どの種の幼虫を飼育していても同じ様であるが、ウスタビガの場合も終齢幼虫になると、その食欲はすさまじく、おまけに20匹ほどの幼虫を飼っていたので、2鉢あった「ヨシノザクラ」の葉はとっくに食い尽くされ、追加の「ソメイヨシノ」をネットで数鉢購入して幼虫に与えていたがこの葉もそろそろなくなりかけていた。
そこで、先々のことを考えて、軽井沢の造園業者から樹高3mほどの「オオヤマザクラ」の木を買って庭に植えた。そして、この木に幼虫を数匹移したところ、すぐに葉を食べ始めたが、しばらくして異常が現れた。
「オオヤマザクラ」を与えた終齢幼虫は、口から褐色の液体を吐き出したのである。その液体は幼虫の緑色の体を汚し、幼虫はそれ以上オオヤマザクラの葉を食べなくなって、弱っていった。同じ桜の仲間だと思って与えた「オオヤマザクラ」の葉であったが、ウスタビガにとっては有害な別ものであったらしい。
慌てて、関係書を調べなおし、餌の葉をヤママユに与えているコナラに切り替えることにした。ちょうどこの時期、同時に多数のヤママユを育てていたので、こちらは山で採ってきた枝がふんだんに用意できていた。
弱っていたウスタビガはコナラの葉を食べ始め、再び元気になっていったが、一部は次第に弱り2匹ほどは死んでしまった。
鉢植えのサクラの葉が少なくなっていたので、その後、半分ほどの幼虫はコナラの葉を与えて育てた。そして、18匹ほどの幼虫が、サクラやコナラの枝先に繭を作り始めた。「オオヤマザクラ」の葉を食べひどい目に遭い、体に褐色のシミをつけていた終齢幼虫もその後元気を取り戻して、無事繭を作った。
以前書いたこともあるが、ウスタビガの繭にはカイコやヤママユの作る繭とは異なる2つの特徴がある。ひとつは、繭が糸を束ねた細長いひも状の柄の先に作られることである。
もう一つは、ウスタビガの繭には、羽化した時に脱出するための出口があらかじめ作られていることである。両側から押すと口が開くがま口があるが、ちょうどあのような構造をしているもので、こうした構造を間違いなく作るウスタビガの習性には驚かされる。
細いひも状の柄の先に作られるウスタビガの繭、表面に見えるのは卵(2018.12.6 撮影)
ウスタビガの繭に作られている羽化時の成虫の出口(2018.12.6 撮影)
また、この出口の隙間は狭く作られているとはいえ、開口部であることには違いなく、雨水が入り込む。そのため、ウスタビガの繭の下部には、水抜きの別な小さな穴も必要になり、これもきちんと作られている。
ウスタビガの繭の底にあけられている水抜きの穴(2018.12.6 撮影)
この2つの特徴ある構造を、ウスタビガの終齢幼虫がどのようにして作り上げていくのか、とても興味があった。この時は、多くの幼虫を飼育したので、その様子を撮影することができた。
繭を作る直前になると、ウスタビガの幼虫は気に入った場所を求めて盛んに動き回る。ただ、アゲハチョウの仲間で経験したような、食草から遠く離れる長距離の移動はせずに、餌のサクラやコナラの枝先をあちらこちら這いまわる。
気に入った場所を見つけたようだなと、こちらが勝手に判断して撮影にかかると、その後移動してビデオカメラの視野から外れて、どこかに行ってしまうこともある。が、しばらくするとまた元の場所に戻るというような行動も見られた。
繭を作り始める前に、周辺の枝には念入りに糸を吐いて巻き付けていく。これが最終的には、繭の柄の部分になっていくのだが、何のためのこの柄を作るのか。葉が落下しても、枝先からぶら下がっていられるようにするためかもしれないと思えるが、よくわからない。
最初に、サクラの枝先に繭を作る様子を見ていただく。気がついた時には、すでに繭の形ができ始めていて、柄の部分もしっかりとソメイヨシノの葉から枝につながるように作られていた。
ソメイヨシノの鉢植えは玄関に置いていた関係で、撮影時の照明が不十分であり、そのため画面は暗く、また玄関を出入りするため明るさが変化してしまった。
ウスタビガの繭作り・サクラ(2016.6.22/08:10~19:40, 通常撮影と30倍のタイムラプス撮影とを編集)
次に、コナラの葉に繭を作る様子を紹介する。気に入ったコナラの枝先に糸を吐き始め、周囲の枝にも糸を張り巡らせてから繭を作っていった。こちらは、コナラの枝を容器に挿していたので、室内に持ち込んで照明の下で撮影した。撮影は2日と4時間以上に及んだが、ウスタビガはまだこの後も糸を吐き続けた。
ウスタビガの繭作り・コナラ(2016.6.29/02:11~7.1/06:40、30倍タイムラプスで撮影したものを編集)
このサクラとコナラの枝先に繭を作る動画から、柄の部分を作る様子や、繭の出口そして水抜きを作る様子はうかがえるが、繭上部に作られる出口ができあがる工程をもうすこし詳しく見ておこうと思う。
繭の上部に出口が作られる様子を約15時間ごとに見ると次のようである。この間、約2日をかけている。
ウスタビガの繭に出口が作られる様子 1/4(2016.7.20 13:00 撮影動画からのキャプチャー画像)
ウスタビガの繭に出口が作られる様子 2/4(2016.7.21 01:00 撮影動画からのキャプチャー画像)
ウスタビガの繭に出口が作られる様子 3/4(2016.7.21 16:00 撮影動画からのキャプチャー画像)
ウスタビガの繭に出口が作られる様子 4/4(2016.7.22 08:00 撮影動画からのキャプチャー画像)
幼虫は繭全体にまんべんなく糸をかけていくが、出口を形作る作業をしているところだけを選んで編集した動画は次のようである。撮影は30倍のタイムラプスで行い、編集している。中から押す操作を加えながら、はじめは円形であった出口を上手にすぼめて、狭くし最終的にはほとんど閉じられた状態にしている。なかなか見事な仕事をしている。
ウスタビガの繭作り・出口作り(2016.7.20 13:00~7.22 08:00 30倍タイムラプス動画を編集)
最後に、「オオヤマザクラ」を食べたために、褐色の液体を吐き、体がその色に染まってしまっていた終齢幼虫が無事繭を作り終える様子を見ておこうと思う。
褐色の液体を吐き出したために体が汚れたウスタビガの終齢幼虫 1/2(2016.6.23 撮影動画からのキャプチャー画像)
褐色の液体を吐き出したために体が汚れたウスタビガの終齢幼虫 2/2(2016.6.23 撮影動画からのキャプチャー画像)
ウスタビガの繭作り・体が褐色に汚れた個体(2016.6.24 02:00~6.26 10:00 30倍タイムラプス撮影と通常撮影したものを編集)
サクラの枝先に繭を作ったもの、コナラの枝先に繭を作ったもの、そして食葉のトラブルに遭ったものなどを見てきたが、いずれも繭作りに際しては、柄や出口、水抜き穴を念入りに、まちがいなく作る様子がうかがえ、感心させられることしきりである。
そこで、先々のことを考えて、軽井沢の造園業者から樹高3mほどの「オオヤマザクラ」の木を買って庭に植えた。そして、この木に幼虫を数匹移したところ、すぐに葉を食べ始めたが、しばらくして異常が現れた。
「オオヤマザクラ」を与えた終齢幼虫は、口から褐色の液体を吐き出したのである。その液体は幼虫の緑色の体を汚し、幼虫はそれ以上オオヤマザクラの葉を食べなくなって、弱っていった。同じ桜の仲間だと思って与えた「オオヤマザクラ」の葉であったが、ウスタビガにとっては有害な別ものであったらしい。
慌てて、関係書を調べなおし、餌の葉をヤママユに与えているコナラに切り替えることにした。ちょうどこの時期、同時に多数のヤママユを育てていたので、こちらは山で採ってきた枝がふんだんに用意できていた。
弱っていたウスタビガはコナラの葉を食べ始め、再び元気になっていったが、一部は次第に弱り2匹ほどは死んでしまった。
鉢植えのサクラの葉が少なくなっていたので、その後、半分ほどの幼虫はコナラの葉を与えて育てた。そして、18匹ほどの幼虫が、サクラやコナラの枝先に繭を作り始めた。「オオヤマザクラ」の葉を食べひどい目に遭い、体に褐色のシミをつけていた終齢幼虫もその後元気を取り戻して、無事繭を作った。
以前書いたこともあるが、ウスタビガの繭にはカイコやヤママユの作る繭とは異なる2つの特徴がある。ひとつは、繭が糸を束ねた細長いひも状の柄の先に作られることである。
もう一つは、ウスタビガの繭には、羽化した時に脱出するための出口があらかじめ作られていることである。両側から押すと口が開くがま口があるが、ちょうどあのような構造をしているもので、こうした構造を間違いなく作るウスタビガの習性には驚かされる。
細いひも状の柄の先に作られるウスタビガの繭、表面に見えるのは卵(2018.12.6 撮影)
ウスタビガの繭に作られている羽化時の成虫の出口(2018.12.6 撮影)
また、この出口の隙間は狭く作られているとはいえ、開口部であることには違いなく、雨水が入り込む。そのため、ウスタビガの繭の下部には、水抜きの別な小さな穴も必要になり、これもきちんと作られている。
ウスタビガの繭の底にあけられている水抜きの穴(2018.12.6 撮影)
この2つの特徴ある構造を、ウスタビガの終齢幼虫がどのようにして作り上げていくのか、とても興味があった。この時は、多くの幼虫を飼育したので、その様子を撮影することができた。
繭を作る直前になると、ウスタビガの幼虫は気に入った場所を求めて盛んに動き回る。ただ、アゲハチョウの仲間で経験したような、食草から遠く離れる長距離の移動はせずに、餌のサクラやコナラの枝先をあちらこちら這いまわる。
気に入った場所を見つけたようだなと、こちらが勝手に判断して撮影にかかると、その後移動してビデオカメラの視野から外れて、どこかに行ってしまうこともある。が、しばらくするとまた元の場所に戻るというような行動も見られた。
繭を作り始める前に、周辺の枝には念入りに糸を吐いて巻き付けていく。これが最終的には、繭の柄の部分になっていくのだが、何のためのこの柄を作るのか。葉が落下しても、枝先からぶら下がっていられるようにするためかもしれないと思えるが、よくわからない。
最初に、サクラの枝先に繭を作る様子を見ていただく。気がついた時には、すでに繭の形ができ始めていて、柄の部分もしっかりとソメイヨシノの葉から枝につながるように作られていた。
ソメイヨシノの鉢植えは玄関に置いていた関係で、撮影時の照明が不十分であり、そのため画面は暗く、また玄関を出入りするため明るさが変化してしまった。
ウスタビガの繭作り・サクラ(2016.6.22/08:10~19:40, 通常撮影と30倍のタイムラプス撮影とを編集)
次に、コナラの葉に繭を作る様子を紹介する。気に入ったコナラの枝先に糸を吐き始め、周囲の枝にも糸を張り巡らせてから繭を作っていった。こちらは、コナラの枝を容器に挿していたので、室内に持ち込んで照明の下で撮影した。撮影は2日と4時間以上に及んだが、ウスタビガはまだこの後も糸を吐き続けた。
ウスタビガの繭作り・コナラ(2016.6.29/02:11~7.1/06:40、30倍タイムラプスで撮影したものを編集)
このサクラとコナラの枝先に繭を作る動画から、柄の部分を作る様子や、繭の出口そして水抜きを作る様子はうかがえるが、繭上部に作られる出口ができあがる工程をもうすこし詳しく見ておこうと思う。
繭の上部に出口が作られる様子を約15時間ごとに見ると次のようである。この間、約2日をかけている。
ウスタビガの繭に出口が作られる様子 1/4(2016.7.20 13:00 撮影動画からのキャプチャー画像)
ウスタビガの繭に出口が作られる様子 2/4(2016.7.21 01:00 撮影動画からのキャプチャー画像)
ウスタビガの繭に出口が作られる様子 3/4(2016.7.21 16:00 撮影動画からのキャプチャー画像)
ウスタビガの繭に出口が作られる様子 4/4(2016.7.22 08:00 撮影動画からのキャプチャー画像)
幼虫は繭全体にまんべんなく糸をかけていくが、出口を形作る作業をしているところだけを選んで編集した動画は次のようである。撮影は30倍のタイムラプスで行い、編集している。中から押す操作を加えながら、はじめは円形であった出口を上手にすぼめて、狭くし最終的にはほとんど閉じられた状態にしている。なかなか見事な仕事をしている。
ウスタビガの繭作り・出口作り(2016.7.20 13:00~7.22 08:00 30倍タイムラプス動画を編集)
最後に、「オオヤマザクラ」を食べたために、褐色の液体を吐き、体がその色に染まってしまっていた終齢幼虫が無事繭を作り終える様子を見ておこうと思う。
褐色の液体を吐き出したために体が汚れたウスタビガの終齢幼虫 1/2(2016.6.23 撮影動画からのキャプチャー画像)
褐色の液体を吐き出したために体が汚れたウスタビガの終齢幼虫 2/2(2016.6.23 撮影動画からのキャプチャー画像)
ウスタビガの繭作り・体が褐色に汚れた個体(2016.6.24 02:00~6.26 10:00 30倍タイムラプス撮影と通常撮影したものを編集)
サクラの枝先に繭を作ったもの、コナラの枝先に繭を作ったもの、そして食葉のトラブルに遭ったものなどを見てきたが、いずれも繭作りに際しては、柄や出口、水抜き穴を念入りに、まちがいなく作る様子がうかがえ、感心させられることしきりである。