軽井沢からの通信ときどき3D

移住して10年目に入りました、ここでの生活と自然を写真と動画で発信しています

エッシャーとダヴィンチ

2018-06-08 00:00:00 | 3D
 もう随分前のことになるが、仕事でオランダのアイントホーヴェンにあるP社の研究所を訪問した際、付属施設の売店で、同国生まれの版画家エッシャー(M.C.Escher、1898.6.17-1972.3.27)の版画メタモルフォーゼ(Metamorphose)のレプリカ版をお土産に買った。円筒形のケースに、20cm幅 x 1m 、4枚に分割して3色のカラーで描かれたものが納められている。自宅に持ち帰ってからはしばらくの間、壁面上部にぐるりと貼って眺められるようにしていた。


お土産用のエッシャーの版画「メタモルフォーゼ」の入っている円筒ケース(2018.6.2 撮影)

 このケース内には次の4枚が収められている。


エッシャーの版画「メタモルフォーゼ」(2018.6.2 撮影)

 この作品のオリジナルは、1939年-1940年に木版で製作されたもので、長い系列で継続される形態変化が描かれている。平面上の「METAMORPHOSE」という単語から始まり、白と黒の矩形のモザイクが現れ、これがトカゲの形状に変化していくうちに、いつのまにか矩形形状が六角形へと導かれていく。その後もミツバチが現れたかと思うと、その隙間から魚が出現し、さらに鳥から今度はこれまでの2次元から3次元の建物・都市へと変化し、海辺から海上に突き出た塔はチェスの駒の一つであり、チェス盤が出現するとこれは最初の白と黒の矩形のモザイクに戻っていて、ふたたび「METAMORPHOSE」の単語に戻っていくという具合である。

 この作品は4mの長さがあり、正しくは「メタモルフォーゼⅡ」とされているが、更にこの途中にいくつかの形態変化を取り入れた同名の作品があり、こちらは「メタモルフォーゼ」として書籍では紹介されている(「M.C.エッシャー画集」、1981年 河出書房新社発行)。エッシャーの手にかかると、この辺りは変幻自在であるように見える。この、「メタモルフォーゼ」の方は長さが7mあり、「メタモルフォーゼⅡ」の2倍近くになっているが、同じものの壁画がオランダ・ハーグの中央郵便局にかかっているという。


エッシャーの版画「メタモルフォーゼ」(「M.C.エッシャー画集」、1981年 河出書房新社発行より)

 エッシャーの作品の中には、互いに鏡像関係にある2つの絵をタイル状に巧妙にはめ込んだものや、異種形状のものをやはりタイル状にぴったりとはめ込んだものとが見られる。また、ある主題の絵が次第に変化し、背景に溶け込んでいって、その背景の中から主題の絵と鏡像関係にある絵が出現したり、或は別の絵が出現するものがあるが、このメタモルフォーゼはその集大成ともいえるもので、これらの変容する絵を実に巧みに組み合わせている。

 我が家に駐車スペースを作る際に、レンガの配置をどのようにするか考えていて、ふと思いついて2種類のパターンをつなぎ合わせてみた。結果は思ったほどではなく、ただ職人さんたちを悩ませるだけに終わってしまったようであった。


駐車スペースのレンガ配列にエッシャー風の工夫をしたつもりであったが・・・(2018.6.4 撮影)

 エッシャーの作品には2次元の繰り返しパターンから生まれる不思議な面白さのほかに、3次元を描いたシリーズがある。次の図は、1961年に発表されたリトグラフ・「滝」だが、成立不能の非現実空間が描かれているものとして、よく知られている。


エッシャーの成立不能な3次元画像「滝」(「M.C.エッシャー画集」、1981年 河出書房新社発行より)

 この「滝」に用いられたモチーフは、1934年、スウェーデンの芸術家オスカー・ロイテルスパルトと、ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・サイコロジー1958年2月号に掲載されたL.S.R.ペンローズの文章中に、それぞれ独立に示された透視図「ペンローズの三角形」から得たものとされていて、この三角形が繰り返し用いられている。


ペンローズの三角形

 ここでは、各細部のひとつひとつを辿っていく分には、何ら異常を感じることはないが、全体としてみると成立不能なものであることがわかる。ただしかし、この「ペンローズの三角形」を実際に作った例が、オーストラリア・パースに展示されているというので面白い(ウィキペディア、「ペンローズの三角形」2017年9月18日(月)22:52 参照)。

 これを再現すると、次のようなもので、角柱を互いに直角に接合して得られるものを、特定の角度で見るときに得られるものである。2次元画像で見ていると成立不能に見えるが、3D、三次元でみるとたちどころにその構造が理解できる。


ペンローズの三角形・立体モデル(2018.6.6 撮影)

 こうした不思議は、3次元物体を、2次元に写し取るとき起きる錯視といえる。奥行に関する情報が欠落してしまうために起きるものであるが、エッシャーの作品では楽しく眺めることができても、実社会ではこの奥行情報の欠如が問題になることがある。

 現在、最先端の医療技術のひとつとして、手術ロボットが導入されている。その代表が「ダヴィンチ」であるが、東京医科歯科大学のHPなどで詳しい説明を見ることができ、次のように記されている(http://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/davinci/top/index.html)。

 「万能の天才レオナルド・ダ・ヴィンチ。その名を冠した医療ロボットが今、手術の現場に大きな変革をもたらしています。患者に触れず、医師が患部の立体画像を見ながら遠隔操作でアームを動かす、ハイテク技術を駆使した画期的な手術法、すでに世界での臨床実験は28万例、国内でも積極的な導入が進む手術支援ロボット「ダヴィンチ」・・・」

 直接肉眼で見ることが困難な、細かい手術が求められる脳外科手術では、実体顕微鏡を用いた顕微鏡下での手術が早くから行われていて、その様子を3D・立体映像として記録したものは、教育現場でも使われてきている。

 「ダヴィンチ」では、従来の顕微鏡下手術にロボットの機能を組み合わせ、3D内視鏡カメラとアームとを挿入し、術者が3Dモニターを見ながら遠隔操作で装置を動かして手術を行う。

 こうした手術の現場では、奥行き情報の欠如は、手術の成否にかかわり、3D視が非常に有効なものとなっている。

 
手術ロボット「ダヴィンチ」(東京医科歯科大学のHP・http://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/davinci/top/index.htmlより) 
 
 今年はエッシャー生誕120年にあたり、「上野の森美術館」ではこれを記念してエッシャー展が開かれている(2018.6.6~2018.7.29)。ぜひ出かけてみたいと思っている。

 
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