「3つのスピード」に慣れる必要がある
カラバオカップで「レッズの遠藤航が凄かった」と絶賛する声が上がっている。で、試しにその試合を観てみることにした。
結論から先に言えば、遠藤はまずプレミアリーグのプレースピードとボールスピード、判断のスピードという「3つのスピード」に慣れる必要がある、という印象をもった。それには一定の時間がかかる。しばらく実戦をこなし続ける必要がある。
この感想は、彼がプレミア・デビューした試合を観たときとまったく同じだ。なにしろプレミアリーグはこれら3つのスピードがとてつもなく速い。
で、実際にゲームを観てみると、遠藤の周りの空間だけがぽっかりと「異空間」になっている感じがする。つまり周りの選手たちとどこか次元が違う。
その違いとはいったい何か? を分析すると、おそらく上記した3つのスピードだろうと考えられるわけだ。
オン・ザ・ボールの評価をひっくり返せ
ただし3つのうち「ボールスピード」というのは彼自身のパスのことではない。彼の縦パスは十分に強くて速い。そうじゃなく、彼の周囲を飛び交う回りのボールスピードに慣れるという意味だ。
それと同じで、周りの選手はとてつもなく速い判断をし速いプレイをしている。そんな環境に遠藤は適応する必要があるということだ。
また遠藤という選手はボールタッチ時のフォームがあまりスムーズじゃない。ハッキリ言えばモーションがぎこちない。ゆえにオン・ザ・ボールになると見劣りして損だ。
いや彼はやることはやっているので、単に見栄えの問題なのだが。ゆえにその分は差し引いて観る必要がある。
そのオン・ザ・ボール時のギクシャク感ゆえ、おそらく初めて彼を観たヨーロッパの記者や評論家はそのぶん辛く採点するだろう。想像はつく。だが繰り返しになるが、その分は差し引いて観る必要がある。
現地のジャーナリストにすれば、ところが観ているうちにそんな選手がいいパスを出し、いいアシストを続けて行く。で、「なんだ、彼はいい選手じゃないか」に変わり、評価が180度覆る。そういうものだ。
前半は試合に入れてなかった
さてカラバオカップの3回戦、リヴァプール対レスター・シティ(2部)戦は現地時間9月27日にレッズのホームであるアンフィールドで行われた。アンカーの遠藤はスタメンで90分間フル出場した。
彼は前半、あまり試合に入れてなかった。その証拠に開始1分、いきなり遠藤は背後からボールを奪われる。だが5分には右サイドに初めてのパスをつけ、リターンをもらってシュートしている。
試合は早くも3分にレスターのマカティアーが裏抜けから先制点を取った。ゲームは立ち上がりからオープンな展開だ。ボールが一方のボックスから、もう一方のボックスまで直通で移動している。
遠藤は2本ほど、浮き球のパスを出した。だが彼のキックモーションを見ると、強度やバネは明らかに周りの選手のほうがありそうに見える。
そのため彼がボールをもつと今にも奪われそうに感じるーー。これが冒頭に書いた「差し引いて観るべきポイント」だ。実は奪われそうでも何でもないのだが、おそらく彼を見て酷評したという欧州のジャーナリストたちはそう感じたのだろう。
スペースを埋めて時空の支配者になる
ゲームは後半に入った。遠藤は相変わらず最終ラインの前にあるスペースを埋め、敵のチャンスを封じるポジショニングをしている。真ん中にどっしり構え、空間を殺している。もちろん時にはサイドへも出張するが、基本はセンターである。
リーグで不安定な試合を繰り返す今のリバプールには、こういう安定的なポジショニングをする生粋の6番の選手がいないのだ。遠藤はどちらかといえば明らかにマクアリスターよりソボスライに近いが、彼とも違う一層の守備へのこだわりがある。
また一方で遠藤はユルゲン・クロップ監督から、より前に関わるパス出しを求められてもいる。そのため彼はボールをもらうと、この試合では右前のサイドへダイアゴナルな浮き球のパスをよく出していた。さて問題のそんな48分、リバプールの同点弾の場面だ。
このときレッズの面々はいったん敵ボックス内へ攻め込み、そこから相手ボールに変わった局面だった。で、(敵の)右サイドから出た(クリアのような)長い縦パスを遠藤が胸トラップでカットし、寄せて来たフラーフェンベルフにボールを預ける。
そのフラーフェンベルフはボックス手前でガクポにラストパス。ガクポは左足でトラップし、右足でゴール右に叩き込んだ。このゴールの起点になったのは、遠藤によるボール奪取からのパス出しだ。つまり彼がカウンター攻撃の指揮者になったのである。
その後、遠藤は(前半と違い)ゲームに入れたようだった。彼はボールを後ろ向きで受けて急反転し、数回の強い縦パスを出した。ボールスピードは十分だ。またワンタッチでも自在に鋭い縦パスをつけている。
遠藤といえばデュエルばかりが取り沙汰されるが、彼は攻めの起点になるカナメのパス出しに優れていることがわかる。しかも日本人選手が大好きな横パスやバックパスじゃない。速いカウンターを生み出す強い縦パスを武器にしているわけだ。
遠藤の初アシストはこぼれ球の回収から
さて本日の大団円、70分の逆転弾だ。
遠藤はこぼれ球を拾い、右斜め前のボックス手前にいたソボスライに速いパスを出す。受けたソボスライは右足でワントラップするや、瞬時に強烈なゴラッソをゴール左上に突き刺した。ボールは唸るようにスッ飛んで行った。
これでリバプールは2-1とリードし、89分にもディオゴ・ジョッタがとどめの一発を決める。3-1でレッズの勝利である。
遠藤は全3ゴールのうち2点に関与した。1回目はボール奪取から、組み立ての出発点になるパス出し。2回目はこぼれ球を回収し、決定打に繋がるボールを入れた。初アシストだ。
重要なのは、どちらも自分たちの最終ラインからビルドアップされてきた安全なボールを受け渡したわけじゃない点だ。遠藤はイーブンまたは相手ボールを奪い、ゼロから自分の力で中盤に杭を打ち立てた。「ここから攻めるぞ」というスタート地点になった。
そんな彼は速いカウンター攻撃の申し子だといえる。まさにレッズにぴったりだ。
だが彼はまだまだこんなもんじゃない。ゴールに関与したのは2回だったが、現にこの試合でも何度も縦パスを通していた。試合に出れば、もっと継続的で決定的な活躍ができるはずだ。
遠藤がプレミアリーグの「3つのスピード」に慣れ、自分の感覚を完全にリフォームしたとき。おそらくヨーロッパのジャーナリストたちは、とんでもない怪物を目の当たりにすることになるだろう。
カラバオカップで「レッズの遠藤航が凄かった」と絶賛する声が上がっている。で、試しにその試合を観てみることにした。
結論から先に言えば、遠藤はまずプレミアリーグのプレースピードとボールスピード、判断のスピードという「3つのスピード」に慣れる必要がある、という印象をもった。それには一定の時間がかかる。しばらく実戦をこなし続ける必要がある。
この感想は、彼がプレミア・デビューした試合を観たときとまったく同じだ。なにしろプレミアリーグはこれら3つのスピードがとてつもなく速い。
で、実際にゲームを観てみると、遠藤の周りの空間だけがぽっかりと「異空間」になっている感じがする。つまり周りの選手たちとどこか次元が違う。
その違いとはいったい何か? を分析すると、おそらく上記した3つのスピードだろうと考えられるわけだ。
オン・ザ・ボールの評価をひっくり返せ
ただし3つのうち「ボールスピード」というのは彼自身のパスのことではない。彼の縦パスは十分に強くて速い。そうじゃなく、彼の周囲を飛び交う回りのボールスピードに慣れるという意味だ。
それと同じで、周りの選手はとてつもなく速い判断をし速いプレイをしている。そんな環境に遠藤は適応する必要があるということだ。
また遠藤という選手はボールタッチ時のフォームがあまりスムーズじゃない。ハッキリ言えばモーションがぎこちない。ゆえにオン・ザ・ボールになると見劣りして損だ。
いや彼はやることはやっているので、単に見栄えの問題なのだが。ゆえにその分は差し引いて観る必要がある。
そのオン・ザ・ボール時のギクシャク感ゆえ、おそらく初めて彼を観たヨーロッパの記者や評論家はそのぶん辛く採点するだろう。想像はつく。だが繰り返しになるが、その分は差し引いて観る必要がある。
現地のジャーナリストにすれば、ところが観ているうちにそんな選手がいいパスを出し、いいアシストを続けて行く。で、「なんだ、彼はいい選手じゃないか」に変わり、評価が180度覆る。そういうものだ。
前半は試合に入れてなかった
さてカラバオカップの3回戦、リヴァプール対レスター・シティ(2部)戦は現地時間9月27日にレッズのホームであるアンフィールドで行われた。アンカーの遠藤はスタメンで90分間フル出場した。
彼は前半、あまり試合に入れてなかった。その証拠に開始1分、いきなり遠藤は背後からボールを奪われる。だが5分には右サイドに初めてのパスをつけ、リターンをもらってシュートしている。
試合は早くも3分にレスターのマカティアーが裏抜けから先制点を取った。ゲームは立ち上がりからオープンな展開だ。ボールが一方のボックスから、もう一方のボックスまで直通で移動している。
遠藤は2本ほど、浮き球のパスを出した。だが彼のキックモーションを見ると、強度やバネは明らかに周りの選手のほうがありそうに見える。
そのため彼がボールをもつと今にも奪われそうに感じるーー。これが冒頭に書いた「差し引いて観るべきポイント」だ。実は奪われそうでも何でもないのだが、おそらく彼を見て酷評したという欧州のジャーナリストたちはそう感じたのだろう。
スペースを埋めて時空の支配者になる
ゲームは後半に入った。遠藤は相変わらず最終ラインの前にあるスペースを埋め、敵のチャンスを封じるポジショニングをしている。真ん中にどっしり構え、空間を殺している。もちろん時にはサイドへも出張するが、基本はセンターである。
リーグで不安定な試合を繰り返す今のリバプールには、こういう安定的なポジショニングをする生粋の6番の選手がいないのだ。遠藤はどちらかといえば明らかにマクアリスターよりソボスライに近いが、彼とも違う一層の守備へのこだわりがある。
また一方で遠藤はユルゲン・クロップ監督から、より前に関わるパス出しを求められてもいる。そのため彼はボールをもらうと、この試合では右前のサイドへダイアゴナルな浮き球のパスをよく出していた。さて問題のそんな48分、リバプールの同点弾の場面だ。
このときレッズの面々はいったん敵ボックス内へ攻め込み、そこから相手ボールに変わった局面だった。で、(敵の)右サイドから出た(クリアのような)長い縦パスを遠藤が胸トラップでカットし、寄せて来たフラーフェンベルフにボールを預ける。
そのフラーフェンベルフはボックス手前でガクポにラストパス。ガクポは左足でトラップし、右足でゴール右に叩き込んだ。このゴールの起点になったのは、遠藤によるボール奪取からのパス出しだ。つまり彼がカウンター攻撃の指揮者になったのである。
その後、遠藤は(前半と違い)ゲームに入れたようだった。彼はボールを後ろ向きで受けて急反転し、数回の強い縦パスを出した。ボールスピードは十分だ。またワンタッチでも自在に鋭い縦パスをつけている。
遠藤といえばデュエルばかりが取り沙汰されるが、彼は攻めの起点になるカナメのパス出しに優れていることがわかる。しかも日本人選手が大好きな横パスやバックパスじゃない。速いカウンターを生み出す強い縦パスを武器にしているわけだ。
遠藤の初アシストはこぼれ球の回収から
さて本日の大団円、70分の逆転弾だ。
遠藤はこぼれ球を拾い、右斜め前のボックス手前にいたソボスライに速いパスを出す。受けたソボスライは右足でワントラップするや、瞬時に強烈なゴラッソをゴール左上に突き刺した。ボールは唸るようにスッ飛んで行った。
これでリバプールは2-1とリードし、89分にもディオゴ・ジョッタがとどめの一発を決める。3-1でレッズの勝利である。
遠藤は全3ゴールのうち2点に関与した。1回目はボール奪取から、組み立ての出発点になるパス出し。2回目はこぼれ球を回収し、決定打に繋がるボールを入れた。初アシストだ。
重要なのは、どちらも自分たちの最終ラインからビルドアップされてきた安全なボールを受け渡したわけじゃない点だ。遠藤はイーブンまたは相手ボールを奪い、ゼロから自分の力で中盤に杭を打ち立てた。「ここから攻めるぞ」というスタート地点になった。
そんな彼は速いカウンター攻撃の申し子だといえる。まさにレッズにぴったりだ。
だが彼はまだまだこんなもんじゃない。ゴールに関与したのは2回だったが、現にこの試合でも何度も縦パスを通していた。試合に出れば、もっと継続的で決定的な活躍ができるはずだ。
遠藤がプレミアリーグの「3つのスピード」に慣れ、自分の感覚を完全にリフォームしたとき。おそらくヨーロッパのジャーナリストたちは、とんでもない怪物を目の当たりにすることになるだろう。