11月30日に、元の職場のOB会が新横浜で予定されていて、ずいぶん前に参加の返事を出してあったが、ガラスショップの今期の仕事が一段落し、久しぶりに鎌倉の娘宅に行って孫にも会いたいなどと思い、その他にもいくつかの目的があったので、車で出かけることにした。
その他の目的とは、せっかく神奈川に出かけるのなら、ということでかねて行ってみたいと思っていた、「箱根ガラスの森美術館」にも立ち寄る計画を立てたことと、この日の宿に「川奈ホテル」を選んだことである。
川奈ホテルは、クラシックホテルの会のメンバーで、軽井沢の万平ホテルなどとグループを作り、活動をしているが、これまでにもこのグループのホテルに数か所滞在したことがあり、今回もぜひ泊まってみたいと思っていたので、ここに決めた経緯がある。
そして、こちらは事前に調べていたわけではないが、この川奈ホテルのすぐ横には「伊豆高原ステンドグラス美術館」があった。
今回はこのうち「箱根ガラスの森美術館」の紹介をさせていただく。「川奈ホテル」と「伊豆高原ステンドグラス美術館」については、また別の機会に改めて紹介させていただこうと思う。
軽井沢から箱根に行くには、碓井軽井沢ICで高速道路に乗ると、上信越道、関越道、圏央道、小田原厚木道と小田原まで高速道路がつながっていて、とても便利である。小田原から、仙石原にある「箱根ガラスの森美術館」までは東海道(国道1号線)を通り宮ノ下に行き、ここから箱根裏街道(国道138号線)を走ることになる。
途中、宮の下には、クラシックホテルのひとつ、富士屋ホテルがある。現在は、耐震補強・改修工事中ということで休館中であったが、以前ここに泊まった時には、案内された明治24年建造という本館の部屋のすぐ前が、かつてチャップリンが宿泊した部屋(45号室)であった。クラシックホテルは、建物自体に興味深いところがあるが、こうした歴史的な人物との関連についての楽しみもある。ちなみに、今回泊まった川奈ホテルでは、新婚旅行で訪れた、マリリン・モンローと夫君のジョー・ディマジオの記念写真が飾られていた。
さて、「箱根ガラスの森美術館」まで紅葉の中を走り、第一駐車場に車を停めて、早速館内に入った。チケット売り場を通り抜けたすぐ前はテラスになっていて、ここからは施設内をほぼ一望にでき、またその背後に僅かに噴煙の見える大涌谷を望むことができた。
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「箱根ガラスの森美術館」入口(2018.11.28 撮影)
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「箱根ガラスの森美術館」のテラスからの眺望(2018.11.28 撮影)
この「箱根ガラスの森美術館」はヴェネチアン・グラスで有名だが、さっそくその「ヴェネチアン・グラス美術館」に向かった。この館内では、丁度馬頭琴による演奏が始まろうとしていて、多くの入館者が席についているところであったが、妻と私はこれをスキップして展示品の見学に回った。お陰で、ゆっくりと見学し、写真撮影も許可されていたので、じっくりと撮影することができた。
ガラス器の生産地といえば、すぐにヴェネチアやボヘミアの名前が浮かぶほど、このヴェネチアは有名であるが、実際そのガラス器生産の歴史は古く、正確なことは諸説があり一定しないようだが、1268年には、ガラス同業組合が結成されていたとされる。
その後、1300年頃までの初期ヴェネチアン・グラスの時代に、1275年には、木灰、カレット(ガラスの原材料片)、珪石の輸出を禁止し、1291年にはガラス製造業者、工人のすべてをムラノ島に強制移住させる法令、「ムラノ島集中移住令」を発布するなど、ヴェネチア当局はガラス器製造の秘密を守り、その品質を高め、高価な値段で外国に売った。
実際に、ムラノ島に強制移住させられた工人たちは、非常な恩典を受けた反面、島外不出のおきてを守らなければ、処罰されることになっていた。重罰(島外逃亡)は、もちろん死罪であった。
このような、極端な保護育成と門外不出の拘束によって、ヴェネチアン・グラスの声価はだんだんと高まり、14世紀末から15世紀にかけて、東方のガラス産地が次々とチムール軍によって壊滅させられていったとき、ガラス器の唯一の供給源がヴェネチアとなり、独占的に欧州市場に出荷されていったという。
15,16世紀はヴェネチアのガラス工芸の最盛期とされているが、今回この「ヴェネチアン・グラス美術館」には、それに近い16世紀から現代までのガラス作品が展示されていた。
入館券にも写真が使用されている、1500年頃の作とされる「点彩花文蓋付ゴブレット」は、展示品の中でも最も古いもののひとつであるが、会場に展示されていた多くのガラス製品はこうしたヴェネチアの伝統技術を受けついでいて、他場所で製造されたものとは一線を画しており、一目してヴェネチア産と判るものがいくつも見られた。
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「箱根ガラスの森美術館」の入館券に見られる1500年頃の作とされる「点彩花文蓋付ゴブレット」
以下、見学した中からいくつか展示作品を紹介する。
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1500年頃、人物行列文壺(2018.11.28 撮影)
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16-17世紀、ドラゴン・ステム・ゴブレット(2018.11.28 撮影)
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16-17世紀、レース・グラス・コンポート(2018.11.28 撮影)
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17世紀、松笠形ランプ(2018.11.28 撮影)
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19世紀、オパールセント・グラス・コンポート(2018.11.28 撮影)
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19世紀、羊飼い(2018.11.28 撮影)
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19世紀、龍装飾水差(2018.11.28 撮影)
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19世紀、龍形脚 キャンドルスタンド(左)、コンポート(右)(2018.11.28 撮影)
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19世紀、風にそよぐグラス(2018.11.28 撮影)
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19-20世紀、ミルフィオリ・グラス花器(2018.11.28 撮影)
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20世紀、女性像(2018.11.28 撮影)
ここで紹介した作品は観賞用の色彩の強いもので、種々のガラス工芸の技法を見ることができる。
このほか、最盛期のヴェネチアのムラノ島で造られていたガラス器は、実に多様で、食器はもちろんのこと、錬金術用の化学器具から、ランプ、シャンデリア、窓ガラス、モザイク、鏡、室内装飾など、あらゆるものが作られていたという。
製造技法を見ると、ヴェネチアン・グラスの内容は、大略次のように分けられるとされる(「ガラスの道」由水常雄著 徳間書店1973年発行から)。
1.素文無色ガラス器
2.エナメル彩ガラス器
3.エナメル点彩ガラス器
4.ダイアモンド・ポイント線彫り装飾ガラス器
5.レース・グラス
6.ミルフィオリ・グラス
7.マーブル・グラス
8.アイス・クラック・グラス
9.動物形象装飾ガラス
10.エナメル彩乳白
11.鏡、シャンデリア
12.ビーズ、置物、その他
この由水氏の著書は、1973年の発行であるが、その時点での状況を氏は次のように記している。
「これらのうち、ヨーロッパの他の諸国でも、ヴェネチアのエナメル彩の技法は模倣されるようになっていて、ドイツやボヘミアなどの中部ヨーロッパではエナメル彩のガラス器が、盛んに作られるようになっていた。しかし、レース・グラスやミルフィオリ・グラス、マーブル・グラスは、他の窯場ではその技術がわからないで、ヴェネチアの秘法として、後世まで他の模造を許さなかった。とりわけレース・グラスは、今日でもヴェネチアン・グラスの最大の特徴として世に知られ、ほとんど独占的に作られている華麗な最高級ガラス器とされる。」
この、秘法中の秘法とされた、レース・グラス技術も今日では日本国内でこの技法を得意とする作家が現れるなど、広く知られるようになり、会場には”~「レース・グラス・コンポート」ができるまで~”とした展示も行われていた。レース・グラスについては、以前富山のガラス工房を紹介した時にもその工程を想像しながら図にしたことがあるが(2017.3.24 公開の本ブログ)、実際に使用された器具や作業工程途中の物を見るのは初めてで、とても興味深く見学した。
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レース模様のもとになる乳白色のガラス棒を制作する(2018.11.28 撮影)
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乳白色のガラス棒を複数本合わせて並べ、引き伸ばしながらねじっていく(2018.11.28 撮影)
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ねじり模様のはいったガラス棒を熔着して巻き取る(2018.11.28 撮影)
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器の部分と台の部分に分けて、それぞれに息を吹き入れて膨らます(2018.11.28 撮影)
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器と台のパーツを合わせる(2018.11.28 撮影)
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吹き竿を外した穴を外側に広げてコンポートが完成する(2018.11.28 撮影)
展示場につながる通路脇には、このレース・グラス技法による人形が展示されていた。
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全体がレース・グラスで作られている人形(2018.11.28 撮影)
館内にあるミュージアムショップには、展示場で見た種々の技法のガラス器が販売されているが、やはりミルフィオリ・グラスとレース・グラスは目を引く。
入り口脇のショウウインドウには多くのレース・グラスの商品が飾られていた。
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ミュージアム・ショップの入り口に展示されているレース・グラス技法による各種商品(2018.11.28 撮影)
ヴェネチアン・グラス美術館、ミュージアム・ショップを見たところで、丁度昼時になったので、館内のカフェ・レストラン「ラ・カンツォーネ」でランチにしたが、ここではイタリア人歌手によるカンツォーネの生演奏を聴くことができた。横の妻はうっとりと聴きほれているようすであった。
この後、少し館内を散策し、伊豆スカイライン経由で川奈方面に向かった。以下、館内の写真をみていただく。
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カフェ・レストラン「ラ・カンツウォーネ」(2018.11.28 撮影)
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ショップ「アチェロ」(2018.11.28 撮影)
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体験工房の入り口の紅葉と照明器具(2018.11.28 撮影)
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ミュージアム・ショップ入り口に展示されていた作品「ガラスの水族館」(2018.11.28 撮影)
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池に展示されているガラス作品「パラッツォ・ドゥカーレ・シャンデリア」(2018.11.28 撮影)
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