50年ぶりに新しく発見されたという、「アインシュタイン・タイリング」の面白さにすっかりはまってしまい、子供の頃に親しんだ五芒星のことや、大学生時代に読んだ伏見康治氏の「紋様の科学」の記事ことを久しぶりに思い出し、2回にわたりあれこれ書いてきた。
この「紋様の科学」から、正五角形に関連した図形による平面充填とペンタドミノによる平面充填について紹介し、伏見康治氏が、ペンローズ・タイリングP1と同等の正五角形配列について考察し、また単一のタイル形状による、非周期平面充填について具体例を示していたことを紹介した。
これに刺激される形で、正五角形による平面充填を考えていて、正五角形と菱形(ダイヤモンド)の2つの形状のタイルで、5回対称性を持ち、並進対称性を持たない平面充填ができることを「紋様、対称性と平面充填(1)」で紹介した。この配列パターンを仮にM1としておく。
詳しく調べたわけではないので、ペンローズ氏がこの簡単な配列M1をどのように評価していたのかは分からないが、ペンローズ氏がP1、P2、P3の3種類のペンローズ・タイリングで目指した特徴をこのM1もまた備えていることがわかる。
ところで、アインシュタイン・タイリングによる非周期平面充填が発見されてしまった今となっては、意味のないことかもしれないが、「紋様の科学」を読んでいて、もう一つの興味深い平面充填パターンM2があることに気が付いたので、今回はこれを紹介させていただく。
このM2パターンもM1と同様、これまでにどこかで紹介されているのがオチだと思うが、念のためである。
「紋様の科学」の記事中では平面充填と関連付けた話題ではなかったが、伏見康治氏は、正多角形がつくる環のことを考察している。この中で10個の正五角形が作る環についても次のように触れているのである。
「正五角形の現れる幾何学上の例題はもちろん沢山あるはずである。しかしつぎに掲げる事実はその辺の教科書には出ていないようである。・・・この種の幾何学上の定理はたいてい大昔に誰かが証明ずみというのが落ちだから、新しいと主張するつもりはない。・・・
さて、ある同形同大の正多角形を、ひとつおいて隣の辺で、互いにつなぎ合わせて環をつくるとしよう。・・・
(これが実現できるのは)4コの解答しかないことがわかる[図A]。・・・」
図A(「紋様の科学」を引用して筆者作図)
伏見康治氏はここまで書いて、次に正五角形による平面充填の話題に進んでいくのであるが、この図Aで左端にある10個の正五角形がつくる環(以下、正五角形10員環)を単位として平面充填をすすめると一体どのようになるかという興味がわいてきたので図を書いてみることにした。
ペンローズ・タイリングP1ではパターンの中心にある正五角形を共有する形で5個の正五角形10員環が配置されているのがわかる。その後も周辺に広がる正五角形の配列には、正五角形10員環がたびたび登場するのがみられる。この場合、中心部の5個の正五角形10員環の内側の「すきま」は自動的に3個の正五角形で埋められている。
図1.ペンローズ・タイリングP1の中心に現れる、5個の正五角形10員環の配置
次に、正五角形を中心におくのではなく、5個の正五角形10員環を、2個の正五角形を共有する形で配置する時に現れる「五芒星」をタイリングの中心に据える平面充填を考えてみることにする。この場合には、P1と異なり、正五角形10員環の内側にはおおきな「すきま」が残る。
図2.正五角形が作る10員環を5個、環状に配置した図
こうしてできた配置の外側には、上図2.のように大きい正五角形が見えてくる。この外側にさらに正五角形10員環を配置し、次図のように一回り大きい正五角形に内接する形をとることができる。
図3.5個の正五角形10員環の外に10個の正五角形10員環を配置した図
このように正五角形10員環を単位として外へ外へと拡大していくと、最初5個から始まった正五角形10員環の環は10個、15個・・・と数を5個ずつ増やしながら、ひとまわり大きい正五角形に内接する形でタイリングを進めることができる。これにより、平面充填をさらに外側へと進めていっても、タイリング全体としては、5回対称性を保証できるのではと思う。
図4.さらに外側に15個の正五角形10員環を配置した図
この辺で正五角形10員環の内側と外側にできる「すきま」の充填についても考えなければならない。内側のすきまには10員環を構成している正五角形と同形の正五角形を3個収容できる。その配置については10通りのバリエーションが考えられる。次のようである。
図5.正五角形10員環の内部の充填パターン
この10通りの中から、タイリング全体の5回対称性を確保できるように、配置すると、1例として中心部分では次の配置を得る。
図6.中心部分の正五角形10員環のすきまを5回対称性を保ちながら、正五角形で充填した図
同様に図3で、正五角形10員環の内側のすきまだけを埋め尽くすと次の図7.のようになり、さらに図3.で正五角形10員環の内外のすきまをすべて埋めていくと図8.のようになる。図8.では正五角形の内10員環を構成するものを淡青で、それ以外の正五角形は淡緑で塗り分けた。
図7.正五角形10員環の内側のすきまだけを正五角形で充填した状態
図8.正五角形10員環の内外のすきまをすべて埋めつくした状態
このようにして、中心に五芒星を配置し、その周りに正五角形10員環を環状に配置することで、ペンローズ・タイリングP1と同じ4種(正五角形、五芒星、ボート、ダイヤモンド)のタイルを用いつつ、異なる配列の5回対称性をもつ非周期平面充填タイリングが出来上がる。
これまで5種類の5回対称性の非周期平面充填パターンを紹介してきたが、これらをまとめて示すと次のようである。
中心に正五角形がくるもの、正五角形に内接する四辺形の組み合わせによるもの、そして五芒星を配したものがある。
P1 ペンローズ・タイリング
P2 ペンローズ・タイリング
P3 ペンローズ・タイリング
M1 タイリング
M2 タイリング
単独では平面充填を行うことができない正五角形であるが、その代わりに様々な興味深い平面配列パターンを提示してくれることを確認して、3回のシリーズを終えることとする。