『ナンシー関の名言・予言』 ナンシー関著、世界文化社、2013年
これまで、『何様のつもり』(1992年)を皮切りに、ナンシー関さんのコラム集を多数出版してきた版元と編集者が、それらコラム集の中から選び抜いた、切れ味鋭く笑いも誘われる名言と、慧眼ぶりが発揮された予言が含まれた文章85本を抜粋し、収録した本です。さらに、単行本未収録のお宝コラムも9本併録されております。
ナンシーさんの大ファンで、それらのコラム集も一通り読んでいるわたくしですが、本書を通読してあらためて、その面白さと鋭さに酔いました。
中でも大笑いさせられたのが、フランス映画『おとぼけオーギュスタン』のパンフレットに寄せていた文章。「おとぼけ」という言葉が持つパワーについて述べていたかと思えば、「これと同じくらいの力を持つ言葉」として「ーーだヨ!全員集合」の話へともっていき、映画自体の話はどうでもいい流れになっていく展開が実に可笑しいのであります。
他にも「藤原紀香が札束もしくは現ナマだとすれば、広末(涼子)は約束手形って感じ」なども、その絶妙すぎる比喩には笑いを禁じ得ません。
さらに、人物と時代を見破る慧眼ぶりが発揮された「予言」。
帯にも記されている、「10年後、ヤワラちゃんは選挙に出ていると思う。」は有名となりましたが、わたくしは「ファミレスとコンビニの敷居の低さみたいなものは、これから先の日本の国民性の形成にも影響を及ぼすかも」という洞察に、大いに唸らされました。
また、「『テレビは誰かの視点による』というのは怖いことではあるが、その視点がすぐれていれば楽しいことでもある」を含む一文は、短いながらも秀逸なテレビ論として読み応えがあります。
単行本未収録コラムでは、巨人軍・斎藤雅樹元投手の「バカぶり」をネタにしたものが、文章と消しゴム版画ともに大いに笑わせてくれました。コレがこれまで未収録だったとは、なんとももったいないくらいであります。
ナンシーさんのコラム集は、残念ながら当の世界文化社からのものを含めて、現在は品切れの本が少なくありません。没後10年を経ていることもあり、それはいくらかは止むを得ないことなのかもしれませんが。
そんな中で本書は、時が経ってもまったく色褪せることのない、ナンシーさんの面白さと慧眼ぶりを再発見する機会を与えてくれる一冊でもありました。
本書が、ナンシーさんをあらためて広い人びとに認知してもらうためのキッカケになればなあ、と思います。
やはりナンシーさんの仕事は一度、きちんと全てをまとめた上で、文化遺産として残していくべきですよ。どうでしょう、ここはやはり世界文化社さんあたりが奮起して出してくれませんかねえ、『ナンシー関全集』を。箱入りの上製本でなくってもいいので。