまわり始めたので、枯れ枝を入れておいたところ、枝からぶら下がり前蛹となり、そして蛹へと変身した。この様子を3Dビデオで撮影したので紹介する。
庭のヴァイオレットの葉上で見つけたツマグロヒョウモンの終齢幼虫(2017.8.27 撮影)
ツマグロヒョウモンの蛹化(2017.8.27 18時~8.28 12時まで、30倍のタイムラプスで撮影したものを編集)
蛹の下に落ちていた抜け殻(2017.8.28 撮影)
この蛹の棘の基部には美しい真珠光沢をした部分がある。他のタテハチョウ科の種にも類似の真珠光沢を持つものが見られるようだが、これらはキラキラと日光を反射させ、捕食者から身を守るための工夫なのだろうか。無事羽化するところを見届けたいものと思っている。
棘の基部が真珠光沢を持つツマグロヒョウモンの蛹(2017.8.28 撮影)
追記(2017.9.28):大阪に出かけていた留守中、このツマグロヒョウモンの蛹から9月19日、♀が羽化し飛び立って行った(予約投稿なので、日付が前後する)。