新潟県に長く住んでいたので、少々の雪には驚かないし、雪かきにも慣れているが、それでも軽井沢に移住を決めたときには、ここは寒さが厳しいけれど雪はさほど降らないのでやれやれとの思いがあった。
しかし、ここ数年をみていると軽井沢は少し変だ。雪が多いのである。昨年も今年も何度も家の前の雪かきをしている。昼間の気温がマイナスという真冬日があるせいで、降った雪を放置すると凍結してしまうからだが、お隣の空き地などは昨年からの雪が溶けずに残ったままになっている。
家の外のウッドデッキの手すりに降ってくる雪を見ていると、2mm程度にまで大きく成長した雪の結晶が見えることがある。安易に写真撮影しようとしたことがあったが、思いのほか難しくて、どこかで見たことのあるようなきれいな写真にはならない。それなりの準備をしなければ難しいようだ。
庭に降った雪に見られる六角形結晶(2015.12.19 撮影)
そんなことを思っていたところ、思いがけず「中谷宇吉郎 雪の科学館」に行く機会が訪れた。中谷宇吉郎博士といえば、すぐに岩波新書の「雪」を思い浮かべる。雪のさまざまな結晶を撮影したり、「雪は天から送られた手紙である」という名言を残した北海道大学の研究者であることを若い頃に聞き知っていた。
中谷宇吉郎博士著の岩波新書「雪」の表紙
母を大阪に送りがてら、山代温泉に一泊する計画を立て、このところの大雪警報を気にしながらも車で出かけた。北陸自動車道を片山津ICで降りてしばらく走ったところで、この「中谷宇吉郎 雪の科学館」の案内板を目にした。
山代温泉に一泊し、翌日の昼過ぎに母を加賀温泉駅に見送った後、早速片山津温泉の柴山潟のほとりに建つ「中谷宇吉郎 雪の科学館」に向かった。この場所は中谷博士の生家にも近い。
「中谷宇吉郎 雪の科学館」1階アプローチ(2017.1.27 撮影)
駐車場脇の入り口と思しきところには雪のモチーフをあしらった小さな石柱があるだけで、本当の入り口は右の階段を登り、橋を渡った2階にあった。
2階入り口の扉にはさまざまな雪の結晶紋様があしらわれている(2017.1.27 撮影)
扉に描かれている雪の結晶紋様(2017.1.27 撮影)
受付ではどこから来たのかを聞かれ、長野県からと答えると、壁に貼られた地図の上に2名分の小さな丸いシールが貼られた。来場者の分布を示すものだ。
これを見ると、やはり地元石川県をはじめとした北陸3県からが圧倒的に多く、長野県からの1月の来訪者数は私たちを含め4名であった。
この日は比較的来場者も少なく、丁寧な案内と実験を交えた説明を受けることができた。
先ず案内されたのが、博士の生涯を綴った2階映像ホールでの映画であった。ここでは私がこれまで知らなかった博士のさまざまな姿を知ることができた。
次いで、1階展示室の実験コーナーではダイヤモンドダストの製作、ペットボトル内の過冷却水が一振りで一瞬にして凍る様子、過冷却石けん水膜が空中に漂っているダイヤモンドダストと接触してたちまち結晶化が始まる様子など、普段目にすることの無いような理科実験をすぐ目の前で見せていただいた。
面白かったのは、マイナス19度に冷却した冷凍箱の中で、プチプチを破裂させてダイヤモンドダストを作っていたことだ。クッション材のプチプチの中には製作時に取り込まれた塵が入っていて、これを破裂させるとこの塵が核になって、過飽和水蒸気が結晶化するというものであった。
実験コーナーの背後には博士が実験を行った「常時低温研究室」が再現されていて、その中には人工雪製作装置も展示されていた。この装置はガラス製の簡単な構造をしたものであるが、様々な工夫がなされていて、博士が世界で初めて人工雪の製作に成功しその様子を撮影したものであることを思うと感慨深いものがあった。
中谷宇吉郎博士が作成した人工雪製作装置(右側、雪の科学館パンフレットから許可を得て掲載)
この科学館の詳細についてはホームページ(http://www.kagashi-ss.co.jp/yuki-mus/)があるので、興味を持たれた方はこちらをご覧いただければと思う。
展示館外の中庭には博士が極地から運んだという60tの石を敷き詰めたグリーンランド氷河のモレーンの石の原があり、ここからの柴山潟とその背後にある白山の美しい姿が印象的であった。
中谷博士の次女芙二子さん【修景】のグリーンランドモレーンの石の原(2017.1.27 撮影)
中庭から見た柴山潟とその背後に見える白山(2017.1.27 撮影)
帰りには、2階から続く長い緩やかなスロープをくだり、駐車場に向かった。この科学館は建物が3つの、上部に向かってやや細くなっている六角柱と六角錘の屋根とを組み合わせた形になっており、雪の結晶形へのこだわりを示しているが、このスロープもまた結晶形のひとつを表していることに妻が気付いた。
中谷宇一郎博士は著書「雪」の中で、雪の六角形結晶の美しい写真撮影の先駆者であるアメリカ人のベントレーのことを評して「ベントレーの写真集は前述のように立派なものではあるが、凡て綺麗で且つ規則正しい平板状の対称形のもののみを選んで撮ったために、一般に雪の結晶というものが、ベントレーの写真のやうなものと思ひ込ませたという点は注意しておく必要がある。・・・」、「・・・事実は後に詳しく述べるやうに、立体的の構造のもの、或は不規則な形のもの、或は無定形に近いやうなもの、即ち見た眼には汚い形のものが非常に多いのである。・・・」と述べている。
次の写真はこの科学館が発行した「第9回雪のデザイン賞」の募集要項に用いられたものの一部であるが、六角形の雪の結晶の中央に不規則な形状の結晶が示されている。スロープはこの不規則形状の結晶の一部をヒントに設計されたもののように見えると妻は言うのである。
こうしたところにも中谷博士の思いが形になって表れているように思えるのであった。
六角形の雪の結晶に混じって示された不規則形状の結晶(同科学館の「第9回雪のデザイン賞」募集要項から許可を得て掲載)
仲谷宇吉郎 雪の科学館の全体図、左側がスロープ(同科学館のパンフレットから許可を得て掲載)
長いスロープを下りたところにある案内表示(2017.1.27 撮影)
軽井沢に帰ったら、きちんと準備をしてさまざまな雪の結晶の写真を撮ろうと心に誓ってこの素晴らしい中谷宇吉郎 雪の科学館を後にした。
しかし、ここ数年をみていると軽井沢は少し変だ。雪が多いのである。昨年も今年も何度も家の前の雪かきをしている。昼間の気温がマイナスという真冬日があるせいで、降った雪を放置すると凍結してしまうからだが、お隣の空き地などは昨年からの雪が溶けずに残ったままになっている。
家の外のウッドデッキの手すりに降ってくる雪を見ていると、2mm程度にまで大きく成長した雪の結晶が見えることがある。安易に写真撮影しようとしたことがあったが、思いのほか難しくて、どこかで見たことのあるようなきれいな写真にはならない。それなりの準備をしなければ難しいようだ。
庭に降った雪に見られる六角形結晶(2015.12.19 撮影)
そんなことを思っていたところ、思いがけず「中谷宇吉郎 雪の科学館」に行く機会が訪れた。中谷宇吉郎博士といえば、すぐに岩波新書の「雪」を思い浮かべる。雪のさまざまな結晶を撮影したり、「雪は天から送られた手紙である」という名言を残した北海道大学の研究者であることを若い頃に聞き知っていた。
中谷宇吉郎博士著の岩波新書「雪」の表紙
母を大阪に送りがてら、山代温泉に一泊する計画を立て、このところの大雪警報を気にしながらも車で出かけた。北陸自動車道を片山津ICで降りてしばらく走ったところで、この「中谷宇吉郎 雪の科学館」の案内板を目にした。
山代温泉に一泊し、翌日の昼過ぎに母を加賀温泉駅に見送った後、早速片山津温泉の柴山潟のほとりに建つ「中谷宇吉郎 雪の科学館」に向かった。この場所は中谷博士の生家にも近い。
「中谷宇吉郎 雪の科学館」1階アプローチ(2017.1.27 撮影)
駐車場脇の入り口と思しきところには雪のモチーフをあしらった小さな石柱があるだけで、本当の入り口は右の階段を登り、橋を渡った2階にあった。
2階入り口の扉にはさまざまな雪の結晶紋様があしらわれている(2017.1.27 撮影)
扉に描かれている雪の結晶紋様(2017.1.27 撮影)
受付ではどこから来たのかを聞かれ、長野県からと答えると、壁に貼られた地図の上に2名分の小さな丸いシールが貼られた。来場者の分布を示すものだ。
これを見ると、やはり地元石川県をはじめとした北陸3県からが圧倒的に多く、長野県からの1月の来訪者数は私たちを含め4名であった。
この日は比較的来場者も少なく、丁寧な案内と実験を交えた説明を受けることができた。
先ず案内されたのが、博士の生涯を綴った2階映像ホールでの映画であった。ここでは私がこれまで知らなかった博士のさまざまな姿を知ることができた。
次いで、1階展示室の実験コーナーではダイヤモンドダストの製作、ペットボトル内の過冷却水が一振りで一瞬にして凍る様子、過冷却石けん水膜が空中に漂っているダイヤモンドダストと接触してたちまち結晶化が始まる様子など、普段目にすることの無いような理科実験をすぐ目の前で見せていただいた。
面白かったのは、マイナス19度に冷却した冷凍箱の中で、プチプチを破裂させてダイヤモンドダストを作っていたことだ。クッション材のプチプチの中には製作時に取り込まれた塵が入っていて、これを破裂させるとこの塵が核になって、過飽和水蒸気が結晶化するというものであった。
実験コーナーの背後には博士が実験を行った「常時低温研究室」が再現されていて、その中には人工雪製作装置も展示されていた。この装置はガラス製の簡単な構造をしたものであるが、様々な工夫がなされていて、博士が世界で初めて人工雪の製作に成功しその様子を撮影したものであることを思うと感慨深いものがあった。
中谷宇吉郎博士が作成した人工雪製作装置(右側、雪の科学館パンフレットから許可を得て掲載)
この科学館の詳細についてはホームページ(http://www.kagashi-ss.co.jp/yuki-mus/)があるので、興味を持たれた方はこちらをご覧いただければと思う。
展示館外の中庭には博士が極地から運んだという60tの石を敷き詰めたグリーンランド氷河のモレーンの石の原があり、ここからの柴山潟とその背後にある白山の美しい姿が印象的であった。
中谷博士の次女芙二子さん【修景】のグリーンランドモレーンの石の原(2017.1.27 撮影)
中庭から見た柴山潟とその背後に見える白山(2017.1.27 撮影)
帰りには、2階から続く長い緩やかなスロープをくだり、駐車場に向かった。この科学館は建物が3つの、上部に向かってやや細くなっている六角柱と六角錘の屋根とを組み合わせた形になっており、雪の結晶形へのこだわりを示しているが、このスロープもまた結晶形のひとつを表していることに妻が気付いた。
中谷宇一郎博士は著書「雪」の中で、雪の六角形結晶の美しい写真撮影の先駆者であるアメリカ人のベントレーのことを評して「ベントレーの写真集は前述のように立派なものではあるが、凡て綺麗で且つ規則正しい平板状の対称形のもののみを選んで撮ったために、一般に雪の結晶というものが、ベントレーの写真のやうなものと思ひ込ませたという点は注意しておく必要がある。・・・」、「・・・事実は後に詳しく述べるやうに、立体的の構造のもの、或は不規則な形のもの、或は無定形に近いやうなもの、即ち見た眼には汚い形のものが非常に多いのである。・・・」と述べている。
次の写真はこの科学館が発行した「第9回雪のデザイン賞」の募集要項に用いられたものの一部であるが、六角形の雪の結晶の中央に不規則な形状の結晶が示されている。スロープはこの不規則形状の結晶の一部をヒントに設計されたもののように見えると妻は言うのである。
こうしたところにも中谷博士の思いが形になって表れているように思えるのであった。
六角形の雪の結晶に混じって示された不規則形状の結晶(同科学館の「第9回雪のデザイン賞」募集要項から許可を得て掲載)
仲谷宇吉郎 雪の科学館の全体図、左側がスロープ(同科学館のパンフレットから許可を得て掲載)
長いスロープを下りたところにある案内表示(2017.1.27 撮影)
軽井沢に帰ったら、きちんと準備をしてさまざまな雪の結晶の写真を撮ろうと心に誓ってこの素晴らしい中谷宇吉郎 雪の科学館を後にした。